英語力だけでは、未来を切り拓けない――生徒の「グローバルマインド」を育む、東京家政大学附属女子中学校・高等学校のGCP実践

最終更新日:2026年2月27日

「これからの時代、生徒に本当に必要な力とは何か」。変化の激しい社会を前に、多くの先生方が自問されているのではないでしょうか。 東京家政大学附属女子中学校・高等学校では、「25歳の理想の私」から逆算して学ぶキャリア教育「ヴァンサンカン・プラン」を軸に、新たな国際教育をスタートさせました。 語学力の習得にとどまらず、異文化の中で自分と他者を尊重しながら生きるための「グローバルマインド」を育てる同校の挑戦。その背景と授業の実際、生徒たちの変化について、国際教育支援部部長の岩川直子先生にうかがいました。

▲ヴァンサンカン・プラン

「業者任せ」から「学校同士のつながり」へ。ゼロから再構築した国際教育

――コロナ禍を経て、貴校の国際教育は新たなフェーズに入ったとうかがいました。

(岩川) はい。コロナ禍で海外研修がすべてストップし、更地になったことを機に、これまでの旅行業者さん任せのプログラムから、学校と学校が直接つながる関係性重視の形へと再構築しました。 具体的には、系列大学のネットワークがある現地の大学や、私の友人が親子留学でお世話になっていた学校など、確かな「縁」をたどりながら、私が直接現地へ挨拶に行き、交渉を行っています。あくまで「信頼できる人の紹介なら」とお互いに思えるような、顔の見える関係をベースにすることで、何かあったときにも再開できる強いパイプを作っている最中です。

――先生ご自身が現地と向き合い、関係性を築かれているのですね。その中で導入されたGCP(Global Competence Program)ですが、これはどのような経緯で選定されたのでしょうか。

(岩川) 実はもともと、IB(国際バカロレア)の導入を検討していた時期がありました。IBのコンセプト自体は今の時代のニーズに非常に合っていて魅力的なのですが、評価の出し方などを日本の教育制度と親和性を持たせるのが難しく、現場の運用面で負担が大きいという課題があったのです。 そこで、「世界の中でどう生きるか」というIBに通じる視点を残しつつ、日本の学校現場にフィットした形でグローバルマインドを育てられないかと模索しました。その結果、本校の理念とも接続しやすく適しているという結論に至ったのがGCPでした。

注)GCP(Global Competence Program)とは
教育サービス機関であるISAが、OECD(経済協力開発機構)の提唱するキー・コンピテンスの概念に基づいて開発したグローバルリーダー育成プログラム。日本の生徒に適したグローバルコンピテンスの在り方を追究し、Student Centered Learning を通じて、グローバルマインドの醸成を図ります。具体的には、以下の6つの領域を学習していきます。

▲GCPプログラム概要

「言葉の壁」以上に立ちはだかったもの――ニュージーランドでの気づき

――プログラム選定の際、「生徒たちにこの力を身につけさせなければ」と痛感された原体験などはありましたか。

(岩川) 以前、引率したニュージーランドでの語学研修での経験が、私の中では大きなきっかけになっています。 大学キャンパス内の比較的守られた環境で研修をしていたのですが、課外活動で現地の10代の若者たちと関わった際に、うまく関係を築けず、少しトラブルのような状態になってしまったことがありました。

もちろん、文化の違いや相手側の事情もあったとは思います。ですが、「では、私たちの側には問題がなかったのか」と考えると、やはりそうとも言い切れない部分がありました。現地では、生徒たちが「自分が異質な存在として見られる」という経験を初めてします。そのような異文化の中で、相手を尊重する姿勢や、自分たちを知ってもらおうとする表現の仕方を、十分に教えられていなかったのではないかと痛感したのです。 ただ単に英語を勉強していれば真のコミュニケーションが成立するわけではありません。異文化の中で自分をどう表現し、相手とどう協調していくかというマインドの部分こそ、育てなければならないと強く感じました。

――そうしたスキルは、今後日本国内でも必要になりそうですね。

(岩川) そうなんです。AIが台頭し、日本人の人口がどんどん少なくなっていく中で、「日本を出ないから英語は関係ない」という時代ではなくなっています。将来、会社で隣の席に座る同僚が日本人とは限りません。 自分たちのやり方や文化を押し付けるのではなく、かといって自分を卑下するわけでもなく、互いの良さを活かして協働する。そうしたマインドは、一部の生徒だけでなく全員に必要なものだと考えています。

「英語で学ぶ」のではなく、「英語で自分を表現する」

――実際の授業はどのように進められているのですか。

(岩川) 本校ではGCPを中学1〜3年生の探究学習の一部として位置づけていて、文法を中心とした通常の英語の授業とは区別しています。ネイティブ講師の先生が基本英語で授業を進め、私が日本語でフォローを入れるチームティーチングの形をとっています。抽象的なテーマも扱うので、生徒が考えあぐねているときは、日本語で一度整理してから英語のアウトプットにつなげるような工夫もしています。

▲授業風景(先生ご提供)

――思考力を伸ばすのであれば日本語だけでもできそうですが、あえて英語で行う意図はどこにありますか。

(岩川) 思考の基本は母語にあると考えているので、理解を助けるためには日本語を積極的に使っています。ただ、最終的なアウトプットを英語にする意義は大きいと考えています。 日本語で考えた素晴らしいアイデアも、日本語が分からない人には届きません。英語というツールで自分の考えを表現できるようにしておけば、日本人以外にも、自分の価値やバックグラウンドを伝えられるようになります。「誰にでも伝えられる形にする」練習として、英語でのアウトプットはとても有効だと感じています。

「ドラゴンクエスト」にたとえて伝える、個性の活かし方

――授業を通して、生徒さんにはどのような変化が見られていますか。

(岩川) 内面的な変化を感じる場面がたくさんあります。印象的だったのは、自分の「得意なマインド」と「苦手なマインド」を分析する授業です。 分析の結果、本校の生徒は「人に優しくする」「真面目に取り組む」といった面ではとても高い一方で、「人と違うこと、ユニークであること」に対しては苦手意識が強い傾向があることが見えてきました。

――周りと同調してしまう、という側面が出たのですね。

(岩川) そうなんです。でもその授業のあと、ある生徒が「自分はユニークであることが苦手だと分かった。でも、人と違ってもいいし、自分の得意なところを伸ばせばいい。苦手なところは、それが得意な人とチームになれば、もっといいチームになると思った」と書いてくれたんです。こちらがそこまで言語化して伝えたわけではないのに、多様性の中で協働する本質を自分でつかみ取っていて、本当に驚きました。

――素晴らしい気づきですね。先生はそうした生徒たちに、どのようにアドバイスされているのですか?

(岩川) よく「ドラゴンクエスト」のパーティになぞらえて話すことがあります。勇者・魔法使い・商人、それぞれが違う得意分野を持っていて、互いを補い合うからこそパーティとして強くなれる。全員が同じ能力を目指す必要はなく、自分の「武器」を一つ見つけて磨けばいい、と。そう伝えると、生徒たちも「人と違っていい」「自分らしさを活かしていい」と実感しやすくなるようです。 また、授業のフィードバックで「何を言っても否定されない経験ができて興味深かった」と書いてくれた生徒もいました。否定されない安心感、心理的安全性が、自己肯定感や主体性につながっているのだと思います。

――保護者の方々の反応はいかがですか。

(岩川)保護者の方は、時代の動きやニーズに敏感だといつも感じています。日々社会で働かれているため、今どのようなマインドが必要なのかを肌で感じていらっしゃるのでしょう。GCPの説明をした際には非常に熱心にメモを取っていらっしゃいました。「こういう教育を導入してほしかった」という声もいただいており、子どもたちの未来に必要なスキルへの理解が非常に高いと感じています。

▲授業風景(先生ご提供)

「誰でもリーダーになれる」――これからの挑戦

――今後のGCP、そして国際教育全体について、どのような展望をお持ちですか。

(岩川) 大きな目標は「リーダーシップの育成」です。といっても、特定の誰かがみんなを引っ張るようなイメージではなく、「誰でも、どんな場面でも、自分の得意なことがあればリーダーになれる」という感覚を身につけてもらいたいと考えています。

――そのために構想されていることはありますか。

(岩川) 理想を言えば、海外研修の場で、生徒自身がゼロから企画したワークショップを実施するような機会を作ってみたいのです。 例えば「日本の文化を知ってもらう」というテーマで、場所だけ用意して「じゃあ、あとは自分たちでやってごらん」と任せてみる。学校の中だけだと、どうしても優しい反応が返ってきますが、外の世界では無視されることもあれば、まったく相手にされないこともあります。それでも、自分たちで考えてやり切る経験は、本当の意味でのリーダーシップにつながるはずです。 正直に言うと、「どこまで失敗させていいのか」というラインについては、まだ私自身の覚悟(肝)が据わっていないと感じることもあります。体制づくりにも時間がかかりますが、いつかは必ずチャレンジしたいと思っているのです。

――最後に、これからの学校の役割について、先生のお考えをお聞かせください。

(岩川) 学校ができることは、卒業までの間に、生徒の中に「何かの種をまいておく」ことだと思っています。その種は、すぐに点数や目に見える成果として表れなくても構いません。むしろ、何年か経ってから、「あのときの学びがあったから、一歩踏み出してみよう」と思えるようなものであれば、それこそが教育の意味でしょう。 AIなどの技術で代替できることが増えている今だからこそ、人間としてのあり方や、多様な他者とともに生きるためのマインドを育てることが重要です。生徒たちが卒業するときに、「この学校で学んだからこそ持てたマインドセット」を一つでも身につけて卒業させられるように、これからも試行錯誤を続けていきたいですね。

(取材・編集:小林 慧子/記事構成・執筆:松本 亜紀)

英語教材を探す

  • Repeatalk 詳しくはこちら
  • Twitter
  • Facebook

お知らせ

レビュー募集

国際教育ナビでは、教材レビューを投稿したい方を募集しています。お気軽にお申し込みください。編集部員よりオンライン取材させていただきます。