再構築した「選べる海外研修」――多様な学びと明確基準で安全と意欲を両立

最終更新日:2025年12月26日

コロナ禍をきっかけに海外研修を見直した学校は多いのではないでしょうか。明治学院中学校・明治学院東村山高等学校もその1校です。英語科教諭でありキリスト教活動主任を務める曽武川道子先生は、長年にわたり英語教育とキリスト教教育の両面から生徒を見つめてきた経験をもとに、プログラム設計や運営に携わっています。ホームステイ・寮・ターム留学という多様な選択肢と、英検や出欠による明確な参加基準を備えた新たな海外研修の仕組みを伺いました。

キリスト教教育を根幹とする「人間力」の育成

――はじめに、海外研修プログラムを通じて育成したい生徒像についてお聞かせください。

(先生)本校では、教育理念として「キリスト教に基づく人格教育」を掲げ、「道徳人・実力人・世界人」の育成を目標としています。その中でも、昨今は特に「世界人」の育成に力を入れています。「世界人」とは、世界的視野を持って行動し、世界平和を願いながら国際社会で活躍できる人材のことです。

▲当校の教育目標(学校公式サイトより)

――具体的には、どのような体験をしてもらいたいと考えていらっしゃいますか。

(先生)生徒たちに「どんどん世界に行って、世界を見てほしい」と強く願っています。日本にいるだけでは日本のことしか知れませんから、積極的に外の世界へ飛び出して、多様な価値観に触れてもらいたいのです。英語力の向上も期待しますが、それ以上に重視しているのが「人間力」の育成です。異文化の中で、さまざまな人々との出会いや困難な経験を通じて、他者と関わり、人として大きく成長して帰ってきてほしい。これこそがプログラムの根幹にある願いです。

コロナ禍を経て生まれた「学校全体で支える」新体制

――2024年度から3つの新しい海外研修プログラムを始められましたが、どのような経緯で再構築に至ったのでしょうか。

(先生)最も直接的なきっかけは、やはりコロナ禍でした。以前は、中学3年生を対象にアメリカやカナダでのサマーキャンプを長年実施していましたが、コロナ禍の影響でやむを得ず中止となり、プログラムが途絶えてしまったのです。

――新しいプログラムは、運営体制も変更されたそうですね。

(先生)はい。英語科の先生方への負担も大きかったことも背景にあり、新しいプログラムは学校運営の中心組織である「校務会」主催で始まりました。

生徒の多様なニーズに応える「選べる」プログラム

――新しい研修先として、オーストラリア、イギリス、ニュージーランドを選ばれた理由を教えていただけますか。

(先生)生徒のニーズに応えるため、既存のアメリカホームステイ(クリスチャン家庭に一人滞在し、クリスチャンの生活を体験するプログラム)を含め、4か国の選択肢を用意しました。オーストラリアは「ホームステイ」希望者向けですが、イギリスでは、不安を感じる生徒のために「ドームステイ」(寮)も選べるようにしました。どちらも短期間なので、部活動と両立したい生徒でも参加できます。多様な選択肢があることで、より多くの生徒が参加できるようになっています。

――各プログラムの特色はいかがですか。

(先生)オーストラリア研修は、現地校のバディと共に「グローバルリーダーシップ」や「STEMプログラム」に参加します。イギリス研修では、世界各国からの留学生と習熟度別クラスで英語を学びます。ニュージーランドのターム留学は、日本の3学期(ターム1)に合わせられる点が大きなメリットです。すべて、複数の業者から提案された内容を校務会のメンバーで検討し、最終的に選定したものです。各業者の強みを活かした内容になっています。

▲当校の海外研修プログラム(2024年新設分)

「自分の英語が通じない」ショックから始まる成長

――先生は「人間力」の育成を重視されていますが、参加する生徒たちの主な動機は「英語力アップ」にあることも多いかと思います。実際の研修で、生徒たちはどのような経験から視野を広げていくのでしょうか。

(先生)多くの生徒が「英語が話せるようになりたい」という思いで参加します。しかし、現地で最初に経験するのは「自分の英語が通じない」というショックであることがほとんどです。この壁にぶつかることで、そこで初めて、テストの点数を取るための英語ではなく、『人とつながるためのコミュニケーションツールとしての英語』の重要性に気づきます。

――帰国後の生徒たちの変化はどのように表れるのでしょうか。

(先生)帰国後に提出されるレポートを読むと、印象に残ったこととして最も多いのは、人との出会いに関する感想です。レポートに添付される写真も、美しい風景より、新しくできた友人やホストファミリーと一緒に写っているものがほとんどです。「多様な人と話してみて視野が広がった」「文化は違っても、結局は同じ人間なのだと気づいた」といった言葉が並びます。

▲写真付きレポートの例(先生ご提供)

――困難な経験をする生徒もいるかと思いますが、それをどのように捉えていらっしゃいますか。

(先生)実際にホストファミリーとの相性がどうしても合わず、滞在先を変更したケースもありました。しかし、私たちはそうした困難な経験さえも、生徒にとって貴重な学びの機会だと捉えています。その状況を自分の力で乗り越えようと努力する過程自体が、生徒を精神的にたくましく成長させます。

研修の質を守る独自の参加基準

――英検の取得級や前年度の出欠席日数を参加基準に設けている狙いは何でしょうか。

(先生)明確な基準を設けているのは、教育的な意味と安全管理の両面からです。まず英検は、生徒の学習意欲を高めるための仕掛けです。「研修に行きたいから英検○級を取ろう」という具体的な目標となり、モチベーションにつながるわけです。また、英語を頑張る意欲の高い生徒を連れて行くことで、研修を成功させたいと考えています。特にホームステイではある程度の会話ができないと困るため、何もできずに終わるリスクを避ける狙いもあります。

――出欠席の基準についてはいかがですか。

(先生)安全管理の観点から、前年度の欠席6日以内・遅刻5回以内という基準も設けています。例えば、日常的に遅刻が多い生徒が、飛行機の時間に遅れてしまうといった事態は絶対に避けなければなりません。また、欠席日数が多い生徒の場合、海外という慣れない環境での健康面も心配です。これは、受け入れてくださる訪問先への配慮でもあります。

――基準を設けることで応募者数への影響や運営面での課題はありませんか。

(先生)正直なところ、応募者数が想定を下回ることもありました。業者からは他校でも同様の傾向があると聞いており、経済状況なども影響しているのかもしれませんが、こうした基準が影響している可能性もあります。それでも、私たちは研修の質と安全性を最優先する姿勢を大切にしたい意向です。参加基準は、生徒が現地で成功体験を収め、精神的にたくましく成長するための準備として必要な要素だと考えています。

中3から高3まで「4年間のチャンス」がもたらす効果

――中3から高3までの4学年と、対象学年を幅広く設定されている点もユニークです。

(先生)本校は明治学院大学への進学者が多く、高校3年生でも大学受験を気にせず海外研修に参加できる環境です。異なる学年の生徒が一緒に参加することで、自然と「縦の関係」が生まれます。また、参加できるチャンスが4年間あるという点もポイントです。ある年に基準を満たせなくても、「来年こそは」と目標を持って努力し続けることができます。

▲活動風景(先生ご提供)

「次」を目指せる選択肢が生む好循環

――研修での経験が一時的なもので終わらず、生徒のモチベーションを持続させるために意識されていることはありますか。

(先生)正直なところ、何か特別な「仕掛け」を意図的に行っているわけではありません。ただ、本校には短期のスタディツアーの次に3か月のターム留学があるというように、生徒が「次」を目指せる選択肢が複数用意されています。

――実際にステップアップする生徒もいるのでしょうか。

(先生)スタディツアーに参加した生徒が、次はターム留学に挑戦するという事例も生まれています。今回ターム留学に申し込んでくれた生徒の中に、昨年のスタディツアー参加者が2人いるのです。一度の経験で得た自信や意欲が、自然と次の挑戦につながる好循環が生まれています。

――今後の展望についてお聞かせください。

(先生)まずは現在の3つのプログラムをしっかりと軌道に乗せることが当面の目標です。将来的には「1年留学」の制度を導入することも検討しています。3か月のターム留学でも「あっという間だった」「もっと長く滞在したかった」という声は少なくありません。より長期の留学に挑戦したいという意欲ある生徒たちのために、新たな選択肢を用意したいと考えています。さらに今年度からは、クラブ活動が少ない冬休みに、ベトナムでのスタディツアーを新たに実施予定です。アジアにも目を向けた体験を通して、生徒たちがより多角的な「世界の学び」に触れられる機会を広げていく考えです。これからも、生徒一人ひとりの成長を支える、価値あるプログラムの充実を目指していきたいですね。

 

(取材・編集:小林 慧子/記事構成・執筆:松本 亜紀)

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