AI時代の英語教育 - インプットの重要性と教員の新たな役割:ICTで伝統と革新を両立

最終更新日:2024年12月27日

英語教育の現場では、アウトプット重視の風潮が強まっていますが、基礎となるインプット学習の重要性を再認識する動きも見られる昨今。さらに、生成AIの登場により、英語教育は大きな転換期を迎えています。このような状況下で、英語教員はどのような指導を行うべきでしょうか?最新のテクノロジーを駆使しながら、従来の文法・語彙学習を重視した独自の授業を実践する村山先生に、AI時代における英語教育の在り方、そして教員の役割について伺いました。

正確さを諦めない英語教育の重要性

———村山先生は、現在の英語教育にどのような違和感をお持ちですか。

(村山)近年の英語教育では、「間違えてもいいからどんどん使っていこう」という風潮が強まっています。しかし、インプットが十分でないのに軽視され、アウトプットばかりが重視される状況に違和感を覚えます。

ペアワークなどアクティビティ中心の授業は、50分という授業時間内においては生徒にとって充実した時間になるでしょう。しかし、表面的な楽しさだけで終わってしまい、生徒の英語力が向上しているのか疑問に感じる場面もあります。

語学学習において、単語や表現を覚える、いわゆる「面倒くさい作業」は避けられません。インプット量をアウトプットが超えることはないので、インプットの5分の1、10分の1しかアウトプットでは使えません。にもかかわらず、インプットが見て見ぬフリをされているように感じています。

もう一つ気になるのが、正確さの過度な軽視です。間違いを恐れずに英語を使うことは大切ですが、間違ってもいいからブロークンな英語をずっと使い続けるのはあまり意味がないと思っています。正しさを諦めないというか、「間違ってもいいよ」という言葉が過度に使われることに対して、少し疑問を抱いているのです。

東北大学も、昨年度の入試後に出した受験生向けのメッセージの中で、アカデミックな英語の重要性を強調しました。中学校や高校で学んできた「多少間違っていても積極的に使う英語」だけでは、大学で求められるレベルの英語力には到達できないと明言しています。

 

———そのような違和感を覚えたきっかけは何かありましたか。

(村山)私自身、言語学習において辛いインプットとの戦いを経験してきました。語学には継続と忍耐力が絶対的に必要です。しかし、多くの研究発表や授業見学で目にするのは、完成形の「演奏会」ばかりです。その前に必要な地道な練習の過程が見えません。

中学1年生に突然英語で自己紹介をさせても、すぐにはできないはずです。教科書のトピックを読んだ後すぐに英語で話し合うような授業設計では、伝え合うためのカードが足りないと思うのです。結局のところ、地道なインプットの作業は、生徒たちが家庭や塾で行っているのを前提としているように見えます。しかし、この面倒くさい作業こそ、授業でしっかりと取り組ませる必要があるのです。

 

オールドファッションな学習をICTで魅力的に

———そのような考えのもと、先生はどのような授業を実践されていますか?

(村山)私の授業では、語彙習得や文法事項といった、生徒にとって面倒だと感じる学習内容にも積極的に取り組ませています。その際、ICTツールを活用し、学習の負担を軽減しながら生徒が楽しく学べるよう工夫しているのです。

(出典:Z会. (2024). 英語4技能育成にICTで挑戦する. 『2024年度 Z会 英語教育研究会』講演資料より, https://www.zkai.co.jp/books/school/newtreasure/24englishseminar/)

たとえば、単語テストをゲーム形式にすることで、単調になりがちな学習に楽しさという「スパイス」を効かせられます。局所的な範囲を同条件で課せば勝者を固定化しにくい。さらに、誰だか特定できないログイン名にすることで匿名性を保ち、得点や順位変動が本人にしかわからない状態なのもモチベーション維持に有効だと思います。

解答スピードも得点化されるため、瞬発的に英語を理解する力を鍛えられることもメリットです。これは長文読解やリスニングなど、実際の英語使用場面で大いに役立つでしょう。

(出典:Z会. (2024). 英語4技能育成にICTで挑戦する. 『2024年度 Z会 英語教育研究会』講演資料より, https://www.zkai.co.jp/books/school/newtreasure/24englishseminar/

 

———ChatGPTなどの生成AIについては、生徒が自力で課題をしなくなるなどの懸念もありますが、どのような扱い方が理想的だと考えますか?

(村山)ChatGPTやDeepLなどは、使ってはいけない悪いものではありません。むしろ積極的な活用方法を教えるべきです。適切に活用させるには、課題の出し方や授業展開を変えていくような方向転換が必要でしょう。

生徒がAIを利用することを前提とし、AIだけで答えが得られるような課題には、授業時間内に取り組ませることで、AIの不適切な利用を抑制できます。一方、AIを活用することで学びが深まるような課題については、授業時間外に生徒が自由にAIを活用できるよう促しているのです。

たとえば、これまで予習で課していた英作文や和訳は、授業内で取り組みます。生徒が書いたものを回収し、教員がAIを使って添削して次の授業でフィードバックします。添削内容の詳細を質問できるプロンプト(指示文)も教えれば、生徒が自宅で学習を深めることにAIを活用できるのです。

探究学習でも活用できるでしょう。テーマなど調べたいことを指定して、まずChatGPTで素案を作成します。その素案をもとに、検証や深掘りをしながら整理する方が、より中身の濃い発表資料が作れると思います。

 

———ICTを活用した授業にはどのような課題がありますか?また、どのような成果を感じていますか?

(村山)最大の課題は、生徒たちが実際に何をしているのか把握しにくい点です。指定した学習コンテンツを学んでいるように見えても、実際は別のことをしているケースが、学校でも自宅でも多々あります。Chromebookなどのデバイスは多機能なため、紙の問題集と違い、意図するタスクだけに取り組ませる環境作りが難しいのが現状です。

生徒たちがICTを活用できるよう学習環境の整備をしているのに、逆に学習以外のこともできる状況を生んでしまう。皮肉なことに、自習時間のデバイス使用制限も検討されるなど、扱いが難しい側面があるのです。

一方で、ICTの活用によって得られた成果もあります。文法や語彙の習得を重視した、従来型の「オールドファッション」な指導や「面倒くさい」学習方法は、必要なので継続していますが、否定的な意見も多いのが実情です。しかし、ICTツールを併用することで、時代のニーズに合わせた授業だと肯定的に捉えられ、生徒や保護者から理解を得やすくなりました。

また、生徒の心理的な負担を軽減できることも大きな成果だと感じています。以前は覚えることを強制するしかありませんでしたが、今はゲーム要素で楽しさを提供することで、いわば「にんじんをぶら下げて」生徒のモチベーションを維持できるようになったのです。

 

AIと共存する英語教育:教師の役割と学ぶ意義の変化

———AI時代における英語教師の役割についてどのようにお考えですか。

(村山)英語教員の役割は、AIが出力した答えが「なぜ」正しいのか、その背景や過程を説明することです。現在の自動翻訳システムは、ニューラルネットワークを使用しているため、なぜその出力結果になったのかを開発者も完全には把握できていません。たとえば、「Book the hotel」という文をAIが「Reserve the hotel」に修正した場合、なぜそうなったのかを説明できる力が必要です。

AIに対して適切な指示を出せる知識も求められます。AIは文法的な誤りは修正できますが、それが話し言葉か書き言葉か、どのような場面で使う表現なのかは判断できません。教員はAIにはできない判断を行い、生徒に適切な指導を行う必要があります。

私は、AIを使うことでこれまで行けなかった世界に行けるようになると思っています。たとえば、基本的な文法的誤りをAIが修正してくれることで、教員は論理性や文体の適切さなどに焦点を当てた、より高度な内容の指導が可能になるのです。

 

———英語を学ぶ意義についても、変化していくと思われますか。

将来的に自動翻訳機が出来上がれば、英語を勉強すること自体にあまり意味がなくなってくるかもしれません。日本語で話したことを機械が翻訳してくれる時代が来るでしょう。そうなった時に、単語をたくさん覚えることよりも、何を話すかというコンテンツの部分が大事になってきます。

ただし、英語特有の論理展開や文章構成を学ぶことの重要性は変わりません。日本語ではこういう形で話の論理展開を持っていくけれども、英語だとこういう順番で喋らないと相手に伝わりにくい、もしくは誤解されるということは勉強しておかないといけません。

英語のロジックや伝え方、その文章展開、構成の仕方を学ぶことで、相手に話が通じるようになってほしいと考えています。

取材・構成:大久保さやか/記事作成:松本亜紀

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