教員は、生徒全員に責任を持つ必要はない——世界と学校をつなぐ“中継地点”としての副業活用法

最終更新日:2023年4月20日

今回は、開智日本橋学園中学・高等学校英語科教諭兼海外大学進学・国際交流推進担当、グローバル教育担当の西山哲郎先生にお話をうかがいました。

西山先生は、イマージョン教育やディベート、多読セミナー講師など、英語教育にまつわる豊富な知見を生かして副業をされています。
また、サーフィンやダンス、イラスト、言語などのアクティビティのほか、最近では舞台俳優デビューも果たすなど、多岐にわたって活動を展開。
「副業や起業をしていない教師が授業をしていても、教育を変えることはできない」と、副業が本業に与える大きな影響を重視されています。
教員は、生徒と世界をつなぐ中継地点として機能すればいい。そう考える先生の「副業論」について、くわしくおうかがいしました。(聞き手:早坂、小泉)

英語教育の枠に囚われない活動

———「先生の副業」というテーマで、開智日本橋学園中学・高等学校英語科教諭兼海外大学進学・国際交流推進担当である西山哲郎先生のお話をうかがいます。
まずは、西山先生のご経歴についてお聞かせください。

(西山)現在は開智日本橋学園中学・高等学校英語科教諭兼海外大学進学・国際交流推進を担当しています。
東大寺学園中高の英語教員、香里ヌヴェール学院小学校の校長などを経て、現職に就きました。

———先生が手がけていらっしゃる副業の内容や範囲は、非常に多彩ですよね。
簡単に挙げてみるだけでも、草の根英語勉強会暁の会の共同代表、オックスフォード大学出版局ORT多読セミナー講師、HPDU高校生即興型英語ディベート西日本代表、静岡市の英語教育アドバイザーを勤められているということですが。

(西山)ほかには、サーフィンやダンス、イラストに取り組んでいるほか、中国語とスペイン語も勉強しています。
SBSラジオ(静岡放送)の情報ワイド番組「IPPO」でも、準レギュラーとして出演中です。また、音声プラットフォームのVoicyでは「最先端の教育を探るテツロー先生のEpoch Stream」という番組を週に1〜2回配信しています。

それから、毎週水曜日に芸能事務所オリオンズベルトの俳優養成講座を受けています。2023年の2月には『DOG’S』という舞台で俳優としてもデビューしました。

———本当にさまざまな活動をなさっているんですね。本業とはどのように折り合いをつけていらっしゃるんですか。

(西山)昨年から研究日を活用して、昭和女子大附属小学校でお仕事 をしています。2024年にコース改編されるのですが、 国際コース開設室長として英語イマージョン教育を同小学校に設置するプロジェクトチームを率いています。

スラッシャーという生き方

(西山)自分の生き方は「スラッシャー」的だと思っています。スラッシャーというのは、何かのスペシャリストではなく、複数の肩書きや役割を持ってパラレルに生きるジェネラリストという意味なんですが。

例えばイチロー選手のようなスペシャリストには憧れる人も多いだろうけれども、誰もがなれるわけではありませんよね。

私自身の話をすれば、私は一つのことにずっと取り組むよりも、いろいろなことをしているときに幸せを感じるんです。
であれば「なりたいものには何にでもなれる」と楽しんだほうがいいんじゃないかと思っていて。「したい」と思う気持ちにフタをすることはあまりいいことではないと思うんです。
「老後は新しい趣味を始めたい」なんて考えている人も少なくないようですが、むしろ現役時代の今、エネルギーがあるうちに自分を広げておく選択肢もアリだろうと。

「自分」をブランディングする

(西山)受講している俳優養成講座でも、自分のキャラクターを設定するレッスンがあります。
先生によると、一流の芸能人の方々は、ご自身のキャラクターを場面場面で設定し、使い分けられているようなんです。
例えばある場面では教師だけれども、ある場面ではラジオパーソナリティ、またある場面では俳優……ということです。
さらにいえばこの「キャラクター」は、現状の自分を反映するのにとどまらず、新たにつくり上げてもいいわけですよね。
例えば私は、このインタビューの4ヵ月前、自分が舞台俳優を名乗るようになるなんて考えてもみませんでした。

偶然、誰でも応募できる俳優養成講座があると知って、じゃあ準備をしてみようかと。オーディションには600人ぐらいが応募されていたそうですが、フルパワーで取り組んでみたら、なんと合格して、舞台にも出演できることになった。

キャラクターを実現させるために、投資やブランディングして、キャラクターを育てていく。そうやって自分の世界が広がっていくことが、すごく楽しいんです。

教員とアメフト選手を両立するキャリア初期

———もともとのキャリアは、英語教員からスタートされたんですか。

(西山)はい。22歳で新卒のときも、英語教員として就職しました。
ただ、大学生の頃はアメリカンフットボールにのめり込んでいて、就職するよりも、アメフト選手としてキャリアを築きたいと思っていたんです。
Xリーグ(アメリカンフットボール界における、日本最大の社会人向け1部リーグ)のチームに入団もしていました。

入団チームはそれなりに強豪でしたが、折り悪く当時はバブルがはじけたあと。スポンサー企業からの資金はそこまで潤沢ではありませんでした。
生活するためには仕事を探さないといけないというので、やや不純な動機ではありましたが、教員として働くことを決めました。

結局、平日は教員、土日はアメフト選手という生活を28歳まで続けました。アメフト部をつくって顧問になったりもしていましたね

———キャリアの最初から副業をなさっているような状態だったんですね。

(西山)ただ、教員になって3、4年ほど経った頃から、一教員としてアメフトが一番楽しみというのはどうなのかとも思うようになったんです。
一度視野を変える必要があるなと思い、英語教育に力を入れている学校に転職することを決めました。
そこから徐々に、英語教育を軸として活動の幅が広がっていきましたね。

教員には、教育を変えられない?

———副業の内容も年々幅が広がっている印象を受けましたが、どこかでターニングポイントがあったのですか。

(西山)大きな転機になったのは、前職の静岡聖光学院に転職したときです。

静岡聖光学院には、前校長である星野明宏先生からお誘いいただいたことがきっかけで移ることを決めました。そのとき、「教育を変えられるのは、学校の外に世界を持っている人だ」とお話しいただいたんです。

「副業や起業には本腰を入れて取り組んでくれて構わない。全力で応援する。むしろ、副業や起業をする姿を後輩たちに見せてくれないか」と口説かれて。

———副業をむしろ推奨する空気があったんですね。

(西山)はい。従来の学校教育を踏襲するだけの教員を教壇に立たせても、教育は何も変わらないんだ、ということで。
例えば、社会人向けの教育は、学校教育に比べ、学びのスピードが段違いに速いですよね。
社会人向けの場合、講師と生徒のモチベーションがどちらも高く、短期間で成果を出しています。セミナーへの熱意も高く、講座をうけて会社の体制や雰囲気が変わることも珍しくない。

一方学校では、例えば週に何時間も英語の授業を受けたとしても、授業だけで英語を使いこなせるようになった学生はほとんどいないはずです。
また、誰もが学校で政治経済の授業を受けていたと思いますが、周囲を見渡してみると、きちんと政治や経済のことを理解できている人のほうが少ない。

———変化を起こすためには、これまでとは違う視点を持った人が必要だと考えられていたんですね。

副業によって自らの視座を高める

———西山先生は副業をむしろサポートされる側でしたが、一般的に教員というと、副業を反対されることも多い職業です。

(西山)私個人は、本業と副業の境界は曖昧です。
副業をすることで自分の知識や視座が高まり、世界が広がっていくことを実感していますし、副業があるからこそ、本業の質が上がったことも多々あります。
もちろん、本業を経て副業のレベルが上がった経験も少なくありません。

例えば私は、前職で香里ヌヴェール学院小学校の校長を勤めていましたが、香里ヌヴェール学院では、授業の約6割を英語で実施するイマージョン教育を採用していたんです。
この経験が、私の中での英語教育に対する考え方を大きく深めました。

この経験がもとになって、セミナーやラジオでの情報発信といった副業でのお仕事をいただけるようになりました。
学校外でさまざまな業界の方たちと親しくなったことがきっかけで、さらに視野が広がっていく。

副業という形で他業種の人たちと会って話をすることが、自分自身の学びに最も直結していると思っています。

世界と学校をつなぐハブとしての教員

(西山)教員が生徒のすべてを背負う必要はなく、世界と学校、人と人とをつなぐハブ(中核)として機能すればいいと思っているんです。
教員って、自分の担任したクラスであるとか、自分の教え子たち全員に影響を与えることを目指すわけですよね。ただ、それは傲慢なのではないかとも思うんです。

私自身が若い頃、先輩教員から「生徒のうち、1人でも自分の考え方に深く同調してくれる子がいたら、それでもう教員としては万々歳だよ」と言われたことがあるんです。それで、むしろ肩の力が抜けた思い出があって。

僕が副業を通じて多くの人に出会い、出会った人たちや、その人たちから得た学びを生徒に紹介する。それでいいんだと思うんです。
実際、2022年度には、中学2年生のロングホームルームの時間に、外部講師を招いてウェビナーをしてもらっていました。
すると、外部講師の話に強い感銘を受け、インスパイアされる生徒が中には出てくる。

結果的に、私一人で生徒に考えを伝えるよりも、スムーズに生徒と意思の伝達ができるようになったことも多々あります。

先生は、「先を生きる人」だと考える

(西山)「先生」を「先に生まれた人」だと考える人もいますが、私は「先を生きている人」と考えてもいいんじゃないかと思っています。
例えば私は現在(2022年12月時点)44歳ですが、ファッションについては高校3年生の長男が私の先生なんです。

長男はすごくおしゃれで、一緒に服を買いに行ったり、資料を見せてくれたりして、私に服装のことをいろいろ教えてくれるんです。それで自分が変わっていくのがわかると、やっぱり私自身がすごく楽しいんですよね。
それから、生徒たちから教わることもたくさんありますからね。

———「学び」はもっと柔軟でいいと。

(西山)私自身、今の自分が中高生だったら、学校には行かない選択をしたでしょうね。世界にはもっとおもしろいことがあると知っているから。
どうして学校がおもしろくないのかというと、それはやはり、学校が外部に対して閉鎖的な場所だからだと思うんです。

生徒よりも教師が、外の世界に踏み出すべき理由

———副業を通じて、生徒にいろいろな出会いを与えられているんですね。

(西山)ただ、実は私が本当に変えたいのは、生徒たちではなくむしろ教員の側なんです。
先生たちが閉鎖的で、世界や社会の実情に目を向けないからこそ、教育も閉鎖的になっているのではないかと思っていて。

先ほど、ロングホームルームの時間に外部講師のウェビナーを開催した話をしましたが、そのときに他の教員から「頭を殴られたかと思うほどのインパクトがありました」と感想をもらったことがあるんです。

誰かの言葉で心を動かされた経験のある教員は、外部から人を呼ぶことにも好意的になっていってくれるだろう、と思います。

それが結果として、教員自身が積極的に外部とかかわったり、話を聞いたりする動きにつながり、それが生徒たちに還元される。
新しい世界を紹介することで、教育の世界に、どんどんプラスの相乗効果が生まれたらうれしいです。

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