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問題演習でペアワーク? 「激論を交わして」と伝える文法の授業

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ペアワークなどの言語活動を増やしたい。けれども、増やすと文法の解説や演習の時間が削られてしまう――。八雲学園中学校高等学校の英語科教諭・ボッサム紗良先生は、文法の授業そのものをペアで進めることで、二者択一から抜け出しました。問題集は一人で解かせたあと、ペアで解答の理由を説明させる。教科書の音読は2人組で、交代で読む。生徒が先に理解している分、ボッサム先生が全体へ説明する時間はかえって短くなりました。毎週の朝テストの平均点は4月から上がってきています。生徒が自分の意見を積極的に言えるようになり、授業の雰囲気も活発になりました。授業を、自分の意見を伝えて相手の意見を聞く練習の場にしたい。中学1年生の教室での進め方を中心に、高校の授業での手応えもあわせて紹介します。

#ペアワーク #音読 #中学英語 #文法指導 #The Four Strands

解かせたあと、ペアで理由を説明させる

注)八雲学園の中学1年生の英語授業は週8時間、中学2・3年生は週9時間。そのうち4時間は、ネイティブの教員によるオールイングリッシュの授業で、リスニング・スピーキング・ライティングが中心。授業のほかにも英語劇やスピーチコンテスト、2週間のアメリカ研修など、英語で内容を聞き取り、自分の考えを伝える機会が多い。ボッサム先生が授業を組み立てるときにもとにしているのは、応用言語学者の Paul Nation(ポール・ネーション)が示した The Four Strands(4つの要素を25%ずつ取り入れる授業設計)※。学校全体で4つが25%ずつになるよう、自分の授業では「文法など言葉そのものに注目して学ぶ時間」を担う。ペアワークのよりどころにしている3つの考え方は、記事末の「キーワード解説」で紹介する。

※The Four Strands の4つの要素を25%ずつ取り入れる授業設計については、東葉高等学校の菅原 直弥先生も紹介してくださっています。こちらの記事もあわせてご覧ください。

――先生は、どのような授業をされているのでしょうか。

(ボッサム) 本校の英語授業のしくみ(注)により、私の授業は文法理解に主軸を置いています。授業時間の7割がグラマーとリーディング、3割がスピーキングとリスニングという配分です。ただ、文法の演習も教科書の音読も、ほとんどをペアで進めています。教科書は『Here We Go!』を使い、演習には教科書に準拠した問題集『iワーク』を使っています。問題集は、まず一人で解かせます。次にペアで、解答とその理由を話し合わせ、最後に答え合わせをする流れが基本です。「1分後に当てるから、ペアで話し合った内容を答えてね」と予告すると、生徒はきちんと話し合います。一人で解く→ペアで話し合う→全体で確認する、というサイクルを1〜3分ほどの短い時間で回していくと飽きが来ず、話し合いも活発になります。

――なぜ、解答の理由まで話し合わせるのでしょうか。

(ボッサム) 生徒が演習問題を解けるのは、学習中のユニットの文法項目だからという場合が少なくありません。to不定詞のユニットなら、toプラス動詞の原形を選んでおけば正解できます。そのため、機械的に選びがちです。しかし説明するとなれば、一問ずつ「ここに to があるから、後ろの動詞は原形だよね」という会話が生まれます。理由を自分の言葉にしておくと、実力テストでいろいろな文法が混ざって出てきたときにも解けるようになります。

――話し合いが形だけになることはありませんか。

(ボッサム) 「激論を交わしてください」といつも言っています。「問1はA、問2もA、2人とも同じだね、オッケー」。これで終わるのは話し合いではありません。「私はこう思った」「僕はこう思った」「え、なんで」「ああ、そうか」。このようなやり取りが、良い話し合いだと伝えています。日本の生徒の多くは、自分の意見を言うことや相手に反対することを嫌います。ですが、言い方は優しく、主張はする。「確かにあなたの言っていることは分かるけど、私はこう思うんだけど、どう?」。この形を学んでおくことは、生徒の将来にとって大事だと考えています。

音読とペア替えで、全員が全員と話す

――音読もペアワークで行うそうですね。

(ボッサム) 音読にはバズリーディングやシャドーイング、日本語も使う音読などさまざまな種類があり、日々違う方法で音読させています。読む人を交代するタイミングも日々変えていて、例えば「つっかえたら交代」というルールにすると、生徒はつっかえないように集中して読むようになります。慣れてきた段階で「自分が読むときは顔を上げましょう」と伝えると、相手が読んでいるあいだは英文を目で追い、詰まったら教える形になります。1つのユニットにつき、さまざまな方法で10回ほどは音読していますね。

――「つっかえたら交代」には、もう1つルールがあるとうかがいました。

(ボッサム) 相手の発音が誤っていたら、指摘して交代します。「success(/səkˈses/)は『サ』クセスじゃなくてサク『セ』スって後ろにアクセントがあるんだよ。はい、交代」という具合です。間違いを指摘する練習であり、間違えても大丈夫だと学ぶ機会でもあります。

――指摘することや、指摘されることに抵抗感のある生徒はいませんか。

(ボッサム) やはり多いですね。当てられてみんなの前で誤った答えを口にしたら一大事だ、と受け止めてしまうようです。ですが私は、「少し間違えたくらいで痛くもかゆくもないよ」と伝えています。間違えることが恥ずかしいのではなく、間違いを指摘されたときに認められないことが恥ずかしい。逆に、認められる人はかっこいいんです。指摘する側にも「ドヤ顔で指摘してね」と伝えます。そうすると、良い雰囲気が生まれ、お互いに笑顔で楽しみながら指摘し合うようになります。

――生徒はすぐに慣れるものですか。

(ボッサム) まずは私が手本になります。生徒に指摘されたときは「あっちゃあ、ごめん! よく気づいたね、ありがとう!」と、わざと大げさに振る舞います。「間違えたあとでかっこよさが決まる」。こう伝え続けていると、生徒の価値観は少しずつ変わっていきます。

――ペアはどのように決めていますか。

(ボッサム) 授業の時間が限られているので、席の並びをもとに、授業の最初に手早く決めます。今日は横、日によっては前後や斜めという形で変えていきます。毎回同じでは飽きますし、相性もあるからです。そうしてランダムに決めると、男女や、活発な生徒と静かな生徒が組むことも少なくありません。慣れている生徒同士、仲の良い生徒同士では話せて当たり前です。しかし、毎回そのようなペアにしていると大きな上達は期待できません。いわば「未知との遭遇」を大切にしています。

中学や高校では、日常的に話すグループが決まってきます。そうすると、クラスで一度も話したことがない生徒がいる、ということも起こります。それはあまり健康的ではないと感じています。そのため、英語の授業で半ば強制的に機会を作り、全員が全員と話す状況にしています。うまく話が続かないペアも出ますが、50分のうちの数分であれば、その失敗も経験したほうが良いと思います。

――習熟度に差のあるペアもありますか。

(ボッサム) はい、あります。ただ、理解の進んでいない生徒は1対1で教えてもらえますし、進んでいる生徒は教えることでより深く理解します。40人のクラスで教師が一人ひとりに対応するのは難しいのですが、ペアワークをすれば、少人数授業のような状態にできるのです。

――ペアワークの最中、教員がどこにいるべきか迷うという声も聞きます。ボッサム先生はいかがですか。

(ボッサム) 状況によって机間巡視もしますが、基本的には教卓で全体を観察しています。以前は机間指導こそが良いと思い、常に机の間を回っていました。しかし、自分がいる場所の生徒しか見えませんし、聞こえません。私が横を通ると「先生、こうですか」と尋ねてくる生徒もいます。すぐに答えを教えてしまえば、生徒の考える機会を奪うことにもつながります。常に教師が生徒に関わって説明するのではなく、あえて一歩引くほうが良いこともあると、次第に気づいてきました。

代わりに、ペアワークが終わったあと、10回のうち7回ほどはコメントしています。特に後方の席の生徒は、名前を頻繁に呼びます。「とってもいい雰囲気でやっていたね」「ペアワークのプロ」と声をかけると、机の間を回らなくても聞いているのだと生徒に伝わります。次は自分の名前が呼ばれるようにと、積極的に取り組んでくれます。

文法の授業を、話し合いの練習にする

――ペアワークに時間を使うと、文法の解説や演習が足りなくなりませんか。

(ボッサム) 逆に、文法にあてられる時間は増えました。私が話す時間を減らしているからだと思います。ペアワークの時点で、生徒一人ひとりがその日の内容の6〜7割を理解しているので、私が100%説明する必要がなくなります。全体で答え合わせをする時間も、とても短くなりました。誰がどこでつまずいているかは、ペアワークを見ていれば大体つかめます。分かっていそうな問題は速く進め、つまずいている問題に時間を使います。削られたという感覚はありません。空いた分を別のことに使えるので、むしろラッキーだと感じています。

――文法の授業でペアワークを多く取り入れることに、不安はありませんでしたか。

(ボッサム) 特にありませんでした。4月初めの英語科の教科会で進め方を説明し、ネイティブと日本人、両方の先生から賛同を得ていました。試験のたびにも集まり、出題や教え方について相談しています。お互いの承諾を得ながら進められたことは、安心材料でした。

続けてみると、結果もついてきました。毎週火曜日に英語の朝テストがあり、平均点は4月から少しずつ上がっています。8〜9割の得点を取れる生徒も、回を追うごとに増えています。

――そもそも、文法が中心の授業でここまで話し合わせるのは、なぜでしょうか。

(ボッサム) Scaffolding(足場かけ)、Affective Filter Hypothesis(情意フィルター仮説)、Role Model Effect(ロールモデル効果)という3つの考え方をよりどころにしています(詳しくは記事末の「キーワード解説」を参照)。

一人では答えられない問題も、ペアの助けがあれば答えられる。ペアで確かめてから答え合わせをするので、全体の前で間違えることも少なくなる。同じクラスの生徒が一生懸命に取り組む姿を見て、自分も頑張ろうと思える。どれも、生徒の自信につながると考えています。生徒の感想にも、「最初は、分からないとこもあったけど近くの人が協力してくれて理解できた」「隣の人とコミュニケーションをするときに発音のアドバイスなどを話すことができ、自信を持てた気がしました」といった声があります。

――学校全体で英語を使う機会が十分にあるのなら、先生の授業は10割を文法にあてる選択もあり得たのではないでしょうか。3割を残しているのはなぜでしょうか。

(ボッサム) 理由は2つあります。1つは実践的な理由で、文法の解説や演習だけでは頭に入りにくいと考えているためです。演習のあとに少し話す時間がなければ、集中力も続きにくいですし、記憶にも残りません。また、新しく習った文法項目を会話の中でどのように使えば良いのか分からず、結局使いこなせないまま終わる、ということが少なくありません。夏期講習は試験対策が目的なので9対1にしますが、その1も必ず残しています。

もう1つは、学校教育が担う役割です。ただ文法事項を教えるだけなら、塾などの学校以外の場所でもできます。学校教育とは、教科を通して、また生活を通して、物の考え方や人との関わり方も学んでいくものだと考えています。相手が誰であっても自分の意見を伝え、相手の意見を聞いて話し合っていく。その力を育みたいと思っています。日本の生徒の多くは、自分の意見を表明することに慣れていません。最初は話せない生徒が多いのですが、続けていくうちに、ふだんあまり話さない相手とでも自然に話せる雰囲気になっていきます。

――教員になった当初から、同じ形だったのでしょうか。

(ボッサム) 考え方は1年目から持っていました。ただ、授業の形は違いました。当初は、時間を無駄にしてはいけないと考え、授業に関すること以外は一切話さず、50分のほとんどを私の説明にあてていました。それが一番効率の良い学習につながると考えていたのです。しかし、実際の生徒の様子は違いました。眠っているわけでも、私語をしているわけでもありません。ただ、受け身で動画を見ているような、心ここにあらずという様子でした。そうした教室の様子が、ずっと気にかかっていました。
ある日、生徒の集中力が切れたタイミングで学校行事の話を少し混ぜてみると、そのあとの授業への集中が続いたことがありました。そこで、私が100%説明するのではなく、途中で生徒に問いかけるようにすると、生徒がこちらを見て反応が返ってくるようになりました。私がボールを投げ、生徒たちがキャッチして返す。テレビで野球を見ているただの観戦者ではなく、生徒自身がプレイヤーになる。そういう授業に変わったのだと思います。「ちょっとの寄り道に、その先のプラスが待っている」。そう実感してから、授業の設計を変えました。

――最後に、ご自身の授業を振り返って、今どのように考えていますか。

(ボッサム) 私自身、最初から今の形だったわけではありません。しかし、一般的に良しとされているものや、目の前のものだけを見るのではなく、一歩引いて、生徒たちに身につけてほしい力は何かを長い目で考えてみる。私の場合は、そこから少しずつ授業が変わっていきました。

問題を解いたあとにペアで話し合わせる形は、ほかの学年でも有効だと感じています。中学2・3年生はもちろん、たとえば高校1年生の英語コミュニケーション、高校2年生の英検リスニング、高校3年生の長文読解の授業などでもそうです。ペアワークは音読やスピーキングに向いた活動だと思っていたので、長文読解の問題でも手応えを感じたときは、自分でも驚きました。解説を教師が一方的にするのではなく話し合わせてみると、生徒が問題の答えを「自分ごと」として考えるようになります。大学受験の面接などで自分の意見を述べるための練習にもなっていると思います。
1回の授業に一度ペアワークをしてみるだけでも、生徒の反応は変わると感じています。

取材・構成・記事作成:小林 慧子/編集:早田 愛

キーワード解説

ボッサム先生がペアワークのよりどころにしている3つの考え方

1. Scaffolding(足場かけ)
学習者が一人ではまだできないことを、教師や周りが一時的に支え、最終的には自力でできるようにすること。scaffold はもともと建築現場の「足場」の意味。建物が完成したら足場を外すように、最初は支援を多くし、できるようになるにつれて減らしていく。ペアワークでは、一人では答えられない問題も、ペアの助けで答えられるようになる。

2. Affective Filter Hypothesis(情意フィルター仮説)
第二言語習得研究で知られる Stephen Krashen(スティーブン・クラッシェン)が提唱した仮説。不安や緊張、自信のなさが強いと「フィルター」が高くなり、英語を聞いたり使ったりしても習得につながりにくい。反対に「間違えても大丈夫」「伝わった」と感じるとフィルターが低くなり、英語を吸収しやすくなる。ペアで確かめてから全体で答え合わせをすると間違いが減り、自信につながる。

3. Role Model Effect(ロールモデル効果)
自分に近い人が英語を使う姿を見て、「自分にもできるかもしれない」と思える効果。流ちょうに話すネイティブや教員よりも、同じクラスの生徒が間違えながらも楽しそうに英語でやり取りする姿のほうが、「努力すればできる」という感覚につながることがある。ペアが一生懸命に取り組む姿に刺激を受け、自分も頑張ろうと思える。

この記事に登場する先生

ボッサム 紗良先生

ボッサム 紗良先生

八雲学園中学校高等学校 英語科教諭

国際教養大学に進学し、SUNY Oswego(ニューヨーク州立大学オスウィーゴ校)へ1年間留学。卒業後、国際教養大学専門職大学院英語教育実践領域で英語教育を専門的に学ぶ。修了後、母校である本校に着任。現在は海外・英語特別副委員長、英語副部長… プロフィールを見る →

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