地方から国内トップ、そして世界へ──公立高校の英会話部が見せた可能性
最終更新日:2026年6月1日
地方の公立高校から、全国トップレベルの進学校と並び、世界大会へと羽ばたく生徒たち。徳島県立城ノ内中等教育学校の英会話部(English Debating Society)は、創部わずか数年で目覚ましい成果を上げています。しかし、その道のりは決して平坦なものではなく、指導する教員自身の試行錯誤と葛藤の連続でした。
今回は、同校で英語科教諭を務め、英会話部顧問として生徒たちを牽引する和泉太輔先生に、ディベートを通じた英語教育の可能性、教員としての役割、そして「地方の公立高校でもできる」という熱いメッセージを伺いました。
手探りの創部から世界大会へ──悔しい経験をバネに大きく成長
――英会話部におけるディベート活動の概要と、これまでの輝かしい実績について教えてください。
(和泉)本校の英会話部は現在14名(4年生6名、5年生5名、6年生3名)で活動しています。2019年頃に草の根的に活動を始め、2020年に正式に英会話部としてスタートしました。
「PDA高校生即興型英語ディベート全国大会」において、2020年度と2023年度に全国4位となった実績があります。さらに2025年度には見事全国3位に入り、結成7年目にして初めて世界大会への出場を果たし、ベスト8という結果を残しました。

<2025年PDA高校生即興型英語ディベート全国大会3位獲得>
――創部当初は、どのように生徒を集め、モチベーションを高めていったのでしょうか。
(和泉)当初は私自身も、ディベートの知識がほとんどない状態でした。4月に10人ほどの生徒を集め、手探りの状態で活動をスタートさせたのが始まりです。
当時は医学部志望の生徒が多く、地域枠の推薦などでは集団討論が課されることもあります。「医学部では討論があるから、ディベートを学んだ方がいい」と、大学受験に役立つという一点を前面に出して、生徒たちを引き込みました。
――初めは受験目的だった生徒たちが、どのように全国や世界を意識するようになったのですか。
(和泉)やはり外の世界を見せたことが大きかったです。最初は関西のトップ層である東大寺学園高等学校や灘高等学校などの生徒が参加する大会に連れて行きました。すると、自信満々で臨んだ生徒たちが、たたきのめされるように負けて帰ってきたのです。猛烈な悔しさを感じたのでしょうね。
そこから彼らの心に火がつきました。2023年に全国大会で3位を取ったメンバーも、初めて東京大学での全国大会に出場した際は下から2番目でした。悔しい経験だったと思いますが、東大という舞台に立てたこと自体が彼らにとって良い刺激になり、大きく成長するきっかけになったのだと思います。
教員はファシリテーター。学年混合で活動し、トップ層を常に意識させる
――日々の活動の中で、和泉先生はどのような役割を担い、どんな練習を行っているのでしょうか。
(和泉)私の役割は、生徒とともにディベートを学びながらフィードバックを行う「ファシリテーター」や「少し先を行く先輩」のような存在だと思っています。
練習は月、火、木の放課後に行い、基本は紅白戦形式の「ラウンド練習」です。論題(テーマ)を含む活動内容は、基本的に私が決めています。練習後の夜のオンライン自主練などはルールを決めながら、生徒の自主性に任せています。ただ、土台や進め方がわからないと主体的に動けないため、必要な材料は私から提示するよう意識しています。
――フィードバックや指導を行ううえで、特にこだわっている点はありますか?
(和泉)プレパレーション(準備)やフィードバックは、基本的に日本語で行っています。生徒に「こういう議論ができたよね」「この場面は間違っていたよね」と、議論の良しあしや改善点を正確に伝えるには、母語でなければ難しいからです。
また、「どこに焦点を当て、何を学ぶべきか」を具体的に説明することも重要です。たとえば世界大会後には、「君たちはトップ校とここが違う。だからこういう表現をしなさい」と、私が思ったことをすべて伝えます。生徒は自力で走っているように見えても、背中を押してあげなければ正しい方向に進みにくいのではないかと考えています。

<英語部の練習>
――異なる学年の生徒たちが一緒に活動する中で、レベルの差などはどのように埋めているのでしょうか。
(和泉)日本の教科書や参考書等は学年ごとにレベル分けされていますが、私はそれが生徒の学びを制限していると感じています。そのため、「この学年はここまで」といった制限は設けていません。練習も学年混合で行っています。たとえば、5年生がやっていることを4年生が見て、先輩の思考に無理にでも合わせる。いわゆる「Pushed output」の考え方です。
また、目指すべきゴールとして、常に上位入賞をするトップ層の生徒たちの姿を常にイメージさせています(聖光学院高等学校、 渋谷教育学園幕張高等学校、 渋谷教育学園渋谷中学高等学校、筑波大学附属駒場高等学校など)。彼らと同じレベルに立たなければ、東京大学や世界は見えてこないからです。
ディベートは英語学習の延長。適切なモデル提示で成長を促す
――そもそも、和泉先生ご自身がディベート指導に力を入れるようになったきっかけは何だったのでしょうか。
(和泉)理由は大きく2つあります。1つは徳島県の英語教育に貢献したいという思いです。もう1つは、英語の4技能5領域を伸ばすうえで、ディベートが最適だと感じたからです。
決定的なきっかけは、現在も日本のディベート普及の中心として活躍されている、聖光学院の河野周先生との出会いでした。私がイギリスのランカスター大学に在籍していた際に、共通の知人を介してつながりました。そして、さまざまな話をする中でディベートの重要性を確信し、徳島県に持ち帰って広めようと決意したのです。
――和泉先生は、ディベートを単なる部活動ではなく「授業の一環」として捉えていらっしゃると伺いました。
(和泉)そうですね。たとえば「ディベートの城ノ内」「ディベートの和泉」という形で、部活だけが独り歩きする状態にはしたくなかったのです。ディベートはあくまで授業のタスクの一つで、英語学習の延長線上にあるものだと、生徒にも伝えています。
私はイギリスでCELTA(英語教授法資格)を取得しており、CLIL(内容言語統合型学習)型の学習をさせながらディベートを取り入れています。学んだ知識を理解し、そこから思考を広げていくうえで、ディベートは非常に有効です。

<授業の中でディベートに取り組む様子>
――授業でディベートやスピーチを行う際、生徒の「発話」を引き出すために工夫されていることはありますか。
(和泉)スピーチ中は、生徒がたどたどしくても一切口を挟まず、メモを取りながら最後まで聞いています。これはCELTAのトレーニングで学んだことです。教員はつい途中で助けてしまいがちですが、最初はできないのが普通です。適切なモデルを示してあげれば、必ずできるようになります。
私は授業中、生徒が自ら発話するまである程度の時間待つことがあります。「できないことを楽しみ、次はできるようにしよう」「できなくても恥ずかしくない。できないから練習しているんだ」「わからないと言っていいんだよ」と伝え続けることで、生徒たちは安心して発話できるようになります。
――ディベートを通じて、生徒たちにどのような力を身につけてほしいとお考えですか。
(和泉)単に英語を話せるようになるだけでなく、「多角的に物事を見る力」や「批判的思考力」を養ってほしいです。参考文献やニュースを批判的に読む力は、大学というアカデミアの場で必ず求められます。
また、最近の大会では「エクイティ・ポリシー(公平性への配慮)」が重視され、ジェンダーや人種などに配慮した発言が厳格に求められます。さらに、ネイティブのような発音ではなくても、「Comprehensible(理解可能)な発音・発話」を心がけることも大切です。
ディベートは、こうした力を総合的に身につけられるものだと考えています。
地方の学校でもできる──大切なのは一歩踏み出して外を見ること
――今後、英会話部としての目標、そして和泉先生ご自身の教員としての目標をそれぞれ教えてください。
(和泉)英会話部としての第一の目標は、先日の世界大会であと一歩のところで負けてしまったコロンビアのチームや、また国内の強豪校に、「勝負どころの一戦で勝ち切る」ことです。そして、国内のトップ層の中にい続けること。さらに、徳島の他校も同じレベルに上がってきてくれることを期待しています。
教員としての目標は、現在研究している「CLILとディベート」をしっかり形にすることです。特に、日本の学校教育で不足しがちな「発音(音声)指導」を、内容理解や言語指導と統合した授業で実践できるようにしたいと考えています。自分の実践や研究を後進の育成につなげることが、私自身の目標です。
――最後に、日々現場で奮闘されている全国の英語教員の皆様へメッセージをお願いします。
(和泉)「城ノ内ができるなら、うちの学校でもできる」と思っていただきたいです。徳島県の公立高校という、いわゆる田舎の環境であっても、都会の進学校の生徒たちと同じ舞台に立つことは可能です。それを、本校の英会話部の生徒たちが証明してくれました。
池田高校野球部の蔦監督が「山あいの子どもたちに一度でいいから大海(甲子園)を見せてやりたかったんじゃ」とおっしゃったように、地方の生徒こそ、外の世界に出てみることが大切だと感じています。そして、強いチームには必ず理由があります。
ご自身の環境や生徒に対してネガティブな気持ちを持っている先生がいらっしゃったら、ディベートに限らず、少しでもコミュニカティブな活動へ「一歩踏み出す」きっかけにしていただけたらうれしいです。



