生成AIを活用したオリジナル・ディクテーション教材の作り方

最終更新日:2024年4月25日

生成AIとは、質問に対して自動的に文章や絵などを生成する技術です。近年、生成AIの技術は驚異的な進歩を遂げており、教育現場に導入されるケースも増えています。この3月まで開成中学校・高等学校で教えていた久保岳夫先生は、ChatGPT4をはじめとする生成AIを用い、オリジナル・ディクテーション教材を作成していました。以前から生成AIに興味を持っていたという久保先生に、AIを活用した教材の作り方や、授業での実践方法などについてお聞きしました(2023年12月取材)。

生成AIの活用によって英文教材作りのさまざまな課題を解決

――久保先生が教材作りに生成AIを導入したきっかけについて教えてください。

(久保)通常、授業で使う教材というと、生徒に購入してもらうか、学校側が購入して各自に配布するケースが多いかと思います。

本校(=開成中学校・高等学校)で私が担当した授業の場合は、教材の選択に関して裁量が与えられていたことと、自分自身が元々オリジナルの教材を作ることが好きだったために、ChatGPT4をはじめとする生成AIを活用してみることにしました。現在、ChatGPT4とElevenLabsというTTS(Text to Speech:音声生成AI)の、2つの有料サービスに登録して使っています。

教材作りにおいてノンネイティブな英語の先生が苦労するのは、ネイティブスピーカーが読んでも自然だと感じられる、まとまった長さの英文を書き下ろすことです。書き下ろすのが大変なときは、教科書やテキストに載っている文章を引用することもありますが、その場合は著作権についても留意しなければなりません。

生成AIを使うメリットは、これらの課題の多くを解決できることです。実際にChatGPTで作成した英文を、何人かのネイティブスピーカーに見てもらったところ、ほとんど訂正が入りませんでした。既存の文章を使わなくて済むため、著作権に関する心配もなくなります。

授業で指導したい項目を反映させた教材が作れることで教えやすくもなりました。たとえば、関係代名詞にフォーカスして教えたいときは、「関係代名詞が入った短めのダイアローグを、こういう場面設定で作りたい」と具体的な指示を出すことで作成できます。

1人で作業を完結できるのも、生成AIならではのメリットです。英文はもちろん、音声やイラストも作れるので、慣れてしまえば1時間ほどで1つの教材を完成できるようになります。

音声や映像とかけ合わせたクイズ形式で学べるリスニング教材を作成

――どのような教材を作ったのか教えてください。

(久保)英文のダイアローグに音声と映像をかけ合わせた、中学1年生用のリスニング教材を作りました。英文と音声に加えて、映像もあった方が内容を理解しやすくなるためです。

中学1年生くらいの年齢では、謎解きの要素が入っていると、より興味を持って取り組めるので、音声クイズのような形式にしています。実際、生徒たちも楽しみながらやっているようです。

私は音声学が専門です。生徒にも音声の重要性を伝えており、これまでも必ず音声が入った教材を使ってきました。音声がない教材には、自分で朗読した音源を使ったこともあります。

2023年にChatGPTが発表されてからは、さまざまなサービスが出てきて、音声や映像が入った教材を作りやすくなりました。個人的にはかなり革命的な進化だと思います。

英文を正確に聞き取るためのディクテーションに活用

――教材の具体的な活用方法を教えてください。

(久保)先ほども言ったように、英語学習においては音声を重視しているので、主にディクテーションさせることを目的として教材を使用しています。

50分間の授業のうち、毎回15分間を使って音声と映像が入った教材を聞き、ダイアローグの空欄を埋めさせるという形式です。教材に付いている二次元バーコードを読み込んでクラウドにアクセスし、各自が自分の端末で何度も繰り返し聞けるようになっています。

私は、日本人の英語学習者に聞き取りが苦手な人が多いことに課題意識を持っています。学習指導要領などでは、どうしてもスピーキングを重視しがちです。しかし私は、スピーキングの前に、まず聞き取れるようになることが重要だと考えています。

たとえば、「the」と「a」の違いや、前置詞などを正しく聞き取れるようになれば、文法の学習にもつながるでしょう。こうした文法事項を有意義に類推させるには、ディクテーションが最適だと思っています。

ディクテーションは授業で完結させることが大事

――宿題として家庭学習でも取り組ませていますか。

(久保)今は、生徒1人につき1台の端末を持てるようになったため、家庭学習でディクテーションさせることも可能です。ところが、具体的な指導がないと、なかなか家でしっかりやれる生徒は少ない傾向にあります。やはり、授業である程度完結させなければいけないと考えています。

授業中であれば、聞き取りにくい部分があっても、その場で質問できるので、英語の勉強の仕方もわかるようになります。英語を聞き取ることの重要性をしっかり認識させるためにも、授業の中で指導することが大切です。

GPT4でダイアローグ作成→DALL-E3でイラスト作成→ElevenLabsで音声生成

――生成AIを使った教材の作成方法を具体的に教えてください。

(久保)生成AIを使うときは、「プロンプト」と呼ばれる指示を入れていくのが基本的なやり方です。一度で思い通りの結果を出すのは難しいため、何度かプロンプトを追加しながらアウトプットされたものを洗練させていく必要があります。

プロンプトは、日本語・英語どちらでもやりやすい方で構いません。英語で入れた方が、より指示に近いアウトプットが出るようです。ただし、どちらの言語で入れるにしても、いかに的確なプロンプトを入れるかが、生成AIを使う際に重要になるといってもよいでしょう。

今回は画像付きリスニング教材の作成方法を紹介します。

久保先生が生成AIを使って作成した画像付き英語リスニング動画

この教材は、「猫が何かに気づいて住宅の敷地内に入ると、トカゲが飛び出して一目散に逃走した」というニュースを見て、猫とトカゲの会話をダイアローグにしたらおもしろいのではないかと思い作ってみました。

まず、ChatGPT4で、英語のダイアローグを作成します。ニュースの内容を説明し、それを題材にしたちょっとユーモラスな英語のダイアローグを考えてほしい、というプロンプトを入力します。すると、少し難しい語彙を使ったダイアローグが生成されました。

そこで、さらに表現やダイアローグの長さなどを調節するためのプロンプトを入れながら、納得がいくものになるまで洗練させる作業を繰り返しました。

イラストの作成には、ChatGPT4に搭載されているDALL-E3という機能を使っています。プロンプトにダイアローグの原稿を貼り付けて、この内容に合った漫画風のイラストを描いてほしいと指示します。今回は英語でプロンプトを入れてみました。

まず、作成されたのが以下のイラストです。

ここでは、「日本らしい町並みで」「吹き出しを入れない」「臨場感を出して」など、結果を見ながらプロンプトを追加して、ダイアローグに適したイラストになるまで修正していきました。

追いかけっこをしている雰囲気がなく、背景も古い日本の町並みです。

何度かプロンプトを追加して、やっと背景が現代風になり、スピード感もあるイラストになりました。

英文とイラストが完成したら、次は音声の生成です。ElevenLabsの編集画面にダイアローグの原稿を貼り付け、キャラクターの名前は読まないように指示したり、イントネーションやポーズの長さが不自然にならないように編集します。

音声の編集には、Audacityという無料の音声編集ソフトを使っています。英文・イラスト・音声の生成ができたところで、教材としてはほぼ完成です。私はさらにここから効果音やBGMなども入れて、よりリアルな雰囲気を出せるよう工夫しています。

詳細は私のnoteでも公開しているのでご覧ください。

生成AIリテラシーや結果を判断できる英語力が必要

――生成AIを使う上でのポイントや注意点はありますか?

(久保)AIといっても万能ではないので、アウトプットされた英文や音声が妥当かどうか、自分で判断しなければなりません。そこの判断力に自信がないと、結局ネイティブの教員に確認してもらうことになり、結果的に時間がかかってしまうでしょう。

とくに生成された音声のイントネーションに関しては、日頃から自然な英語にどれだけ触れているかによっても、判断に必要な時間は変わってくると思います。生成AIを使えば、これまでより圧倒的に早く教材を作れるようになるのは確かです。

ただし、そのためには、的確なプロンプトを入れられる生成AIリテラシーだけでなく、アウトプットされた結果を自力で判断するための英語力も必要だと思います。

音声を核とした英語指導に取り組んでいきたい

――最後に、今後の指導においての展望をお聞かせください。

(久保) 学生の頃は英語の個々の音ばかりに興味がありましたが、最近ではイントネーションを体系的に教えることができるかどうかということにも興味があります。残念ながら、イントネーションは部分的にしか教えられていないのが現状です。

将来的には、多くの英語の授業で参照してもらえるような、英語のイントネーションのシラバスを作ってみたいと考えています。ただ、現状は、まだ授業にシステマチックに取り込めるところまでできていないので、まずイントネーションを含むさまざまな「聞き取り」を中高生にはしっかりやらせているところです。そこで私が大事にしているのが、音声や画像が入った教材を使うことです。

私にとって生成AIとは、聞き取りを中心とした授業を少しでも楽しくするための「装置」といってよいかもしれません。今後も、生成AIの活用を含め、私自身にとって1番大きな柱となる音声を核とした指導を続けていきたいと考えています。

 

(取材・構成:小泉純/記事作成:白根理恵)

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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