「生徒たちが将来出会う英語は、『教科書通りの英語』だけではなく、それらとは異なる英語である可能性が圧倒的に高い」――。
頭では分かっていても、日々の授業は「正しい」発音や文法解説、定期テスト対策に追われ、英語の多様性を伝える余裕などない。そんな葛藤を抱える先生方は多いのではないでしょうか。
取材当時、中部大学春日丘高等学校の英語科教員を務めていた島田祥之介先生は、公立中学校での勤務時代に、中学3年生を対象とした「多様な英語に触れるリスニング帯活動(1回15分)」を実践しました。
World Englishes(世界で使われている英語たち)という考え方を土台に行われたこの実践では、生徒の新たな気づきが生まれる一方で、英語の多様性を認識しながらも無意識に序列化をするケースも浮かび上がったといいます。島田先生に、明日から取り入れられる具体的な活動内容や、評価のスタンス、そして根底にある英語教育への想いについて伺いました。
#リスニング #帯活動 #World Englishes(多様な英語) ALTとの協働 #学習指導要領
1回15分から始める。世界の英語を聞くリスニング帯活動
――先生が実施された実践の具体的な活動内容について教えてください。
(島田)ALTとのティーム・ティーチングの時間内に取り組む帯活動として、合計5回実施しました。5回の授業の中で、日本・エチオピア・フランス・アメリカ(ロサンゼルス)・メキシコ・タイなど、さまざまな国の出身の人が話す英語をリスニングしてもらいました。
一度の授業で音源を聞くのは3回です。音源には市販の教材(『「世界の英語」リスニング』(アルク))を使用し、生徒が記入するハンドアウトは今回の実践のために私自身が作成しました。
・1回目:話者の出身地を確認し、ハンドアウトの空欄を埋める
・2回目:『「世界の英語」リスニング』(アルク)に掲載されている問題に答える
・3回目:普段耳にしている英語との違いを意識しながら聞く
毎回の授業の最後には、生徒たちに感想を書いてもらうリフレクションの時間も設けました。時間配分は、リスニングが約10分、リフレクションが5分程度で、合計約15分です。
――なぜ、ALTの授業内に15分の帯活動という形式をとられたのでしょうか。
(島田)私が担当する授業はその時間にしかなかったという点と、ALTの先生とのティーム・ティーチングでは、ALTの先生に授業設計から進行までを任せきりにしてしまうこと多々があります。
そうすると、生徒も何をすべきかうまくつかめなかったり、ALTの先生もどう授業を作っていけばよいのか分からず辛いこととなります。だからこそ、(特別なことではないですが)私とALTの先生で一緒に授業を作り、やることが明確な15分の帯活動の枠組みを作りたかったのです。
他の先生方にも「これなら自分もできそうだ」と思っていただけるよう、応用可能性を高めるために、あえて10〜15分という短い時間で完結する設計にこだわりました。

――こうした「多様性を認める」というスタンスは、普段の授業や評価において、どのように取り入れればよいのでしょうか。
(島田)最も大切なのは、生徒から出てきた英語表現を、すぐに否定しないことだと思います。少なくともテスト以外の場面では、「伝わっているかどうか」を大事にしたいと考えています。
たとえば、ライティングの課題で簡単なスペルミスがあった場合も、減点するのではなく、意味がきちんと伝わっているかを重視して評価する。その方が、生徒自身が自分の英語に対して、不必要にネガティブな評価を下しづらくなると感じています。
正解・不正解だけを見るのではなく、「どうすればより伝わるか」を一緒に考えていく姿勢を持つことが、結果的に生徒がさまざまな英語に対しての偏見や序列を生まない授業づくりにつながるのではないでしょうか。評価の基準は教員によって考え方が異なる部分でもあるからこそ、教員同士で話し合っていくことが大切だと思います。
実践で見えた「無意識の序列」と、指導の反省点
――実践を通して、生徒さんたちの反応はいかがでしたか。
(島田)英語の多様さを日本語の方言と重ね合わせて捉えたり、「日本人の英語」がどのように聞こえているのかを考えたりしていた生徒もいました。
中でも印象的だったのは、「英語が一つではないのなら、来日した外国人が話す日本語にも、それぞれの母国語の影響を受けたさまざまな種類(なまり)があるのではないか」という感想があったことです。英語に限らず、言語の本質は大きく変わらないという点に意識を向けられるきっかけになっていればうれしいですね。
――一方で、活動を通してどのような課題や葛藤がありましたか。
(島田)「いろいろな英語があることは分かったけれど、やはりアメリカ英語やイギリス英語が本来の英語なのではないか」と受け止めた生徒もいました。英語の多様性に気づいたからこそ、その中に無意識のうちに序列のようなものを見出してしまう様子も見られたように思います。
――多様な英語に気づきながらも序列を意識してしまったのは、なぜだとお考えですか。
(島田)生徒がこれまで触れてきた英語の多くが、アメリカやイギリスの英語だったことも理由のひとつだと思います。聞き慣れた発音以外の英語を、「分かりにくい」と感じてしまったのではないでしょうか。
しかし、より根本的な背景として、日本においては英語という言語の標準を「力を持った国の英語(アメリカやイギリス)」に置き、英語が併せ持つ植民地主義的かつ特権的な価値観の影響を多くの人が無意識に受けていることも考えられます。(日本の英語教育政策の変遷について詳しくは寺沢(2014)を参照※1)
現在の英語の教科書にはさまざまな国出身の人が登場しますが、音声はアメリカ英語やイギリス英語が中心となっている場合が多くあります。そうした経験の積み重ねによって、我々教員も含め、アメリカやイギリスで話される英語が「正解(標準)」だという感覚に陥ってしまっている可能性もあると感じています。
また、今回の実践では、「英語の多様性」に気づいてもらうことを重視した分、発音の違いを比較する視点が前に出すぎてしまったところがありました。英語には種類があることを伝えるのであれば、まず話している内容に着目した授業を行い、振り返りの中で、発音や話し方の違いに気づかせる方がよかったのかもしれません。
World Englishesの考え方に基づくリスニング活動として見れば、決して間違ったアプローチではないのですが、難しさも感じる部分でもあります。
「英語は一つではない」──他者を知り、歩み寄りながら意味を作る力
――そもそも、そうした英語の多様性に気づくことが重要だとお考えになるきっかけは何だったのでしょうか。
(島田)一番のきっかけは、大学時代にお世話になった名城大学の藤原康弘先生の存在です。授業の中で、「英語は一つではない」という考え方を教えていただきました。
当時の私が知っていたのは、アメリカ英語やイギリス英語が中心でした。しかし、藤原先生の言葉を通して、世界ではアメリカやイギリス以外でもさまざまな英語が話されており、それらもすべて英語なのだと知ったのです。まさに目からうろこでした。
英語が国際的に広がってきた背景をたどると、長い歴史の中で国同士の力関係が影響した側面も見えてきます。生徒たちには、単に英語を学び、知識や技術を身に付けるだけでなく、こうした背景(支配性)にも目を向けてほしいという思いがありました。
――そうした想いが、今回の実践の土台である「World Englishes」につながっているのですね。
(島田)「World Englishes」とは、1985年にインドの言語学者Braj B. Kachru氏が提唱した、英語の広がりや使用に関する考え方です。世界ではさまざまな英語が話されており、それらはすべて尊重されるべきだという考えに基づいています。(この考え方には批判もあります。詳しくは柴田ほか(2020)を参照※2)
将来、生徒たちが英語以外の外国語を学びたいと考えたときに、「こういう学び方もある」ということを知ってもらいたいという思いもありました。
また、中学校の学習指導要領にも、言語の役割として「他者が何を話しているのか知る力」の重要性が示されています。これは単に、「標準的とされる英語を正確に聞き取って、テストで点を取る力」のことではありません。
これから先、生徒たちは異なる背景を持つ他者と絶対に向き合い続けるはずです。だからこそ、言語を扱う教科として、「他者との話し方」や「言葉の受け止め方」、そして「価値観をどうすり合わせていくか」という対話する力をずっと育んでいきたいと思っています。大きな野望のように聞こえるかもしれませんが、最終的には平和構築にもつながっていくことだと考えています。
今回の多様な英語を聞く実践は、まさにその「目の前の他者を知ろうとする力」を育むためのファーストステップともいえる取り組みでした。これから生徒たちが接していくのは、英語ネイティブスピーカーよりも、ノンネイティブスピーカーの方が圧倒的に多いはずです。
だからこそ、どんな英語であれ十分に意味を作れることを知ってほしいと思います。
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<授業で使用したスライド>[/caption]
マクロな視点で英語の多様性を考える機会を広げていきたい
――最近では、国際共通語として英語を学ぶという考え方が浸透しつつあります。実際の教育現場を見て、島田先生ご自身はどのように感じていますか。
(島田)個人的には、前向きな変化が起きていると感じますね。共通テストや教科書では、さまざまな背景を持つ人が話す場面が見られるようになりましたし、多様な英語を聞くことができる教材も増えてきていると思います。
そうした意味では、今回のような実践に関する知識やノウハウを持っている人が、少しずつ活動を広めていく段階に入っているのではないでしょうか。すべてが一気に変わるのは難しいと思いますが、少しでも興味を持った現場の先生方が、実際の授業に取り入れてくださるようになるとうれしいですね。
ただ、多様性についての理解を働きかける必要があるのは、生徒たちだけではないとも感じています。まず、教える側である私たち教員が、世界にはさまざまな英語があることを知り、その違いを認めることが大切です。
教員や学校全体を含め、もう少しマクロな視点で、英語の多様性について考える機会が増えていけばと思っています。
――今後の展望についてお聞かせください。
(島田)今回の実践は、中学3年生の3学期というタイミングで行いました。受験を控えた生徒たちにとって、少しでも息抜きになればという思いもあり、授業中は「受験」という言葉を一度も使いませんでした。目先の点数ではなく、150人の生徒のうち3人でもこの体験を覚えていてくれればいい。いつか花が咲くと信じて、種まきをするような感覚でした。
学年や時期が違っても、こうした国際英語思考の取り組みは続けていきたいと考えています。「同じ言語でも、さまざまな種類がある」「どんな英語であれ意味は作れる」という視点を持つことは、英語に限らず、外国語学習にとって大切なものだと思うからです。
目に見える成果はすぐに現れるものではないかもしれませんが、これからも種まきのように、こうした実践を続けていきたいですね。
【参考文献】
※1: 寺沢拓敬 2014年2月24日出版 研究社『「なんで英語やるの?」の戦後史』
※2: 柴田美紀・仲潔・藤原康弘 2020年8月21日出版 『 英語教育のための国際英語論』
取材・構成:小林慧子/記事作成:白根理恵





