教育トーク : 「理科の実験」のワクワク感で発音練習! ~分野横断的知見を生かした英語教育とは~

最終更新日:2023年6月1日

プロフィール

  • 上智大学 理工学部情報理工学科 教授 荒井 隆行

    音に関わる研究、特に音声コミュニケーションに従事。その根幹には、私たちはどのように音声を作り、またどのように音声を聞いているかという科学的側面への探求があり、言語学(特に音声学)や認知心理学とも接点。言語教育にも貢献し、英語の音がテーマとなっているNHK Eテレ「えいごであそぼ with Orton」の実験監修を2017年から2023年まで務めた。 「声道模型」による音声生成のモデルは、国内外の博物館展示の他、授業や科学教室等、科学教育において活躍中。ICTが進む現代社会においても、音声の役割は重要になってきている昨今、工学応用のみならず、医療分野や臨床応用なども視野に。最近では声道模型を使って発話中の飛沫等の可視化を実現。 (引用:上智大学教育研究情報データベース)

  • こども教育宝仙大学・青山学院大学 五十嵐美加

    2007年~和歌山信愛中学校・高等学校、2012年~慶應義塾大学社会学研究科修士課程、2014年~東京大学大学院教育学研究科博士課程、2020年~東洋英和女学院大学教職・実習センターを経て、現在、こども教育宝仙大学(実践英語担当)、青山学院大学(心理学応用演習担当)兼任。 修士課程在学中、英国オックスフォード大学への留学経験有り。

「発音の指導は難しい」、「指導者としての自分の発音は正しい発音なのだろうか?」、そのような悩みを抱えていらっしゃる先生方は少なくないのではないのでしょうか。児童・生徒たちはもちろん、先生自身も楽しく正しく練習できる方法があれば、日々の教育実践はより効果的で充実したものになるはずです。

今回は、上智大学理工学部情報理工学科教授の荒井隆行先生に、児童・生徒たちはもちろん、先生自身も「理科の実験」をするときのようなワクワク感を持ちながら発音練習できる方法について伺いました。荒井先生は、音声について工学的な見地からご研究を進めるかたわら、英語の音がテーマとなっているNHKの英語教育番組に実験監修を務めるなど、言語教育分野にも多くの業績をお持ちの先生です。

人類が今在るのは音声コミュニケーションのおかげ

(五十嵐)荒井先生は音響音声学や音声コミュニケーションという学術分野がご専門で、英語教育にも関わっていらっしゃいますよね。今日は、これまでのご研究の内容や教育活動の内容を踏まえて、英語の先生方が、心得ておいた方がいいことや、授業実践への示唆をお話しいただきたく思います。

(荒井)子どものころから、音声を含め「音」に関しての興味がありまして、それを自分が職業にするのに際し、まずは最先端のことを学ぼうと上智大学の電気・電子工学科に進むことにしました。上智大学の情報理工学科が現在の所属ですが、当時の電気・電子工学科で培われた教育と研究の土壌は、現在の情報理工学科という新しい学科に受け継がれています。

当時、音声を研究している先生がいらっしゃって、その先生は電子回路がご専門でした。どちらかというと工学系の先生で、声の分野というより信号処理の分野でご活躍でした。先生に出会ってから音声の勉強を進めていくと、音声というのは音の中でも特別なのだということが次第にわかってきました。なぜ特別なのかというと、私たちが生きていく上で(音声に限らず)コミュニケーションというものが欠かせない存在だからなのでしょう。長い人類の進化の過程において、コミュニケーションがあったから今我々が存在しているのだろうというようなことを感じながら、音声の研究をしています。

ところで、実は、日本の中で音声学を先駆的に研究し始めていた大学の1つが上智大学でした。日本で音声学を始めた、先駆けの先生のお一人が千葉勉先生で、千葉先生はイギリス・ロンドンの世界で最も古い音声学研究施設がある大学に留学され、音声学を学び、日本にそれを持ち帰った方です。帰国後に、今の東京外国語大学に音声学研究室を作られ、その後、1950年頃に上智大学に第2の音声学研究室を作られました。私は大学院の時からそこに足を運んで勉強させてもらいました。千葉先生はもういらっしゃいませんでしたが、その流れを汲んだ先生方から多くを学びました。音声学って実は言語学の分野の1つです。上智は文系が強いというイメージをお持ちの方も多いと思いますが、音声学は文系の言語学の分野で、私は理工学部なので、もともとの畑は違うのです。しかし、音声学研究室で文系理系関係なく交流させてもらっていました。

今でこそSiriなどいろんな製品にも音声認識や音声合成の技術が応用され、話しかけるとAIが喋り返すといったことが日常的になっていますが、そこまで到達するのには長い歴史があって、私の大学院時代もなかなかうまくいかないことやむずかしい課題が多い中でその一端の研究を進めていました。それが90年代初頭でしたが、思い切ってアメリカに1年間留学することにしたのです。すると、アメリカの学術機関ではいわゆる文系の先生も理系の先生も一緒になって共同研究をしていて、学問が混ざりあってイノベーションというものが切り拓かれるという現実を目の当たりにしました。

日本に帰国して博士課程を修了した後、上智大学で研究を続けました。当時、日本にはまだポスドクという言葉がありませんでした。ポスドクというのは博士を取った後に研究を続ける研究者のことです。日本でイノベーションやスタートアップ、ベンチャーという言葉がまだ一般的ではない頃に、アメリカでそういうものを目の当たりにして、こんなふうに研究って進むのだということを体感しつつ帰国後の日々を送りました。日本に帰ってきてから日本のシステムと世界の最先端のシステムとのギャップを感じて、日本にいては駄目だと思い、大学の職を辞め、再度アメリカへ修行の旅に出ました。数年経って上智大学の恩師がリタイアするときに戻ってきて、今のポジションに着くことになりました。私が今している研究は、そういった全ての礎の上に成り立っています。

私の研究室では、スタートさせた時から一貫して3つのキーワードを掲げています。1つめは国際。2つめは学際、つまり、学問の垣根を越えてみんなと一緒にやりましょうというものです。3つめが人のためです。人のためというのは、結果的には上智大学の教育精神にも繋がるもので、もともと親の影響で医者になろうと思っていたことも関係しています。この3つのキーワードをモットーに、音響音声学や音声コミュニケーションに関わる教育や研究をしています。

その音響音声学という分野ですが、音響という名前がついていることからもわかるように物理の分野に大きく関係しています。ですので、物理学のこともわからないと、実は音ってわからないし、その音を扱う音声学もわからないはずなのです。日本では特に、音響学を含む物理学と音声学を含む言語学の間に壁があって、両方を一緒に学ぶことが難しいこともあり、私の研究室ではそれをとっぱらって一緒に学んだり研究を実践したりしています。

音声コミュニケーションといっても、文系理系の両方にまたがっていて非常に幅があるので、学問の垣根を越えて広く教育・研究を行っています。文系寄りのこともやっていますし、理系的なこともやっています。例えば、機械学習を使って病気の音声を識別するようなことも取り組んでいますし、一方で英語の発音について英語教育に関わるようなことも行っています。模型を使って、人間がいかに音声を発しているかを追究するようなことも大きな研究の柱であり、最近では国立民族博物館において発声時の肺のモデルや声の通り道である「声道」の模型の展示も行い、それに付随して、子どもたちが模型を作るワークショップも開催しました。

NHKの英語教育番組の実験監修もその延長にあるものでした。NHKがEテレで英語の発音について特化した幼児向け番組を作りたいということでお声がけいただいて、それが実験の監修をさせていただくきっかけとなりました。英語の発音をいろいろな道具を使って学んでいくストーリーを展開させていくことになったわけです。

「ライオンマスク」を使えばLとRの発音の区別も簡単に

(五十嵐)学術的な知見を踏まえて子どもが楽しいと思えるものをつくるのはなかなか大変ではないでしょうか。実験の監修において、これは一番面白くできた!というコンテンツを教えていただけますか。

(荒井)2017年から6年ほどレギュラー番組として放映されましたが、いろいろなことをその番組の中で試しました。例えば、よく言われる点ですが、日本語を母語としている私たちはRとLの発音には非常に苦労しますよね。どうやって子どもたちに発音の気づきを与えられるかということで、Lは、ライオンマスクというものを作ろうということになりました。Lってそもそもどのように音を作っているかというと、舌の先が上がっていて、その脇はあいています。その動きや形からあの音が出てくるんだという話をしながら、横が空いていることを示すためにそこに棒を通してみようということになりました。ライオンがLから始まる単語であることから、ライオンのマスクのような装飾をして、「ライオンマスク」としました。登場人物の博士の発明した道具ということで、子どもたちがそれを試して音を出してみたり、その道具を子どもたち自身でも作れるように工夫してみよう、ということになりました。

Rも同じように、私のアイディアがベースになったもので、Rは舌が反り返っているので、ビーズ玉を紐に通して、それを舌ですくいながら引っ張るような仕掛けにしようということになり、Rの道具ができました。そういったものを実際に作って、番組で子どもたちが試してみて、発音がこうなっているのかと気づきをもってもらうことができました。

また、そのNHKの番組から「こうさくブック」というものも生まれました。講談社さんから出版されていますが、4つぐらい工作をしながら、子どもたちが実際に作ったものを使って発音の練習できるような本になっています。

(五十嵐)テレビだからできるようなものではなくて、家庭や学校でも取り入れることができるような学び方というか、勉強というよりも楽しみながら気付いていくようなコンテンツなのですね。現場の先生方や英語を頑張ろうと思っているご家庭に大変参考になりますね。

▶ えいごであそぼ with Orton えいごの音だせるかな? こうさくブック

音楽経験がある人の方が外国語を上手く話せる!?

(五十嵐)近年、教科横断的な指導についての話題が学校現場以外でも話されていて、分野横断的にやっていこうというようなことが言われています。例えば私は、国語と英語の連携が一番実施しやすそうだと感じていて、そこに関心があるのですけれども、一方で、同じ音というくくりで、音楽と言語学、音声学、外国語習得というところで、何か連携や繋がりはあるのでしょうか。よく現場の先生たちがやられているのは、洋楽を英語学習に役立てるとか、外国語のリズムと母語のリズムを比較させて、それを意識化させて、リズム感を鍛えたり。先生のご専門の立場から、その分野横断的指導に対する示唆はありますでしょうか。

(荒井)分野横断については私も常に考えています。音楽と英語、音楽と国語、理科と英語、理科と音楽など、全てに何らかの共通性があるので、その中で何か新しい学びはあると思っています。歌には、言語的な側面が当然ながら入ってきます。音楽的な芸術性もそうですし、さらに音響という物理学の側面もあります。音はどうやってできているのかというと、振動があって、それが空気を伝わって、耳に届くというプロセスです。その物理的な振動というのは人間の体でいうと、まず声帯で振動が生まれて、そのためには肺についての話も必要で、そうすると体のつくりを学ぶ理科の部分も入ってきます。肺の機能として呼吸というものがあり、呼気によって声帯が震え、それが声道で共鳴します。その時に舌や唇、鼻などの動くところを動かしながら歌詞を乗せつつ、同時に声帯の振動数を変えてメロディーを作ります。そこには発声や発音・音声学、そして日本語や英語など、様々な側面が相まって、最終的に歌になります。つまり、歌を歌うということは非常に複雑なプロセスが人間の体の中で行われていて、いろいろなことが関係しています。それはまさに分野横断ということになると思います。

リズムに関連したところでは、NHKの番組でもチャンツを取り入れ、そして発音やジェスチャーとも結び付けた試みも行いました。例えば、曖昧母音という、”e”がひっくり返ったような発音記号が英語の辞書にたくさん出てきます。物理学で言えば、何の狭めもないまっすぐな筒の端から音源を入れることで、曖昧母音に近い音を出すことができます。この曖昧母音は、日本語母語話者にとってすごく難しい発音とも言われています。これを体全体で表現してみようという回がありました。”あ”でもない、”う”でもない、その中間のような音をどのように出すか、そのために口の開きを体で表現したのです。

(五十嵐)実は国際教育ナビでは、国際的に活躍なさっているピアニストの方に近々取材をする機会がありまして、音への解像度が高い方って、ものまねがお上手だったり、リスニングやスピーキングがお上手な印象があるという方がいらっしゃいます。私自身は個人的にはあまりそういうことは思ったことはないのですけどね。例えば、無意識に音声や音韻を把握して再現する能力が高かったりすることが、もしかしてあったりするのでしょうか。

(荒井)幼い子どもは、口の形がどうのこうの言わなくても、聞いた音を再現する能力に長けています。それは生まれながらにして持った能力で、大人になるに従ってその能力が失われていきます。ですので、子どもの方が発音の習得が早いなどと言われますが、大人になったらもう駄目なのかというとそうでもなく、大人になってからはむしろ理屈を説明しながら、そして繰り返し練習しながら発音を身に着けることができます。しかし、子どもたちは大人のように多くの訓練をしなくても、音を聞いているだけで口の中がどうなっているのか説明しなくても再現することができるので、圧倒的にその点は子どもは大人とは違います。

NHKでの番組作りの中でも特にそのあたりのことは意識していて、子どもには気づきを与えて、そうすることによって子どもたちが自ら発音を習得することを見守りました。今では小学校でも英語が教科になりましたが、先生が必ずしも英語の発音に自信がないということも少なくないというのが現状だろうと思います。それについて色々と私も思うことはあります。発音は大事ということは一貫した主張ではありますが、それと同時に伝えたいことを伝えるというコミュニケーションの本質も大事だと思っていて、発音を気にしないでどんどん喋ることも大事だという両方の側面があると思っています。

話を戻して、音楽と語学の関連についてですが、私は3歳ぐらいからヴァイオリンをやっていたおかげで、音に対しては敏感な耳を持っている気がしています。聞いている音と自分が発している音を聞き比べて、自分の音を修正するということが自分の中で比較的できるほうだと思っています。音楽家の耳の一つの特徴として、常に自分が演奏している音を聞きながら自らの音をモニタリングしていると思うので、それに関しては、一般の方々よりも長けているケースも少なくないと思います。発音を習得する上でも、音楽の経験が役立つというのは、いろいろな研究のデータからもしばしば言われています。例えば、音楽家かそうでないかで分けて結果を分析すると、差が出る場合があることがあり、音楽家とそうでない方々の間には耳や脳に違いがあるようです。

(五十嵐)音楽をやられている方とそうではない人で外国語のパフォーマンスが異なるというお話がありましたが、具体的にどういったところに見られるのでしょうか。

(荒井)いろいろな面においてかもしれないですね。音声をいくつかの要素に分けて考えると、まず発声と調音があります。私たちは発声において喉を調節して声を出し、同時に口や唇等を動かし調音をしています。そのうち、例えば声の高さは前者に関係しています。また、時間的な要素にはリズムがあります。リズムというものもいろいろな定義がありますが、英語らしいリズムと日本語らしいリズムはやはり違いがあります。また、強弱や音色も重要です。日本語のアクセントは主に声の高さがそれを担っていますが、英語のアクセントでは強勢が大事であり、高低もさることながら強弱や母音の「音色」もアクセントの有無で変わってきます。

このように高低や調音、リズムやアクセントなどと細分化していくと、音声にはいろいろな側面があります。それぞれにおいて、音楽家は高低や長短、強弱や音色などを聞き分けたり、演奏においてコントロールすることに慣れていると思います。

(五十嵐)実は、私が少し調べた範囲では音楽の熟達度と言語の熟達度の関連性があるという論文や研究が見つけられなかったのでお聞きしました。リズム感についてや、洋楽を取り入れることによる動機づけについては関連がありそうということはわかったのですが、純粋に楽器が熟達していて音感がいい、演奏が上手という人と、言語習得というところにあまり関連性が見いだせませんでした。例えば、言語を考えたとき、手話は音声は要素の中にありません。ですので、言語の本質のところから、音声は外れるのではないかと思っていて、そこは言語習得に決定的には関わってこないから研究が進んでいないのかということも考えたりしました。

赤ちゃんは言語獲得するときに、言語音と非言語音を明確に分けて獲得していくので、そういう意味でも楽器の音と言語の音は違いますよね。しかし、独立変数を音楽経験、従属変数を外国語のパフォーマンスに置いたときに差が出るという知見があるということなのですね。

(荒井)そうですね。もちろん音声と音楽は違うので、常に同等に取り扱うことはできませんが、相関はあるものと思います。

詳しく研究することによって音楽経験者の中でも、ヴァイオリンを演奏する人とピアノを演奏する人では違うこともあるでしょうし、個人差もあります。また、人によってバックグラウンドが様々あると思うので、そのあたりはひとくくりには言えないですよね。

教科書の口腔断面図ではわかりづらい・・・立体模型で解決!

(荒井)この辺で、さきほどお話しした模型の実物をお見せしたいと思います。これが肺の模型です。横隔膜があって、横隔膜を下げると肺が膨らんで、横隔膜を上げると肺がしぼんで、空気が出て、声帯を模したゴム膜があるのでブーという音が鳴ります。さっき話した日本語母語話者が不得意な曖昧母音というのは、このような真っ直ぐな筒で実現できます。これらを組み合わせて鳴らすと曖昧母音が聞こえます。英語で曖昧母音を習得することは非常に大事なのですけどね。

これはトロンボーン式の声道模型で、よく子どもたちに工作してもらうものです。

その進化版で、こういった模型があります。ここに舌があって、指を入れて動かすこともできます。音も鳴ります。こういったものを組み合わせると、例えば英語のRの音は舌を反らす、Mの音は口を閉じるなどを再現することができます。よく英語の教科書に断面図が書かれていますが、断面図だとよくわからないということもあります。それが3次元の立体的な模型になるとわかりやすいですね。

鼻に通じる弁もあって、鼻に通じる弁の開き具合をこのダイヤルでコントロールできます。これを開けると、ちょっと鼻にかかった音になります。

Rのときは、舌を反らせます。そうすると、Rっぽい音が出るのですけど、Rを作るときに実は唇を少し丸めます。唇と舌を連動させて動かすと、Rの響きの度合いが増すのです。ですので、Rのコツとしては唇を一緒に動かすということです。さらに、実はRには2種類あって反り舌のR以外に、盛り上がり舌のRというものがあって、舌の奥の方を盛り上がらせてもRの音になります。ネイティブはそれをどちらも使っていて、そのことについて研究もいろいろとされているものの、英語教育の中ではそこまで取り扱われていないのではないかと思います。

(五十嵐)物理的な模型で見るのと、断面図のイラストで見るのでは、受ける印象が全然違いますよね。

(荒井)それをどうにかして皆さまに届けたいのですけど、なかなかそれが実現できていません。が、これから少しずつ進めたいと思っています。

大事なことは「方言を含めて色々な英語を聞くこと」と「標準的な英語の発音を目指すこと」

(五十嵐)最後に現場で英語を教えている先生たちに、何かメッセージをいただけたらと思うのですがいかがでしょうか。

(荒井)私の専門は音ですので、音に関することになりますが、発音は大事かどうかということに関して、いろいろと私自身もジレンマを抱えながら過ごしております。どう勉強したらいいのか、どうやって教えたらいいのかということを考えたときに、私が自分の中で納得しているアプローチの仕方は、次の通りです。聞くときはいろいろな発音を聞くことが大事であるということと、自分が話すときの発音は一つの体系に揃える方が良いだろうということ。これが、私自身の答えです。

英語のテストを受けると、いろいろな英語の発音やアクセント、方言など、いろいろなものを聞くと思います。いろいろな英語が世の中にはあり、最近の表現で言うと、World Englishes、世界の英語たちと表現されますが、英語は1つではなく、いろいろな英語がありますので、それらを聞くことはとても大事だと思っています。自分が英語を話すときに、どの発音にしたらいいかと迷うと思いますが、発音するときには自分で1つの英語を選んでそれを練習するのがいいと思います。私の場合は、話すのはアメリカ英語にしているのでアメリカ英語を軸に発音しています。一方、聞くものは必ずしもアメリカ英語ばかりではないというのが実際のところです。いろいろな英語に触れてもらえればと思っています。

(五十嵐)教育現場だと、アメリカ英語の音声が中心で、私も英語の教科書の制作に携わることがありますが、できるだけアメリカ英語・イギリス英語以外の発音が入っている動画を使ったり、英語を公用語としない国の子どもたちが頑張って英語を話している動画を取り入れたい思いがあるのですが、出版社の規定で、アメリカ英語でお願いしますと言われてしまって。World Englishesや多様性を認めていこうという社会の動きやインクルーシブの観点との齟齬を感じています。

いろいろな英語を聞いていくことが大事だけれども、発音自体は一つの体系に揃えて、例えばそれが標準的な英語であればそれを目指して、その英語との差異をなくして、発音を良くしていくことが大事ということには全く同感です。また、英語の先生にはきちんと標準的な発音を獲得してもらいたいという思いはあります。小学校英語など、最初の導入期は一番教育で大事なところですので、そこでいわゆる「発音がよくない先生」に教わってほしくない、熟達した人に教わって欲しい、と思います。

(荒井)私は発音を専門として、発音の部分はしっかり教えていきたいというふうに思っています。私の研究室にいる学生は、文系出身者も理系出身者も混在していますが、英語の先生になっている人も複数います。英語の先生になっている私の教え子はその多くが発音に興味を持っているので、発音を教えているケースも少なくありませんが、いろいろと苦労はあるようです。全国的にも、なかなか発音自体を教えられる先生も多くはないというのが現状だと思います。私が理事を務めている日本音声学会でも同じような議論があり、音声学の先生が英語の先生方に発音を教えるような活動も地道に行っています。

私も、発音に関しては大事ですよとお伝えしたいと思います。発音がうまくいかないときに、どういうようなミスコミュニケーションが起きるか、あるいはそれが発展して、実際に不利益を被るような場面もある訳で、そういうときにどうやって乗り越えていくかというようなことを、自分の経験も踏まえて何かフィードバックできたら嬉しいなと思っています。

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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