生徒主体の授業に切り替えたら、かえって教室が静まり返ってしまった――。あるいは、活動はにぎやかでも収拾がつかなくなった。一度はそんな壁にぶつかった経験のある先生も、いらっしゃるのではないでしょうか。
茨城県の鉾田第一高校で英語を教える山田拓也先生も、同じ壁を越えてきた一人です。たどり着いたのは、授業を「枠(補助輪)」で設計し、教科書と音声、そしてワークシート1枚があれば1レッスンが完結する形でした。1つ意識している時間配分は、「生徒主体に6割、解説に4割」。多忙な現場でも手放さずに続けられる、生徒主体の授業のつくりかたです。その工夫の根っこには、「優れた授業を、一人の先生の個人技で終わらせたくない」という想いがありました。
「教えない授業」を、自分の教室に翻訳する
山田先生が授業づくりの土台にしているのが、「教えない授業」で知られる山本崇雄先生(進徳女子高等学校 校長)の考え方です。
※編集部 注)「教えない授業」とは
教師が一方的に教えるのではなく、生徒自身が考え、判断し、行動する「自律した学習者」を育てることを目指す授業観。教師の役割は知識の伝達者ではなく、学びを支える「ファシリテーター」と位置づけられる(山本崇雄氏の提唱による)。
――先生が目指す「生徒主体の授業」とは、どのような授業でしょうか。
(山田)ひとことで言えば、生徒との「対話」を通して、生徒の「わかる」を「使える」に変えていく授業です。教科書を読んで理解できても、それを自分の言葉として英語で組み立て、発信するのは、また別の難しさがあります。その壁を越えて、自分の考えを自分の言葉で発信できる――そういう自律した学習者を育てたいと思っています。
きっかけになったのは、山本崇雄先生の「教えない授業」でした。ただ、理論や手法をそのまま持ち込んでも、目の前の生徒にはうまくはまりません。だからこそ、自分の教室や生徒に合わせて、削ったり足したりしながら作り直してきました。
――具体的には、どのように作り直したのでしょうか。
(山田)たとえば、最初はストーリーマッピング(読んだ内容を図や絵に表す活動)も取り入れていました。でも、うまくはまる生徒もいれば、難しく感じる生徒もいて、全員には機能しにくかった。それで、いったん外しました。自分で問いを立てさせる活動も、生徒の状況に左右されやすかったので、教師側から問いを提示するなど、やり方を模索しています。代わりに軸として足したのが、リテリングでした。理論の形を守ることより、目の前の生徒が動けるかどうかを優先して、足し引きしてきた感覚です。
生徒が黙る・動かない――「生徒主体」に変えた最初の壁
――生徒主体の授業に切り替えたとき、最初からうまくいったのでしょうか。
(山田) いいえ、最初は失敗の連続でした。生徒が主体になる授業に変えて、まず躓いたのは「生徒が喋らない」「うまく動かない」という壁です。やってみて改めてわかったのは、生徒に委ねるほど、むしろ教師側のコントロールが必要になるということでした。
だんだん慣れてきて気づいたのは、自分の役割はいわば「司令官」だということです。指導力というより、どう指示し、どう場をコントロールするか。そこが最近ようやくできるようになってきて、生徒が自分の言葉で話す場面を作れるようになってきました。コントロールといっても難しいことではなく、たとえば生徒との「対話」を通して、沈黙が生まれたときの「打ち手」をいくつも持っておく、といった具体的な工夫の積み重ねです。
――その「打ち手」とは、具体的にどういうものでしょうか。
(山田) いちばんの土台は、「沈黙を埋めるのは先生だけではない」と考えることです。たとえば問いかけても誰も答えない場面では、まずペアで考えさせる。ペアの中で説明してもらう。選択肢を2つに絞って「どちらか手を挙げて」と促す。打ち手はいくつも用意しておきます。生徒同士で沈黙を破れるようにしておけば、こちらが焦って一人で埋める必要はなくなります。

――問いそのものが浅くなってしまうことはありませんか。
(山田) そこは工夫のしどころです。自分で問いを立てる活動を行うときには、生徒が作った問いをPadlet(パドレット)に入力させて、全員が見られるようにしたことがあります。ほかの生徒の問いが目に入ると視野が広がって、問いが浅いまま終わりにくくなる。AIにオープンな問いを考えさせて、たたき台にしたこともあります。
――振り返り(リフレクション)も取り入れているそうですね。
(山田) はい。ただ、振り返りはその場ではなく、次の時間にフォームでさせることが多いです。活動の直後は気持ちが高ぶっていて、冷静に振り返りにくい。少し時間を置いてから、相互評価の結果を見返して「次はこうしよう」と考えさせたいからです。評価の物差しになるルーブリック(評価基準表)も、自己流ではなく先行研究をもとに作り直しました。
「わかる」を「使える」に変える全6ステップ=「枠」
山田先生が「枠」と呼ぶのが、ワークシート1枚に落とし込んだ全6ステップの流れです。インプットからアウトプットまでを一本道で設計し、1つの単元の中で、その「足場」を一段ずつ上らせていく構造になっています。
――その「枠」は、具体的にはどんな流れなのでしょうか。
(山田) 大きく3つのまとまりがあります。まず【Ⅰ】Dictogloss(ディクトグロス。聞き取った英文を、書き取ったキーワードから再構成する活動)で、聞いた英文を自分で再生して課題に気づく。次に【Ⅱ】再リスニング、【Ⅲ】True/False形式の読解、【Ⅳ】私の解説と音読・Sight translation(英文を語順のまま理解していく練習)で、正確な理解と定着を図る。最後に【Ⅴ】リテリング(読んだ内容を自分の言葉で語り直す活動)、【Ⅵ】要約と振り返りで発信して締めくくる。この6ステップが「足場」です。

ポイントは、この枠の中に「活動」と「解説の時間」を「生徒主体6:解説4」の割合で入れていることです。【Ⅰ】【Ⅱ】【Ⅲ】【Ⅴ】【Ⅵ】は生徒が手や口を動かす対話の時間、【Ⅳ】はこちらが解説する時間。生徒主体といっても、ただ自由にやらせるのではなく、枠と割合を決めておくことで、授業の流れが崩れにくくなります(割合は7:3になるときもあります)。
まず1つなら、Dictoglossから――段階的な負荷と「気づき」
――正直、6つすべてを一度に取り入れるのは大変そうです。まず1つだけなら、何から始めるのがよいでしょうか。
(山田) Dictoglossだけでいいと思います。教科書と音声、ワークシート1枚があれば成り立ちますし、ここから生徒の動きが変わります。リテリングは本文を自分の文で再生するので、少しハードルが高くなるため、まずはDictoglossから始めるのがおすすめです。
――そのDictoglossは、どう進めるのでしょうか。
(山田) 段階的に負荷をかけていくのがコツです。まずはメモを取らず、概要をつかむために聞く。2、3回目でメモを取りながら聞きます。次に、そのメモを3〜4人のグループで共有し、キーワードをもとに自分の力で英文を再生する。最後に教科書と見比べて、「何を間違えたのか、文法か、内容か」まで確認します。本文をPart1〜4に分け、再生できた語数や文数を意識させると、精度が上がっていきます(リフレクションでも入力させます)。

●オリジナルワークシート
https://www.manabinoba.com/materials/024861.html
【ワークシート図版スロット:▲Dictoglossのワークシート例】[/caption]
――なぜ、そこまでDictoglossを推すのでしょうか。
(山田) いちばんの理由は、「気づき」を最大化できるからです。いきなり解説を与えないことで、「知りたい」という気持ちが高まりやすくなります。グループで再生し合うので、生徒同士で教え合う空間もできる。そして「何を間違えたのか」という問いが、生徒自身のメタ認知を促します。この直後に私が解説すると、生徒の集中の度合いが変わってきたと感じています。受け身で聞くリスニングではなく、聞いた内容を使って文を組み立てる、能動的なリスニング活動になるのです。
――対話や活動を増やすと、「学力は大丈夫か」という声も気になります。
(山田) だからこそ、解説の時間はしっかり取ります。「生徒主体6:解説4」の、4割の部分です。受験を見据えれば、特に1年生のうちはインプットが大事ですから、本文の解説では必要ない文法や、受験レベルの文法にまで踏み込んで説明します。説明とはいっても、一方的にならないように生徒との「対話」を心がけます。その中で、生徒同士の「対話」も取り入れます。土台を支えているからこそ、生徒も安心して主体的な活動に取り組めます。
また、最近はAIの発達もあるので、NotebookLMやClaude、Geminiを積極的に活用して、生徒への解説および生徒との「対話」を円滑に進めるための手だてを講じています。
活動ばかりだと「ちゃんと教えてほしい」という声も出るかもしれませんが、あとで授業についてのリフレクションを実施すると、「教わっている」と感じてくれているようです。私が見てきた範囲では、この進め方が学力低下(模試の成績が下がったなど)の要因になったとは感じませんでした。むしろ伸びていった生徒も少なくなかった印象です。
なぜ、そこまで生徒主体にこだわるのか
――その実践の根っこにある想いを聞かせてください。
(山田) 原点は、大学3年の教育実習です。指導してくださった先生がDictoglossを実践していて、自分が受けてきた中学・高校の授業とはまるで違う、こんなに生徒が主体の授業があるのかと衝撃を受けました。そこで「自分も変えなきゃいけない」と思ったんです。あの出会いが、今の実践の出発点になっています。
もう1つ、こだわっているのが「どの先生でも、どの学校でも使えるワークシート」を作ることです。何様だという話かもしれませんが(笑)、優れた授業が一人の先生の個人技で終わってしまうのは、もったいないと感じています。せっかく良い実践があっても、組織として残っていきにくい。私自身は前任校で、自分のやり方を提案して、ささやかでも仕組みとして残してから異動しました。教科書1枚のワークシートにこだわるのも、誰かが同じように再現できる形にしたいからです。そして、多くの生徒に主体的に英語を学んでほしいと心から思います。
「教えない授業」のような理論も、そのまま持ち込むのではなく、目の前の生徒に合わせて削ったり足したりしながら、自分の現場に根づく形に作り直していく。その積み重ねをしつつ、生徒との「対話」も忘れずに、これからも続けていきたいと思っています。
取材・編集・記事作成:小林慧子





