ただ5周すれば良いわけじゃない?! 5ラウンドシステムの真髄に迫る【前編】

最終更新日:2023年12月21日

今回お話を伺ったのは、三重大学教育学部附属中学校の𠮷水慶太先生です。

𠮷水先生は、今年度Apple Distinguished Educator Class of 2023のメンバーに選出され、2023年6月末にはオーストラリアでのInstituteにも参加されています。Apple Distinguished Educator(ADE)とは、Appleのテクノロジーを活用して教育現場の変革に努める教育者であり、Appleが認定した教育分野のイノベーターです。前回の記事ではICTでの取り組みをご紹介いたしましたが、今回は、導入校が全国的に増えている注目の英語教授法「5ラウンドシステム」についてお話を伺いました。前編では詳しい実践方法、後編では導入の経緯や5ラウンドでの文法指導方法についてお伺いしました。

5ラウンドシステムとは

西村秀之先生(現:玉川大学大学院准教授)が、2012年に横浜市立南高等学校附属中学校在任時にスタートさせ、今では全国の中学校や高等学校で取り入れられています。𠮷水先生は、前任校の公立中学校で教鞭をとられていた約5年前から実践されているそうです。

―――はじめに「5ラウンドシステム」について教えていただけますか?

(𠮷水)一言で言うと、教科書を1年間で4~5回繰り返して学ぶ授業法です。ラウンドごとに活動内容を変えて繰り返しインプットすることで定着を図り、「自分の思いや考えを自分の言葉で語れる生徒」の育成が目標とされています。インプットした英語を使う帯活動などを並行し、両輪で発話力を高めることが効果的だと考えています。

何度も音読して、教科書を大切に扱うところも特徴の1つです。教科書は有識者が知恵を集約させて作ったとても価値あるものなので、それをしっかり使い込む点でも良いシステムだと思います。

 

具体的な実践方法

―――具体的にはどのようなことをされるのですか?

(𠮷水)私の授業では1コマ50分の授業内で時間を前半・後半に分けて、「言語活動によるアウトプット(前半)」と「5ラウンドシステムによるインプット(後半)」を行います。後半の5ラウンドシステムでは教科書のUnitをどんどん進めていくイメージです。言語活動とセットで行っている理由は、教科書を5周するだけでは自分の言いたいことを英語で伝える場面がほとんどないからです。

言語活動で、前回5ラウンドの授業で学んだ表現を使うことは必須ではありませんが、レベルアップは意識させています。前回言えなかったことを調べてきて次に使うなど、事前準備や意識で表現の幅は広がりますよね。

会話は、定型表現と関連発話の繰り返しです。使える表現が増えれば、 “Yes” と定型で回答をした後に相手に合わせた話題に展開するなど、言語活動でより自在に会話ができるのです。生徒にそれを意識させると、教科書のインプットの重要さに気付いて、真剣に取り組みます。5ラウンドシステムは、教科書を繰り返す時間と、自分で自由に話す時間の両輪が必要だということを、実施してみて実感しています

―――各ラウンドではどのような活動をするのですか?

(𠮷水)以下のように進めています。授業はすべてオールイングリッシュです。

【ラウンド1】

教科書のストーリーの概要を把握します。ラウンド1では教科書は開かずに、絵を見せたり質問しながら状況や登場人物を大まかに理解した後、全員一斉に教科書本文のリスニング。そしてペアで10枚前後の絵を話の順に並べ替える活動を行います。答え合わせもペアでするため、答えが違うと生徒の方から「もう一度聞きたい」という声が上がります。全ペアが正解するまでに10回くらいリスニングを繰り返すこともしばしばです。生徒は無意識に何度も聞くのではなく、順番を探るために場面を想像しながら集中してリスニングすることになるのです。こうして教科書の最後まで1周し終わるGW前後には、各単元の内容ややり取りの大体の概要を把握した状態になります。

【ラウンド2】

初めて本文を見ながらリスニングします。帯活動のPhonicsで学んだ知識と音を、「聞いていた音はこんなスペルだったんだ」と一致させながら、ストーリーをより理解します。ちなみに中学1年生からラウンドシステムを導入した場合、1年目で音とスペルの一致はほぼできるようになるので、中2以降はラウンド2を省略することが多いです。

【ラウンド3】

音読します。ここで初めての音読となりますが、内容や会話は大体分かっている状態なので「読みたい」気持ちになりやすいです。

ただ、この後何か月も音読が続くので、最初に「音読が有益」と実感する体験をさせています。教員を信頼して、指示通り音読を続ける意義に納得していないと、途中で嫌になってしまうからです。具体的には、10文くらいの英文の音を聞かせてディクテーションをさせます。始めはまったくできませんが、教科書での音読練習を数パターンこなした後で再度書くと、最初よりも圧倒的に書けるのです。音読前後に書いたページを見ると、力の差は明らか。「短時間でこれなら、長期間やるとどうなると思う?」と言うと、生徒は全員やります

【ラウンド4】

穴開き音読など、難易度を上げた音読をします。例えば、動詞を抜いた場合、場面や時制が理解できていないと、抜いた動詞が何かは分かりません。他にも、語句の順番を入れ替えたものを並べ替えながらなど、難易度を上げる方法はいくつかあります。大体の教科書の内容がすでに頭に入っている4回目なので読むことは難しくありません。

【ラウンド5】

教科書の文字を取っ払い、紙芝居のようにイラストを使いながら内容を自分の英語で伝えます。5ラウンドシステムのゴールはこの「リテリング」だと誤解されることもあるのですが、「教科書にとらわれず、自分の考えや意見を自分の言葉(英語)で語る」ことが一番大事です。

―――5ラウンドシステムはどんな教科書でもできるのでしょうか?

(𠮷水)もともと5ラウンドシステムは光村図書の『COLUMBUS21』から始まっていて、私の勤務校では、その後続の『Here We Go!』を使用しています。光村図書のサイトに5ラウンドシステムの説明が載っているほど(記事末尾にURLリンクを掲載)意識して作られていて、使いやすいです。基本的に生徒と同年代の登場人物たちと一緒に成長していくストーリーなので、人物や場面がコロコロ変わらず内容も身近だからでしょう。

とはいえ、私が前任校の公立中で5ラウンドシステムを始めた時は『NEW HORIZON』を使用していましたし、他の教科書でもできると思います。ただ、「この部分は音読向きではない」などの調整が場合によっては必要かもしれません。

使う教科書に関わらず、目の前の生徒の実態に合わせた工夫も不可欠ですね。私は、前述のとおりラウンド3の最初に、できないことを認識させ、「練習したらできた!」という成功体験を入れるアレンジをしています。英語学習に限らず、できること、効果があると分かっていることには積極的に取り組みますが、できないことや分からないものに時間を使いたくないのは自然なことですよね。効果を実感する成功体験の有無で、その後の取り組み方や成果が大きく変わると思います。

 

言語活動で「伝えることを諦めない」底力を付ける!

―――言語活動についてもう少し詳しくお聞かせいただけますか?

(𠮷水)話すトピックを最初は私が与えていましたが、中2の中頃からは、さらに話したいことを話せるようにしてきました。ただ、自由度はありつつも、「前回より1文多く話そう」「最低1つ質問しよう」のようにある程度のトレーニング要素を含ませることもあります。これは、英語力をレベルアップするトレーニングでもありますが、コミュニケーショントレーニングの面もあります

日本語でも同じで、一問一答のように、聞かれたことにただ定型表現で答えるだけでは会話が続きません。「週末に何をしたか」と尋ねられたときに「ゲームをした」で終わらず、「あなたはどんなゲームをしますか?」など関連した一言を付け加える。会話を続けようとするかどうかで、後の展開は変わります。Appleの研修でも、やり取りは相手へのリスペクトが大切で、リスペクトのないやり取りは意味がないと言われました。相手を尊重して良いコミュニケーションを取ろうする気持ちがとても大事だと思います。

―――生徒さんへの効果を感じることはございますか?

(𠮷水)「自分の思いや考えを自分の言葉で相手に伝えよう」という意識で活動に取り組み続けてきた結果、生徒たちは相手に伝えることを諦めずに、自分の言葉で言いたいことを言おうと頑張れるようになっています。根拠のない自信を持つことができていて「僕たちは英語を話せる!」といった雰囲気の生徒が多いです。

夏休み前に夏休みの予定を英語で聞いたときに、生徒の回答を聞いて成長に驚いたことがありました。ある生徒が、“I’m going to go shopping with my friend. I will buy some clothes.”と言ったのですが、買い物は予定に組み込んでいるから “I’m going to” を使い、買う物自体は決まっていないから “will”と未来を表す表現の方法を変えたのです。感覚的に使い分けられるようになっていてすごいと思いました。

数値的なものでは、複合的な効果かもしれませんが、言語活動とラウンドシステムの繰り返しにより、学力テストでも高い点数を取れるようになり、力を付けてきている実感があります

後編へ続く】

(取材・構成:小林慧子/記事作成:松本亜紀)

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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