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受験指導の中で「知を追求する頭」を育てる 〜「勉強嫌い」だった私が見つけた授業〜

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受験を控えた進学校では、英語の授業も文法と演習で手いっぱいになりがちです。「本当は生徒の『知りたい』をもっと引き出したい。でも、点数に直結しないことに時間は割けない」。そう感じている先生は少なくないのではないでしょうか。

埼玉県立所沢北高等学校の青野 翼先生は、授業そのものを「4技能の協調学習」でデザインしています。英語を「他教科とつながる場」にするうちに、英語以外の授業中にも「これ、英語で何て言うんだろう」と自分から調べ始める生徒が出てきたと言います。青野先生が目指すのは、英語を通じて生徒の中に「知を追求する頭」を育てること。その授業の作り方と、「勉強嫌い」だった青野先生自身の物語を伺いました。

「これ英語で何て言う?」が増える協調学習の作り方

所沢北高校はスーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定の進学校で、授業は1コマ65分です。青野先生は、SSHの教科横断型「コラボ授業」を見て「これは英語でも使えそうだ」と考え、英語の授業に「協調学習」を取り入れてきました。青野先生は、点数を取るためだけでなく、生徒が自分から「知りたい」を追いかけ、知識と知識がつながって学びが深まっていくことを「知の追求」と呼びます

注)協調学習(知識構成型ジグソー法)とは 東京大学CoREF(三宅なほみ氏ら)が開発した授業手法。資料を分担して読み込み、学んだ内容を持ち寄って説明し合い、全体で発表し直す過程で、一人ひとりが自分の言葉で説明・修正しながら理解を深める。埼玉県が県として推進している。

――「4技能の協調学習」とは、どのような授業なのでしょうか。

(青野)わかりやすいのは、色の話でしょうか。使っている教科書(『ELEMENT English Communication Ⅱ』/啓林館)の2年生のレッスンに、ピンクと青の話が出てきます。現在は、ピンクを女性、青を男性と結びつけて捉える見方もありますが、歴史をさかのぼると、もともとは逆だったという内容です。そこで「世界史から見てみようか」と、英語で書かれた世界史の教科書(『英文 詳説世界史 WORLD HISTORY for High School』/山川出版社)から該当ページを持ってきて、生徒に読ませました。そのクラスは日本史の選択者だったので、世界史の背景を英語で知る時間にもなりました。英語を、他の教科の知識を持ち寄って使う場にする。それが私の考える協調学習です。

――他教科の内容まで扱うとなると、準備が大変ではありませんか。

(青野)はい、そこは正直、いちばん時間がかかるところです。以前は他教科の先生と時間を合わせて一緒に準備していたのですが、お互い忙しく、日程を合わせるだけでも時間がかかってしまいました。そこで今は、他教科の内容も私がいったん調べてベースを作り、その先生には「事実関係はこれで合っていますか」と確認していただく形にしています。そのほうが、先生方にかける負担も少なくてすむと感じています。

――授業は、具体的にどう進めるのでしょうか。

(青野)最近は、自分の中で完結してしまい、考えを言葉にして相手に伝える段階でつまずく生徒もいると感じています。頭の中では分かったつもりでも、書いてみると独りよがりな文章になり、相手に伝わりません。これは英語に限らず言われていることだと思います。だからこそ私は、まずリーディングとライティングから入り、「筆者はどんな気持ちで書いたのか」「これは読む相手に伝わるか」を考えることを大事にしているのです

たとえばライティングでは、生徒が書いた英文を「一度、日本語に訳してみて」と返します。すると「あ、これでは伝わらないな」と自分で気づきます。日本語で意味が通らないものは、英語でも通じませんから。さらに、英語教授法(TESOL)でも紹介されている、4人グループで前の人の文を見ながら続きを書いてつなぎ、最後の人が音読する「グループライティング」も取り入れています。4人で文脈を考えるため、一人では気づけない「伝わらなさ」にも、仲間との作業を通じて気づけるのです。こうして相手を意識できるようになってから、スピーキングやリスニングに進みます。

――40人のクラスでグループワークとなると、収拾がつかなくならないのでしょうか。

(青野)グループワークを回すコツは、各グループに1人、私の言ったことを自分の言葉で噛み砕いて仲間に伝えられる「リーダー役」がいることだと思っています。その生徒が1人いるだけで、グループは驚くほど落ち着いて動きます。私の場合は、席の近い生徒同士で組ませることが多いです。担任の先生が席の配置を工夫してくれていて、各エリアにそうした生徒がだいたい1人はいる状態になっているからです。もしこれから配置を作るなら、まずは各グループにリーダー役を1人置くことを意識するだけでも、ずいぶん変わると思います。

――手応えを感じた場面はありますか。

(青野)英作文で、私の知らない単語を書いてくる生徒がいました。「どこで覚えたの?」と聞くと、「他の教科の授業中に『これ英語で何て言うんだろう』と思って調べて、使ってみました」と言うのです。拾ってくるのは単語だけではありません。税金をテーマにした英作文では、社会科などで学んだ知識をそのまま論拠に使って、説得力のある文章を書き上げた生徒もいました。英語の時間の外でも、英語に「アンテナ」を張れるようになってきた。これは私がいちばんやりたかったことなので、素直に嬉しかったです。

目標を決める「ミーティング」から始める指導

――とはいえ、御校は進学校ですよね。受験との兼ね合いは、どう考えていますか。

(青野)もちろん、受験の力もしっかりつけたいと思っています。私が2年生を担当するのは今年度からなのですが、受け持ってみて、基礎的な語彙の定着に課題があると気づきました。そこで、生徒とミーティングを持ちました。「この模試までに、分からない単語をゼロにしよう」と一緒に目標を決めて、単語と文法の小テストを、毎回、授業のはじめに5〜10分ほど行っています。これも「やらされる」のではなく、生徒の方から「小テスト、お願いします」と言ってくれて始まったものです。

この進め方は、運動部の部活動に近いかもしれません。目標を生徒とコーチである私とで確認し合い、そこへ向けて必要な練習メニューを生徒自身が考える。私は、その足場をかけたり、必要な情報や道具を渡したりする役です。

単語帳は、市販のものだと合わない生徒もいます。また費用もかけたくなかったので、例文まで含めてPDFで23ページ分を自分で作りました。さらにALTに音声も入れてもらい、配信しています。それを「これを続ければ力がつくよ」と渡し、生徒が取り組んだところ、英検準1級には、当初「20〜30人受かれば」と思っていた人数を上回る生徒が合格しました。

――「知を追求する頭」を育てることと、受験に応えること。両立は難しくないですか。

(青野)全体と個別で、役割を分けています。クラス全体では、「知りたい」を追いかける姿勢と、共通の基礎を大事にします。一方で受験は、生徒によって習熟度も、つまずいているポイントも違うので、一人ひとりに合わせて見るようにしています

具体的には、小テストの末尾に自由記述欄を設けて、「ここに相談を書いてもいいよ」と伝えています。話すのが苦手な生徒も、書くことでなら伝えてくれるのです。書いてきてくれた生徒には、全員にコメントを返します。必要であれば、担任の先生に相談したうえで、個別に面談もします。英作文の添削も、iPadで書いた内容を共有できるMetaMoJi(メタモジ)で、随時受け付けています。

――目標設定のミーティングに、毎回の小テスト、自由記述へのコメント、単語帳の自作、個別の面談。こうして伺うと、実践のハードルは少し高そうにも感じます。

(青野) 自分がいちばん大切にしているのは、最初の「ミーティング」です。生徒が「こうなりたい」という目標を持って、それに合わせて私たち教員も一緒に努力する。その足並みさえそろえてスタートできれば、あとはどんな授業をやっても、うまくいくと考えています。

――その目標は、どのように設定していくのでしょうか。

(青野) まずは、こちらから考えるための材料を出します。2年生へ進級した春に、全員がマークシート形式の宿題確認テストを受けるのですが、そのデータをもとに、正答率が低かったところをクラスに共有します。「やはり、ここの基礎が抜けている」と示すと、生徒も「そこを固めれば伸びるのか」と、自分ごととして受け止めてくれるのです。こちらが決めるのではなく、生徒が「たしかに」と思える課題を、一緒に選ぶ。そのうえで、一人ひとりの行きたい進路に向けて、まずは文法と単語から、と道筋を決めていきます。

――そうすると、毎回の小テストも……。

(青野) そうです。小テストは、そのミーティングの副産物のようなものです。目標が決まれば「じゃあ、そこに向けて毎回やろう」と、自然につながる。生徒の方から「小テスト、お願いします」と声が出てきたのも、同じ理由だと思います。

――そうした一人ひとりの状況を、カルテのように記録していらっしゃるのですよね。今は、何クラスぐらい受け持っているのですか。

(青野) 今は5クラス、200人ほどを受け持っています。ただ、最初から200人分のカルテを過去にさかのぼって作ろうとすると、さすがにきついと思います。これから始める先生なら、今週の小テストから始めれば十分です。外部模試の結果は、各社がデータとして出力できるので、それをつなぎ合わせれば「この生徒は、ここが苦手」というのが見えてきます。学内の小テストは、授業のあとの空き時間に、毎日少しずつ入力してためていきます。私も、やってみたら意外とできた、というのが正直なところで、毎日続けていけば、そんなに大変ではありません。小テストについても、私自身は紙にこだわっているのですが、Formsのようなツールを使うのも一つの方法だと思います。

――データがたまると、何が見えてくるのでしょう。

(青野) 生徒一人ひとりの「今の状態」が見えるのはもちろんですが、実は、自分の授業がどれだけ効いたかという、教員自身へのフィードバックにもなるのです。伸ばせなかったときは、私はよく生徒に謝ります。「ごめん、今回は上げられなかった」と。成績を自分だけの責任だと抱え込んでしまう生徒が多いのですが、それは違います。お互いに、謝るべきところは謝って、少しずつ良くしていければ、と思っています。

なぜ200人を見取るのか。「勉強嫌い」だった原点

――先生の授業は、他の教科とつなぐのが特徴です。その発想は、どこから来たのでしょうか。

(青野)最初から、うまくできていたわけではないのです。初任の1、2年目は、正直、授業が得意ではありませんでした。はじめは英語の先生の授業ばかり見て回っていたのですが、あるとき国語など他の教科の授業を見に行ってみたら、「このやり方は英語にも取り入れられる」と気づいて。そこから少しずつ、自分の形ができてきました。

――一人ひとりをそこまで見ようとするのは、なぜですか。

(青野)もともと私は、勉強が本当に嫌いだったのです。でも高校のときに、教科を覚えるというより「自分の頭を鍛える」感覚に変わって。知りたいことを、制限せずにとことん追いかける。その素地さえ育っていれば、大学でも、受験勉強でさえも、楽しみながらやれるはずだと思っています。「死ぬまで勉強していたい」——それが、私が教員になった理由です。は今も、生徒が使う学習アプリ「スタディプラス」に、自分の勉強の記録を投稿しています。そして「先生も勉強しているよ」と、背中を見せるようにしています。

私が高校生のころ、母校である城北埼玉高等学校の恩師、平塚 崇先生が、休み時間に一人ひとりを見て、「今はこういう状態だから、ここを勉強するといい」と声をかけてくれました。その姿がとてもかっこよく見えて、自分も追いつきたいと思ってきました。生徒一人ひとりのカルテを作って見取ることは、今の私にとって、生きがいそのものです。

 

取材・構成・記事作成:小林 慧子

この記事に登場する先生

青野 翼先生

青野 翼先生

所沢北高等学校

埼玉県立所沢北高等学校 英語科教諭。教務副主任、サッカー部顧問を務める。大学では英単語を専門に学び、在学中に2度渡米。うち1度は英語教授法(TESOL)を修めた。初任から一貫して同校に勤務し、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)の教科横… プロフィールを見る →

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