未来を担う子どもたちのために。ICT活用+STEAM教育で「柔軟な対応力」を育む
最終更新日:2024年12月13日
グローバル化やAI技術の進化が加速する中、子どもたちに必要な力は「自ら考え、行動する力」だと言われています。従来の知識偏重型教育からの脱却が叫ばれる中、注目を集めているのがSTEAM教育です。今回は、長年にわたり教育現場の第一線でICT/AI活用やSTEAM教育を実践してきた早稲田摂陵高等学校の米田 謙三先生に、その展望や課題を伺いました。
教育現場におけるICT/AI活用の変遷と、STEAM教育の可能性
――米田先生、まずはICT/AI活用教育に携わるようになったきっかけを教えていただけますか?
米田:私がICT活用教育に携わり始めたのは、2000年頃からです。当時はインターネットが普及し始めた頃で、ISDNでさえもなかなかつながらない時代でしたが、ICTには今までにない可能性があると考え、海外とのテレビ会議や国際交流に取り入れ始めました。
私は「リアル」を常に大切にしています。今後ますます加速するであろうグローバル社会において、リアルな出会いのきっかけとなり、交流を補完するものとしてICTが有効になると考え、推進に取り組むようになりました。
――グローバル社会を生き抜く子どもたちには、どのような力が必要だとお考えですか?
米田:グローバル社会で最も重要なのは、変化に柔軟に対応する力です。技術革新やグローバル化により、社会は急速に変化しています。そのような中で、固定観念にとらわれず、新しい状況に適応し、創造的に問題を解決する能力が求められます。
「コミュニケーション能力」も欠かせません。グローバル社会では、異なる文化背景を持つ人々と協働する機会が増えます。言語能力はもちろん、相手の文化や価値観を理解し、尊重しながら意思疎通を図る力が必要です。
――STEAM教育が注目される背景や必要性について、どのようにお考えですか?
米田:STEAM教育の特徴は、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学)を横断的に学ぶことです。これにより、子どもたちは複合的な視点で問題を捉え、創造的に解決する力を身につけることができます。
特に私がSTEAM教育や探究学習で大切にしているのは、ワクワクしながら学ぶことです。単なる理系的な知識やスキルだけでなく、創造性やデザイン思考を育むことが重要だと考えています。たとえば、ゲーム開発やSEの仕事では、プログラミングスキルだけでなく、クリエイティビティが不可欠です。
――STEAM教育を通して、子どもたちにどのような力を身につけてほしいとお考えですか?
米田:アクティブラーナーとして自立し、かつ社会に貢献できる人材。それが私たちの目指す生徒像です。そのために、STEAM教育を通じて、知識・技能はもちろん、思考力・判断力・表現力をバランスよく育成していきたいと考えています。
具体的には、自分で考え、それを適切に表現し、様々な情報を判断して行動に移せる力を身につけてほしいと考えます。さらに、その先には地域や社会にいかに貢献できるかという視点も持ってほしいですね。
STEAM教育実践校の取り組み事例:地域連携を通して社会貢献を育む
――具体的に、早稲田摂陵高校Wコースでは、どのようなSTEAM教育を実践されているのでしょうか?
米田:早稲田摂陵高校Wコースでは、STEAM教育の理念を取り入れた独自のカリキュラムを展開しています。特徴的なのは、2年生から始まる「ラボ」という授業です。ここでは、生徒たちが専門的な探求活動を行い、最終的には卒業論文を書き上げます。
また、教科横断型の学習を重視しています。たとえば、STEAMライブラリーを活用し金融教育と英語学習を組み合わせることで、「経済を英語で学ぶ」という、より実践的な学びを提供しています。
STEAMライブラリーは、未来の教室構想におけるEdTechの取り組みの一つです。豊富な教材や動画、教案が用意されており、さまざまな教科、キーワードからテーマを探究することができます。ICTツールを活用することで、今までにない学びの場を創出することが可能になります。
――地域連携の重要性についてお聞かせください。具体的にどのような取り組みをされていますか?
米田:地域連携は非常に重要だと考えています。なぜなら、生徒たちが自分たちの地域や国のことを知り、そこにどう貢献できるかを考えることは、将来の社会人としての基礎となるからです。
具体的な取り組みとしては、たとえば茨木市議会と連携して、地域の課題解決に向けた提案を行ったり、地元警察と協力して安全啓発活動を行ったりしています。また、ボランティア部の活動を通じて、少し離れた地域の自然環境問題に取り組むこともあります。
――そのような活動を通じて、生徒たちにはどのような変化が見られますか?
米田:最も顕著な変化は、生徒たちのコミュニケーション能力の向上です。特に、見知らぬ人や異なる年代の人とコミュニケーションを取る機会が増えることで、相手に応じた適切な伝え方を学んでいきます。
たとえば、同じ内容を小学生に伝えるのか、同年代に伝えるのか、年配の方に伝えるのかによって、使う言葉や表現方法が変わってきます。そういった経験を通じて、真の意味でのコミュニケーション能力が育っていくのです。
また、地域の課題に取り組むことで、社会への関心が高まり、自分たちにも何かできるという自信にもつながっています。これは自己肯定感の向上にも大きく寄与していますね。
――地域連携の活動は、大学入試にも影響するのでしょうか?
米田:最近の大学入試では、単なる知識だけでなく、高校時代の活動実績や探究活動の成果を重視する傾向が強まっています。特に総合型選抜や学校推薦型選抜では、こういった活動が高く評価されます。
ただし、従来型の一般入試も依然として重要です。そのため、地域連携活動と従来の学習のバランスを取ることが課題となっています。私たちは、生徒が自己管理能力を身につけ、限られた時間の中で効率的に学習し、活動できるよう指導しています。
STEAM教育実践のためのヒント
――STEAM教育を実践しようとする教員が直面する課題には、どのようなものがありますか?
米田:多くの教員が直面する最大の課題は、時間の確保と従来の教育内容とのバランスだと思います。STEAM教育は横断的で探究的な学びを重視しますが、一方で教科書の内容や受験対策も疎かにはできません。この両立が難しいと感じる教員は多いですね。
また、STEAM教育に不可欠なICTやAIの活用に不安を感じる教員も少なくありません。特に、経験豊富なベテラン教員の中には、新しい技術への適応に戸惑う方もいらっしゃいます。
――教員同士のコラボレーションについては、どのようにお考えですか?
米田:STEAM教育は本質的に教科横断的なので、異なる専門分野を持つ教員が協力することで、より充実した授業が可能になります。
たとえば本校では、英語科と社会科の教員が協力して、グローバルイシューについて英語で議論する授業を行ったり、情報科の教員が中心となって、プログラミングや地域創生のプログラムを通じて教科横断型の授業を実施しています。
また、教員間で経験や知識を共有することで、ICTやAIの活用に不安を感じている教員もスキルアップできます。校内での研修会や勉強会を定期的に開催するのも良いでしょう。
――STEAM教育を始めようとする教員にアドバイスをお願いします。
米田:無理のない形でSTEAM教育を導入することが大切です。まずは自分の専門分野や得意な領域から始めることをお勧めします。いきなり大規模な改革を行うのではなく、STEAMライブラリーのような既存の教材やツールを活用しながら、少しずつ始めていくことをお勧めします。そして、生徒の反応を見ながら、徐々に他の要素も取り入れていくのが良いでしょう。
また、最近では生成AIを活用して、既存の教材をアレンジしたり、新しい教材を作成したりすることも可能になってきました。これらのツールを上手に活用することで、教員の負担を減らしつつ、創造的な授業づくりができるようになると思います。
取材・構成:小林慧子/記事作成:吉澤瑠美