ICT活用で誰もがのびのびと受けられる授業を!教育格差を縮めるための活用方法とは

最終更新日:2025年2月27日

デジタル時代の教育に注目が集まる中、大阪府立桜塚高校の真島由朱(ましま ゆうあ)先生は、ICTツールを活用したさまざまな活動に取り組んでいます。クイズアプリやGoogle for Educationのツールなどを授業に取り入れ、生徒が主体的に参加できる学びの場を構築。生徒の英語力向上だけでなく、自ら考えを発信する力を育む教育を目指しています。そんな真島先生に、具体的な活動内容や教育への思いについて伺いました。

4技能を活用し、考えを表現して伝え合う力を育成したい

――まず、先生のご経歴を教えてください。

私は、いわゆる「就職氷河期」と言われていた世代です。大学を卒業してから正規教員になるまで、常勤講師や非常勤講師として勤務していました。正規教員になってからは、大阪府の公立高校を何校か経験し、当校に着任したのは3年前です。着任1年目に1年生を担任し、そのまま3年間持ち上がりました。今年度は、グローバルスタディ(GS)コースの3年生の英語コミュニケーションと論理表現の授業を担当しています。

――授業で大切にされていることは何ですか?

常勤・非常勤の講師の頃から、さまざまな学力レベルの学校で指導してきました。その中で常に重要視してきたのは、4技能を活用した統合的な言語活動を通じて、生徒の「情報や考えを表現し、伝え合う力」を育成することです。これは、いかなる学力のレベルの学校においても変わらず大切なことだと考えています。

また、学校によって多少異なりますが、基本的に授業にはICTツールを活用しています。どのような学校の生徒にも、積極的に英語を使おうと思えるような人になってもらいたいですし、今のうちからICTツールの使い方に慣れておいてほしいからです。

――具体的にはどのような指導を目指しているのでしょうか。

指導内容は学年によって異なります。1年生の指導で重点を置いているのは、中学校で学んだ内容の復習を大切にしながら、4技能をバランスよく使ってスキルを伸ばすことです。基本的な力を固めつつ、「考える力」も養う授業を意識しています。

2年生になると、4技能を使った活動をしながら、社会的なテーマについて考えたり、生徒同士で意見交換したりする時間も増やしていきます。3年生でも4技能を使ったアクティビティは続けたいのですが、大学進学を目指す生徒がほとんどなので、授業の主軸は受験対策になっているのが現状です。

ICTツールを活用し、教育格差を縮めたい

――ICTツールを活用した取り組みについて教えてください。

今年度は3年生を担当しており、アクティビティにはあまり取り組んでいないため、昨年度の2年生の授業で行った内容を紹介します。まず、授業の最初に単語のつづり・発音・リスニングなど、生徒自身が決めたテーマで帯活動を行いました。その後、検定教科書を使いながら、ICTツールを活用したアクティビティや、対面でのペアワークなどに取り組みます。

私がよく授業で使っているのは「Quizizz」というアプリです。生徒の端末にクイズ形式で問題を一斉に送り、それに答えてもらうというものです。問題は、「TRUE」「FALSE」の選択形式でも出せますし、穴埋め問題も出題できます。

<Quizizz>

そのほかに、「Googleサイト」というGoogle for Educationのツールを利用した活動も取り入れました。GoogleサイトはWebサイトを作成できるツールです。こちらは、ライティング/リーディング活動に使いました。

まず、生徒が書いた英作文をGoogleサイトで作ったWebサイトに匿名で掲載し、それを他の生徒が読んで作者にメッセージを送ります。紙ベースではなくWebサイトですから、一人一台端末を使うことで、それぞれがそれぞれのペースで読み進められるのが利点です。また、それを書いた作者へのメッセージを送るのも、Google フォームを使っています。

最後にメッセージをまとめて印刷し、クラス全員に渡しました。生徒たちは、学年の誰かから送られたあたたかいメッセージに喜んでいました。オンラインツールChromebookを使ったこの活動、あえて匿名で行うからこそ、彼らも素直な気持ちが出せたのだと思います。

また、授業の最後には、「EXITチケット」という活動も行いました。EXITチケットは、欧米でよく行われている活動で、教室を出る際にその日の授業で学んだことや、質問などを付箋に書いて貼るというものです。

EXTIチケットに使ったのは、Googleフォームです。生徒がフォームから質問を送り、私がその返信をGoogleドキュメントにまとめて、クラス全員に送信しました。教員側は生徒の理解度がわかりますし、一斉に返信することで、クラス全体が役立つ情報を共有できます。

――さまざまなツールを活用されているんですね。そもそも、真島先生がICTツールを授業に活用しようと考えたきっかけは何だったのでしょうか。

私がこの仕事を始めた20年前から、ずっと「ICTを教育にどう活用できるか」を模索してきました。その理由の1つは、ICTを活用することで教育格差を縮められるのではないかと考えたからです。私自身、経済的にやや困難な家庭で育った経験があり、家庭の経済状況による学びの格差が今でも大きな課題であると感じています。ICTツールを活用することで、塾や予備校に通えない生徒にも、平等に学びの機会を届けられるのではないかと思いました。

アナログとデジタルの活動を上手に使い分けることが理想

――授業にICTを活用するメリットは何ですか?

1つは、生徒が「間違えても恥ずかしくない」という安心感を持てることです。個々の端末を使ってやりとりするので、黒板に書くのと違い、みんなに答えを見られる心配がありません。だから、間違いを恐れずに取り組めるんですね。また、答えを提出したかどうかがわかるので、生徒が授業にきちんと参加するようになるという利点もあります。

教員側にとってもさまざまなメリットがあります。まず、テストの解答を一斉に回収できるので、紙のように答えを集める手間がかかりません。過去に自分が作った教材がデータ化されていれば、必要なときにはすぐ見返せ、再利用できるのも便利です。紙のファイルでは、欲しいときにすぐ取り出せないことがありますよね。

また、正答率が自動で出るため、生徒の理解度や特定の問題の難易度を把握しやすくなります。さらに、授業のデータが残るというのも大きな利点です。過去の設問データなどを活用して、新しい問題を作成することも可能になります。

――ICTを授業に取り入れるようになってから、生徒さんにはどのような変化が見られましたか?

GIGA端末が導入された当初に比べて、デジタルツールへの抵抗感がなくなり、ツールを活用する技量が上がってきていると思います。ただ、英語力の向上という観点では、まだ基礎的な知識が十分に身に付いていない生徒もいます。

そうした部分を底上げするためには、たとえばQuizizzを宿題にも活用したり、授業の内容を配信したりして自宅でも学習できるような環境を整えることが必要です。そうすることで、塾に通えない生徒にも学習の機会を与えられるため、先ほどお話しした教育格差の解消にもつながるのではないかと思います。

――ICTを授業に取り入れる際のポイントはありますか?

すべてをデジタルでやるという考えにとらわれないことです。たとえば、ポスター作りやプレゼンなど、活動の目的によってはアナログでやった方がよい場合もあります。デジタル・アナログそれぞれのやり方を知っていて、目的に合った手段を選べるのが理想的です。

――最近では、さまざまな場面で生成AIの活用が進んでいます。生成AIについてはどのように考えていらっしゃいますか?

個人的には、どんどん活用した方がよいと思います。生成AIは、適切に使えば非常に役立つツールです。とくに、教員が使えば、教材を作成する手間や時間的な負担がかなり軽減できると思います。

たとえば、私は生成AIを使って、今年の3年生の少人数クラスに配布する教材を作りました。環境問題など、30種類のテーマに関するキーワードを集めたものです。生成AIを使わなければ、単語の抽出から発音記号、意味まで私がすべて1人でやらなければならないため、膨大な時間がかかります。

しかし、生成AIを使うと、出力された単語をチェックするだけで済むので、大幅な時間短縮が可能です。ただし、生成AIが出力する内容には誤っているものもあります。生徒が間違った内容を覚えてしまわないよう、しっかりチェックすることが必要です。

<真島先生がAIを活用して作成した教材>

生徒に対しては、生成AIに頼らず、自分の力で取り組むことの意義をきちんと説明することが大切だと思います。また、生成AIで作成したと思われるレポートに対して、どう評価するかといった基準を考えることも必要になってきますね。

――今後、ICTを活用して取り組んでみたい活動があれば教えてください。

生徒自身が過去の学習活動を振り返れる「ポートフォリオ」のようなものを作成したいと考えています。たとえば、将来英語が必要になったときに、自分の過去の学習データをまとめたものがあれば、そこから学び直すことが可能です。英語教育にとって大切なことは、自律的な学習者の育成だと考えています。つまり、自律的に学ぶ姿勢です。

ポートフォリオは、その姿勢を育てるのに非常に役立つものだと思います。Google for Educationのようなグループウェアと一人一台端末を使えば、過去に作ったスライドなどもすぐに参照でき、振り返りとまとめに便利です。また、将来的には、海外の姉妹校と動画やメールで気軽に英語で交流するような活動も授業に取り入れていきたいです。

 

取材・編集:大久保さやか/記事作成:白根理恵

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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