ファシリテーターとしてのマインドセットを実践的に学ぶ!「教育ファシリテーター」養成プログラム

最終更新日:2024年9月17日

2024年7月14日(日)、一般社団法人グローバル教育推進プロジェクト(GiFT)が開催する「教育ファシリテーター」養成プログラムが開催されました。このプログラムは、GiFTが文部科学省令和6(2024)年度ユネスコ活動費補助金(SDGs達成の担い手育成(ESD)推進事業)の採択事業の一貫で実施。教員をはじめ教育に携わる人々を対象としており、自身の意識や行動、教育観をアップーデートしながら変容的な体験を積むことにより、学習者の共創と変容を促す学びのデザインができる「教育ファシリテーター」となることをねらいとしている実践的なプログラムです。会場はとてもアットホームな雰囲気で、グループセッションでは次から次へと対話が進み、トークが止まらなくなっていたチームもありました。

「変容を促す場づくり研修」の概要

「教育ファシリテーター」養成プログラムは、「変容を促す場づくり研修」「気候変動・多文化共生をテーマとした変容・共創フィールドワーク」「成果報告会」の3つの研修で構成されています。今回取材したのは、その第1回となる「変容を促す場づくり研修」(2日間)です。

主催者であるGiFT代表理事の辰野まどかさんに、養成プログラムを開催した目的について伺いました。

「このプログラムでは、参加者の方に、チームで協力しながら共創と変容をテーマにさまざまなアイデアを出し合っていただきます。チームで立てた探究の問いを一緒に追求し、授業の現場などでどのように生かせるかを考えていきます。そして、実際に試してみた成果や、自分自身に起きた変容について、最後の成果報告会で共有してもらうという流れです。研修で体験して終わりにするのではなく、体験したことをしっかり発信し、変容する社会の中でのファシリテーションの重要性や必要性を、他の先生方にも共有いただきたいと思っています。そのために、まずご自身に体験していただくということを大切にしています。探究学習やインタラクティブな授業をするときに、どのようなマインドで取り組めばよいか迷っている先生や、変容する社会の中で教員としての在り方をもう一度見直したい方に受けていただきたいです」(辰野さん)。

取材にうかがった日の研修は、2日間のプログラムの1日目であることもあり、導入的講義からスタートし、対話を交えたファシリテーションについて深めるワークショップ、関係性を深めるワークショップなどを含めた盛りだくさんの内容でした。

特に導入となった講義では、GiFT理事で研究統括の木村大輔さんから、昨年11月にユネスコで改定された「平和と人権、持続可能な開発のための教育に関する勧告」(新教育勧告)についての話題提供がありました。新教育勧告につながるこれまでの教育の方向性の変遷や、これから必要となる「変容を促す教育」とはどのようなものなのかを深めていくことで「教育ファシリテーター」養成プログラムの根幹部分の理念につながる教育の全体像について参加者のみなさんは理解を深めていきました。

また午後のスタートでは、「教育ファシリテーター」とはどんな人なのか、変容と共創を促す場をつくる鍵となるポイントについて、GiFT理事でシニアダイバーシティ・ファシリテーターの鈴木大樹さんから問いが投げかけられ、参加者は、お互い対話をしながらその問いに対する回答を言語化し、自分なりの「教育ファシリテーター像」「場づくり」の理解を深めていきました。

先生自身が体験するワークショップ

その後のワークショップでは、「自分の人生をひもとくことからお互いの関係性を深める」をテーマとしたストーリーテリングのワークショップ「Diversity Dialogue」が行われました。

このワークショップも含め、研修全体のキーワードは「先生自身が体験する」です。「教育ファシリテーター」養成プログラムでは、ただ講義を聞くだけではなく、ワークショップで体験したこと、そこからの学びをを持ち帰り、実際に授業などで実践してみることを大切にしていました。

GiFTでも多くのプログラムで導入し、大切にしているワークショップとのことでしたが、自分のストーリーを共有し、聴き手に全身で受け止めてもらう、そして相手のストーリーも全身で受け止める、そのプロセスを通じて共感で繋がることについて深める機会となっていました。自分にもこんなにおもしろい話があったのんだと気付けるだけでなく、自分の話を聞いてメッセージをもらえるとうれしい気持ちにもなります。聞き手側も、質問を挟まず「ただ聞く」ということが相手を深く知る・受け止めることにつながるということに気付けたワークショップでした。

<参加者の感想>

・自分をメタ認知できた。つい、相手が話をしているときに口を出したくなってしまう自分に気付き、実は生徒にもそうしてしまっているのではないかと思った。
・生徒に相談されると、良い方向に進むように導こうとしてしまうが、共感を意識すると気持ちよく話を聞けた。
・うんうんと頷きながら聞くと、話し手が気持ちよく話をしてくれるのがわかった。途中で質問していたら聞けなかった話も聞けたような気がする。

教育ファシリテーターが常に意識したいこと

1日目の最後には、「安心安全な場を作る」「深く聴く(Stillness/静寂)エクササイズ」「リフレクションについて」をなどをトピックに、教育ファシリテーターについてさらに深めていく対話の時間となりました。

講師の鈴木さんからは、Diversity Dialogueでも意識した「きく」を深める3つの「きく(聞く・訊く・聴く)」についての話がありました。表層的に「聞く」のではなく、意識的に質問をして理解をしていく「訊く」、さらには相手の話を受け止め共感する「聴く」を意識することが、ファシリテーターとして安心安全な場づくりには大切であるという話に、参加者たちは普段の自分たちの「きき方」を振り返る機会を得たようでした。

さらに「きく」に対して意識的になる体験として、短い時間でしたが、小グループに分かれて深く聴くエクササイズも行い、「聴く」に徹することを観察することでの気づきについて参加者から以下のような共有があり、体験からの学びが言語化されていく様子もとても印象的でした。

「傾聴の経験をして、質問したいことがあったけれどぐっと押さえて聴き続けることの難しさを感じた。生徒にもつい聞いてしまっている自分にも気づいた。」
「話してくれた人が話題に対しての想いをそのまま語ってくれた中、いつも質問をどんどんして聞いてしまうタイプだけど、今日はぐっと我慢して聞くに徹してみたところで、いつもなら聞けなかったかもしれないような話が聞けた。聞くということは難しいけれど、それが持つ力も感じることができた。」

取材を終えて

今回の研修には30名ほどの方が参加しており、皆さんが真剣に耳を傾けている姿が印象的でした。とくに、第3部のストーリーテリングではセッションが盛り上がり、予定時間を大幅に超えてしまったほどです。

メイン講師を務めた鈴木大樹さんに、この日の研修についてのお話を伺いました。

「今日の研修では、ファシリテーターとしての在り方について探究するワークがメインでした。もちろん、スキルを身に付けることも大事ですが、人前に立った時に最も問われるのは、その人のファシリテーターとしてのあり方であり、人間としての佇まいです。仲間との対話を通して、引き続き、自身の在り方を探究し続けていってほしいです。そして、こういう場に参加をして学ぶ際のポイントは、研修の内容以上に、ファシリテーターのあり方、つまり、それはファシリテーターの姿勢や表情、アイコンタクト、声のトーンやスピードや間、指示を出すタイミング、身振り手振り、立ち位置、参加者とのやりとりの仕方や関わり方、存在感の出し方や消し方etc、要は、場のホールドの仕方になるのですが、言語化がしにくいそれらの部分を体験として掴むことが大切かもしれません。

在り方を深めていくのに一番いいのは、同じような現場で頑張っている人同士の横のつながりから学ぶことです。ファシリテーションもコミュニケーションです。周囲からいくらでも、学んでいくことができます。志を共有する今回の場を経験した仲間たちが横でつながることによって、ずっと学び続けられるので、ぜひ頑張ってチャレンジし続けてほしいですね。繰り返しになりますが、今日お話した「きく」というのも、コミュニケーションの方法として特別なことではありません。普段、自分自身がどのように聞いているのか、何を聞こうとしているのかを意識することで、新しい気付きや学びを得られると思います」(鈴木さん)。

研修終了後、参加した方に感想を伺ってみました。

「学校の教員は外部との関わりが少ないので、定期的に他の教員や異業種の人々が集まる場に参加して、新しい教育のヒントを得るようにしています。探究的な学びでは、学びの場が教室だけでなく社会にも広がっていますし、視野を広げたいとも思い参加しました。」

「ファシリテーターとしてのスキルを学び直し、現場の同僚にも広めたいと思い参加しました。今日話に出たチェックインチェックアウトは、自分が担当しているクラスにも取り入れていますが、そういった時間を設ける意義や働きかけのポイントにあらためて気付くことができました。教員になってから1~2年目は授業をつくることで精一杯ですが、学級経営をしていくときには、このような場づくりの研修が役立つと思うので、若手の教員たちにもぜひ受ける機会を持ってほしいと思います。」

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