「語学力アップ」だけが海外研修の価値ではない。「多様な体験」を通して生徒の生きる力を引き出す!
最終更新日:2026年6月22日
キーワード: 多様な体験価値、内容特化型プログラム、人とつながるツール
留学エージェントを使えば、魅力的な海外プログラムを個人でも手配できる時代。選択肢が多くある中で、「学校としてどのような価値を提供できるか」と頭を抱える担当の先生も多いのではないでしょうか。
カリタス女子中学高等学校でグローバル教育プログラムを担当する島直子先生も、現場での実践を積み重ねてきた先生の一人です。島先生は、学校の海外研修プログラムとして、従来の「語学研修」を継続しつつ、語学力の向上だけを目的としない「環境学習」などを軸とした新たなプログラムの開発を行っています。
そこにあるのは、「英語そのものは国内や個人手配でも学べる時代。学校教育として海外に行くなら、異なる背景を持つ人がつながり、さまざまな背景を持った人がいることを理解した上で、自分で考えて行動する力を育てることこそが大切」という信念でした。
「語学力」だけを追い求めるのではなく、視点を広げ、「日本とは異なる環境の中で、自分の考え方を足元から捉え直すような経験」をしてほしいという、独自のプログラム設計と現場のリアルな思いに迫ります。
現場の悩み。個人手配もできる時代の「学校研修」の難しさ
――海外研修や国際交流プログラムの企画・運営において、先生が現場で感じる難しさや課題はありますか。
(島)海外研修というと、「英語圏での語学研修」というイメージを持つ生徒や保護者の方が一般的だと感じています。ただ、英語圏以外にも、それぞれの地域ならではの特色や課題に触れることができる、多様で豊かな学びの価値があると考えています。
それに加え、今はさまざまな個人手配のプログラムが充実しています。保護者向けのアンケートのニーズから、日々、試行錯誤しながら、プログラムを調整しています。
――個人手配のプログラムという強力な選択肢がある中で、学校としてどのような工夫が必要だとお考えですか。
(島)学びを深める上で通常授業との連携は一つの方法です。ただ、海外研修は希望者のみが参加するため、全員が対象となる英語授業と直接連携させることは難しいのが現実です。
もちろん、本校のルーツであるカナダへの研修など、伝統的な語学研修は現在も大切に継続しています。ただ、それとは別に、研修を語学習得の目的から切り離して考えるアプローチも必要だと考えています。今はオンラインで国内でも外国語が十分に学べる時代だからです。
そのため、短期プログラムの場合、今後は語学を目的とした研修だけでなく、「現地で何を学ぶのか」という内容特化型を並行して用意していく学校が増えていく可能性があります。そうした場合、テーマに応じた教科と連携していくことも可能になると考えています。
語学力アップだけを追わない。オーストラリア環境学習プログラムに見る「新たな選択肢」
――そうした多様な選択肢をつくる中で、2025年度から新設されたオーストラリア・ケアンズエリアでの研修は、まさに「語学」だけではなく「環境学習」が軸になっていますね。
(島)この研修は、環境学習を軸にした内容特化型のプログラムの一例です。海外に行くのであれば、語学力向上に加えて「現地でしかできない学び」を用意したいという思いから、このプログラムを企画しました。
現地でのコミュニケーションは英語ですが、目的はあくまで、日本ではできない経験をすることです。ファームステイを体験したり、ケアンズの圧倒的な自然や世界遺産を訪れたりする中で、自身の生き方を改めて考えたり、環境問題をより「自分事」として捉えたりする体験を重視しています。
――ただ海外に行くだけで終わらせないために、多忙な中でどのような事前・事後研修を行っているのでしょうか。
(島)研修を一過性のものにしないための意味づけは必要だと考えています。出発の半年前から、事前研修として月に1回、グループワークを行っています。生徒たちが取り組んでいるのは、「リサーチジャーナル」の作成です。マインドマップを使って現地で何を見たいかを具体的にイメージしていきます。
ただ、それをどのように深めていくかがポイントですが、時間の制限や生徒一人一人への対応の難しさもあります。事後研修では、ポスターにまとめたり、希望者が全校集会で報告したりする機会も設けています。完璧ではなくても、こうしたステップを踏むことが重要だと感じています。

<一過性にしないためには事前・事後の研修が大事>※イメージ写真です
現地で英語を実際に使い、「案外通じる」と感じる成功体験を積むことも重要です。しかし、それ以上に大きいのは、日本国内では得られにくい、自分が少数派の立場に立つような経験ができる点にあります。これこそが、実際に海外へ行かなければ味わえない本質的な学びだと考えています。
――「少数派の立場に立つような経験」とは、具体的にどのようなものでしょうか。
(島)日本で生活していると、私たちは自分が常識だと思っていることに疑問をもつことはあまりないですが、海外に出て、訪問者の立場を経験すると、そこから初めて見えてくる世界があります。
現地では、必ずしも日本人が期待するような「受け入れられている」と感じられる対応をしてもらえるとは限りません。そして、「受け入れてもらえないことがある」という感覚は、現地に行かなければ気づけないものです。そうした経験を通して得られる学びは、生徒にとって非常に大きなものになると考えています。

<海外だからこそ経験できることもある>※イメージ写真です
流暢ではなくても、人とつながることができる!原点となった私のアメリカでのインターン経験
――そうしたお考えの背景にある、島先生ご自身の原点について教えてください。
(島)大学卒業後、アメリカのリゾート地で働いていた経験があります。そこでは、職場の同僚や寮のルームメイトに移民や難民の方々も多く、英語のネイティブスピーカーはむしろ少数派でした。多様な国籍の人々が、お互いに外国語として英語を使い、コミュニケーションを取りながら生活していました。
その中で、ネイティブのように話すことよりも、流暢ではなくても「英語を使って人とつながる」ことの方に英語学習の価値があるのだと感じるようになりました。今思えば、この経験が「国際共通語としての英語の魅力」を伝えたいという、現在の教育観の基盤になっていると思います。
受験・部活との両立。生徒の成長段階に応じたプログラム設計
――新たなプログラムを作る上で、対象学年の設定なども悩ましいポイントかと思います。
(島)おっしゃる通りです。本校の研修は、中学3年生や高校1年生が中心となって参加しています。本校は中高一貫校という特性もあり、生徒の進路意識や学校生活の状況に応じて、参加しやすい時期を見極めることが大切だと感じています。
――進学校であればあるほど、そこは現場の先生方が直面するジレンマですよね。
(島)そうですね。受験準備が本格化する前の時期に行くことで、その後の進路を考える際のヒントになることも多く、適切なタイミングでの経験になると感じています。無理に参加を促すのではなく、それぞれのタイミングに合った学びの機会を用意することが重要だと考えています。
――最後に、今後の展望について教えてください。
(島)英語を母国語としない人たちと英語で交流する機会を増やしていきたいと思っています。本校では在学中に全員が何らかの海外研修に参加することを推奨しており、英語圏に限らず、世界中のさまざまな国への研修を増やしながら、同時に国内でも多様な国から来た方々と交流できる機会を広げていきたいと考えています。
語学を「話せるようになること」も大切にしながら、「人とつながるツール」として活用し、世界との接点を広げていく経験が、生徒たちの視野を少しでも広げることにつながればうれしいです。
取材・構成:小林慧子/記事作成:白根理恵



