実用的な口語表現の英語力を身に付け、生徒の主体性の育成を目指す「多読」授業

最終更新日:2023年2月14日

1.授業概要: 授業の対象者、人数、目的 

平成20年頃からの取り組みとして、ここ15年ほど、中学2年生と3年生の2年間、週に1コマ、多読を行っている。

私が今年(令和4年度)担当している中学2年生は、1学年250人ほど。中学は男女別学で、今年は女子2クラス・男子4クラスなので、1クラスごとの人数は男女の割合により異なるが、だいたい30人前後~40人程度。クラスの中には英検1級~4級まで幅広いレベルの生徒が混在している。

 

2.課題意識: どのような課題を乗り越えたいと思ったか。また、課題解決のポイントがどこにあると考えたか

受験英語の対策については、参考書やエッセイ、単語集など、市販の教材がたくさん出版されている。一方、物語を読むとなったときに、日本ではまだ対策があまり発達していない。例えば、現地の小学校で読むようなレベルの物語でも、イギリス英語やスコットランドのなまりなど、学校英語では出てこないような日本人の知らない英語がたくさん出てくる。昔ながらの受験英語の教育を受けてきた身としては、生徒はもちろん、教員もアプローチできていないと感じた。今後のより実用的な英語の習得を考えたときに、現地の洋書に数多く触れて、自然な表現を学ばせたいと思った。読んでいく中で、気になった表現を拾い出し、エクセルで一つにまとめて学年で共有したら、大きな単語帳のようなものができる。市販の単語帳にもない表現集のようなものができればいいなと考えている。

 

3.授業設計方法とポイント: 学期における構成、必要に応じて学生等からの取得情報や他教員・教科との連携

中学2年と3年の2年間で何冊以上読まなければいけない、というような目標設定は行っていない。ただ、2年間の中で、時期によって読み方に多少変化を求める。

中高一貫校の本校では中2で中学の学習範囲を終えるため、毎年中学2年の2月、本校の高校入試を受験する(中学学習内容の定着度・到達度を確認する)それを目標にして、中2の後半は、短い時間でまとまったものを読むスピード感、10分~15分間は集中して読み続けることを意識している。

中3になると、「多読」と言われている本の中で一般的に有名な本を読むことを目標にする。
例:L. Frank Baum “The Wizard of Oz” (OXFORD BOOKWOEMS)、Ron Howard “APOLO 13” (PENGUIN READERS) など

また、英語で簡単な意見を言えるようにしたり、読んだ本の簡単な感想文(3行程度)を書いて提出させたりする。(コロナ前はペアを組んで互いに内容を伝え合う活動をしていたが、コロナでできなくなった)いずれにしても、読むだけで終わらないようにしている。

 

4.授業準備とポイント: 準備するテキスト、ITツール等

多読の授業は図書室で行う。図書室には「多読コーナー」があり、英語話者が現地の小学校で使うレベルの本から本格的な洋書まで、さまざまなレベルの多読書を、500冊以上1000冊未満備えている。

 

5.授業実施とポイント: 授業の具体的な進め方、授業中の説明や求めたアウトプット

授業は週に1コマ(50分)。今年はその中で「多読」と「多聴」の両方を行っている。

  • 最初の15分は多聴。どんな音源があるか、私がYouTubeなどからお勧めサイトを毎週1本ずつ紹介し、どんなレベルか聞いて体感してもらう時間としている。
  • 残りの35分程度で、多読を行う。生徒たちが本を1冊選ぶところからスタートする(5分くらい)選ぶ本は生徒が自由にレベルや内容を選んで良い。あまり重いものを読みたくない日は、音声ガイド付きの本で音を聞きながら読んでもOK。
  • 本を選んだら、10分~15分程度、各自で多読を行う。その間、前にホワイトボードを置いておき、文脈の中で読めなかった単語や表現を、各自生徒が書きに行く。(1冊10分~15分で読むように指導している。時間内に2冊、3冊読む生徒もおり、読み切れなかったものは、次週に持ち越し)

 

【アウトプット】
多読を行う10分~15分の時間内に、自分が読んだ本の要約を2行くらいの簡単な日本語で書き、1冊ごとに、読み終わったタイミングで提出させる。多読の本には1冊の語数がすべて記載されているので、毎回授業の終わりに、何冊目のどこまで読んだか記録を取り、語数も記録する。

 

6.評価とポイント: 授業内外での評価方法、フィードバック方法

成績に関しては、要約した内容に関しての出来不出来は評価に含めず、取り組む姿勢を評価したい。「多読」の取り組みの趣旨を理解して、多少分からなくてもどんどん読み進めることができるか、主体的に取り組んでいるかどうかで評価する。総語数が10万語、30万語、50万語を超えた生徒は表彰し、その生徒の名前のプレートを廊下に掲示する。

 

7.授業を実施した上での成果と課題: 想定通りに進んだか。また、得られた成果や判明した課題

【成果】
一番感じる成果は集中力の向上。私自身が中学生を受け持ったのが昨年度6年ぶりだったが、コロナの前と比べると、生徒の集中力の低下が目立った。振り返ってみると、今の生徒たちの世代は、欲しい情報がネットですぐ手に入り、動画サイトを通して一方的かつスピーディーに、視聴側が何もしなくても即時に情報が入ってくる。そういう環境が一因だと感じた。しかし、試験は昔ながらのやり方で、まとまった時間で集中してある程度のものを処理することが求められる。この授業を通し、一つのことを10分~15分やり続けることで、集中力が付き、決められたことに粘り強く取り組む姿勢が見られるようになったと感じる。

日本で英語教育を受けてきた人が苦手な部分は、Speakingや口語の英語、物語の英語表現だったりするが、その点では、帰国生の受け入れを積極的に行っている本校では、教師より生徒たちの方が感性が良いこともある。一例として、「Cross」という単語は、アメリカ英語とは異なり、イギリス英語では「怒っている」という意味があるそうだ。これを教えてくれたのは、小学生時代に海外在住経験のある生徒だった。教員も生徒と一緒になって授業を展開することにより、生徒の自主性を伸ばすこともできている。

【課題】
現状「多読」の取り組みは、2年間、週1時間という限られた時間しかないので、本当にどこまで読めて、どれくらいの力になっているのか判断が難しい。2年間だけに限らず高校生になっても続けられるように、授業の枠以外でもオンラインなどで毎日でも行えるような体制に変えていこうと検討している。

 

8.授業を参考にする先生へのメッセージ: 上記を参考にして自分で実施をする先生へのアドバイスや期待すること

生徒たちが自分で学ぶ姿勢を引き出すため、教えるこだわりをいったん横において、生徒たちと一緒に学ぶという姿勢をどれだけ出せるかが大切だと思う。ただ、教える行為を捨てることと、生徒の自主的に学ぶ姿勢を引き出すバランスが難しいところである。そのために、例えば生徒が何か質問してきた時に、すぐ終わる答えだけを与えないようにしている。「こういうことを調べてみたら?」とか「これとこれって何かに似てると思うけど何だろうね。一回調べてみたら?」と、次の学習につながるような何かを必ず1つ返すようにしている。それによって生徒は「自分で調べよう」という自主性につながると感じている。

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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