「ジブリで生徒の心をつかむ」探究スキルラーニング授業!

最終更新日:2022年9月22日

1.授業概要: 授業の対象者、人数、目的

はじめに、【探究スキルラーニング】について少し説明したい。

本校では、学校図書館を情報ハブとして【探究スキルラーニング】を行うことで各教科の授業と探究基礎の授業をつなぎ、教育課程全体を通して探究活動の質を向上させることを目指している。(本校HPより)

探究活動は「特別な時間に実施する特別な学び」ではなく、「普段からすぐ側にある学び」であり、探究活動によって培われる課題発見・課題解決に必要とされる資質やスキルは、これからの社会を生き抜く生徒たちにとって非常に重要なものであると学校全体で考えている。

 

今回紹介する「My ジブリミュージアム」は、【探究スキルラーニング】授業の一環として、英語コミュニケーションⅠ内にて実施されている。対象学年は高1で、普段習熟度別に分かれている2クラス(Standard、Advanced)の生徒55名が合同で一学期に取り組んだ。

 

本授業の目的は大きく分けると以下の2点である。

 

①【探究スキルラーニング】の観点:探究に必要なスキルの1つであるロジカルシンキング(論理的思考力)を、帰納法を使って鍛える

②英語科の観点:新学習指導要領にもある「論理性に注意して伝えて書くことができる力」、Writing能力を鍛える

 

3年ほど前から始まった「My ジブリミュージアム」の授業だが、実は2020年の9月に、スタジオジブリの公式サイトにて「常識の範囲でご自由にお使いください。」というコメントと共に、ジブリ作品の場面写真が公開されたことがきっかけで考えたものであった。普段「○○な力をつけるためには」というスタートから授業の内容を考えていくことが多いが、この時は「この素敵なジブリの写真を使って何か生徒たちとできないか?」と強く感じ、教材から授業のテーマや目的を構築していった。

 

2.課題意識: どのような課題を乗り越えたいと思ったか。また、課題解決のポイントがどこにあると考えたか

①【探究スキルラーニング】について

校内に入るとすぐ、ラーニングセンターと呼ばれる図書館がある。生徒たちにこの図書館を上手く活用してほしいという教員たちの強い願いがあった。そのためには生徒が自由時間に個別に利用するだけではなく、授業内でのさらなる活用が求められる。また、図書館の司書を中心として各科目がつながり、学校全体で探究活動に力を入れていくことで授業の質をさらに向上できると考えた。以前は「図書館利用学習」という名前であった探究活動の時間を【探究スキルラーニング】と変え、イメージも刷新された。

 

②英語科として

生徒にとってWritingはなかなかハードルの高いものであり、ロジカルに書くとなるとさらに難しくなってくる。少しでも生徒が主体的に楽しんで書くにはどうしたら良いかと考えてきた。日本のアニメーション文化を代表する「スタジオジブリの作品」であれば、生徒たちもきっと夢中になってくれるのでは、と期待し、授業に取り入れることにした。

 

3.授業設計方法とポイント: 学期における構成、必要に応じて学生等からの取得情報や他教員・教科との連携

本校では、自ら決めたテーマに関して、高2の最後に個人研究論文を書いており、この論文執筆が探究活動の集大成となる。高2でテーマを決める際にも自らの内面の関心や価値観を知ることは非常に重要であることから、高1を「自分を知る期間」とし、高2に向けての種まきを行っている。

高1では特に「アートを通じて内面を探ること」に力を入れている。高1の終わりには「アート思考研修」としてオーストラリアのブリスベンに行き、先住民のアボリジニの絵を見たり美術館を訪れるなどしたこともある。研修の最後には一人ずつ自己紹介ムービーを作り発表し、アウトプットしながら自らと向き合った。現在はコロナ禍で国内での研修に代替しているが、ぜひまた復活させたい。

「My ジブリミュージアム」の授業も、アート思考の一環として高1の1学期に実施した。

 

4.授業準備とポイント: 準備するテキスト、ITツール等

授業内で実施するワークシートは事前に準備し、1つの「冊子形式」にまとめて生徒に配布した。ワークシートがバラバラになって紛失するのを防げるだけでなく、より「プロジェクト感」が出て良いと感じる。授業内で使用したスライドや配布した冊子は、本校HPの探究スキルラーニング・授業紹介で公開している。(https://seishokaichi.jp/ssh_class/5064/)ぜひ参考にしていただけたら嬉しい。

 

この授業以外にも言えることではあるが、本校では探究活動において「ルーブリック」を用いた評価を行うことを重視している。青翔開智の「育てたい資質」と「評価項目」として、スキルの一覧と評価項目を生徒全員に配布し、職員室にも大きく掲示している。こちらも、本校HPに公開しているので宜しければ見ていただきたい(https://seishokaichi.jp/curriculum/ssh/class/)

教員はこれらの項目をベースに授業を組み立て、授業を通じて特に身に付けさせたいスキルを明確化する。また、生徒自身にもそのスキルとは何なのか?について考えさせる。そして、授業後には生徒たちの自己評価と教員からの評価を共にまとめ、フィードバックするという流れである。自己評価と他者からの評価のズレなども視覚化できる。

 

ITツールとしては、ジブリの場面写真を選んだり保存したりするのに、生徒一人1台ずつ所有しているiPadが役立った。

 

5.授業実施とポイント: 授業の具体的な進め方、授業中の説明や求めたアウトプット

本授業は高1の英語コミュニケーションⅠを合計8~9コマ使用し、具体的には以下のステップで授業を進めていく。

 

ステップ1(3コマ):教員が選んだジブリ9作品(1作品につき50枚の場面写真)の中から、「直感で、目に留まった場面写真」を生徒は9枚選ぶ。選んだ9枚についてそれぞれ、「その場面写真に描かれている事実をありのまま」を5行程度の英文でシートに描写する。(Discription)書き終わったら、書いた内容について話したり、互いに選んだ場面写真を当て合うなどのペアワークを英語中心に実施する。

 

ステップ2:(2、3コマ):このステップでは、ロジカルシンキングを行うために重要な「帰納法」について改めて学ぶ。帰納法とは、複数の事実から共通点を見出し、その共通点から結論や法則を導き出すという手法である。まずは教員から帰納法について言葉で易しく説明した後、「ステップ1で選んだ9枚の場面写真から、何か共通項を探し、大きなテーマを見出してみよう!」と生徒に話す。生徒たちは、9枚の場面写真を選び、1枚ずつ描写したことの本当の目的をここで初めて知ることとなる。

 

ステップ3(3コマ):自ら選んだ9枚の場面写真について、「そこに描かれる事実」だけでなく、「表現されたテーマ」を深堀して書いていく。場面写真の共通項についてまとめ、大きなテーマについて自分なりに導き出す。

 

※iPadを使い、作品を見ながら英文にしていく様子

 

(例)選んだ場面写真にはどれも「光・灯り」が示されており、これらに自分は惹かれていることに気付かされた。「安心している人の姿」が描かれる場面写真を無意識に選んでおり、これが自分が大切にしている価値観だと感じた、など。

 

「直感的に好きだと感じた場面写真」の共通点を探し、自分の言葉で説明することで、自身の考え方や感じ方などを発見していくのである。最後にスライドを作成し、印刷して展示したものを全員で鑑賞する。

 

※実際の生徒作品と鑑賞会の様子

 

 

ステップ4:生徒自ら取り組みについてシートに評価を書き、その後教員からの評価と共にフィードバックする。

 

※授業のポイント

高1は、教員の助けがあれば十分に写真のDiscriptionを英語でしたり、まとめの文章を書くことができる。各ステップごとに、教員が質の良い「見本・例文」を示し、使用する単語もいくつか提示してあげることが必要である。また、授業内容に関する教員の説明は基本的に全て日本語で行い、生徒間での説明やペアワークは英語中心、ライティングは全て英文で実施する。

 

6.評価とポイント: 授業内外での評価方法、フィードバック方法

4.授業準備とポイントの項目でも少し説明をしたが、評価方法として「ルーブリック」を活用しており、これらは全ての探究スキルラーニングの授業で使用される。各授業を通じて「育てたい資質」と「評価項目」は授業の導入時に生徒たちにも明確に伝えられ、目的意識を持って授業に参加できるようにしている。「My ジブリミュージアム」の授業に関してはやや特殊で、初めに帰納法のスキルの話をすると、生徒たちがそこを意識した楽な写真選びをしてしまうと考え、写真選択後に伝えることにした。また、生徒が無意識に直感で選んだ9枚全ての写真から共通項を見出すのはなかなか難しいため、5枚の写真からテーマを見いだせれば「A」の評価をつけることとした。英語力の評価は、ライティング表現の流暢さ(fluency)を重視し、文法や冠詞の正確性(accuracy)は本授業では評価外とした。教員が示した「見本・例文」等を参考にし取り組めば、ルーブリックの到達目標に達することができる仕組みだ。

 

※今回のルーブリック

 

授業終了後には生徒たちに自らの評価をルーブリックに入力し、Googleフォームで送信してもらう。2週間~1ヶ月以内に教員側の評価を入力し、フィードバックを行う。

7.授業を実施した上での成果と課題: 想定通りに進んだか。また、得られた成果や判明した課題

Writingという生徒にとっては少々退屈な作業も、ジブリ作品の場面写真を使うことで集中して取り組めた。9枚の場面写真についてDiscriptionをして英文を書き、ペアワークで英語でSpeakingやListeningをし続けるのはなかなかのハードワークだったと思う。最後まで取り組めたことに成果を感じている。生徒たちも最終日の展示会では互いの作品を大変満足そうに見て読んで楽しんでいた。

 

一方、「My ジブリミュージアム」の授業を実施して今年で3年目であったが、昨年度まではロジカルシンキングや帰納法についての教員の説明が足らず、生徒たちは理解に少々苦戦していたようだった。今年からは帰納法についてさらにわかりやすく伝えるため、説明時に次のアクティビティを実施した。まず、「ガイコツ」「大聖堂」「彼岸花」が描かれた3枚の絵を生徒たちに見せる。その後、これら3枚の絵に共通する「テーマ」を考えてもらう、というものである。解釈はそれぞれであるが、今回の場合は「死」という共通性やテーマが当てはまる。このような手法は美術館の展示でよく使われているので、それらも上手く活用できると思う。今年はこのアクティビティのおかげで生徒の理解は割とスムーズにいったと感じる。

また、生徒たちの英語力はバラツキがあり、特にWritingはその差が顕著に表れる。自分の力だけで全てを書くのは難しいため辞書を使うのだが、Google翻訳含め「どこまで辞書を使い、頼るのか?」については答えが出ず、引き続きの課題となった。WritingのフィードバックはALTの先生方とも協力しながら行っており、辞書の活用法とともに検討していきたい。

 

【司書連携の可能性について】

授業法記事の最後に、本校司書について補足したい。「My ジブリミュージアム」授業実施にあたり、司書の存在は無くてはならないものであった。実は、「ジブリ作品」と「帰納法」をかけ合わせるヒントをくれたのは司書である。ジブリ写真を使って何かしたいと強く感じていたが、どのように授業とかけ合わせれば良いか悩んでいたところ、司書がアドバイスを出してくれたのだ。また、「My ジブリミュージアム」授業が全て終了した際には、司書から生徒へおススメ本(ジブリに関するもの、ジブリを英語で学ぶ、自分の好きを相手に伝える方法、などの内容)の紹介があった。生徒たちにとって良い振り返りになると同時に、継続的な学びへとつながった。各科目の教員だけで授業を構築・実施するのではなく、司書を中心にさまざまな視点やアイディアを取り入れていくことで、可能性は大きく広がると感じている。

 

8.授業を参考にする先生へのメッセージ: 上記を参考にして自分で実施をする先生へのアドバイスや期待すること

生徒が主体的に探究活動を行うには、興味のあることや「好き」なことを上手く取り入れることが重要であると感じます。スタジオジブリ作品は日本を代表するアニメーションで、無意識に生徒たちの心を掴んだのかもしれません。

今回ご紹介した本校での取り組みを始め、「そんなに難しいことはできないよ」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そんなことはきっとないはずです。本校でも「英語の得意な生徒」「苦手な生徒」はおり習熟度はバラツキがあります。それでも教員が多くの例を提示し、生徒に具体的なイメージを持たせることができれば可能に変わると信じています。「できない」という考えから、ぜひ一緒に脱却してまいりましょう。

 

 

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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