【セミナー開催】私学の教員採用難に打ち勝つ! 応募が絶えない私学と企業人事に学ぶ逸材採用の新常識とは?
最終更新日:2025年12月4日
若い世代の教員に来てほしいけれども確保が難しい。せっかく採用しても4〜5年で辞めてしまう――。
最近、このような採用に関する声が多く聞こえてきます。特に私学は各々が独自の採用戦略を持ち、民間企業と同様に、優秀な人材を勝ち取っていく必要があります。そのうえ「教員になりたい人が減っている」という時代の流れが、人材獲得の難しさに拍車をかけます。事実、令和5年度実施の公立校教員採用選考試験の倍率は、中学校が4倍。高校が4.3倍と、過去最低を記録しているのです。
年々、教員確保が難しくなっていく時代であるから、効果的な戦略を練ることは必須です。そこで、求職者に積極アピールを要するスタートアップ企業の採用戦略が役立つと考え、2025年8月9日に開講したのが本セミナー。「優秀な教員を勝ち取るための一歩を踏み出そう」をテーマに、採用に関する賢者ふたりを招聘しました。
ひとりは、タクシー配車サービスを提供するGO株式会社をはじめ、スタートアップ企業で採用に携わってきたVicolife合同会社代表の若色拓磨氏。もうひとりが、大規模な学校改革により、生徒応募数も教員応募数も爆増させた西武学園文理小学校・中学校・高等学校のマルケス ペドロ校長です。
若色氏は、採用市場の変化をデータで示します。
「求職者が“自分に合う職場を選ぶ”時代に移行している」と指摘し、根拠として有効求人倍率の推移を挙げました。厚生労働省の統計によると、直近10年で全体の倍率は約1.4倍から2倍超へと上昇。中でもIT業界では4倍を超える水準が続いており、「多くの業界で人材確保が難しい状況が常態化している」と分析。さらに、このような環境下で重要になるのは、「選ばれる側としての採用戦略」だと若色氏は続けました。
「“誰を採用するのか”という明確な戦略設計が不可欠で、民間企業では一般的となっているペルソナ設計の考え方を、学校採用にもとりいれるべきだと考えます。教員免許の種類だけでなく、人柄・教育姿勢・部活動や行事への関わり方など、人物像を多面的に定義することが、ミスマッチ防止の鍵になる」と述べました。
若色氏は、採用広報のあり方にも言及します。
「他校との差別化には、学校の魅力を言語化し発信する力が求められる」とし、SNSやデジタルツールを活用した情報発信の必要性を強調。具体的には、教員インタビューを地域紙や広報誌に掲載するなど、認知を高める複合的な手法を提案しました。
結論として若色氏は、「求職者視点で戦略を設計し、学校側が選ばれる存在になることがこれからの採用成功の条件」とまとめました。
マルケス校長は「学校が淘汰される時代になりました。残念ながら、もはや学校側が先生や生徒を選ぶ時代ではありません」と話します。では、なぜ教員に選んでもらえないのか? この問いにマルケス校長は「外的要因と内的要因がありますが、より重要なのは後者です。教員が行きたいと思える学校のあり方を考えるべきなのです」と答えました。
「たとえば働き方ですが、まだタイムカードを打つことで退勤管理をしている学校は少なくありません。いわば時間数を重視する働き方です。けれど教育とは本来専門職。生徒にどれほど質の良い教育を提供できるかという点にフルパワーを注ぐべきであり、それを可能にする学校環境であるべきなのです」
そう考えるマルケス校長は、フレックスタイム制度の導入や副業の容認、服装規定の撤廃など、教員が自律的に働ける環境づくりを進めてきました。もちろんIT化にも積極的です。「今はデジタル社会であり20代や30代はデジタルネイティブ。校務の効率化に必要であり、またSNSを通して職を探す教員もたくさんいます」と、柔軟な姿勢で時代の流れと向き合っているといいます。
「他にも変えた点、これから変えていきたい点もありますが、改革に着手してから3年目を迎えた現在、教員は40名ほど増えました。職員室での会話や笑顔も増え、アットホームな雰囲気が生まれています」
現在進行形で「採用」という難題と向き合う参加者たちは、賢者2名による金言の数々に耳を傾け、高い集中力を保ったままパネルディスカッションへ。登壇者は、聖徳学園中学・高等学校副校長の竹内一樹先生と、株式会社NextTeachers代表の渡辺謙太氏。「どうすれば私学の応募者が増えるのか」「どのように優秀な人材を採用し、定着させていくのか」について議論を重ねるなか、ここでも「デジタル化された環境と現代的な働き方に対する柔軟さが選ばれるキーワードになる」という話題が見られました。
セミナーの最後は15分ほどの質疑応答です。
「クラス数が増えたので教員の数を確保する必要が出てきました。また講師の先生の高齢化も進んでいます。若い人材はどのようなところで働いているのでしょうか?」「やはり専任講師でないとなかなか来てくれないのでしょうか?」といった質問が寄せられるなど、終盤でも参加者の積極姿勢が見られる展開に。
マルケス先生がいう「学校が淘汰される時代」の流れを感じているためか、来場者から強い当事者意識が感じられる、濃密なセミナーとなりました。
<登壇者>
マルケス・ペドロ(西武学園文理小学校・中学校・高等学校 校長)(Marques Pedro)
1985年、ブラジル・サンパウロ州生まれ。サンパウロ大学総合哲学文学人文科学部日本語日本文学科卒業。大学卒業後2年間、サンパウロ大言語教育センターで日本語講座の講師を務める。2010年に文部科学省の国費留学生として来日し、早稲田大大学院日本語教育研究科修士課程修了・博士課程(単位取得満期退学)。大学院在籍時から西武文理大学で、外国人留学生の日本語教育、日本人学生の英語教育を担当。2023年4月から現職。好きな作家は谷崎潤一郎。日本人の妻と2児の4人家族。
若色 拓磨(Vicolife合同会社 代表)
栃木県出身。大学卒業後、会計税務システムのコンサルタントを経て、プログラミング教育事業の人事、GO株式会社でのテック採用リード、医療系ベンチャーでの採用責任者を歴任。2024年に独立し、現在はVicolife合同会社の代表として、人材採用・育成・採用広報を中心としたHRコンサルティングを展開。ファッションやキャリア支援も手がけ、感性と論理を融合しながら、人と組織の可能性を引き出す伴走を大切にしている。
<パネリスト>
竹内 一樹(聖徳学園中学・高等学校 副校長)
東京都出身。大学在学中より地域のサッカースクールで指導に携わり、教育現場への関心を深める。卒業後、聖徳学園中学・高等学校にて教鞭をとり、学年主任、研究開発部長、教務部長、教頭を歴任。ICT教育や探究学習の推進を通じて、生徒一人ひとりの個性と創造性を引き出す教育に力を注いできた。2025年度より副校長として校長を補佐し、学校全体の運営に携わっている。
渡辺 健太(株式会社NextTeachers 代表)
神奈川県相模原市出身。中央大学文学部教育学科卒。中学校社会、高校地理歴史・公民の教員免許を取得。ヤフー株式会社、TikTokや、複数のスタートアップ企業で、大手企業のマーケティング支援に従事。2020年から教育業界に移り、Edtech企業LibryやQQEnglishで勤務し、2022年に株式会社NextTeachersを創業。生徒募集のSNSコンサルティングを30校以上に提供している他、若手教員向けの授業コーチング「先生相談室」、私立学校への転職を支援する「先生転職」のサービスを提供している。



