「英語を使うプロフェッショナルの育成」を戦後から続ける国際教育振興会による教員支援

最終更新日:2026年6月15日

語学学習の多様化とAIツールの台頭により、英語教育の現場は大きな転換期を迎えています。「どのように教えれば生徒の英語力は本当に伸びるのか」と葛藤する教員も少なくないのではないでしょうか。1945年の創設以来、一般財団法人国際教育振興会(日米会話学院)は、官公庁や企業向けに英語のプロフェッショナルを育成し続けてきました。同会は、2000年から「英語教育方法研究セミナー」を開催し、多くの英語教員の試行錯誤に伴走しています。今回は、同会が実践する「通訳メソッド」と「実践メソッド」、教員が社会人と共に学ぶ意義、そしてAI時代の語学学習のあり方についてお話を伺いました。

1.一般財団法人国際教育振興会の概要と沿革

—— まず、一般財団法人国際教育振興会、および日米会話学院の設立の経緯や団体概要について教えてください。

(藤倉)私ども一般財団法人国際教育振興会は、主に公益事業部門と、英語・日本語の教育を担う収益事業部門の二本柱で運営しております。

法人の設立は1945年11月1日ですが、終戦直後の8月16日には、すでに設立準備のために物件を借りていたという記録が残っております。当時は、政府機関や企業において、GHQの担当者らと対等に渡り合えるほどの高度な英語力を持つ人材を、一刻も早く育成しなければならないという非常に切実な社会的要請がありました。まさに戦後復興の黎明期に、確固たる目的を持って産声を上げた学校なのです。

また、当校の名称である「日米会話学院」は、しばしば「アメリカ英語の英会話を学ぶ場」と誤解されることがあります。しかし、実際はそうではありません。創業者たちが掲げたのは、日本人とアメリカ人が「対話」を通じて互いの文化や思考を深く知り、双方向の言語学習を通じて分かち合うことが、世界平和の礎になるという強い信念でした。

「日本とアメリカが対話を続けていこう」――。この平和への願いと相互理解の理念こそが、日米会話学院という名前に込められた真意なのです。

—— 語学学校だけでなく、公益事業としてさまざまな活動も長く続けられていますね。

(藤倉)はい。公益部門の代表的な活動に「日米学生会議」があります。これは1934年から開催されているもので、当財団の理事長を長年務めた板橋並治が立ち上げに携わった縁から、私どもで長年運営を引き継いでまいりました。

また、1960年からは「外国人による日本語弁論大会」も開催。非常に堪能な日本語を操る出場者たちは、母国と日本の架け橋となる人材として、多方面で活躍されています。

収益事業である日本語研修所においても、中国や東南アジアからの留学生のみならず、欧州アメリカ・北米など世界各国から多くの学生が集まっています。すでに博士号を取得されている方、日本企業での就業を目指す方、あるいはすでにビジネスの第一線で活躍されている方など、層が厚いのが特徴です。

当財団は、多文化理解と共生を通じた「平和な社会の構築」という理念を起点としております。日本語研修所および日米会話学院においても、その精神は脈々と受け継がれています。また、次代の日本を担う若い世代の育成に寄与すべく、中高生や大学生を対象としたスピーチコンテスト、ライティングコンテストへの協賛活動にも注力しております。

2.長年の歴史の中で築かれたメソドロジー

—— 貴校が長年培ってきた英語教育のメソドロジーについて教えてください。

(藤倉)私どもは、かつて通訳者養成の専門課程を有していた歴史があり、そこで培った知見をベースに、2つの独自メソッドを柱としてすべてのカリキュラムを構築しています。

1つ目の柱は「通訳メソッドトレーニング」です。これは、英語の盤石な基礎力を固め、頭の中に「英語脳」を構築するためのトレーニングに特化したものです。実際に“使える”英語を習得するための土台を作る、言わば発信力や表現力の基礎体力を鍛え上げる「筋トレ」のような役割を担っています。

2つ目の柱が、それらを統合する「実践メソッド」です。トレーニングによって基礎を固めても、実際のビジネスや国際交流の現場では、情報の受信と発信を正確かつ瞬時に行えないという課題に直面しがちです。そのため、本物の実践の場にフォーカスし、多角的なスキル(聞く・話す・読む・書く)を素早く、かつ的確に運用できる力を養う指導に重点を置いています。

このように、盤石な基礎を作る「トレーニング」と、それをアウトプットにつなげる「実践」を組み合わせることで、確かな英語力を着実に身につけていただけるのが当校の強みです。

—— クラスによって、この2つのメソッドの割合は変わるのでしょうか?

(藤倉)はい、受講生の英語レベルや学習目的、あるいはビジネスにおける実践の頻度に応じて柔軟にカスタマイズしています。

例えば、本格的に英語を学び始める初級レベルのクラスや学生向けの授業では、盤石な基礎を身体に染み込ませるために、トレーニング主体の「通訳メソッド」に比重を置きます。ただし、インプットに偏りすぎないよう、初期の段階から「実践メソッド」も効果的に組み込んでいきます。
一方で、ミーティングやプレゼンテーションなどを扱うビジネス英語クラスでは、「実践メソッド」の割合を最大化します。すでに基礎が身についているため、限られた時間の中でシミュレーションやアウトプットの精度と速度を高めるアプローチをとるわけです。

ただし、英語力をブレイクスルーさせるためのコア(核)は、どの層であっても共通です。小学生であろうと、大学受験生であろうと、第一線のビジネスパーソンであろうと、「本質的な英語力をつけるために絶対に外せない指導」に変わりはありません。部分的なインプットや、その場しのぎの習得に終始していては、真の英語脳というコアは育ちません。それでは、いざ実戦という局面で瞬時に言葉が出てこないという壁にぶつかってしまいます。私どもが目指すのは、ビジネスやアカデミックの場、あるいは日常のあらゆる局面において、相手の意図を正確に「受信」し、自らの言葉で的確に「発信」できる、本物のコミュニケーション力です。 受講生の年齢やキャリアを問わず、すべてのカリキュラムにおいて、この「一生モノの基盤を築くコア」を大切に、守り続けています。

▲2つのメソッド(取材内容を元に作成)

3.国際教育振興会の英語教員支援

—— 2000年から開催されている教員向けの「英語教育方法研究セミナー」は、どのような目的やスタンスで行われているのでしょうか?

(藤倉)本セミナーの趣旨には、大きく2つの目的があります。

1つ目は、「生徒の可能性を最大限に引き出す授業展開」を学んでいただくことです。語学教育の本質は、単なる知識伝達ではありません。学習者自身のエネルギーを呼び起こし、生涯崩れない基礎力を授け、自立学習や将来の目標に向かって自ら進む力を養うことにあります。その一助となるような授業のヒントを提供したいと考えています。

2つ目は、「先生ご自身の英語力とマインドを研鑽していただく」ことです。英語は生きた言語であり、コミュニケーションの道具です。だからこそ、先生ご自身が生徒にとっての最高の手本、すなわち「学び続ける姿勢」と「英語話者」としてのロールモデルである必要があります。

私どものセミナーでは、単なる「効果的な指導法」や「実践事例」の紹介に留めることは意図していません。紹介した手法を現場で使いこなせるよう、背後にある理論や意味を深く理解し、最終的には「人を育てる」という高い視座を持って活用できるよう、プログラムの構成には細心の注意を払っています。

—— 実際に参加された教員の方々は、どのような課題や気づきを得ていらっしゃるのでしょうか?

(藤倉)当セミナーでは、先生方ご自身が「教師」と「生徒」の両方の役割を体験するワークショップ形式を重視しています。

参加される先生方は非常に熱心で、高い英語力や資格試験のスコアをお持ちの方が多いです。しかし、理論を熟知し、高いスコアを保持していることと、英語を自由自在に「使いこなせる」ことは、必ずしもイコールではありません。ここに語学教育の難しさがあります。

実際に「通訳メソッド」などのトレーニングを体験された先生方からは、驚くほど率直な気づきの声が寄せられます。

「自分がなぜ英語を瞬時に口にできなかったのか、その理由が明確になった」

「生徒に必要なトレーニングを十分に提供できていなかった」

「『英語をツールとして使う』という意識が、指導から抜け落ちていた」

「練習のバリエーションが不足していた」

といった内省です。試験対策としての指導に、こうした「盤石の基礎力をつける」「使えるようになるためのトレーニング」を加えることで、生徒の力は飛躍的に伸びます。こうした気づきを持ち帰っていただくことこそが、本セミナーの大きな意義だと確信しています。

また、共通の悩みを持つ先生方同士による活発な意見交換の場となっているのも大きな特徴です。コロナ前は、北海道から沖縄まで全国各地から先生方が東京に集結し、数日間滞在して学ばれていました。「志を共にする仲間」との結びつきが生まれる場でもあり、私たち自身が感銘を受けるほど、会場は高いモチベーションに包まれていました。

—— セミナーだけでなく、通常のクラスを受講される先生もいらっしゃるのでしょうか?

(藤倉)はい、もちろんです。ご自身の英語力の研鑽だけでなく、授業のカリキュラム構築の参考にしたいという目的で、一般クラスを受講される先生も多くいらっしゃいます。

受講される先生方にとっての大きなメリットは、ずばり「生徒たちの将来像を肌で感じられる」ことです。当校のクラスには20代から50代の社会人が圧倒的に多く、多種多様な業界のビジネスパーソンが学ばれています。学校という環境はどうしても閉鎖的になりがちです。しかし、第一線で働く方々と共に机を並べることで、「自分が教えている子どもたちは、将来こういう風に英語を武器にして活躍していくのだな」というイメージを、より具体的に描き、日々の指導に活かしていただけます。

また、クラス内の活動の7~8割は、他者とのコミュニケーションを伴うワークです。そのため、受講生同士が非常に親密になり、お互いに高め合いながら楽しく力をつけていく文化があります。先生方にも、学校外の大人たちとの交流を通じて、言語学習本来の「人とつながる喜び」をぜひ再発見していただきたいと考えています。

▲英語教育方法研究セミナーの様子

4.国際教育振興会の今後

—— 昨今、AIをはじめとする語学学習アプリやツールが多数開発されています。授業におけるITやAIの活用について、どのようなスタンスをお持ちですか?

(藤倉)授業へのスマートフォンやタブレットの持ち込み、検索、オンライン辞書の利用などは制限しておらず、積極的な活用を推奨しています。また、全クラスにGoogle Classroomを導入しています。教材や音声データの共有、復習の効率化を図るなど、IT活用は標準的なインフラとなっています。

アプリやAIを活用した学習については、これからの時代、避けては通れない「必須」の要素だと考えています。しかし、ツールさえあれば英語が堪能になるかと言えば、話はそれほど単純ではありません。現在、市場にはあまりに多くのツールが溢れており、特に初中級レベルの学習者にとっては「何を選び、どう使い、どこをゴールに据えるか」という判断自体が極めて困難になっています。実際、多くのアプリを導入しながらも、使いこなせず挫折してしまうケースは後を絶ちません。

AIはリサーチや添削、壁打ちの相手としては非常に優秀です。しかし、「AIをどう使えばどのスキルが伸びるのか」「逆に、自分の力でトレーニングすべき領域はどこか」という視点を欠いたまま依存してしまうと、本質的な英語力は育ちません。

ですから、私どもはAIを競合と捉えるのではなく、学習を加速させる「強力な補助ツール」と位置づけています。氾濫する情報の中で、一人ひとりに最適なツールの活用法を提示し、正しく使いこなすための道筋をしっかりとサポートしていくこと。それが、これからの語学教育機関に求められる重要な役割だと考えています。

—— 最後に、日々現場で奮闘されている英語教員の皆様へメッセージをお願いします。

(藤倉)日々現場で奮闘されている皆様へ、2つのメッセージをお伝えしたいと思います。

一つ目は、ご自身の「現在地」を客観的に確認する機会を持っていただきたい、ということです。一人で研鑽を積むだけでなく、志を同じくする仲間が集う場に身を置いてみてください。自分の立ち位置が見えるだけでなく、悩みや課題が可視化され、それがより良い授業展開への確かなヒントにつながります。

二つ目は、目の前の生徒たちの顔を思い浮かべてみてください。彼らが楽しそうに英語を学んでいるか、そして「できた!」という喜びを感じているかを見守ってあげてほしいのです。もし先生が熱意を持って指導されているにもかかわらず、思うように伸びない生徒や苦手意識を抱えている生徒がいるならば、ぜひその根本的な原因を我々と一緒に探ってみていただきたいと思います。

英語は単なる座学の学問ではありません。「コミュニケーション・ツール」です。だからこそ、本来は他の教科のような「得意・不得意」の差は出にくいものなのです。適切な学習法さえ提示できれば、誰もが英語の使い手になれる可能性を秘めています。

ツールとしての英語を使い、世界が広がる実感を分かち合ってください。生徒が「自分も英語ができるのかもしれない」という自信を持てば、彼らは自発的に伸びていきます。英語が自分の世界を広げ、自らの力で人生を切り拓く武器になる――。そんな人材を育成しているのだという誇りを胸に、生徒たちと向き合っていただければ幸いです。

私どもは、そんな先生方を支えるプラットフォームでありたいと考えています。皆様の歩みの一助となれるよう、これからも全力でサポートしてまいります。

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