「自分を語れる生徒」を育てるために――チームで創りあげる6年間のカリキュラムとは

最終更新日:2026年1月30日

生徒一人ひとりの主体性や学力を伸ばしたい――そう願いながらも、教員同士や教科内での方向性のずれに悩む先生も多いのではないでしょうか。追手門学院中・高等学校 英語科主任の小林友希先生は、各教員の強みを活かしながら英語科のチームづくりを進め、「自分を語れる生徒」を育てるため、6年間のカリキュラム改革に取り組みました。今回は、小林先生に、チームづくりの工夫や改革に至った経緯、そして6年間のカリキュラムの全体像についてお話を伺いました。

「自分を語れる生徒」を育てたい

――まず最初に、先生ご自身の教育において、大切にされている「育てたい生徒像」について教えてください。

(小林)「自分とは一体何者か、自分がどのように社会に貢献できるかを具体的に語れる生徒」を育てたいと考えています。そのための手段として、英語ではパーソナルエッセイを書けるようになることを目指しています。

自分をしっかり持つことは、人生において必要な非認知スキルです。自分の意見があってこそ、初めて他者と協働することができます。また、自分が幸せになるためにも、自分自身を知ることは大切です。幸せの感じ方は人それぞれで、他者に何かをしてもらって、つまり“take”して幸せを感じる人もいれば、逆に他者に貢献して、つまり“give”して感謝されることで幸せを感じる人もいます。だからこそ、生徒には、自分をしっかり持ち、何が自分を幸せにするかを理解したうえで行動を起こせるようになってほしいと願っています。

英語科全員で描く、6年間の学びの地図

――英語科では6年間のカリキュラムを作成中と伺いました。どういった経緯でカリキュラム作成に取り組み始めましたか。

(小林)組織として一貫した教育を提供するためには、目指すべき方向を明確にした方がよい考えたことがきっかけです。昨年度、本校に赴任し、私立校では専門分野に長けた先生が多く、教員一人ひとりの専門性や経験が授業に生かされている点に大きな特色を感じました。

また、教科会で「学力の定義」を話し合った際、授業だけでなく、先生ごとに考え方も大きく異なっていることにも気づきました。たとえば、文法知識、外部試験のスコア、コミュニケーション能力に加え、問題解決能力、問いを立てる力、自己の学習を調整する力、メタ認知できる力など、非認知能力にもフォーカスした多様な意見が挙がりました。

せっかく高い専門性や豊富な経験を持つ先生方がいるのに、週1回の教科会が一方的な伝達で終わってしまうのは、すごくもったいない。互いの考えや実践を共有し、議論を生み出すことで、週1回集まる意味を持たせたい。こうした想いから、議論を重ね、英語科として見えてきた課題を整理していくうちに、「英語科としての柱」となる6年間のカリキュラムをつくろうという流れが自然と生まれました。

そして何よりも、それを実現できると感じられたのは、昨年度1年間を共に過ごした同僚の先生方の存在があったからです。「このメンバーならきっとできる」と思えたことが大きな後押しになりました

――どのようにカリキュラムを作成し始めましたか。

(小林)大まかに言うと、3つの段階がありました。第1段階は下準備としてのチームづくり、第2段階はカリキュラムの最終ゴールと各学年の目標設定、第3段階は定量的・定性的な柱づくりです。

1.チームづくり

英語科内教員一人ひとりの熱量をそろえるため、チームづくりから始めました。まず意識したのは、日常的な対話を重ね、互いの状況を公私共に理解し合える関係をつくることです。そのうえで、昨年度末、先生方に英語科としての課題をヒアリングし、出てきた課題をもとに4つの柱(プロジェクト学習、評価、学力と教科内研修、国際交流と渉外)を設定。自発的に取り組んでもらうため、それぞれの関心に合わせて4チームに分かれ、ローテーションで教科会内の研修を担当する形にしました。こうした仕組みをつくったことで、受け身になりがちだった教科会に議論が生まれ、先生方が自分事として動ける下地を築くことができました。その後、4チームの上にカリキュラムチームを設け、全体の方向性を議論しています。

また、年に3回ほど振り返りの時間を設け、各先生が自分の貢献度、部門目標の進捗、今後の挑戦について共有しています。その中で、それぞれの「やりたいこと」や得意分野を把握し、強みをどう活かすかを常に考えるようにしました。そうした積み重ねがあったからこそ、英語科全員で力を合わせ、同じ方向を目指して進められるようになったのだと思います。

2.カリキュラムの最終ゴール決め&各学年の目標策定

カリキュラムの最終ゴールとして「自分が何者かというテーマでエッセイを書けるようになること」を掲げています。

この目標を設定した理由は3つあります。1つ目は、エッセイライティングが大学でも必要とされるスキルであること。2つ目は、英語で自分自身を深く表現できること。3つ目は、成果を測定可能なアウトプットとすることです。

カリキュラムの最終ゴールを定めたうえで、6年間の流れを見通して各学年の目標を設定しました。本校は高入生も多いため、3年サイクルを2回繰り返す形で、「自分→他者→自分」という流れでそれぞれに向き合うようにしています。

1年目:自分を知る
2年目:他者に目を向け、他者と社会との協働を通して世界を知る
3年目:集団の中で、自分とは何かを再確認し、確立する

このように設定したのは、生徒が「自分は“Global Citizen”である」と自覚することが重要だと考えるからです。学びの過程で、ローカル・ナショナル・グローバルという3つの視点を意識させます。どの視点で花開くかは生徒によって異なりますが、どの段階でも「自分は何者か」を語れなければ行動にはつながりません。だからこそ、自分を起点に他者や社会と関わり、再び自分に戻ってくる――この循環を3年ないし6年間で体験できるようにしました。

3.定量的・定性的な柱づくり

最後に、カリキュラムの最終ゴールや各学年の目標を踏まえて、定量的・定性的の両面から柱を設定し、どの学年・どの時期に、どのように育成していくかを具体的に整理しました。

定量的な柱は、語彙力や読解力、外部試験のスコアなど、測定可能で基礎学力に関連する部分です。一方で、定性的な柱は、創造力や対話力、決断力・判断力、思考力、学ぶ力、自己理解、思いやりといった生徒の非認知スキルに関わる部分です。定量的な学力の到達を、定性的な学びにつなげることを意識し、両立と接続を図っています。

たとえば、高校1年生のこの時期に「自己理解力を鍛える」ためのプロジェクトを設定します。英語科全体でそのプロジェクトを共通認識として持ち、そこに向けて必要な基礎学力やスキルを授業を通して段階的に育てていく、というイメージです。

プロジェクト活動で育む生徒の主体性

――御校では活発にプロジェクト活動が行われていると伺いました。どのような取り組みをされているのでしょうか。

(小林)本校では、高校創造コースと2024年度以降に入学した中学生は、考査期間中に行う定期プロジェクトに取り組んでいます。生徒たちが自ら考え、行動する力を養うことが目的です。

このプロジェクトは、学期ごとに実施する教科横断型の活動で、たとえば「歌づくり」プロジェクトなど、学年全員で協力しながら一つの課題に取り組みます。また教科内のプロジェクトでは、各教科の授業内で行われているPBL(プロジェクトベースラーニング)で、学びを深めたり、アウトプットするような活動を行います。さらに、定期考査を設けず、その期間をプロジェクト活動に充てることで、定期考査だけでは測れない、生徒の主体性や協働する姿勢などを育みます

私の学年は、中学1年生の時からさまざまなプロジェクト活動に取り組んできました。プロジェクト後のリフレクションシートでは、生徒が驚くほど豊かに自分の考えを言葉にできるようになっています。継続して取り組む中で、自分を俯瞰する力や振り返る力が確実についてきていると感じます。今後は、学年が上がるにつれて知識量も増えていくので、こうした非認知スキルと知的理解が両輪となって、より深い学びにつながっていくことを目指したいです。

――そういったプロジェクト活動も6年間のカリキュラムに取り入れていくご予定でしょうか。

(小林)もちろんです。現在は、プロジェクト活動は教科のカリキュラムに正式には組み込まれていませんが、今後はカリキュラム内に位置づけていきたいと考えています。そうすることで、教科とプロジェクト活動が同じ方向を目指して連動できるようになります。現在は、まず英語科でその調整を進めているところです。

また、本校では、「丸郷活動」という、異なる学年で構成された班での活動があります。その仕組みを使って、中学校全体で年間を通したプロジェクトを展開してみたいと考えています。丸郷活動に充てる時間や、英語の時間割を柔軟に調整することで、時間を確保する予定です。本校は英語の時間は週5時間と比較的多く、中学は3クラス体制で時間割の融通が利きやすいため、こうした活動を実現できると考えています。

――今後の展望について教えてください。

(小林)英語科が先行モデルとなって、他教科のカリキュラム改善を学校全体に広げていくために、2つのフェーズを想定しています。フェーズ1では、英語科内で現在策定中のカリキュラムを進化させることを目指し、完成させた雛形を実際の授業で試行し、振り返りと改善を重ねていきます。12月には、英語科で公開授業を実施しました。中高の7クラスを公開し、科としてのビジョンを見据えた教育モデルを外部に発信しました。

フェーズ2では、全教科に6年間を見据えた(実際は3年×2回)カリキュラムを広めていきます。2026年度からの展開を見据え、今年度は下準備として、表現科とコラボレーションしたワークショップを計画中です。このワークショップでは、本校が大事にしている「コンピテンシー」を教員自身が体で体験し、理解することを目的としています。教員自身ができないものを生徒に求めるのは違うと考えるからです。たとえば、「共感力」であれば、どうやって「共感すること」を伝えられるか考え、頷いたり微笑んだりしてみるということです。こうした取り組みを通して、「学び方そのものにさまざまな形があり、生徒は学び方を選択できる」「教員はその学び方の選択肢を提示できる」という考え方を共有したいと考えています。

取材・編集:小林慧子/記事作成:大西菊美

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