生徒の「話したい」が生まれる教室の魔法:教師と生徒のインタラクション向上に気づきを与える実践研究とは

最終更新日:2025年6月13日

英語の授業、どうすればもっと生徒たちは話してくれるのでしょうか? 生徒同士の活発なやり取りはもちろん、教師とのインタラクションも英語力向上の鍵となります。本記事では、法政大学中学高等学校のラジャ紫津子先生鈴木健祐先生がご発表された「中学校英語授業において⼀⼈ひとりの⽣徒からいかに発話を引き出すか−教師と⽣徒のインタラクションにおける発問の⼯夫−」(英語授業研究学会 第34回全国⼤会)をもとに、お二人のアクションリサーチの取り組みをご紹介します。授業における発問や待ち時間(wait time)、生徒の発話を引き出す言葉がけなど、教師と生徒のインタラクションを活発化するヒントが盛りだくさんです。

アクションリサーチによる授業改善 

――ご発表された研究の経緯や、お二人の役割分担について教えてください。

(ラジャ)私は当時、授業改善を行いたいと考えていました。ちょうどそのタイミングで1年間のサバティカル制度を利用して東京家政大学の大学院で研究することになり、そこで興味を持ったアクションリサーチを活用した授業改善に取り組もうと考えたのです。サバティカルの間は授業を受け持たないので、鈴木先生のクラスで実践をお願いしました。

――研究は「『教師と生徒の』インタラクション」をテーマにされています。インタラクションというと生徒同士の活動のイメージがあったので、意外性を感じました。

(ラジャ)生徒同士のインタラクションももちろん大切です。ただ、教師とのやり取りの中で、足場かけや意味交渉を通して生徒がいかに英語力を伸ばしていくのかに興味がありました。普段から生徒とのインタラクションを大切にしていましたが、生徒の発言にうまく返せなかったり、静かなクラスだと全体に質問しづらかったり。そんな課題を教師として感じていたのです。

――今回の研究の対象生徒には、どのような特徴がありましたか?

(鈴木)当時の中3を対象としました。私が中1から持ち上がりで受け持っていた学年です。全体は活発な雰囲気ですが、発言する生徒とそうでない生徒の差がありました。普段は発言が控えめな生徒や間違いを恐れる生徒、本当は話したいけれどクラス全体の前では話せない生徒たちの発話を引き出したい。そんな思いでラジャ先生の研究に参加しました。

――研究の概要を教えてください。

(ラジャ)実施期間は、2022年9月から2023年2月です。鈴木先生の授業を週2~3回の頻度で見学し、授業後には鈴木先生へ振り返りのインタビューと改善点の議論を行いました。

研究での着目点は、生徒と教師のインタラクションが生じる部分です。該当箇所の教師・生徒のやり取りをすべて記録し、文字起こしを行い、wait time の測定、発問の分析をしました。期間中、サイクルを第1・第2に分け、第1サイクル終了後に中間のまとめや課題の抽出、第2サイクルでの実践についての打合せを行いました。

会話を深める発問とwait time

――授業の構成はどうされましたか?

(鈴木)この学年は中1の頃から言語活動を活発に取り入れてきました。私は基本的に「生徒も教師も、楽しく授業に参加したい」と思っているので、まずは毎回、授業の冒頭にペアでのスモールトークやスピーチ活動を入れていました。英語での発話や教科書内容に入る前の準備時間として有効ですし、クラス全体が活気づきますよね。

ラジャ先生の研究への参加をきっかけに、それまで実践してきたペアでの言語活動の後に、教師である私との対話の時間を設けました。2~3名の生徒をランダムで指名し、ペアで話した内容を1分間程度でスピーチしてもらうのです。その後、私からの質問に答える形で会話を深めていきました。

――これまでになかった新しい活動に生徒はどのような反応をされましたか?

(鈴木)とくに身構えたりネガティブな反応だったりはなかったですね。「中3になったからレベルアップしたんだね!」といった雰囲気でした(笑)。

――どのような発問や工夫を行いましたか?

(鈴木)第1サイクルでは、会話のテンポを意識しました。場所や時間は答えやすいので、「どこへ行ったの?」「いつ行ったの?」「誰と行ったの?」など、生徒が戸惑うことなく話せる質問に比重を置きました。

また、トピックに選択肢を設けたのも工夫の1つです。2つのトピックのうち、生徒が話したいお題を選ぶことで、生徒の食いつきが良くなるように感じました。

(ラジャ)中間のまとめで第1サイクルの発問内容を振り返った際、鈴木先生がおっしゃっていた通り、事実確認の質問(display question)中心なことがデータとしても確認できました。そこで、第2サイクルではより会話を深める目的で、理由や生徒の感情などを問う質問も取り入れる方針にしました。

――そういった質問は生徒にとって負荷が高くなり、また1つレベルアップといった感じですね。

(鈴木)そうですね。工夫した点としては、生徒が答えやすい「いつ」「どこ」などの事実確認の質問からまずは始め、少しずつ「なぜ」「どのように」といった深い質問を追加したことです。また、第1サイクルではテンポを重視していましたが、第2サイクルでは、生徒が考える時間、つまり教師が生徒の発話を待つ wait time を意識して与えました。その結果、より長く深い会話に繋がったと感じます。

(ラジャ)wait time の重要性は先行研究でも言及されています。教師は沈黙を避け、早い回答を急かしてしまいがちですよね。しかし複雑な質問や考えをまとめる必要のある質問には、母国語でも考える時間が必要です。ましてや英語ではより意識して考える時間を取る大切さを鈴木先生と生徒のやりとりを見て実感しました。

とくに印象的だったのが、鈴木先生が生徒ごとに対応を変えていた点です。各生徒の習熟度や性格を見極め、「この生徒であればここまで深く聞ける」「この生徒はこの段階で留める」といった調整をしながら生徒に問いかけていたように感じます。

会話中も生徒をよく観察し、沈黙したり、答えに詰まったりした生徒一人ひとりに合わせて、質問の方法を変えたり、話題を転換したり。生徒が話しやすい雰囲気づくりを心掛けておられました。

ある生徒に「答えたくないと感じたら話さなくても大丈夫だよ」という言葉がけをされたのは、今でもよく覚えています。「答えなくても良い」という選択肢を与えると、発話から逃げてしまう生徒もいるかもしれません。しかし、その生徒には後押しとなったようで、会話を再開したのです。

第1サイクル当初から、鈴木先生と生徒のコミュニケーションはとても良好でしたが、発問やwait time の工夫を経て、「この子、こんなことを考えていたんだ!」といった生徒の新たな一面がわかる回答が引き出されるようになりました。鈴木先生と生徒が心から会話を楽しんでいる雰囲気がクラス全体にも広がり、4か月という短い期間で大きな変化が見られました。

生徒の声を引き出す教師の姿勢とは

――教師と生徒のインタラクションは、周りの生徒にも影響を与えていたように感じますか?

(ラジャ)研究実施前からアクティブリスナーな生徒が多い印象でした。しかし、この取り組みを通して、発表者以外の生徒がどんどん教師と発表者の会話に参加してくるという、さらなる変化がありました。

そうなっていったのも、やはり鈴木先生の働きかけが大きいと思います。たとえば生徒との対話の中で出てきた話題を、「みんなはどう思う?」と尋ねたり、生徒が回答に詰まっていれば、周りの生徒に助けを求めたり。他にもオーディエンスの生徒の日本語でのツッコミを拾い、英語に言い直す。そこから話題を広げたりする場面もありました。発表者が孤立せず、クラスの全員が対話の当事者になった感じでした。

――生徒と楽しい会話を広げていくコツはあるのでしょうか?

(鈴木)生徒の好きなものや価値観に興味を持つのは大切かなと思います。私は生徒と年齢が近いこともあり、たとえば同じドラマを見て感想を言い合ったり、生徒のおすすめを見て報告したりすることがよくありました。共通の話題から会話が発展していくことが多かったと思います。

生徒の好きを知る方法は、それこそ会話を通して、単純に尋ねちゃいますね。「何が好き?」と聞き、私も知っているものであれば「自分も好きだよ!」と伝えますし、意外な答えが返ってきたら「なんでそう思ったの?」と聞いてみます。

(ラジャ)鈴木先生がすごいと思うのは、むしろ知らない話題に興味津々で生徒に聞いていくところです。鈴木先生を鏡として私自身を振り返ると、生徒との会話で私の知らない話題になったとき、より深い内容を尋ねることに躊躇していたんだな、と気づかされました。

あと、鈴木先生は生徒の「つぶやき」を拾うのがうまいんです。生徒が英語で話し始める前に日本語でポロっとつぶやいたことを生徒との会話の中で質問する。そういった、生徒の「好き」や「つぶやき」を良く聞き、拾うことが会話を弾ませる鍵なんだな、と実感しました。

――ありがとうございました。今回の研究を通じて、鈴木先生、ラジャ先生それぞれの今後の課題や展望を教えていただけますか?

(鈴木)今後も授業内での生徒とのやり取りの質を高め、より良いインタラクションを目指していきたいと考えています。

(ラジャ)私は現在、授業内外でスモールトークや生徒同士のやり取りを取り入れる試みを続けています。生徒との関わり方を工夫し、さらに良い授業を目指していきたいです。

(取材・編集:小林慧子/記事作成:中村香名)

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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