プレゼンテーション授業で「伝わるスキル」を!プレゼン教材著者が実践する授業とは

最終更新日:2024年10月1日

新学習指導要領やグローバル教育の推進によって注目されているのが、プレゼンテーション能力の育成です。

この力は、実社会で生きていくための技能を養い、日本だけでなく世界の社会問題に対し自分なりの解決策を模索する力を育てます。

そんなプレゼン力の育成に力を入れているのが、早稲田大学高等学院の佐伯卓哉先生です。

先生ご自身も大学時代にプレゼンテーションに興味を持ち始め、「第1回全国学生英語プレゼンテーションコンテスト」や「第3回日韓グローバルプレゼンテーションコンテスト」にて受賞経験をお持ちです。

今回は、先生が実践されているプレゼンテーション授業について詳しくお伺いしました。

準備量次第でパフォーマンスはいくらでも良くなるのがプレゼンの魅力

———先生がプレゼンテーションに興味を持たれたきっかけを教えてください

(佐伯)大学生の時に、TED Talksを観たのがきっかけです。当時の私は、ディベートやディスカッションなど、即興で話すのがすごく苦手でした。そんなとき、初めてTED Talksを観たのです。とにかく「かっこいい!」と思うのと同時に、プレゼンテーションは、準備の量次第でいくらでもパフォーマンスを向上できると感じたのです。

即興で話すことに苦手意識のあった私にとって非常に魅力的でした。さらに、伝え方による相手の反応の変化に加え、「Yes」か「No」か、もらえる回答までもが変わるのがとてもおもしろいと思ったのです。

「伝え方をもっと学びたい!」と思い、プレゼンテーションにのめり込んでいきました。

「伝えるスキル」ではなく「伝わるスキル」を

———プレゼン授業のゴールを教えてください

(佐伯)「伝えるスキル」ではなく、「伝わるスキル」を身につけてもらうことです。

「伝える」とは、コミュニケーションの第一段階で、話し手の一方的な行動だと思っています。その段階で、相手に自分の真意を理解してもらえるとも限りませんし、聞き手の頭や心に届いていない場合が多いのが特徴です。

一方、「伝わる」とは、相手の感情を揺さぶり、何かしらの考えを持ってもらう段階だと思っています。たとえば共感したり、受け入れたり、承認したり。「伝える」の一歩踏み込んだものが「伝わる」だと思っていただけるとわかりやすいかもしれません。

「伝わるスキル」とは何なのかを生徒と一緒に確認し、学期の終盤に行う発表でそれを反映できる状態にすることが私の思い描くゴールです。

———具体的にはどのような授業を実践されていますか

(佐伯)プレゼンの授業は高校3年生を対象に実施しています。本校は1クラス40名程度なのですが、そこから20名ずつ2つのクラスに分けます。

授業の流れとしては、最初にその授業で取り扱う項目を大まかに紹介し、必ずSLO(Student Learning Outcomes)という目標を共有します。これは「授業が終わったときに生徒は何ができるようになっているのか」を示すものです。私自身、高校生の時に「今日の授業で結局何を学んだのか?」と思うことが何度もありました。目的を持つことで50分を無駄にしないための仕掛けです。

実際に共有しているSLOの一例

 

そのあとは、基本的に解説→タスクの繰り返しです。プレゼンに限らず文法なども同じですが、理解しただけでは身につかないですよね。タスクを通して学んだ知識を定着させることが大事だと思っています。

上記SLOのもと取り組んだタスクページ

 

そして最後に、冒頭で共有したSLOの達成度チェックで授業終了です。チェック方法としては、たとえばその授業でプレゼンの「つかみ」の方法を学んだら「プレゼンのつかみってどのようなものがあった?」などと投げかけ、生徒に答えてもらっています。

———教科書に掲載されているタスクを行っているのでしょうか

(佐伯)いえ、解説やタスクは自作のものを使っています。実は10月にそれが教材として出版される予定です。

———本を書かれたのですか?!

(佐伯)そうなんです(笑)。先ほどもお話ししたように、大学生の頃からプレゼンやスピーチに興味がありました。教員になったらアウトプットの一環として、プレゼンやスピーチを授業の中に取り入れたいとずっと思っていたのです。

教員になり晴れてその夢が叶ったのですが、イマイチ成果が出ない・・・。生徒の発表を聞いていると、文法や語彙などを間違えているわけではないのに、なぜか内容が頭に入ってこないと感じることが多くありました。その原因究明を自分なりに行ったところ、さまざまな要因が浮かんできました。たとえば、チャンクを意識した話し方ができていなかったり、プレゼンのはじめに聞き手の興味を引きつけるための「フック」と呼ばれる技術が身についていなかったり、間の取り方ができていなかったり。

以下の動画では、ただ伝えているだけの残念な発表(A)と、伝わる工夫が多く取り入れられた良い発表(B)を見比べることができます。両方とも、外国人観光客に向けた「Visit Japan」というテーマのプレゼンですが、伝わり方がまったく違うことを確認できると思います。

 

それを一つずつ改善、習得するための解説やタスクを自分なりに作っていったら、教材の下地ができたわけです。

その後、出版社の方に教材をご覧いただき、ありがたいことに書籍化することになりました。何度も改善を重ね、やっと10月に出版するまでにこぎ着けました。

———なるほど。たしかに間の取り方や聞き手を惹きつける話し方のスキルは自分で気づいて学べるものではないですよね

(佐伯)そうですね。私は泳ぐのがすごく苦手で、プールや海に恐怖心があります。でも、もし泳ぎ方や浮かび方を習得できていれば、怖さが軽減したかもしれないと思うのです。

同じように、生徒も英語でのプレゼンはとても不安でしょうし、怖いと思います。 でも、プレゼンの効果的な伝え方や話し方のスキルを習得したら、その恐怖は消えるのではないか。そう思い、実践的なスキルを教えるようにしています。

評価ポイントを伝えることで生徒の姿勢が変わった

———授業の中で工夫されていることを教えてください

(佐伯)大きく二点あります。

一点目は、オーディエンス側にタスクを与えていることです。よく「自分の発表の順番が来るまでは準備で忙しく、ひとたび終わってしまえば集中力が切れ、他の生徒の発表を聞かない生徒がいて困っている」との悩みを耳にします。それを防ぐために、あらかじめ発表者にプレゼン内容についての設問を3つほど作ってもらいます。たとえば、消費税増税に反対する内容の発表だとしたら、「反対理由は何だったでしょう?」のようなものです。

「アイコンタクトはとれていたか?」「適切な英語表現ができていたか?」など、デリバリーについての評価を課す方法もありますが、これだと生徒は適当に評価してしまう場合が多いです。それよりも、内容に関する問題をクイズに近い形式で課すと、聞き手側の生徒も「答えを聞き逃すまい」と集中して聞いてくれます。

実際の質問シート

 

二点目は、オーディエンスアナリシスを取り入れていることです。オーディエンスアナリシスとは、聞き手分析のことで、聴衆が誰で、どのような情報を求めているかについて深く考えます。プレゼンでは非常に重要なステップです。しかし、それについては教科書などではほとんど触れられていない現状がありました。ですので、私は自分の教材にはオーディエンスアナリシスに関するタスクを入れるようにしています。

たとえば、スピーチのテーマでよくある「私の夢」。キング牧師の演説があまりにも有名で、スピーチのテーマとして度々取り上げられますが、実は個人の夢って他の人はあまり興味がないと思うのです。自分にはあまり関係がないからです。ここでオーディエンスアナリシスを行ってみます。自分の夢や目標が聞き手の生活をどのように豊かにするか、良くしていくかなど、何が聞き手にとってプラスの情報になるかを考えるのです。

これは料理に似ていると思っています。料理って、相手のことを考えて作ることが重要ですよね。ベジタリアンの人に肉入りのカレーを作っても、喜んではもらえません。相手の好き嫌いや食べられないものを把握し考慮した上で、作る料理を決める。プレゼンやスピーチも同じで、聞き手の欲している情報を把握して原稿を作り上げる必要があります

実際の授業の様子

———プレゼンの授業での成果を教えてください

(佐伯)評価のポイントをきちんと伝えることで、そのポイントを自分の発表に反映しようとする姿勢がみられることです。

たとえば、冒頭でお話しした、「話している英語に文法的・語彙的な間違いがないのに内容が入ってこない」場合。そのときは、チャンク、ペース、ポーズ、ボリューム、トーンが大事だと伝え、「君たちの発表の中で、その部分を見て評価するよ」と伝えています。

すると、生徒は授業も集中して聞くようになり、発表でも学習内容をしっかり反映してくれているのです。その姿を見ると、生徒の成長を感じ、非常に嬉しくなります。

課題はチャンス

———今、感じていらっしゃる課題はありますか

(佐伯)あまり練習をせずにプレゼンに臨む生徒がいることです。「練習をしすぎると発表が不自然になってしまうから」だそうなのですが、結局うまくいかないことが多い。プレゼンにおける自然さというのは、100%以上練習して、余裕ができたときに初めて生まれるものだと思うのです。対策として、生徒には練習の重要性を何度も説明したり、練習不足により発表がうまくいかなかった場合は、防ぐための新たなタスクを作ったりしています。何か課題が出てきたときは悲観はせず、新たなタスクや解決策を試すチャンスだと思っています。

———最後に、今後に向けての抱負をお聞かせください

(佐伯)生徒のつまずきにフォーカスして、一つひとつ着実に解決策・改善策を見出していきたいです。生徒には、私の授業で学んだことを、大学の発表や就職後の企業でのプレゼンなどで活かしてほしいと願っています。

取材・構成・記事作成/大久保さやか、編集:小林 慧子

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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