豊かな学びで生徒をゾーンに導きたい 〜「自走する学習者」育成の秘訣〜
最終更新日:2026年2月25日
今回は、ICTを活用した英語教育の実践者として知られる、聖徳学園中学校・高等学校の山田 健治先生にお話を伺います。山田先生は、教員になられて36年(2025年12月現在)の大ベテラン。2006年に文部科学省の「スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール」指定を受けた聖徳学園で、中学1年から高校3年までの学年主任を歴任され、長きにわたり生徒たちの学びと成長を見守っていらっしゃいます。教育の変遷を肌で感じてこられた先生は、最先端のICT活用を通じてどのような教育の未来を描かれているのでしょうか?
「今は時代が違う」柔軟な学びの場を提供するためのICT
—— 山田先生が聖徳学園の英語教育において、とくに重要視されていることは何でしょうか。
(山田) 私たちが目指しているのは、「Autonomousな学習者」、つまり自走できる学習者を育むことです。生徒たちが、指示されるのではなく自ら進んで学び、探究していく。そのために、私たちは環境を整えることに注力しています。
従来の授業は、「~しなさい」「こうするべきだ」といった教員からの指示や指導が中心でした。しかし情報化が進み、生徒たちが日常的に扱う情報量が飛躍的に増えた現代では、その枠組みだけでは十分に機能しません。今求められているのは、ICTを活用した学習の仕組みを意図的に設計し、生徒たちがその中で自然と学び、楽しさを感じながら、自らの興味関心を深掘りしていけるような環境を作ってあげることです。
—— ICTをただ使うのではなく、教育工学の考え方を背景に、生徒が主体的に学べる仕掛けとして活かしているということですね。

(山田) 昔は紙の辞書を使ってノートに英語と日本語を書き写すよう指導されましたよね。電子辞書を使うと怒られたりもしたものですが、今は時代が違います。生徒たちが「アプリが勧めてくれた記事を英語で読んだら面白かった」「Netflixで、このドラマを英語で見てみよう」などと自らの興味関心から学習をスタートできるような、自由で柔軟な学びに向かうきっかけを提供したいと考えています。
教育工学的アプローチで生徒をゾーンに導く
—— 授業の導入部分で、アイスブレイクや語彙力強化のために単語カードアプリ「Quizlet(クイズレット)」などを活用されていると伺いました。これは、単にゲーム感覚で単語を覚える、という以上の狙いがあるのでしょうか。
(山田) もちろん、単なるゲーミフィケーションで終わらせるつもりはありません。私たちの狙いは、学びの場を整えることです。生徒たちが毎回ランダムなチーム勝利を目指し競い合うことで、自然と関係性が強化され、お互いが助け合う雰囲気が醸成されます。

Quizletで30人ほどのクラスを無作為にグループ分けし、3分間だけ時間をあげて、「このお題について話し合って、発表してください」と促します。普段あまり話したことのない生徒同士が、その場で共同作業をする機会を作るんです。人見知りの生徒もいますが、ゲームを介してすでに一緒に活動しているので、いきなり向き合って話し合うよりも心理的な抵抗が少なくなる。生徒たちは楽しみながら自然に混ざり合い、協力して課題に取り組むことができるんです。
生徒たちの半分以上が授業を「楽しい」と思ってくれればこちらの勝ちです。そうしたポジティブな雰囲気が生まれると音読活動もスムーズですし、より発展的な学びへとつながっていきます。
—— リスニングやリーディングの指導にも、ICTは活用されるのでしょうか。
(山田) はい。長文読解の教材は『Cutting Edge Green/ Blue』(エミル出版)を使っています。まさに”Cutting edge(最先端)”なトピックが多いのが特色です。テキストをタブレットやプロジェクターを使って提示します。Quizletで新出語彙は整理できているので、ダイレクトにリスニングに移ります。読み上げアプリのSpeechifyでは、様々な地域の英語(スコットランド、カリフォルニア、オーストラリアなど)を再生速度を調整しながら聞き、Keynoteで視覚的な情報を加えて内容を掴んでいきます。生徒との対話を通して理解を深め、最後は「Kahoot!(カフート)」で楽しく復習します。
生徒たちが没頭できる(State of Flow)ような、いわゆる「ゾーン」ですよね。生徒が「あ、もう授業が終わっちゃった」と言うような授業を私は目指しているんです。苦手意識を持っている生徒ほど、こうした「楽しい」と感じられる授業や、成功体験を積む機会が重要になってきます。彼らが「英語って面白いかも」と思えるようになることが、学習意欲を引き出す一番の近道だと考えています。
聖徳学園で実践しているサマリーライティングのアプローチ
—— 長文読解となると、どうしても和訳に偏りがちであったり、生徒が内容を掴みきれずに苦手意識を持ってしまうケースも多いかと思います。先生は、そのような課題に対して、どのようなアプローチを取られているのでしょうか。
(山田) そこが、まさに私たちが力を入れている部分です。長文読解において一文一文の和訳に終始していては、難関大学の入試で求められる、文章全体の構造を理解し要約する力は養えません。そこで、私たちはサマリーライティングの訓練を重視しています。
ファン・ダイク(T.A. van Dijk)が提唱した「マクロ・ストラクチャー」とは、文章の要約したときに浮かび上がる意味の骨組みのことです。彼は、要約がどのような過程で可能になるのかを説明するために3つの「マクロ・ルール」を示しました。それが「消去のルール」「一般化のルール」「再構成のルール」の3つのルールです。
たとえば、「黄色いドレスを着た少女が通り過ぎた」という文のもっとも重要な要素は「少女が通り過ぎた」という部分にあります。このように、文章の中から不要な情報を消去し、共通する要素を一般化し、さらに複数の内容をまとめて再構成していくことで、文章の骨子を掴むことができます。
このサマリーライティングの訓練は、高校3年生の早い段階から行います。最終的には、早稲田大学文化構想学部や東京大学の過去問などの入試問題で要約問題に挑戦してもらいます。もちろん、すべての生徒が早稲田大学や東大を目指しているわけではありません。しかし、この「文章の骨子を掴む」というスキルは、どのような進路に進むにしても、必ず役に立つ力だと信じています。
教材準備にもICTを取り入れ、成果に表れる授業を展開
(山田)ただその分、教材の準備は大変です。授業で投写するスライド作成がとくに大変ですが、最近は生成AIが活躍してくれています。以前は、私自身が教材の要約を作成し、ネイティブの先生にチェックしてもらい、さらにそれを手書きで起こしたりと、非常に手間と時間がかかっていました。しかし、今はAIを使えば、「このテキストをCEFRのA2レベルで100語に要約して」といった指示で瞬時に要約を作成できます。
—— AIの活用は、教材準備の面でも大きな変化をもたらしているのですね。
(山田) そうですね。生成AIの有料アカウントは非常に高性能になってきているので、それも教材の質を格段に向上させる要素になっていますね。
作成した教材は校内の共有ドライブで共有し、他の先生方も自由に活用できるようにしています。これは他教科でも行っている取り組みです。教員それぞれが作ったものをみんなのものとして共有する文化が根付いてきたことで、先生方が主体的に教材開発に参加してくれるようになり、非常に助かっています。60代のベテランの先生が、私が作ったスライドを活用してくださっているのを見たときは、本当に嬉しかったですね。
本校ではさまざまな側面でICTを活用していますが、その効果は生徒の成果として表れてきています。2023年度入学生の英検取得率ですが、2年のときは準1級が10名だったのに対し、3年の6月時点で15名に増加しました。また、GTECにおいても、211名が受験したリーディングテストの平均点がB1レベルに到達するなど、生徒たちの英語力全体の底上げにつながっています。

授業面でも工夫を凝らしていますが、部活動に打ち込みたい生徒にはしっかり後押ししますし、将来に役立つような海外研修などの体験も用意しています。「早く行きたければ一人で進め、遠くまで行きたければみんなで進め」ということかな、と思います。まさにその姿勢で、生徒をより豊かな学びの「ゾーン」へ導きたいと考えています。難関校を目指す生徒には必ずしも最短距離の受験準備ではないかもしれません。それでも、深い学びを実現するためにICTを積極的に取り入れています。そのために一番大事なもの? iPadのバッテリーとWi-Fiですかね(笑)。
取材・編集:小林 慧子/構成・記事作成:吉澤 瑠美



