Apple Distinguished Educatorが進める! ICTを活用した言語活動

最終更新日:2023年8月20日

国全体として教育現場におけるICT活用を推し進めていく政府方針「GIGAスクール構想」。当初は2023年度中の「児童・生徒向けの1人1台端末」と「高速大容量の通信ネットワーク」の整備を目標としていました。しかし2020年の新型コロナウイルス感染拡大に伴い、計画は前倒しされました。急速なICTの導入に、教育現場では活用方法に悩む先生方も多くいらっしゃるようです。

そこで今回は、今年度Apple Distinguished Educator Class of 2023のメンバーに選出され、6月末にはオーストラリアでのInstituteにも参加された三重大学教育学部附属中学校の𠮷水慶太先生にお話をうかがいました。Apple Distinguished Educator(ADE)とは、Appleのテクノロジーを活用して教育現場の変革に努める教育者であり、Appleが認定した教育分野のイノベーターです。ADEとして、iPadを活用した授業アイディアを提案し生徒の学びを促進している𠮷水先生に、生徒に身につけてもらいたいことや、教員の役割について詳しくお聞きしました。(聞き手:小林)

学びを「自分ごと」に近づけるICT授業の実践

———先生は令和4年度、中学2年生に『防災×ICT×英語』というテーマの授業を実践されたそうですが、どれくらいの期間をかけて取り組まれたのでしょうか。

(𠮷水)英語の授業を、8~9コマ程度使いました。

———なぜ防災をテーマにされたのですか。

(𠮷水)三重という土地柄、地震が他人事ではないことが大きいです。南海トラフもありますし、系列の三重大学も海の横にあり、発生リスクや被害を考えると防災はとても身近で重要なテーマでした。教科書のトピックでも取り扱いがありましたが、中学生にとって、教室内で完結してしまう学びは面白くありません。自分ごとに近付くよう、学びを社会とつなげることを大切にしています。プロジェクトのゴールも「外国の方々が災害時に正しく行動できること」としました

生徒主体で発展させる減災アイデア

———どのような導入から授業を始められたのでしょうか。

(𠮷水)外国人の生の声を聞かせて問題意識を根付かせ、それを踏まえて生徒たちが主体的にプランを立てるようにしました。地震経験が当たり前にある日本人と違い、外国人にとって地震はとても怖い経験だそうです。そうしたリアルな声の動画を知り合いの外国人から集めて「どう思う?」と聞くと、生徒からは「大変やな」など感想がいろいろ出ます。「じゃあどんなことをしてあげたら安心感につながるかな?」と減災アイデア検討へ進めました。

———生徒たちはどのようにプランを考えていったのでしょう。

(𠮷水)生徒たちがまず気付いたことは、身の回りにある防災に関する標識は、日本語だけのものも、英語含め多言語のものもあることでした。そこで現状調査をしようと、生徒たちが撮影して三重県中の標識画像を集め、みんなで見ながら課題を考えました。画像投稿や共有には、オンライン掲示板アプリ「Padlet(パドレット)」を使用しています。

(Padletで共有した、生徒が集めたさまざまな標識)

———最終的なアウトプットに向けてはどのように展開されたのですか。

(𠮷水)アウトプット方法も生徒たちに考えさせました。現状の調査結果から出てきた課題は「英語がないから分かりにくい」「むしろ文字だけでは分からない」でした。生徒たちの話は「では、誰もが分かるものを作ってみる」「ピクトグラムのデザインにしよう」と進み、分かりやすい色使いを考えるなど美術科との教科横断の学びにも発展しました。実際の標識設置は法律が関係して難しかったため、アイデアを出しながらやりたい方法を探った生徒たちの結論は、防災減災の啓発ポスターデザインと、そのデザイン効果を説明する動画作成でした。

英語・ICTを通して生きる力を育む仕掛け

———ICTは近年急速に学校現場にも普及し、使い方や教育の最終目標の設定に戸惑っているお声もよく耳にします。ADEでもある先生は、ICTを使用して生徒にどんなことを身につけてもらいたい、学ばせたいとお考えでしょうか。

(𠮷水)イメージとしては、説明を聞くだけでは乗れない自転車と同じです。まずは使わないと習得できません。利用制限し過ぎずに使わせることで、生徒が自分で適切な使い方を探っていくのが一番良いと思っています。ただ、授業の目的が「ICTを使うこと」にはならないように、「ICTを使用して何を身につけさせたいか」にすることが大切です。

私は英語やICTを教えるというよりも、英語を通じて生きる力を育み、ICTもプラスされてよりできることを広げられるような学びを目指しています。そのために、生徒自身が主体となり、自分で問題を解決できるようになるよう、基本的にはICTの活用は生徒の自由にさせています。例えば、メモをノートに書くか、タブレット端末を使うかにしても、自分で必要な道具を選んで使わせています。また、疑問点を解決したいときも、毎回教員に質問するのではなく、友達に聞く、iPadでAIに聞くなどツールで調べる、いろいろな方法から選ばせます。発表資料を作るときに使うアプリも指定しません。KeynoteやPowerPoint、Canvaなどから生徒が必要なものを選んで使っています。

生徒がやりたいことを実現するために生徒自身が主体となり、考え、選択する。すると、生徒には結果に対して責任が生まれます。問題が起きても自力で解決しなければなりません。必要なものを選んで使えてこそ自分の力であって、社会に出たときに役に立つ力だと思います。そうした積み重ねで生きていく力を育てたいと考えています。

(それぞれの生徒が形にしたアイデア)

「5ラウンドシステム」とオールイングリッシュの言語活動

———先生のご担当はどのようなクラスの授業でしょうか。

(𠮷水)中3の全4クラスを受け持っており、そのうち1クラスの担任も含め、中1から持ち上がりで担当しています。1クラスの人数は35~36人おり、初学者レベルから英検準1級まで、クラス内の学力差が大きいです。

———学力がさまざまな生徒たちが一丸となって前述の防災のような授業に取り組めるのは、何か仕掛けをされているのでしょうか。

(𠮷水)学力差は、知識量の差によるところが大きいと思うのですよね。例えば今回の「外国人に防災意識をもってもらう手立て」を考えるような、発想が中心の授業にすれば、学力差は大きな問題になりません。知識が少なくても面白い発想をする生徒もいますし、学力が高くても相手の理解度を無視して流ちょうな英語で話し続けるようでは思考力が足りないと判断します。活躍できるかどうかは学力ではなく、最終的には相手に伝えたいという気持ちや、そのために工夫して上手くコミュニケーションできるかどうかが大きいと思います

———先ほどお話されていたように、英語を通して人間力を養うような授業をされているのですね。

(𠮷水)そうですね。とくに英語はコミュニケーションツールなので、教科内にとどまらずどんな教科ともコラボレーションできます。国際交流を通して人とのつながりを大切にする意識づけや、他者意識を持つことにもつながると思います。

———授業ではどんな点を重視されていますか?

(𠮷水)名古屋外国語大学の太田光春先生の言葉 “Don’t study English. Use it. ”(「英語は学ぶものじゃない、使うものだ」)が好きで、生徒にも常々話しています。iPadでも説明書を読まずに使いながら必要なことを学ぶのと同じで、話したいことに足りない知識があるときに調べれば良いのです。いかに生徒の実生活に近づけて、その意欲を引き出すかを意識しています。

———生徒が自分の考えを発言する機会は以前から設けられてきたのでしょうか。

(𠮷水)はい、インプットしないとアウトプットできないという説にも同意なのですが、使用してみないと自分ができないことすら分かりません。理解できていない部分を埋めるために、使う練習が必須だと生徒にも伝えて、アウトプット(言語活動)はオールイングリッシュで行っています。前述の防災をテーマにした授業も言語活動の中で行いました。

———教科書での学習と言語活動の兼ね合いはどのようにされているのでしょうか?

(𠮷水)授業は基本的に教科書を使ったインプットとアウトプットの時間を半々くらいにしています。中学1~2年の教科書に掲載されている表現を全て使えれば、海外で生活できると言われているほど教科書の内容はとても充実しています。ですので、教科書での学習はとても大切にしています。具体的には、教科書を1年間に4~5回繰り返して学ぶ「5ラウンドシステム」を取り入れていて、豊富なインプットで得た知識と表現を言語活動で目いっぱい使う。それを行き来して使える量を増やしています

———アウトプットの土俵はしっかり作ったうえで、必要な学びを探りながらつかんでいくのですね。

(𠮷水)はい。私自身が6月にあったADEのInstituteに参加していたときに改めて実感しましたが、「言いたいことはあるけれど、英語が出てこない!もっと学ぼう!」を永遠に繰り返して上達していくものです。そのため言語活動ではコミュニケーション優先で、文法的に間違っていても伝わればOKにしています。ただ、分からないままでは英語レベルは上達しません。間違える生徒が多い個所は一緒に考えて解決法を共有するなど「分からないままにしない」を意識させています

「自律的な学習者」を育てたい

———生徒と一緒に作っていくような授業をされているのですね。

(𠮷水)そうですね。育てたいのは「自律的な学習者」で、受け身ではなく本人に努力する意思がないと育ちません。教え過ぎず、学び方のバリエーションを提供することで「学び方」を伝えて、一緒に作り上げる授業を目指しています

ICT(タブレット端末)の教育現場での普及もあり、学力差=知識量ではなくなりつつあります。知識を学ぶより、生徒それぞれが「何をしたいか」「何に興味あるか」を探せるように教員がデザインすることが大切です。「やりたいことがない」生徒は頑張った経験がないからで、頑張った結果、夢中になって楽しくなるか、向いてないと悟るかするのだと思います。基本的に生徒の自由に任せることで、主体的な頑張りを促し「夢中になれること」を探せるような授業を心がけています

(取材・構成:小林慧子/記事作成:松本亜紀)

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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