【『例年通り』の海外研修を変える】 生徒とのミスマッチを防ぐ「解像度の高い要件定義」と、一過性で終わらせない「5Eプロセス」

最終更新日:2026年7月3日

毎年恒例の海外研修。「今年の生徒の特性に合わせてプログラムを少し変えたい」と思いつつも、旅行代理店との打ち合わせも、結局「例年通り」の提案に落ち着いてしまう。また、帰国後すぐに熱が冷めてしまい、日常の学習意欲や「当事者意識」の継続につながらない「行事一過性問題」に、課題意識を抱いている先生も多いのではないでしょうか。

生徒の特性に合わないプログラムのまま渡航し、学びが深まらないまま帰国してしまうというミスマッチを防ぐにはどうすればよいのか。八雲学園中学校高等学校では、旅行代理店を通さず、教員自らが現地の大学と交渉して研修を運営しています。こうした完全直営の手作り研修を、28年間続けてきました。

現在そのプログラムを牽引し、自らも引率や交渉の最前線に立つ近藤隆平副校長に、生徒の実態に合わせたきめ細やかなプログラム調整と、研修の熱を継続させる事後学習の仕組みについて伺いました。

#海外研修 #手作りプログラム #5Eプロセス(事後学習) #当事者意識(オーナーシップ) #裏方作業

旅行会社のパッケージから一歩踏み出す。教員目線での「きめ細やかな調整」

――海外研修プログラムの設計に悩む現場の教員は少なくありません。御校では、中学3年生全員が参加するアメリカ・サンタバーバラでの海外研修を、旅行代理店を通さずに実施されていると伺い驚きました。

(近藤)八雲学園では、中学3年生全員が参加する2週間の海外研修を1999年から実施しています。この研修では、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)でTESOLの資格を持つ英語教員による授業を受けたり、現地の学校と交流したりと、語学と文化体験の両方を重視しています。

旅行代理店を通さない最大の理由は、生徒一人ひとりのレベルに合わせた「きめ細やかな調整」を行うためです。代理店を通す場合、現地の語学学校などでは、ペーパーテストの点数をもとに機械的にクラス分けが行われることも少なくありません。

しかし、英語力があっても発言が苦手な生徒もいれば、文法は弱くても積極的に話せる生徒もいます。その違いを一番理解しているのは、普段から教えている私たち教員なのです。

――確かに、テストの点数だけでは見えない特性がありますね。

(近藤)はい。現地で「難しすぎて何もわからない」「簡単すぎて退屈だ」というミスマッチが起きると、生徒の学びはそこで止まってしまいます。それを避けるために、本校では現地の大学と直接やり取りを行い、我々教員が「今年の生徒はこのレベルだから」とクラス分けを調整し、必要に応じて使用する教科書の変更や講師の選定まで依頼しています。

英語が得意な生徒にも苦手な生徒にも、それぞれ少し背伸びできる負荷をかける。その状態をつくることが、結果的に誰も取り残さないことにつながると考えています。

<カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)で集中的に英語を学習>

「やりっぱなし」を防ぐ。日常の小さな成功体験と「5Eプロセス」

――海外研修で得た熱量やモチベーションが、帰国後に失われてしまう「行事一過性問題」に悩む学校も多いです。御校ではどのような工夫をされていますか。

(近藤)海外での体験をどう受け止め、自分の中で意味づけするかが大切だと考えています。そのために取り入れているのが「5E」という学習プロセスです。

・学習プロセス「5E」 Experience(経験)→Exchange(意見交換)→Edit(編集)→Express(発表)→rEflection(振り返り)

生徒たちは、海外研修の期間中に日記を書き、帰国後はそれをもとにアルバムを作成します。そのアルバムを使って、1年後に行われる英語の文化祭(英語祭)で後輩に向けて発表し、先生や周囲からフィードバックを受けます。

体験を人に伝え、フィードバックを受けることで、生徒は「自分は何を学んだのか」「次はどうすればよいか」と考えるようになる。こうした循環を重ねることで、最終的には自分自身の探究心につながっていきます。本校ではこうした学習プロセスを取り入れているため、いわゆる「やりっぱなし」になることはありません。

――帰国後のアウトプットの場が、1年後の文化祭として仕組み化されているのですね。事前準備としてはどのようなことを行っていますか。

(近藤)中学1年生の段階から研修に向けたカリキュラムを組んでいます。入学直後の6月から、英語のレシテーションコンテストや英語劇などを通して、人前で英語を話し、拍手をもらう。そうした経験を積み重ねていきます。

また、イェール大学からの留学生との交流会なども行い、生徒自身が日本について英語で教える側に回る機会も設けています。自国の文化を知り、発信できるアイデンティティを持つことも重要だからです。普段からこうした目標や課題を設けることで、「海外研修に向けて準備をしている」という意識が育っていくと感じています。

<書道や日本の伝統的な遊びなど、Yale生日本文化を伝える>

現場で汗をかく覚悟と「生徒の1年の重み」

――教員自らが直接大学と交渉し、引率や細かなレベル調整まで行うとなると、現場の負担は計り知れないと思います。特にコロナ禍では、大きな困難があったのではないでしょうか。

(近藤)コロナ禍で一時的に留学プログラムが中断を余儀なくされましたが、現地大学の受け入れ再開に合わせてすぐに動き出しました。2022年の12月には、本来3か月間の留学を予定していた当時の高校2年生(11名)のために、急遽1か月間に短縮したプログラムを実施しました。

――再開の連絡から渡航まで約1か月という短い期間で、よく実現できましたね。

(近藤)当時はまだ海外渡航が本格的に再開していない時期だったため、航空券やビザの手配は比較的スムーズだったと思います。ただ、期間が3分の1になったため、プログラムの再設計が必要でした。そこで授業時間数は減らさず、内容を思いきって凝縮し、大学入試や進路に役立つ英語力強化に絞り込みました。

翌2023年の夏には、延期になっていた高校1年生と2年生を、夏休み2週間ずつのプログラムに分けて連続で実施。現地ではコロナ陽性者も出る場面もありましたが、病院へ連れて行き、薬の処方箋の手配をするなど奔走しました。

――なぜ、そこまでしてプログラムの実施にこだわったのでしょうか。

(近藤)これまで毎年、同じ学年の生徒が経験してきたプログラムを、この学年だけが経験できないまま終わるのは避けたいという強い思いがありました。生徒にとっての1年は、私たち大人の1年とは重みがまったく違います。

彼らにとって、その時間は一度きりです。得られるはずだった経験を空白にしないことが、学校としての責任だと考えました。制度やルールは守りつつ、その範囲の中でできる限りのことをやる。知恵を絞れば方法はあるはずだという判断でした。

頼れる大人がいる安心感で生まれる「当事者意識」

――生徒さんに主体性を持ってほしいと考える中で、先生ご自身はどのように向き合っていらっしゃいますか。

(近藤)まず、教員自身が責任を引き受ける姿勢を示すことが大切だと考えています。旅行代理店を通さずに直接やり取りを行い、我々が引率にも携わるのは、生徒に主体性を求める以上、教員側も同じ姿勢であるべきだと思うからです。

コロナ禍の研修でも、私を含めた英語科の教員が最初から最後まで現地に入り、裏方作業や病院への付き添いを行いました。大人が自ら現場で汗をかくその姿勢が、生徒にとって一つのメッセージになるのではないかと考えています。

――そうした関わりを通して、生徒さんにはどのような大人に育ってほしいですか。

(近藤)自分で考え、自分で決め、その結果に責任を持てる人になってほしいですね。海外研修や留学プログラムはそのための通過点にすぎません。リアルな体験を通して視野を広げ、「将来、自分はどの道に進みたいのか」と自ら問いを立て、答えを見つけられるようになってほしい。私たちの役割は、そのための選択肢をできるだけ多く用意し、「自分は認められている」と実感できる環境を整えることです。

本校では、担任とは別に一人ひとりの生徒に寄り添う「チューター制度」を30年近く前から設けています。学習面だけでなく生活面の悩みにも寄り添うため、私自身も名刺に携帯番号を書いて生徒や保護者に渡しています。

担任以外の多角的な大人の目で見守り、斜めの関係でSOSを拾う仕組みがあるからこそ、生徒は安心して挑戦できる。困ったときに相談できる大人が学校にいるという安心感が、彼らの主体的な行動(オーナーシップ)を支えているのだと思います。

 

取材・構成:小林慧子/記事作成:白根理恵

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