「聞こえた!」を引き出す。KWLチャートで背景知識を活性化し、リスニングの目的意識を高める授業実践

最終更新日:2026年2月13日

日々の授業づくりの中で、生徒の学習へのエンゲージメントをどのように高めたらよいか悩む先生も多いのではないでしょうか。とくにリスニング指導では、「聞き取れない」「何を意識して聞けばいいのかわからない」と感じる生徒に対し、主体的に学べる仕掛けをどうつくるかが課題になります。

神奈川県立平塚江南高等学校の辻祐哉先生は、こうした課題に対し、KWLチャートを活用した授業に取り組みました。本来はリーディングで用いられる思考ツールをリスニングに応用することで、生徒の理解やエンゲージメントに変化が生まれたといいます。辻先生が設計した授業の内容や、生徒が取り組む様子について伺いました。

生徒のエンゲージメント向上を目指し、学習を支えるツールとしてKWLチャートを活用

――育成したい生徒像を教えてください。

(辻)英語学習者として、自律的に学習できる生徒になってほしいと考えています。これは、さまざまな生徒層の学校で指導してきた経験を通じて感じたことです。

英語に苦手意識を持つ生徒が多い学校では、高校が最後の学習機会になる可能性もあります。そのため、まずは「英語は楽しい」と感じ、前向きに取り組めるよう意識してきました。

一方、大学進学者の多い学校では受験勉強に偏りがちですが、英語学習は受験で終わるものではありません。ただ課題をこなすだけではなく、どう学べば力が伸びるのかを自ら考えて目標を設定し、主体的に学び続ける力を育てたいという思いで指導してきました。

――今回活用されたKWLチャートとはどのようなものなのでしょうか。

(辻)KWLチャートは、アメリカの教育学者Donna Ogleが考案した、思考を深めるためのツールです。

・K(Know)=すでに知っていること
・W(Want to know)=知りたいこと・予測できること
・L(Learned)=学んだこと

の3つの枠を使い、学習前後での理解度や気づきの変化を可視化できる点が特徴です。

授業で活用すると、合うと感じる生徒もいれば合わない生徒もいますが、「合う・合わない」を自分で判断できること自体が大きな学びになります。そこから自分にはどのような学び方が向いているのかを考えるきっかけになるからです。

――KWLチャートの導入に至った背景について教えてください。

(辻)私が担当した学年では、3年間の学習計画を立てたうえで、1・2年生の授業を設計していました。1年生の生徒からは「英語を聞けるようになりたい」というニーズが強く、リスニング中心の授業に取り組んでいましたが、アンケートでは「どう学習すればよいかわからない」という声も多くありました。そこで、生徒のつまずきを踏まえて試した方法の1つがKWLチャートの活用です。

背景知識の活用により、リスニングの目的が明確に。専門的な内容も理解しやすくなる

――KWLは、もともとリーディングで使われるツールだそうですね。なぜリスニングに活用しようと思われたのですか?

(辻)1つは、背景知識(K)を活用することで、専門的な話題でも理解しやすくなることを生徒に知ってもらいたいと思ったからです。

もう1つは、リスニングの目的を明確にできることです。知りたいこと(W)を書き出しておくと、音声の中で答えを探しながら聞くようになり、内容に集中しやすくなります。

リスニングの内容を聞き取れれば達成感が生まれ、その結果、モチベーションやエンゲージメントの向上にもつながると思います。

――具体的な授業の流れを教えてください。

(辻)本校では、桐原書店の「Heartening II」を使用しています。今回は、2年生の最初の授業で、“What would happen to the Earth if there were no moon?”という単元の学習に取り入れました。授業では教科書に加えて、学年の担当者たちが作成した約20ページのオリジナル教材冊子を使用し、その内容に沿って学習を進めています。

まず、最初の1時間で、発音・英語で書かれた定義・意味・フレーズなどをまとめた単語表を使い、単元内の新出単語をすべて学習しました。

<単語表を使い、最初の授業で単元内のすべての新出単語を学習>

手順は以下の通りです。

1)ペアワークで、単語を「発音・意味がわかる」「定義を読めば推測できる」「まったくわからない」の3つに分類する
2)「まったくわからない」単語を1分で集中的に覚える
3)じゃんけんで出題者と回答者を決め、以下の3ラウンドを1セットとして1分間のミニテストを行う
 ・1ラウンド目 英語 → 日本語
 ・2ラウンド目 日本語 → 英語
 ・3ラウンド目 英語の定義 → 英語 または 日本語
4)一定数正解できたら1セット終了。

単語を先にまとめて学習しておくことで、その後の授業の帯活動で繰り返し復習でき、定着につながりやすくなります。

2時間目は文法学習と単語の復習、3時間目にKWLチャートに取り組みました。

<KWLチャートに取り組む前に文法を学習(Vision Quest 総合英語 Ultimate 2nd Edition(新興出版社啓林館)>

<KWLチャート>

K(Know)欄には月と地球に関する既存知識を、W(Want to know)欄にはレッスンタイトルの“What would happen to the Earth if there were no moon?”に対する答えを予想して書いてもらいます。

また、「聞くことと書くことのどちらに集中したらよいかわからない」という声があったため、ノートテイキングもタスクとして取り入れました。事前に、ノートの取り方や素早く情報を書き留めるためのポイントなどを説明した上で、パートごとに本文の音源を聞きながらキーワードを書き取り、ワークシートを完成させていく形です。

<ノートテイキングワークシート>

最後に全パートを通して聞き、L(Learned)欄に記入します。リスニングだけでは不安な生徒のために、リーディングの時間も設け、内容理解を補完しました。

――授業をデザインするうえで、意識したことや工夫したことはありますか。

(辻)先ほどもお伝えした通り、この取り組みは新年度の初回授業で実施しましたが、今回扱った単元は、実は教科書の最後に出てくるレッスン10です。最初に1年間の学習のゴールを示し、そこにたどり着くためにはどうすればよいかを考えてもらうというねらいがありました。

その後、レッスン1に戻ると、「こんなに簡単なの?」と話す生徒もいましたね(笑)。本来のKWLチャートの使い方と異なる点は、本文に入る前にW欄にレッスンタイトルに対する答えを予想して書いてもらったことです。

<W欄にはレッスンタイトルの答えを予想して書く>

なぜなら、予想と照らし合わせながら聞くことで、リスニングの目的が明確になるからです。また、K欄に記載する言語は、日本語でも英語でもよいと伝えました。

考える段階で英語表現まで求めてしまうと、内容が浅くなりやすいためです。日本語でしっかり思考を深め、余裕があれば英語にする形にした方が、思考と言語表現の両方をバランスよく伸ばせると思います。

学習に対する主体性が向上。フィードバックを工夫し、継続的な取り組みを目指す

――今回KWLチャートに取り組んだクラスは、習熟度別に分かれていたのでしょうか。

(辻)いいえ、習熟度別のクラス編成はしていません。そのため、英語が得意な生徒もいれば、苦手意識のある生徒もいました。

――生徒さんたちはどのように取り組んでいましたか。

(辻)単語学習のペアワークでは、あえて難しい単語を出し合ったり、苦手な生徒にはヒントを出してサポートしたりと、協力しながら学ぶ姿が見られました。「毎回同じ単語を聞かれるから、覚えちゃいました」と話す生徒もいて、定着という点でも効果があったと思います。

じゃんけんで出題側と回答側を分けたこともあり、生徒のモチベーションはじゃんけんに勝つことでしたが(笑)、負けた生徒も「絶対に正解するぞ」という気持ちでがんばっていました。最初に活動の意図を伝えていたため、生徒たちも納得感を持って取り組んでいたと思います。また、別の単元でも、レッスンの目的や内容を予測しながら学習に取り組む姿が見られました。

<最初の授業で学習のゴールを示し、達成するためにどうすればよいかを考えさせる>

今回の取り組みを通して、やはり、生徒たちは、本来は素晴らしい力を持っているにもかかわらず、どう学べばいいのかわからないことが多いのではないかと改めて感じていました。だからこそ、ノートテイキングやKWLチャートのような手法を取り入れ、生徒がさまざまな学び方を試せる機会をつくることが大切だと思います。

――今後に向けて、課題に感じている点はありますか。

(辻)テスト結果や模試の成績に大きな変化は見られず、継続して取り組むことの重要性を感じました。ただ、さまざまな手法を一度に詰め込みすぎると、逆効果になる可能性もあります。どの手法を、どのタイミングで取り入れたら効果的なのか、試行錯誤しているところです。

また、指導者側の課題もあります。今回の導入は、学年の担当教員で話し合って決めましたが、私たちがまだ知らない、より効果的な手法があるかもしれません。そういう意味では、指導法について学んでいく必要があると感じています。

さらに、大学受験も意識すると、探究的な学びと知識ベースの学習のバランスについても考えていかなければならないと思います。

――今後の展望を教えてください。

(辻)これまでの取り組みを通して、生徒が主体的に学ぼうとする姿勢が見られるようになり、自律的な学習者を育てるという目標に手応えを感じています。今後は、フィードバックの方法についても学び、生徒のモチベーションやエンゲージメントをどのように維持し、向上させていくかを探っていきたいですね。

声かけやコメントの仕方やタイミングなど、さまざまな研究や他分野の知見も参考にしながら、英語教育に生かしていければと思っています。

 

取材・編集:小林慧子/構成・記事作成:白根理恵

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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