【シリーズ 国際教育 × 探究学習】V字回復の伝統校がつくる、体験➔気付き➔アウトプットの好循環!

最終更新日:2024年3月12日

「探究学習」――― 生徒の主体性や思考力、判断力、表現力の育成を目的として、小学校では2020年、中学校では21年、そして高校では22年より学習指導要領として実施が開始されました。体験・活動で得た疑問から課題を設定し、必要な情報を集め、分析し、アウトプットする教科にとらわれない授業の実施など、これまでの教育法とは大きく異なる取り組みです。

解のない課題の解決に挑戦し続ける底力を培う探究学習。実際の教育現場でどのように実施すればいいのか、多くの学校や先生方が試行錯誤しているようです。そこで国際教育ナビでは、「シリーズ 国際教育 × 探究学習」と題し、積極的に国際教育と探究学習のコラボレーションを実現している学校を取材しました!

今回は東京・清澄白河で114年の歴史を誇る中村中学校・高等学校の取り組みを紹介します。清澄庭園の隣りに位置する同校は、富岡八幡宮や深川江戸資料館など江戸文化を身近に感じつつ、カフェの聖地として注目を集めるエリアにあります。古くからキャリア教育や国際教育を打ち出し、生徒がのびのびと個性を伸ばせる教育に力を入れてきました。近年、受験者数も増加するなど、にわかに注目を集めています。カリキュラムの随所にちりばめられた「体験➔気付き➔アウトプット」の仕組みを、国際教育部長の岡崎葵先生にうかがいました。

たくさんの人に届けたい!生徒の思いが形になる “NAKAMURA TIMES”

―――学習の柱を「認知型学力」と「非認知型智力」に据えられています。教育方針をおうかがいできますか?

(岡崎)教育理念としては、創立以来、「機に応じて活動できる女性」が目標です。最近では“Competency”と言われますが、状況に合わせて自分で判断・行動し、人生を豊かにできる女性の育成を目指しています。

―――「非認知型智力」に挙げられている主体性や行動力、表現力、協働性を伸ばすお取り組みはどのようなものでしょうか?

(岡崎)2022年からThe Japan Times Young Leaders Projectをスタートしました。The Japan Timesと協働で新聞を作成するプロジェクトで、英字新聞“NAKAMURA TIMES”の制作・発行を行っています。中3から高2の有志の生徒が編集部となり、記事のテーマ設定から取材、記事作成まで、新聞づくりのほぼ全工程に取り組みます。

―――紙面もすごく素敵ですね! どのように実施しているのですか?

(岡崎)生徒の自主活動という位置づけなので、運営は生徒に任せています。高2が編集長となり、グループ編成や進め方を編集部内で協議しながら制作します。年度初めの4月から活動を始め、10月の清澄祭での配布を目指します。記事のトピックは生徒が決めています。制服特集や、国際コースの紹介、近隣や学内のカフェ紹介などさまざまですね。

2023年度版の“Who are our teacher fashionistas ?”という特集はおもしろかったですよ。全校生徒に「最もファッショナブルな先生は?」というアンケートを実施し、結果をもとにトップ2の教員にインタビューしていました。ファッションのこだわりやポイントなどを掲載しています。

どんな記事が読者に喜ばれ、知りたいか。自分たちは何を伝えたいか。生徒自身が議論し合い、テーマを決め、情報収集の方法を検討・実施し、記事にまとめる。そんな流れができています。

文字数は300~400文字程度と、中高生にとっては内容も含め、かなりチャレンジングです。制作はかなり大変だったと思いますが、やはり完成したときの感動はひとしおでした! 記事の最後には生徒の名前も入りますし、達成感はすごくあると思いますよ。

自分の意見を詳細に述べるものではありませんが、読者に伝えたいことや生徒自身の興味関心をテーマに設定し、生徒自身がリサーチし、アウトプットする探究学習のひとつになっています。

深める学びはループが鍵!インプット ⇔ 体験 ⇔ アウトプット

(岡崎)その他の探究活動で言うと、中2の国内サマースクールは学年全員参加型のオールイングリッシュプログラムです。ネイティブの外部講師に来校いただき、小グループでの授業を行い、最後は英語でプレゼンテーションします。

―――英会話レッスンのようなものですか?

(岡崎)たしかに英語でのアウトプットに挑戦する機会にはなっていますが、プログラムのハイライトは、初対面の外国人に学校周辺地域の深川を案内する点です。

(外国人講師を案内する様子)

本校の6年間の「探究学習」の考え方は、まずはselfに近い部分である学校周辺地域への理解を学習の中心に据え、学年が進むにつれ、日本、海外へと視野を広げます。そのため、中1では社会科が中心となり「深川めぐり」を行います。深川の史跡や名所を巡り、歴史や地理、歴史上の人物について知る体験です。それを授業で知識としてさらに深め、中2の国内サマースクールで英語でアウトプットするという流れです。

3日間で行われる国内サマースクールの事前学習として、授業でも深川について考える時間を設けています。どこをどのように紹介するのかを考え、自分たちでもできる簡単な英語の表現の仕方を確認するんです。そして国内サマースクール最終日に実施されるプレゼンテーションをブラッシュアップし、10月の清澄祭のEnglish Dayにて発表しています。

―――英語科単体のプログラムではなく、また、一過性の「楽しかった!」「大変だった!」で終わらない学びの継続性を設けているんですね。

(岡崎)そうですね。プログラムの目的を中心に、英語科・社会科で役割分担をしてプログラムを作っています。

どのプログラムを実施するにしても、「ただ現地に行く」「ただプログラムに参加する」では意味がないと考えています。すべてのプログラムで、必ず事前に個人の研究テーマを決め、プログラムの後にはアウトプットするカリキュラムを組んでいます。

アメリカのデンバーで行う海外サマースクールでは、「日本とアメリカの比較」という課題を設定し、生徒自身がテーマを決め、現地で調べ、帰国後にまとめたものをEnglish Dayで発表しています。

―――たとえばどのようなテーマですか?

(岡崎)両国のスーパーの比較をした生徒が触れていた「絆創膏について」は興味深かったですね。日本だと絆創膏の色はほとんど同じですが、アメリカでは肌の色に合わせて絆創膏の色が選べる点を取り上げていました。

事前にテーマを決めて行くので、本当にいろいろ見つけて来るんです。マネキンの体型についても言及していましたね。「日本はだいたい同じような体型だけど、アメリカには大きなサイズもあった」んだそうですよ。

(海外サマースクールで訪れたロッキー山脈)

―――そこから人種やプラスサイズといった視点への意識が生まれそうですね。

(岡崎)このような取り組みは、今でこそ「探究」という言葉に当てはまっていますが、「生徒の学びを深めるにはどうしたらいいか? 何をしたらいいのか?」を教員が考え、実践してきた結果、結局の根本部分が「探究学習だった」といった感じです。日々の授業でインプットを行い、行事やイベントで体験し、アウトプットの機会を設け、そこからまたインプットの必要性を体感する。そんなループができるように感じています。

社会問題を自分事化する衝撃体験

(岡崎)「海外ボランティア研修」も大きな取り組みです。カンボジアのトレンアップ村という、決して裕福ではない地域の小学校の子どもたちに日本語と英語の授業を行う研修です。

対象は高1・2の希望者で、開始した2021年度と2022年度はコロナ禍の為、オンライン実施でした。3回目の今年、初めて現地に渡航できたのですが、参加した14名の生徒にとって、とても衝撃的な体験だったようです。

渡航前の研修は運営団体の協力のもと、カンボジアの文化や抱えている問題、SDGsにまつわるトピックなどについてのオンライン講座を受講します。自己学習も進め、現地で収集したい情報を考えさせました。現地では、日本語と英語の授業をした最終日に生徒発案でミニ体育祭を企画・実行したんですよ。

―――体育祭! おもしろそうですね!

(岡崎)毎年春の本校での体育祭では生徒にハチマキを配布しています。そのハチマキをいろいろな人から集めて現地で子どもたちに配ったんです。日本の文化紹介の意味合いもありますが、どうすれば子どもたちが喜んでくれるかを考えていました。ハチマキでチーム分けをし、リレーやしっぽ取りを一緒にしてすごく楽しんでくれたようです。帰国時には「帰らないで!」と泣かれてしまい、生徒たちの心に強く残ったようですね。

アジアにも観光地として整備されているところはたくさんありますが、生徒に見せたかったのはそういう場所ではなかったんです。現地の学校の他にも地雷博物館や病院などにも行きました。安全面・衛生面を考え、宿泊場所は村からバスで1~2時間の場所にしましたが、それでも生徒は衝撃を受けていました。現地での体験から得た気付きを忘れないでほしいですね。

生徒と教員の相互作用 学校全体の雰囲気が探究学習をスムーズに

―――探究学習を実施するにあたって、教科間のコラボレーションは必須ですよね。どのように実現しているのでしょうか?

(岡崎)やはり教員間のコミュニケーションが大切だと思います。探究学習は社会科や理科の教員が中心となりますが、若い先生方が先陣を切って企業とコンタクトを取りながら進めてくれています。

―――先生同士の仲がいい、そんな土壌があるのですね。

(岡崎)本校の校訓に「清く・直ぐ・明るく」があります。具体化すると「3つのS」として、

●Self-control(わがままを抑える)

●Self-government(人に迷惑をかけない)

●Self Service(人に親切を尽くす)

ですが、各教室にも標題として掲げられています。とくに生徒に唱和させたりはしていませんが、みんな、「清く・直ぐ・明るく」なって卒業していきます。

教員もそんな生徒からの影響があるのかもしれません。本校は、生徒同士、生徒と教員の距離感が近い、とよく言われます。とにかく生徒が職員室を大好きなんですよ(笑)。

学校説明会で、在校生が受験生にする校内案内でも、職員室前で「ここはとても入りやすい場所です」「休み時間はみんなここに来ます」と話しています。そう聞いて入学してくるからなのか、自然とどの生徒も職員室に集まってきます。

和気あいあいとしていて、とても素直な雰囲気が、生徒から生徒に受け継がれているのかもしれないですね。そういう生徒たちが常に側にいるので、教員も同じような雰囲気になる。すごくオープンな環境なんですよ。そういった明るい校風がうまく教科間のコラボなどを生み出しているように思います

(取材・構成・記事作成:小林慧子)

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