緻密な設計と適度な「ゆるさ」が生徒を伸ばす!

最終更新日:2024年4月9日

今回お話を伺ったのは、福岡女学院中学校・高等学校の坂本 彰男先生です。坂本先生は、4技能教育に2008年から取り組まれ、多聴多読や多話多書など、工夫を凝らした独自の授業を実践されています。授業における4技能教育の具体的な実践方法や大切にしていることについて、お話しいただきました。

インプットはアウトプットの100倍必要

———先生が教育で大切にしていることを教えていただけますか?

(坂本)以下のスライドにまとめてあるのでまずはご覧ください。

———え?! インプットとアウトプットの割合は100:1なのですか? 最近だと「アウトプット重視」の風潮もあるので驚きました。

(坂本)一般的に、アウトプット・インプットいずれかに偏りすぎると良くないことは感覚的にわかると思いますが、ではどれくらいがちょうどいいのか。生徒100名以上の3年分の外部模試結果データをもとに、【インプット(多聴多読の語数)】:【アウトプット(多話多書の語数)】の割合と、ライティングスコアとの相関関係を調査しました。

その結果、インプットとアウトプットが100:1の割合だと、高スコアの生徒が多く、低スコアの生徒が少ない分布になることがわかりました。まだ仮説の段階ですが、この結果をもとにカリキュラムを考え、授業を計画しています。


———具体的にはどのようにされるのですか?

(坂本)アウトプットさせたい語数を算出し、週単位で設計しています。エッセイライティングは、英語が苦手な生徒だと50語を書ければ良い方です。アウトプット約50語に必要なインプットは、100倍の5,000語。リスニング・リーディングを行う多聴多読で扱う音声の読み上げ速度は1分あたり100~150語程度。よって、100語 × 50分(授業1コマ)で5,000語程度になります。つまり、1週間に多聴多読を50分、ライティングを1回行えば100:1。そのため、週に1コマずつ、多聴多読と多話多書(スピーキング・エッセイライティング)の時間を確保し、残りの時間で教科書の学習などを行う設計です。

 

多聴多読(インプット)

———毎週、生徒全員が読むには大量の本が必要となりますね。

(坂本)2023年度に担当している中3の生徒は3クラス計70名程度です。多聴多読に使用する音声付の洋書は、図書館に約6,000冊と情報教室に3,000冊弱あります。難易度は、易しい絵本から長い作品までさまざまです。

———どんな本を選んでいいのか迷いそうですね。

(坂本)本の読み方として生徒たちに勧めていることは、まず、身の丈にあった本を選ぶこと。日本語に訳さずに、頭の中で映像化しながら読んで7~8割以上を理解できるような難易度です。読むときは、文字情報よりも圧倒的に大切な非言語情報にも気を配ること。知らない単語はすぐに辞書を引かず、前後の文脈やイラストから、間違ってもいいからまず自分で意味を考えてみるのが大事だよとも伝えています。

 

———なぜ身の丈に合ったものが良いのでしょうか?

(坂本)ちょうどいいレベルの本ならば、かけた時間に対して理解した上でより多くの量を消化でき、結果的に英語力が向上します(以下の図)。一方、教科書や問題集は、多くの生徒にとって身の丈に合っていません。階段が崖のように急すぎて登れないイメージです。それでは力がつかず、英語嫌いを作ったり英語が苦手になったりしてしまいます。ゆるい階段であれば、時間はかかったとしても誰でも上がっていけるのです。


そう思うきっかけとなったのが、読解力が飛躍的に伸びたある生徒の存在でした。彼女の成長の要因と考えられるのは以下3つです。

この中で私が注目したのは②で、 “clever” を「天才」と類推していた点でした。単語帳の丸暗記なら「賢い」と覚えるのが一般的です。ところが登場人物のセリフ “You are clever.” から自分で考え「天才」という言葉に思い至ることで、単語が自分のものとして吸収されます。その結果、習得が早くなるのだと考えています。

 

豊富な表現活動での個別最適化が飛行機人間を生む!

———多聴多読以外にもインプットの取り組み事例はございますか?

(坂本)高校で実践したリスニングと音読の取り組みはその1つです。テキスト・ドラマ・洋画・洋楽・アニメ・ニュース・TEDトークなどいろいろな音声教材を紹介し、生徒が好きな教材を選びます。さらにリスニング・読み上げの過程で気付いた英語の音の特徴や発音の違いを記録させるのです。この活動に力を入れた生徒は、取り組み前後の約1年で、プレゼン時の発音や流暢さが劇的に向上しました。


この取り組みに加え、授業支援アプリ「ロイロノート」の導入時、試しに歌を録音させたものを提出課題にしてみたこともあります。英語カバーしたJポップのYouTube動画を紹介し、英語の発音解説付き歌詞カードを作成して配布しました。結果、音楽好きな生徒はとても熱心に取り組み、英語の発音もかなり上達しました。

特にハマったのがある軽音部の生徒です。軽音部の仲間と歌ったアコースティックバージョンや元の映像に自分の歌った声を入れて編集した動画など、楽しんで取り組んだことがわかります。話を聞くと、発音が難しいところは何千回も練習したそうです。

 

———先生が目標とされている「飛行機人間」、つまり自分で飛んでいける生徒を育てるとはまさにこういったことでしょうか?

(坂本)そうですね。教科書では到底無理でも、自分が好きな教材であれば何千回でも自主的に取り組めます。興味関心のあるもので学ぶ意味や効果を実感しました。個別最適化ができるのならば、いろいろな教材を選べるようにしてあげたり、今回は歌で次はドラマなどいろいろな方法を試せるのが理想的ですね。ハマる教材は生徒によって違うので、アイデアが湧いたらとりあえず試してみることを習慣化し、授業で使える引き出しを増やすようにしています。

 

多話多書(アウトプット)

———「多話多書」の授業実践はどのようにされていますか?

(坂本)“BACE TALK” と名付けた取り組みをしています。同じトピックでメンバーを変えながら3回話す練習をした後に、最後に文章構成を考えて書く活動です。

1st Roundと2nd Roundは、話し手(B)・聞き手(A)・語数カウント役(C)の3人1組です。3rd Roundは4人1組で、BとA、それにそれぞれの評価者(E)を加えて同じトピックを話し合います。


何度も話した後、PREPやOREOの型に沿って文章構成を考えた上でライティングします。手の動きを3秒以上止めずに書き進めることがルールです。消しゴムや辞書は使わず、取り消し線や日本語まじりでも良い点がポイントです。

(“BaseTalk” 活動での記録例)

———なぜですか?

(坂本)従来のような “Accuracy First” ではなく “Fluency First” で、特に初期から中期の段階はまず、失敗を恐れずスラスラ・ペラペラという部分の育成を重視しているからです。この段階で“Accuracy”に重きを置くと、英語が苦手な生徒はもちろん、得意と思われている帰国生レベルの生徒も萎縮してしまいます。「日本語混じりでもOK」も含め「ゆるさ」を保つことで失敗を恐れずに、気楽な気持ちでコミュニケーションし学び合えるのです。

 

———評価はどのようにされるのですか?

(坂本)ルーブリックに適度なゆるさをもたせています。評価項目が細かすぎると生徒のモチベーションを下げてしまうので、生徒のチャレンジを推奨する採点となるように設定し、生徒に共有しています。たとえば、難しい単語や文法を使おうとした場合に高評価を与える仕組みとすることで、生徒たちはテスト時も含め、より積極的に難易度の高い英語を使うようになりました。

また、客観的事実と主観的な考え双方を盛り込むと高得点となる基準を加えています。生徒の文章がより深みをもち、説明的で実体験を交えた内容になることが多くなりました。

 

———生徒さんに変化はありましたか?

(坂本)ライティングで書ける語数がぐんぐん伸びました。易しいテーマであれば、難なく数百語は書けるようになっています。また、大量にスラスラ書けるようになるにつれ、英語を使う積極性が増しました。事前にテストで出すテーマを提示し、授業で書かせた上で添削された英文を覚えてきて、本番で書いて良いという試験を行った際、当日朝の衝撃体験を即興で400語程度書いた生徒がいました。自信と能力がついてきたと感じました。

生徒たちの授業の感想もご紹介しますね。私が表現活動にこだわる理由です。

(表現活動に注力した学年の生徒たちの授業アンケートより抜粋)

裏を返すと、座学だけであれば、普段仲の良い友達と当たり障りのないコミュニケーションしか取らないということです。表現活動の授業を通して、お互いの理解が深まる人間育成の面があるので、これはもうやらないといけないなと感じています。

ただ、表現活動だけに偏ってしまっては、長期的に見て行き詰まる懸念があります。アウトプットの100倍分、インプットを蓄積した上での表現活動であることが重要だと考えています。

取材・構成:小林慧子/記事作成:松本亜紀

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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