没頭→行動→維持のサイクルが肝!エンゲージメントを意識した授業設計のポイントとは?

最終更新日:2025年6月17日

昨今、日本の教育界内で注目を集めている「エンゲージメント」。東洋英和女学院中学部・高等部で教鞭をとる松浦 由佳先生は、近年外国語学習の分野で注目を集めている「学習者エンゲージメント」の概念に早くから関心を寄せ、生徒が夢中になって学ぶ授業づくりに継続的に取り組んできました。今回はそんな松浦先生に、そもそもエンゲージメントの意義とは何か、実際の授業設計のポイントなどを伺いました。

———「文法の授業でエンゲージメント(以下 EG)を高める取り組み」についての寄稿(英語教育2024年6月号)を拝見しました。EGについては関連書籍も出版され、多くの先生の関心を集めているテーマになっていますが、あらためてその意義について教えてください

モチベーションという目にみえない要素を、行動に紐づけて可視化する考え方がEGです。生徒のモチベーションは重要ですが、外にいる教員からは実態が把握しづらいですし、やる気だけあっても結果につながるとは限りません。フルマラソンを完走したいと思っても、日々のトレーニングや体調管理をしなければ、目標には届かないですよね。

そこで、EGではやる気を喚起するだけでなく、生徒を没頭状態にし、行動に移させ、それを維持していく方法までをトータルに考えます。難しく聞こえるかもしれませんが、授業中の活動設計――特に「どうすれば生徒がのめり込むか」という視点を持ったタスクデザインの話なので、コンセプトを取り入れやすく、先生方にも注目され始めているように思います。こんなタスクやこんなふうに「驚き」の要素 (“wow” factor) を仕掛けると効果的ですよ、と言った具体例があるとやってみたくなる教員も多いのではないでしょうか。

——— “wow” factorとは、具体的にはどのような内容になりますか

(松浦)私の授業では、構成として「導入→展開→発展」の流れを意識しています。なかでも “wow” factor は導入部分の掴みとして生徒の興味を惹きつける要素で、好奇心や驚きを引き起こすためにクイズを仕掛けることが多いです。たとえば比較表現の授業では、最初に「錯視」のクイズを持ってきました。

エビングハウス錯視では、同じ面積の円が2つあっても、周りに大きな円があると小さく、小さな円があると大きくみえます。比較表現の授業で “Which is larger?” というクイズをだすと、生徒たちは見事に騙されて驚くわけですよね。この驚きや意外性こそが、学習者エンゲージメント(EG)を喚起する導入の工夫として有効なのです。

その後、続けてトトロのイラストをみせながらトトロの身長当てクイズを行います。キャラクターで生徒の注意を引き、教員の全身画像とトトロを並べ、比較表現を使ったヒントを与えながら問いかけます。 “Let’s guess how tall Totoro is! How tall is he?” ここで答えを言わずに生徒にどんどん推量させていくと、「え、なに、何センチ? 」と、早く答えを知りたくてたまらない“乾いた状態”になります。それが没頭させるということなんですね。

生徒の集中力が増した段階で、今度は教員同士を比較させます。たとえば私と、もう1名の早起きの先生を挙げて “Who wakes up earlier?” と聞くと、生徒たちが知っている人物の話題だから、注意はずっと引きつけられたままなんです。まったく知らないAさんとBさんをだしても途端に興味を失ってしまうため、自己関連性の高い話題を取り入れてEGを維持します。ここまでが導入です。

このように “wow” factor を起点に感情的・認知的EGを高めるタスクをしっかりデザインすることが重要です。グラマーの授業って退屈そうな印象がありませんか? 先生の板書をノートに写してそのまま問題を解くような。そうではなく、もっと知りたい、やりたい、面白そうと生徒に思わせる工夫をしましょうということですね。

——— 「導入」の “wow” factor についてよくわかりました。その後の「展開」についても教えてください

(松浦)「展開」以降の詳細についてはぜひ英語教育の記事をご覧いただきたいのですが、学習内容と生徒自身を結びつけ、自己表現活動を行っています。

比較表現の授業では教員同士の比較のあと、今度は生徒たちを話題にして “What time do you get up?” などと問いかけ、 “Ms. Yoshikawa gets up earlier than Ms…” のように比較しました。身近なクラスメートの話題なので、まだそこで興味は続いたままなんですね。

そのままペアワークに突入します。どちらが早く起きるか、髪の毛はどちらが長いか、 英語の勉強時間や50メートル走の速さなど、さまざまなトピックについて2人で比べ合いながら、ひとことコメントもつけさせます。やりとりを通じて相手に感情的に移入してほしいので、コメントの内容はなんでもいいんです。 “Oh, I get up as early as you.” や、 “Wow, that’s too early.” であったり。コメントに “not as~as” を使いましょうなどと指定すると、認知的負荷があがって苦しくなってしまう場合もあるので、EGを維持するための状況に応じた柔軟な対応が必要です。

さらに「発展」部分では、グループワークで教科書を利用したオリジナルのスキット作りを行い、発表させます。EGの維持・強化がうまく達成できると、友達と一緒に考えることが楽しく、チャイムが鳴っても夢中になって続ける生徒もいます。

——— オリジナルのスキット作りとはどのようなイメージですか

(松浦)教科書のスキットをベースに、舞台が学校に変わるよう穴埋め形式で作文します。自己表現活動として、自分たちが好きなコンテキストをみんなで考えて当てはめていくのがポイントです。代入が難しいパッセージ、たとえば専門的な話題やあまり身近でないテーマのスキットでは成立しづらいですが、教科書に登場する普通の会話ダイアログであれば取り組ませやすいですね。

——— EGに着目した授業実践による成果があれば教えてください

(松浦)教室の風景から、 生徒たちの質的な変化を強く感じています。リフレクションのアンケートでも「英語が好きになりました」「もっと自分で調べて毎日やろうと思いました」などのポジティブなコメントが多いですね。いまのところ定量的な評価はしていませんが、生徒たちの意識が高まったことにより自律的な学習が促進され、テスト結果にも結びついていると思います。授業内での小さな成功体験の積み重ねが自信に、またペアワークの楽しみが生徒同士の高め合いにつながっているのではないでしょうか。

——— 最後に、今後の展望をお聞かせください

(松浦)生徒たちが将来、英語を使う場面で自分の言葉に自信を持ち、主体的にコミュニケーションを取れるようになること―それが私の目指すゴールです。

そのためにも、学習へのエンゲージメントを育みながら、他者の意見に耳を傾けつつ、自分の考えもしっかり伝えられる力を養っていきたいと考えています。

さらには、英語を通して世界を知り、世界の多様性や課題に目を向け、自分は何ができるかを考えられる生徒を育てたいと思っています。

英語教育を通して、生徒たちが学ぶことに前向きになって、成長する楽しさを感じてくれたらこの上なく嬉しいですね。

取材・編集:大久保さやか/執筆:小泉純

引用

英語教育2024年6月号 大修館 https://www.taishukan.co.jp/book/b646294.html

 

 

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

国際教育の「今」と「これから」の情報が満載。 教育現場で役立つコンテンツを発信していきます。

英語教材を探す

  • Repeatalk 詳しくはこちら
  • Twitter
  • Facebook

お知らせ

レビュー募集

国際教育ナビでは、教材レビューを投稿したい方を募集しています。お気軽にお申し込みください。編集部員よりオンライン取材させていただきます。