英語の実用を見据えて - 相手意識を促しコミュニケーション力を高める授業の実践
最終更新日:2023年9月12日
今回は、筑波大学附属中学校の高杉達也先生にお話を伺いました。
高杉先生は、前々任校の千代田区立九段中等教育学校と前任校の東京都立小石川中等教育学校では、CLILL、TBLT(Task-Based Language Teaching)の発想を生かした授業の実践に注力されました。さらに現任校では「オーラルメソッド」を実施しておられます。学校内外での幅広いお取り組みについてお話を伺いました。
TBLT(タスクを用いた教授法)
(松山)まず、前任校と前々任校でのTBLTの発想を生かした授業の実践についてお伺いできますでしょうか。
(高杉)前々任校の九段中等教育学校は英語教育にとても注力していて、私も英語指導の基礎を先輩方から学ばせていただきました。そして、自分がもう一歩踏み込んでやれることは何だろうと考えたとき、「英語を実生活におけるタスクと結びつける」という発想に至りました。
(松山)具体的にどのようなタスクを設定されましたか。
(高杉)例えば、高3の最後には、外国語を学ぶメリットについて英語で5分間のディスカッションをさせました。教科書を扱った後、ランダムに3人ずつ別室に呼んで「3人が思う、英語を学ぶ一番の目的を導き出しなさい」というゴールでタスク設定しました。
中学1年では、 教科書でお弁当の話を扱った後、「理想の駅弁コンテスト」を行いました。中1の英語力には限りがありますが、本来、タスクは言語以外のゴールを目指してやるものです。生徒たちはお弁当についてちゃんと調べ学習をして、駅弁らしいローカルな具材をちゃんと考え、パッケージのデザインも工夫していました。
タスクの設定次第では生徒のアウトプットに違いが生まれないことがあり、それだと互いの刺激にならず、学び合いの相乗効果は高まりません。絶対に違いが生まれるような工夫をしています。
(松山)その他にタスク設定のときに気を付けていることはありますか。
(高杉)単元の題材や生徒の言語的ハードルはしっかり意識しています。その上で、やはり学びに楽しみがないと長続きしませんし生徒が主体的にコミットしていかないので、まずは「面白そう」と思わせられるようなタスクの設定を意識しています。あとは現実性ですね。SF的な要素も面白いですが、今の中高生はシビアです。あまりに現実離れしてると興ざめしてしまいます。
(松山)なるほど。 文法や新出単語との兼ね合いはどうされていますか。使うべき語法などは指示されますか。
(高杉)一切しないです。言語材料の縛りを設けないのがTBLTの概念の1つです。言いたいことを「自分たちの英語力でどう表現したらいいんだろう」というのは現実社会でも起きることです。そのような機会をいっぱい重ねてあげれば、日頃から教科書を学ぶときにも「この表現がこういうときに使えるな」という見方に変わってきます。
こちらが意図した言語材料を使っていなくても、学び合いの中で他の生徒が使う表現を私が取り上げることで、「次に使ってみよう」というモチベーションにもなります。だから、言語材料が使えたかどうかではなく、そのタスクのゴールを達成できたかという点を大事にしています。
(松山)学年の他の先生方と足並みをそろえて行うのですか。
(高杉)九段中等教育学校では一学年を2人で受け持ち、毎回作成する共通指導案をもとに足並みをそろえて授業を行うというスタンスでした。
(松山)評価の基準はどのようなものでしょうか。
(高杉)九段中等教育学校の頃はまだルーブリックが一般的ではなかったので、ざっくりとした評価でした。ただ、発表活動はかなりの回数を実施していたので、1回失敗したとしても平均化されて、評価の妥当性は担保できていたかなと思います。
例えばお弁当のときは、内容面と言語面の2観点で評価しました。内容についてはオリジナリティを重視し、独自の工夫が入っていればA、そうでなくても内容がしっかりしていればBという感じです。言語面では、相手に伝わる流ちょうな英語で伝えられているかという視点で、基本をBにし、上手ならA、もう一歩ならCという感じです。間違いがあってもちゃんと伝えようとする姿勢や、言葉に気持ちを乗せることもすごく大事にしていたので、抑揚や休止を設けるなど、伝え方の工夫も評価に含んでいました。
オーラルメソッド
(松山)こちらは筑波大学附属中学校に移ってからのお取組みでしょうか。具体的にどのように実践されていますか。
(高杉)筑波大学附属中学校は、オーラルメソッドの伝統校なので、着任を期にトライしようと思いました。
オーラルメソッドとは、できるだけ日本語を使わずに、実物や写真、動作を見せるなど視覚的な補助をしながら英語の世界を作り上げていき、内容を理解させながらも定着を促していくような教授法です。いま、多くの英語の先生方が使われている指導手順の基本となる、指導の神髄となっているメソッドだと思います。まだ2年目なので、先輩方の過去に行った授業のビデオなどを見たり、実際にご指導もいただきながら、今も試行錯誤で勉強しています。
(松山)高杉先生の今までのやり方と違いはございますか。
(高杉)これまで私は、教科書本文の導入で行うオーラルイントロダクションの部分を私が一方的に言ってしまうことが多くありました。しかしこのメソッドでは、教科書を開く前に、文字を見ずに内容を英語で言えるところまで生徒に言わせていくことがあるので、オーラルイントロダクションの中にインタラクションが増えてきたと思います。
(松山)うまく引き出すのが難しそうですね。
(高杉)視覚的な教材を使いつつ、発問をどう工夫するか日々悩んでいます。
(松山)ちなみに、TBLTは今も続けておられますか。
(高杉)今までの本校のやり方とTBLTの融合方法をいつも考えています。普段の授業はオーラルメソッドに近い形で行い、単元末に自然な流れで入れられる無理のないタスク設定とは何なのか。九段中等教育学校での経験も生かしつつ、新しいものを作り出すための橋渡しを考えているところです。
目指す生徒像
(高杉)英語科教員として、生徒が英語を使えるようにするのは使命だと思います。でも、英語はあくまでツールです。そのツールを使って外の世界で何かに取り組む際、そのときにやはり思考が伴わないと浅い英語になってしまうので、生徒の思考を促す工夫をしています。
(松山)そのために何か取り組まれていることはありますか。
(高杉)ここ数年はずっと、「思考ツール」の英語の授業への導入を追究しています。
例えば、先日、自己紹介を5文で行い、そのうち1文にフェイクを入れるというスモールタスクをやりました。スクリプトは書かずに「くま手チャート」を使ってキーワードだけを書いた半即興スピーチです。単純な自己紹介だけでは、聞く側は漫然と情報を聞き流しがちです。しかしフェイクを混ぜることで、クリティカルに聞こうと集中します。聞く態度を育むための仕掛けです。また話す側も、キーワードを書き出すときに、「何を言ったら相手が驚くか」「何を言ったら相手が面白いか」など、ただの即興には出てこないような「相手意識」を持ちます。それが思考を深めることにつながってるのかなと思います。
(松山)コミュニケーションを大事にしておられるんですね。言語力、思考力、コミュニケーション力の他に、生徒に身につけてほしい力はございますか。
(高杉)「相手意識」と共通しますが、相手を大事にする意識を根付かせることも英語科の使命かなと思っています。やはり異文化の人々とやり取りをするツールが英語なわけで、独り善がりなことをしていたら、絶対どこかでブレイクダウンします。たとえ教室内は日本人同士だったとしても、相手がどう考えているのかを意識した学びを促すことで、海外や異文化の人々と英語を使って交流するときにも、そういう思考に至ってくれることを期待して指導しています。
取材:松山まりな/構成:小林慧子/記事作成:渡邉由佳理