ジャンル準拠ライティング ~音と文字の往還が起こす奇跡~
最終更新日:2023年6月5日
- おすすめしたプロフェッショナル
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亀田 洋斉 / 千代田区立九段中等教育学校
ジャンル別パラグラフ・ライティング
成美堂
- おすすめのポイント
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生徒に毎週英作文の宿題を出していたが、量は書けるものの、構成力が変化しない課題を感じていた。「ジャンル別パラグラフライティング」の内容を元に、ジャンル別のモデル文や構成説明、使用語彙をまとめて提示して書かせたところ、書く段階での思考で、目指していた論理的思考力や自律学習者の育成に近づけた。
Q. 対象としたクラスの特徴(学年、人数、授業目標等)
学年と人数:
中3、159名(全4クラスを各クラス2つに分け、20人×8グループ)。教員2名で共通指導案にて担当。
英語能力のレベル感、動機付けの強さ:
英検2級くらいのレベル。グループ分けは単純少人数で、習熟度の違いはない(苦手な生徒が得意な生徒から学ぶ機会を失うため、習熟度別で分けることは推奨していない)。
動機付けは高く、内発的動機付け。授業目標:
話すことと書くことをベースにした指導を通じて、論理的思考力の育成を図る。
ライティング指導は、ライティング能力のアップだけではなく、自分と向き合う時間にもなる。思春期真っ最中で内面的な葛藤の多い中学生は特に、その時期の自分の考え方と向き合うことでしかできない英作文やスピーチもあると思う。ライティングの能力アップや人を動かすようなスピーチ、そのような話し方ができる生徒になってほしくて、その3つを主に目標にしていた。
個人的に達成したいこと・こだわりたいこと:
自律学習者の育成。
公立中→中高一貫→公立高、と3タイプの学校でさまざまな生徒を指導する中で思ったことは、学習者は結局最後は1人になる。大学進学後は英文を誰も添削してくれないし、海外へ行けば議論は必須。1人になっても、英語をツールとして何かができるところまで導くのが英語教師の仕事だと思う。そのためにも、内発的な動機付けを育てなければならない。
Q. 課題意識、導入の経緯
宿題としてライティングを課す取り組み自体は4年ほど前から導入した。書かせるタイミングやトピックなどやり方を年々改善しながら続けていたが、量は書けるものの、構成力の変化を感じない日々が続いていた。
3年ほど前に、ライティングを取り入れた学年のGTECなどの点数が、4技能全てで例年より優位差が見て取れ、特にライティングとスピーキングが例年に比べて顕著に伸びたのを見て、ライティングとスピーキングの関係性に気付いた。ライティング自体に興味を持ち、「ジャンル準拠指導」に精通している武蔵野大学 教育学部 専任講師 渡辺英雄先生(大学の先輩)の下で学び始めたのが最初のきっかけ。その後「ジャンル」というキーワードを元に指導法を組み立てて自分のものにすることに取り組み、本教材を知り使い始め、納得できる形になってきたのが約2年前から。苦労したがとても勉強になった。
当時教員が「ジャンル準拠指導」を実践するうえでおそらく一番困っていたことは、生徒へのモデル文提供だった。モデル文(しかも解説付きのもの)がほとんどの市販教材に無かったからだ。本書を知る前は大学入試や英検の英作文を自分で分析して与えていたが負荷が大き過ぎて、何か使えるものはないかと探していた際、たまたま本書を見つけた。市販品でモデル文と解説が付いている教材はおそらく成美堂のみで、生徒向けの教材作成にも自分の理解にも役立った。
Q. 実際の使い方
授業における展開:
週1回宿題を出しており、教科書の各単元に入る前に予習として、単元に関連したトピックで自由英作文を書かせていた。その指示を出す際に教員が、モデル文と構成説明、使用語彙を用意して生徒に提示するために本書を使用した。
例えば物語文では、最初にトラブル等が起こり、その後に話の山場、最後に解決/未解決、のような起承転結の形で構成が決まっている。そんなジャンル別の構成や言語的特徴などをまとめたプリントを作成して生徒と共有していた。
自由英作文の指定条件は、検定教科書で扱うトピックのほか、文法項目の定着を狙いにする場合はさらに、この文法は絶対使うようにと追加指定することも。生徒の趣味や行事の前のトピックに合わせることもあり、柔軟に決めていた。生徒にトピックを選ばせることもあった。
書かせる文量はレベルを見ながら判断し、中3では100語以上(中1では50語以上、中2では80語以上)。
提出後の添削はあまりしておらず、添削する場合も全部は直さず1人1文程度。中学段階で添削しすぎると書く意欲をそいでしまい、自力で直す力も育ちにくいため、構成や内容にフォーカスし細かな添削は敢えてしない。その代わりに、毎回トピックごとに構成などが良かった英作文を生徒8名分くらい選出してWordファイルにまとめて配布していた。主体的に学ぶ力(普段の宿題への取り組み)及び、思考力判断表現力(定期考査)で評価していた。
1年間の英作文課題は約35本。主に「説得文」「意見文」「物語文」のジャンルに特化し、それ以外のジャンルは、教科書で触れた時のみ扱った。スピーチコンテストが多かったので、「物語文」は特に多く書かせた。「物語文」を通じて人を感動させる構成方法を生徒と共に考えた。
ライティングとスピーキングの関係性に気付いてからは、予習課題としてライティングをさせた後の授業で、同じトピックでのディスカッションやディベート、スピーチ活動などにも取り組んだ。
どの技能でも言えることとして、ジャンルがわかればその時点である程度の流れを予想できる。例えばリーディング/リスニングなら、導入部で「年代」が多く使われている文章は物語文の可能性が高く、全文を読む/聞く前から、起承転結の順番で動いていくという構成が分かる。他の例としては、「料理の作り方」についてのスピーキングなら、手順の構造を元に話していくこともできる。ジャンルごとに構成と言語的特徴が決まっており、全ての技能の手助けになるため、それらを意識して書く/読む/聞く/話すをさせた。
Q.工夫したポイント
授業準備で工夫していること:
1.ライティングさせるタイミングと、他の技能へのつなぎ方
単元に入る前に英作文をさせることで、背景知識とそのトピックで使用するフレーズもある程度頭に入っているので、他の3技能にも良い影響を与えることができる。
原則は「話してから書く」の指導手順だが、それでは話せない生徒が多い。環境問題のような難しいトピックやディスカッションにおいては、背景知識がないと話せないし、話させるだけだと内容も良くならない。特にインプットの少ない中学生段階においてディスカッション等の活動を取り入れる場合は、「話す前に書かせる」という準備は、効果的であると感じた。音と文字の往還が正確性を生み出す。このような教え方に気付いたきっかけは、3年前にコロナで約3ヶ月休校になった時期に自分が英語の勉強をしていて、書いてからオンライン英会話などに取り組んだところとても定着したこと。それまでは音から文字だと思っていたが逆もありだと思い、2021~2023年に生徒にもやらせてみたら上手くいき、とても話せる生徒が増えてきた。
ただ、ライティングに取り組ませる適切なタイミングは必ずしも前とは限らない。学年による違いもあり、中学段階だと先に書かせた方が授業は活発になり、高校段階(中高一貫以外では高1後半くらいまで待った方が良いかもしれないが)だと、逆に話させた後に単元の最後に即興で書かせる、のように導入段階を変えていくことも必要だと思う。学習者のレベルや、即興性を鍛えたい場合は敢えて先に書かせないなど狙いによって調整していた。
2.”Microsoft Teams” を使い提出内容を見える化する
課題配信や添削には”Microsoft Teams”を使用。ライティングは見える化した方が他の生徒の作品から学ぶことができ、競争心も生み出す。Teamsの返信欄はLINEのようなイメージで、得意な生徒が先に書いてくるため、それを見ながら英語の苦手な生徒も真似してライティングを始める。上位層の生徒の語数が増えてくると自然に全体の生徒たちの意識も向上し、特に何も言わなくても成長していく。3.慣れた頃には教員役も生徒に任せてみる
昨年度末の頃は、生徒にトピックや指定語彙、ジャンルも決めさせて、Teamsを勝手に使わせていた。教員はアシスタント的に構成だけ考えた。
英作文課題と関連した教科書単元の授業自体も、単元を丸ごと任せて「授業を組み立てて教えてごらん」と希望する生徒にやらせてみた。生徒が、教員が普段使っているPowerPoint資料や学習指導要領を元に内容を組み立てて、PowerPointを使いオールイングリッシュで授業を行う。普段の自分のやり方が見られていることが分かり反省点が見えて、セルフチェックにもなる。聞く生徒たちの反応は教員の授業よりもはるかに良く、英語嫌いな生徒も教員役の生徒を助けようと積極的に参加するという効果もあった。
大人が思っている以上に生徒はできる。教員役、生徒役双方の内発的な動機付けが育ち、生徒に任せることで自分の指導を超えるものが生まれるかもしれないとも感じた。
評価で工夫していること:
通知表の評定の基準となる3つの観点「知技(知識・技能)」「思判表(思考・判断・表現)」「主(主体的に学習に取り組む態度)」について、「主体的に学ぶ態度」と「思判表」の評価を一致させることを意識している。「主体的に学習に取り組む態度」は、ワークの点数や提出物で判断すると誤解しがちかもしれないが、一部として含むのは良いとしても、コミュニケーション活動や表現活動などの「思判表」の活動の中できちんと出した成果をメインとして評価するものだと思う。
例えば各単元の最後に行うスピーチテストなら、そこに向かってどんな努力をしたか、粘り強くできたか、他人から学んでいるかなどが結果に反映されるので、「主体的に取り組む態度」の点数と一致するはず。「思判表」がAだとしたら「主体的に取り組む態度」もAになり、「思判表」がAなのに「主体的に取り組む態度」がCということはない。成果を出しているからには主体的に学んでいるはずで、それをきちんと評価に反映させることがポイント。
生徒にも、4月の初めに評価方法について、提出物などだけ頑張っても不十分で、きちんと授業に出て、「思判表」の活動で成果を出すことが評価につながると伝えていた。
Q. 実施した結果
生徒の成績の変化等:
ライティング指導をした生徒の一部が、じゃれマガエッセイコンテスト全国1位や3位、高円宮杯(英語弁論大会)全国大会出場という成果を出した。弁論大会では話す内容が良いことも必要不可欠なので、中1からライティングを鍛えたことが影響したと思う。学年の半数が英検2級を取得し、各種検定のライティングで満点を取る生徒もとても増えた。
また、ディスカッション・ディベートが成り立つようになった。スピーキングにつながることを理解すると、内発的動機付けも上がってきた。書くことで得られる効果を実感すると楽しくなってくるようで、最後の方はライティング課題で書く時間や文字数を超えても書き続ける生徒もいた。読み聞きできるから楽しい、話し書きできるから楽しい。この循環は難題へのチャレンジ精神も生む。
ライティングは、大学で最後に論文を書くイメージもあり、最終ゴールとして捉えられがち。しかしゴールではなく敢えて最初に持ってくる指導を自分の成功体験を元に試してみたところ、4技能全てに相乗効果を生み学びも定着するということが分かり面白かった。
通常中学生にはまだあまり英作文はさせないだろうが、きちんと使用フレーズやジャンル別の構成を与えて学年全員で取り組む環境を整えれば、可能だと思う。書き続けることが最優先事項であり、あまり語数や内容は問わないことが大切。毎週続ければ必ず成果が出てくるだろう。それを授業で他の技能にもつなげることもでき、メリットは大きいと思う。
授業目標や工夫の意図との対比:
始めた当初はライティングだけのためにやっていたが、その後授業内での各活動につなげるなど発展させたところ、4技能全てが伸びる結果につながったことは予想外の発見だった。
今はChatGPTがあるので、例えば「環境問題で英作文してほしい、ジャンルは説明文で」のように指示すると英文を出せるが、その信憑性を確かめる目が必要。ChatGPTが書いた英文や構成が間違っていた場合でも、間違いに気付いて修正ができるような力も本書で養われた。生徒へのモデル文提供や解説ができるようになったほか、自分のためにもなった。
Q. 今後に向けて
高校での指導を学び、このライティングをベースにした指導法をさらにバージョンアップさせて汎用性を高めていきたい。全ての指導法に言えるが、教員歴や研修環境に関わらずどんな教員でも、公立中・中高一貫・公立高など学習環境によらずどんな生徒が対象でも、どこの講習に行っても使える汎用性がないと意味がない。そのためにはもっと勉強しないといけないし、使うワークシートも簡素化して誰でも使えるレベルに落としこんでいきたい。
また、公立中、中高一貫、都立高を経験している教員はほんの一握りだと思うので、この経験を活かし、「中高接続」に尽力したい。自分自身もまだまだ勉強不足で、特に高校生への指導については不安ばかりで毎日悩んでいる。今後もみなさんから勉強させていただきたい。
- 亀田 洋斉
- 千代田区立九段中等教育学校
プロフィール
公立中学で教員歴をスタートし、本校勤務を経て、2023年度から都立高校の専任教諭。 大学3年生の時に、木村松雄教授(現青山学院大学文学部名誉教授)から最新の英語教授法を教わり、その楽しさに気づいたことが英語教師を目指したきっかけ。 初任の公立中ではかなり苦労し…