「共通の利益」で組織を動かす! 同僚やネイティブ教員との協働と、「生徒の人生」を第一にする教育デザイン
最終更新日:2026年5月19日
「生徒のために新しい取り組みをしたい」。そう意気込んでも、「前例がない」という難色やネイティブ教員との連携に悩み、疲弊する教員は少なくありません。 和洋九段女子中学校高等学校の王 恵萍先生は、この壁を「永遠の友も敵もない。あるのは永遠の利益だけ」という視点で突破。同僚やネイティブ教員と「共通の利益」や「真の仲間として受け入れる姿勢」で結びつき、持続可能な組織を築いています。元通訳として来日し、働きながら教員免許を取得した彼女。その合理的な実践の根底には、環境への感謝と、「生徒の人生を第一に尊重し、周囲を思いやる」温かい教育哲学がありました。
本記事は、「冷静な戦略的思考」と「温かな教育環境」の両立という逆説的な処方箋を提示。精神論や「やりがい搾取」を防ぎ、生徒も教師も幸福になれる教育現場を生き抜くための「設計図」を探ります。
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感情論ではなく、「共通の利益」で持続可能な組織を作る
――「新しい取り組みをしたい」と思っても、職員室で「例年通りで」と避けられたり、波風が立つと悩む教員は少なくありません。精神論や「絆」に頼らず、そうした組織の壁をどう乗り越えてきたのでしょうか。
(王)本校は教員同士の関係が非常に良好です。教員は職場にいる時間が長いため、居心地が悪ければ誰も働きたくないですよね。だからこそ、私は同僚と単なる「仲良しグループ」は作りません。 私が好きな言葉に「永遠の友も敵も存在しない。あるのは永遠の利益だけ(※1)」があります。この「利益」とは金銭ではなく、「学校を良くし、結果的に働きやすい職場にする」という共通のゴールです。 感情論を超え、「これをやれば学校が良くなる」という共通目的の一点でプロとして手を組む。目的さえ提示できれば、肩書きに関係なく建設的な議論ができ、風通しの良い組織づくりに繋がります。
――その目的を、どのように周囲と共有するのでしょうか。
(王)客観的なデータや他校の実情を知ることから始めます。以前、教育関連の業者から「和洋九段さんは伝統校だから、ことさらアピールしなくても生徒が集まりますよね」と言われたことがありました。相手はブランド力を褒めるポジティブな意図だったのですが、私はそれを聞くたびに「こんなに良い教育をしているのに中身を見てもらえていない」と、すごく悔しく思っていました。
今は数字だけで学校がシビアに評価される時代です。「うちには伝統があるから」とこれまでのやり方に安住していては、生徒たちに選んでもらえなくなってしまいます。
論語の「己を知り、他を知る(※2)」の通り、自校の立ち位置を客観的に把握しなければ生徒のための提案はできません。そこで娘の学校選びや授業参観の機会を活かし、様々な学校へ足を運びました。他校の英語授業を見て回り、そこで得た「他校の強み」や「和洋九段の強み」を教頭に報告することで、組織全体に「学校を良くしよう」という共通目的を持ってもらうように心がけました。
元通訳から教員へ。泥臭く掴み取った教壇への道
――「前例踏襲」の空気に染まらず、そこまでフラットかつ客観的に日本の学校現場を分析できたのは、教員になる前のご経験からでしょうか。
(王)そうかもしれません。私は中国出身で元々は通訳でした。夫の転勤で来日した際、かつて修学旅行の通訳を担当したご縁から、現在の学校でお手伝いを始めたのがスタートです。 当時は日本の教員免許がなかったため、正式に教壇に立つべく、働きながら通信教育で学ぶ決意をしました。「最短2年で取れた人はごく少数」と聞いて「少数でもいるなら私にもできる」と腹をくくり、必死にレポートやスクーリングをこなしました。夏休みには世界中から教員免許取得を目指して集まる仲間と励まし合いながら学び、最短の2年で免許を取得したのです。
――教育界の「外」から泥臭く目標を掴み取ったご経験があるからこそ、閉鎖的な慣習にとらわれず、「何が生徒にとって本当に必要なのか」を客観的に見極められるのですね。
ネイティブ教員はお客様ではない。「真の仲間として受け入れる」マネジメント
――同僚に加えて、文化が異なるネイティブ教員との連携もネックになりがちです。良好な協働関係を築く秘訣は何でしょうか。
(王)彼らは共に学校を良くするための大切なパートナーです。だからこそ採用段階で妥協せず、外国の教員免許を持ち、難関大の進路指導もできるレベルの高い方を採用します。しかし一番の絶対基準は「本校の生徒を愛してくれるか」。生徒の進路に愛情を持って寄り添える人間性を何より重視します。
――優秀な人材を採用した上で、どのように巻き込んでいくのでしょうか。
(王)採用後は真の仲間として受け入れ、彼らの提案を頭ごなしに否定せず受容します。 たとえば彼らから「満員電車が嫌だから朝8時から早朝クラスをやりたい」「学校のInstagramを更新したい」と次々に提案されたことがありました。正直、早朝クラスなどは「そんな朝早くに生徒が来るのか?」と現場感覚では少し無謀にも思えました。
しかし「前例がない」と一発で断れば、彼らのモチベーションを折ってしまいます。そこで教頭と相談し「まずはやってみよう」とGOサインを出したのです。結果、早朝クラスは大盛況となり、Instagramも彼ら自身が日々校内の様子を魅力的に発信してくれるなど、自発的に学校のために尽力してくれています。

▲左:大盛況となった早朝レッスン(ESS)の手作り看板、
右:ネイティブ教員発信のInstagram投稿(共に学校提供)
――なぜそこまで主体的に動いてくれるのでしょうか。
(王)私自身も外国から来て働く身なので、異国で働く彼らやご家族の不安が痛いほど分かります。だから一時帰国時にはご両親への手土産を渡すなど、「あなたを家族のように大切に思っている」と愛情を行動で示すようにしているのです。心からの敬意と温かい関わりがあるからこそ、彼らも安心して自発的に素晴らしい提案をしてくれるのだと感謝しています。
――根底にある愛情や家族のような接し方が心理的安全性を担保し、最大のパフォーマンスを引き出す理にかなったマネジメントになっているのですね。
「机上の空論」を捨てよ。ノンネイティブ教員ならではの「泥臭い伴走」
――ネイティブ教員が自走する環境を作った上で、外国語として英語を修得した先生ご自身は生徒にどういった指導をされているのでしょうか。
(王)私は第一線の通訳だったからこそ、現場から離れた「机上の空論」が大嫌いです。自分がどう苦労して目標を達成できたかというプロセスが分からなければ、生徒を指導できません。 ネイティブ教員は素晴らしい英語力を持っていますが、彼ら自身は英検をはじめとする日本の英語試験を受験しません。だからこそ、日本人が試験で苦労する点を分析し、論理的に教えるのがノンネイティブである我々の役割です。生徒には例えば英検5級など、その生徒が手の届く目標から少しずつ合格証を手にさせ、小さな達成感を積ませることを意識しています。ネイティブの真似ではなく、泥臭く伴走し着実にステップアップさせることが我々の最大の武器です。

▲英検指導テキスト(学校提供)
「学校の看板」より「生徒の人生」を選ぶ。それが巡り巡って最大の利益になる
――着実なステップアップを信じて泥臭く伴走できる、その指導の原点はどこにあるのでしょうか。
(王)高校3年生のときの恩師の存在が大きいです。当時の私のクラスは学年で一番荒れていましたが、その恩師は手のかかる生徒の「できないこと」を責めずに「できること」を見つけ、一人の人間として正面から向き合ってくれました。結果的に、最も荒れていた男子生徒たちが最後の大学受験で素晴らしい成績を出したのです。 教員が生徒を心から信頼し期待をかければ、生徒はそれを感じ取り自ら動き出す。これが私の教員としての根幹です。
――相手の可能性を信じる根幹があるからこそ、生徒やネイティブ教員も自ら動き出す組織ができているのですね。その「生徒を信じる」哲学は、進学実績という学校の看板と衝突しませんか。
(王)有名大学への進学実績が欲しいというのが学校の本音でしょうし、現場が感じるプレッシャーも分かります。しかし、学校の看板のために生徒の人生を犠牲にしてはいけません。 以前、慶應義塾大学に十分に合格できる英語力を持った生徒がいましたが、彼女の本当の希望は「美術大学への進学」でした。実績のために説得することはせず、ひたすら夢を尊重して美大進学をサポートしました。当時の校長も「学校のためではなく、生徒の人生ですから」と背中を押してくれたのです。
――目先の実績ではなく一人ひとりの人生を応援することが、結果的に「永遠の利益」に繋がっているのですね。
(王)今までお話しした組織づくりも生徒への指導も、すべて「感謝」という2文字に行き着きます。数ある学校から和洋九段を選んでくれてありがとうと。だからこそ、絶対に彼女たちの人生を良くしたいし、目標達成のお手伝いをしたいのです。実際に、生徒の歩みたい道を第一に考えた結果、彼女たちが卒業後も学校を愛してくれています。大学の英文学科に進んだ卒業生が「手伝いが必要ならいつでも声をかけて」と無償で戻ってきてくれたり、大学の洋書が和洋と同じだと言って見せに来てくれたりもするのです。進学実績という数字にとらわれず、生徒の人生を第一に尊重することこそが、誰も不幸にならない真の「永遠の利益」だと思います。

▲グローバルクラスの洋書テキスト。ネイティブ教員の高い知見も活かして選定(学校提供)。
※1:19世紀イギリス首相・パーマストン(ヘンリー・ジョン・テンプル)の演説中の有名な一節 There is no such thing as permanent friends or permanent enemies, only permanent interests. (永遠の友も永遠の敵も存在しない。あるのは永遠の利益だけである。)
※2:「己を知り、敵を知る」=『孫子(そんし)』「彼(かれ)を知り、己(おのれ)を知れば、百戰(ひゃくせん)殆(あや)うからず」の要約
(取材・構成・編集:小林慧子/記事作成:松本亜紀)
関連サイト
・「シリーズ 英検活用 あの学校はどうしてる?!」張り巡らされた戦略が切り拓く英検合格への道(本記事で語られた「机上の空論を捨てた泥臭い伴走」の具体的なノウハウに迫る実践編。放課後ではなく時間割に組み込む英検対策や、王先生自作の「合格テンプレート」を活用したライティング指導など、ノンネイティブ教員が勝つための緻密な授業デザインが詳細に語られています。)
・和洋九段女子中学校高等学校【公式】Instagram(本文で触れたネイティブ教員発案の取り組みや校内の様子が日々更新されています)



