TEFLの手法を活用して論理表現で伝える「教材を通して世の中に自分の興味関心を開いていける!」

最終更新日:2023年2月10日

1.授業概要: 授業の対象者、人数、目的

■対象学年:2022年度高校1年生国際コース 論理表現
■人数:1クラス約30名
■目的:
アメリカのサンディエゴで外国語教授法「TEFL(Teaching English as a Foreign Language)」を学び、その手法を授業に取り入れている。TEFL勉強中に必ず言われたのが「パーソナライゼーション」。対象教材を自分ごとにしていくということ。読んで終わりではなく、学んだ話題、テーマ、コンテンツを通して考えさせていく。最後にそこから得たものを、自分なりに咀嚼してエッセイやプレゼンテーションなど自分たちができる形で外に出していこう、と学んだ。それを自分が関わる先々で生徒たちに実践してもらおうと思っている。読む・聞く教材を通して、読んだこと・聞いたことは他人ごとではなく自分ごとだよ、と変容して落とし込んでいきたい。これを一番大きな目的にしている。

2.課題意識: どのような課題を乗り越えたいと思ったか。また、課題解決のポイントがどこにあると考えたか

■課題

4技能を伸ばそうと言われているが、現状とは差があると感じている。データ(文科省「平成29年度英語力調査結果(中学3年生・高校3年生)の概要」)を見ると、一部の技能(多くはリーディングやリスニング)はしっかりやっていても、スピーキングやライティングといったアウトプットがあまり伸びていない。これは日本全体の課題で、自分一人が頑張ったところですぐに何かが劇的に変化するわけではない。だが、自分のリサーチクエスチョンとして、最低限自分が受け持っている生徒に関しては、できるだけ差が出ないようにしたい。

生徒たちに考える時間、発想・着想時間を与えてあげたい。自戒を込めて、授業は教員が一方的に語っている時間が多く、生徒たちとキャッチボールできていない状態になりがち。そうなると能動的なのは教員だけで、生徒たちは受け身一辺倒になってしまう。生徒たちも、活動しながら充実できるようなことをやっていきたい。ありきたりな授業でなく、読むものでも聞くものでもどちらでもいいので何かのコンテンツを通して、生徒の着想する力を伸ばしてあげたいと思っている。それが少しできていなかったように感じて、自分自身の課題を乗り越えたかった。

■課題解決のポイント
生徒が個々に持っている力は、一人ひとり全然違う。英語のような論理的なものは苦手だが、絵や音楽はとても得意という生徒もいる。ただ、自分は英語教員なので英語しか教えられない。そのような制約がある中でも、最終的に、その生徒たちが生き生きする方法や引き出し方はあるはず。例えば、別の形で表現するチャンスを与えたら、生徒の意外な力に気付いたことがある。コロナ渦で授業ができなかった時に、授業用のスライド資料作成とそれを使っての授業を生徒たちに分担して課したところ、話すことは苦手な生徒がとても良いスライドを作った。生徒本人も教員も最初から無理だと決めつけず、個々の生徒のパーソナリティを活かして伸ばすにはどんな方法を取れば良いのか、それがTEFLの基本的な考え「パーソナライゼーション」であり、目指したいところでもある。

4技能それぞれについて様々あるTEFLの手法のなかで、リスニングについての手法を実践している。聞くことに対してアレルギーを持っている生徒が、聞いてもどうせ分からない、早過ぎて理解できない、と諦めてしまう事態を避けたい。完ぺきに理解できなくても頭の中で考えることはできるから、そこからまずやってみようということを、「Silent Movie」や「Dictogloss」という手法を使うことで実現したい。

各単元(ニュース)で最初はまず、写真やSilent Movieで考えさせる・想像させることから始める。生徒たちにはその前に「1個に限定した答えを求めているのではないから、枠にはめずに自由に考えたらいい。爆笑するようなものもアリだし、発想ってそんなもの」と説明する。この準備をすると、聞いて理解することが難しい層の生徒でも、聞き取りの心理的なハードルがとても下がる。

その後どんな内容だったかを英語で語り合うので、Thinkingという生徒たちが持っている認知が使えて、その後Speakingで発話して発散したことを最後にWriteで文字化することによって、自分なりに客観的に見れる。複数名で語り合うため、自分はこう考えていたけれど他の生徒はこう言っていたから違っていたかも、または自分の方が合っているなど、人の意見の持ち合いを通して自分の中で選択する。そうした色々な発想を頭の中に落とし込んでいって、できるだけハードルを低くしてあげると聞き取りしやすくなるし、4技能も取り入れられると思っている。

3.授業設計方法とポイント: 学期における構成、必要に応じて学生等からの取得情報や他教員・教科との連携

■学期における構成
教材は「CNN Workbook Extended Course 2022」を使用している。新カリキュラムへの変更も本教材利用も初年度なので、ペースは様子を見ながら。本格的に開始した2学期に4単元終えており、3学期も4単元、全20のうち残り12単元は次年度に繰り越し、本教材と続編の計2冊を3年間で終える予定。

単元単位では、2コマで1つの単元が終わるペースで計画している(英語の時間が週1で連続の2コマなので、1週間に1単元)。例えば最初の単元「1. 配達ロボットの需要が中国で急増中!」では下表のような指導計画を立てた。



■学生からのフィードバックに基づく授業改善

毎回ではないが、適宜アンケートを取ることもある。聞いてどうだったか、教材はどうだったか、授業の進め方はどうだったか(例えばSilent Movieやスピーキングをどう思う?)など。紙で集め、気になるコメントはメモして次に活かしている。

4.授業準備とポイント: 準備するテキスト、ITツール等

生徒に共有するものはGoogleClassroomに貼っておき、ピンチになったらこれを見なさいと伝えている。授業スライドも含めて全部そこで共有している。
各単元でエッセイを書かせて評価にも使うため、エッセイの書き方や例文のスライドを作り、1学期の段階で解説して共有した。また、単元ごとに主に以下の資料を準備している。

(1)指導計画
上記3.で挙げた指導計画がベース。少しずつマイナーチェンジもしている。

(2)単語・語句紹介スライド
単語は、予習で和訳を調べなさいではなく、自作スライドを使って授業内で紹介し、授業後に生徒に共有している(通常は文法事項もスライドに載せるが本教材には殆ど文法説明が無い)。ただ、当授業では聞き取りがメインなので、生徒たちはスライドよりも聞けるようになりたい様子。

(3)Guess Sheet
出てくる単語や語句一覧、穴埋めや選択問題、作文問題をまとめた以下のような2ページ程のシート。

(4)Dictation Sheet、解答用スライド
英文を一字一句聞き取るのは難しいので、語句に下線を引いたり穴埋めにしたものを準備する。生徒に配る紙のシートと、答え合わせをする際に見せるスライドの2タイプ。

(5)エッセイの例文
エッセイ全般の解説時に共有済みだがテーマが違うと戸惑う生徒もいるため、各単元ごとにも例文を用意し生徒に共有している。

5.授業実施とポイント: 授業の具体的な進め方、授業中の説明や求めたアウトプット

■授業の具体的な進め方
単元ごとの指導計画(上記3.に例を掲載)に沿って進めている。主要な項目の詳細は以下。

<1コマ目/週2コマ中>
3.Check the vocabulary words
よく出てくる重要な単語を選んで、自作スライドで写真を見せながら、和訳ではなく英語を使って単語を教える。この時点で、出てくる単語で本文のストーリーが推測できる生徒もいる。

4.Silent Movie + Guess Sheet
最初に動画を見せるときには、音を出さない。この画面ではどんなことを言いたいのかを皆で考えよう、と生徒たちに想像させる。1つの動画は1分あるかないかくらいの長さで取り組みやすい。

音無し動画を2回見た後Guess Sheetを用いて、まずは隣同士の生徒2~3人で動画がどんなストーリーなのかを英語でディスカッションする。生徒たちは素直に一生懸命やっている。数名での検証後に、Guess Sheetの英作文に個人で取り組む。作文時間は彼らにとって一番集中しやすいと思う「3分間」取り、書けるところまで書いてみる。

5.Dictogloss
ここでようやく音声付きで動画を見せる。聞き取った英文をそのまま書き取る「Dictation」と違い、「Dictogloss」という基本的に聞くだけの手法で行うので、音を認識する練習になる。5回聞いた後で、Guess Sheetで推測していた内容と合っていたか、何を言っていたかを推測時と同じ数名で検証する。メモはしないかキーワードのみのメモなので、ディスカッションでは耳と記憶だけが頼り。

6.Dictation
Dictation Sheetを配り、ペンを持って全体で動画を見ながら音声を聞き、聞き取った英文を各自で書かせる。Dictation Sheetには英文の大部分が載っており、Dictoglossである程度聞き取れた内容が文字として提示されるため、見た段階でまず音声と文字がある程度一致する。Dictationでは、穴埋め部分に絞って聞き取った音声から文字をどう埋めていくかを確認する。

<2コマ目/週2コマ中>
2.Watch the movie again

連続した2コマ目なので休憩時間を挟んで、もう一度動画を視聴。本教材に載っているQ&Aや教員自作のQuestionを各自で解き、本文に書いてあったことを復習して理解度を確認する。動画や教員のモデルリーディングに続いて、全員で音読。

3.Check the answers
全体で、Q&Aの答え合わせ。

4.Useful Expression
宿題としてお題を与えてエッセイを書かせる。例えば「1. 配達ロボットの需要が中国で急増中!」のニュースを学んだときは「コロナウィルスは私たちの生活にどんな影響を与えているか」を80~100字で書く宿題を出した。作文は、次回授業で提出して教員が確認する。

■授業中の説明や求めたアウトプット
もっと色々な展開もできると思うが、今のところアウトプットは最後に全部エッセイに落とし込んでいる。

予習復習としては、QRコードでいつでも見ることができる音声や映像を、予習は好きだったらしなさい程度、復習はテストに出すから聞かないと成績に響くと伝えている。実際見聞きしているかは生徒次第でチェックまではしていないが、どんな聞き方をしてほしいかや音読の仕方(授業中の音読後にもう一度聞いてからオーバーラッピング)は授業で教えている。それをきちんとやればスキルは伸びるはずで、理解の部分は、授業中に意味を確認しているので、和訳提示まではしていないが理解出来ていると思っている。

 

6.評価とポイント: 授業内外での評価方法、フィードバック方法

■評価方法
定期テスト(88点満点)で、リスニングとエッセイもそれぞれ12点分出題。リスニングは、Dictationと内容のQA、エッセイはリスニングに関するテーマとした。

エッセイは、3つのテーマを挙げてどれか1つを出すことを数週間前に予告して、予め準備できる状態で当日即興で書かせた。前回挙げたテーマは「ロボットと動物のペットとどちらを友達として選ぶか(デリバリーロボットの単元に関連)」「あなたが歴史上で尊敬する女性は?(ナイチンゲールの単元に関連)」「自然保護と都市開発どちらを優先する?(環境問題の単元に関連)」だった。

また、エッセイは定期テストだけでなく各単元の最後にも書いて回収し評価に含めている。生徒に提示しているエッセイの例文には「ルーブリック(評価シート)」も付けており、これが書けていたら4点、ここまでかけていたら3点、のような文字数などルーブリックのルールに沿って評価をする。

ルーブリックのルールに沿って評価をする。

■フィードバック方法

各単元の最後で書くエッセイを回収し、ルーブリックに沿って評価しコメントを付けて都度返却している。本教材ではないが、良かったエッセイを仮名にして全員に配ったこともある。

 

7.授業を実施した上での成果と課題: 想定通りに進んだか。また、得られた成果や判明した課題

■成果
分かる部分も出てくると生徒たちも自信がついて励みになり、モチベーションが上がってきたと言う生徒もいるし、生徒たちを見ていてもそう感じる。

導入後間もないため現状はまだだが、今後期待したい成果としては、言語的・社会的、2つの面がある。言語的には、4技能の向上とそれに伴い外部試験での点数が伸びることが理想。社会的には、テーマがトレンドのものばかりなので、SDGsなど何か1つでもテーマに興味を持って一人でも調べられるようになると入試にも繋がってくると思う。

開始から1年弱の間、単元ごとにマイナーアップデートしてきた指導計画書もほぼ定着し、本教材を使った授業進行のフレームワークはできている。

■課題
本教材は副教材で、検定教科書「FACTBOOK」と併用して同じ授業内で使っており、2教材の時間配分について現在の状態が適切なのかは模索している。

現状は連続した2コマの授業のうち、1.5時間をCNN、残りの0.5時間で「FACTBOOK」に戻し、宿題の確認などの後、教科書内容を進めている。生徒を見ていると、1.5ではなく2時間続けても良いのかなと思うこともある。しかしその分教科書に割ける時間が減ると、テスト範囲が終わらない、音読やペア練習など教科書を活用した活動があまりできないなどのジレンマがある。逆にフレームワーク自体をよりシンプルにして各1コマずつで同割合にする選択肢もあるが、シンプルにし過ぎると定着しないし、CNNは簡単にできる教材ではなく、時間をかけてきちんとフレームワークに乗せてやりたい。より良いやり方を探っていきたいとは考えている。

8.授業を参考にする先生へのメッセージ: 上記を参考にして自分で実施をする先生へのアドバイスや期待すること

生徒たちが英語を聞くハードルをどこまで下げられるかが難しい。生徒によって聞く目的がバラバラだと思う。聞き取りをするとどんな利点があるかをアンケートした際、英検で良い点数がとれるから、受験で活かせるからという回答が多かった。もちろん正論だが、そこで終わらせるのではなく「いかにこの教材を通して世の中に自分の興味関心を開いていけるか」を生徒たちに語っていってほしい。それで英語に興味を持てる子もいると思う。単なるリスニング教材の枠を飛び越えて、教材を通して自分や世の中のことを知る喜びを与えて行って欲しい。

※当授業の使用教材「CNN Workbook Extended Course」の詳細は、教材紹介の記事『英語を通して世の中を知る!高1でも取り組みやすく編集された、映像付きの世界のニュース教材』を参照

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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