教育トーク : コンセンサスのとれた学習評価は生徒を成長させる

最終更新日:2023年7月4日

プロフィール

  • 新潟市立万代高等学校 英語科教諭/新潟大学 講師 鈴木 啓

    公立中学校で5年間勤務した後、高校へ。中学と高校のギャップに悩みながらも、指導と評価両面での中高接続を目指して授業実践中。大学生への講義・教育実習の指導にも携わる。趣味はサッカーをすること、観ること、教えること。最近の趣味はスパイスカレー食べ歩き。スパイスについて学びたい。

2020年度から順次施行されている新学習指導要領では、学習評価の規準が従来の4観点から3観点へと整理されました。新しい3観点に合わせてどのように観点別評価を行うべきか、教育の現場でも試行錯誤が続いています。学生時代からカリキュラムと評価の研究に取り組まれ、中学・高校での指導や英語教育推進リーダーとしての経験を踏まえて学習評価のあり方を提案しておられる鈴木啓先生(新潟市立万代高等学校)にお話を伺いました。

学習評価の変化によって現場が頭を抱える「評価への評価」

(松山)現場の先生が評価で一番困っていらっしゃることは何だとお感じになりますか?

(鈴木)自分がやっている評価が正しいのか分からない、ということだと思います。

(松山)「評価への評価」ですね。

(鈴木)「どうやって第二言語を教えるか」というのはもう40年、50年の蓄積があるのである程度分かると思いますが、評価に関しては、特に高校はまだ雛形というか、「ここを目指す」というものがないんです。自分がやっている評価に妥当性や信頼性があるかどうか、誰も自信がないというところが一番ですかね。

(松山)それは授業を実践する際の不安にもつながってきますね。観点別評価という新しいスキームが取り入れられたことで、主体的に学習に取り組む態度への評価に迷われる方が多いという印象なのですが、いかがでしょうか?

(鈴木)おっしゃる通りだと思います。4観点のときは先頭に「関心・意欲・態度」がきていました。「関心」を持つと、表現できたり、知識や技能を獲得できたりするという考え方だそうです。今度の3観点では最初に「知識・技能」がきますよね。次に真ん中が「思考・判断・表現」で、最後に「主体的」というように順番が逆転しました。

今までの関心・意欲・態度は、授業中の生徒の様子を評価していればよかったのですが、今度は生徒がどのように・どれくらい主体的に学んでいるかを評価しましょうという理念なんです。理念はよく分かるけれども、実際この忙しい中でどういうふうに主体性を見るのか、本を読んだり自分でいろいろ試したりしながら実践しているところです。

(松山)今までは関心が英語の入り口だったけれども、現在は最終アウトプットのほうを評価しなさいという形になっているのですね。

鈴木先生が実践する自主学習の評価方法とは?

(松山)現在、鈴木先生が行っている評価の形はどういったものでしょうか?

(鈴木)私は自主学習が一番大きなウェイトを占めると思っています。ノートでも、ルーズリーフでも、あるいはGoogleドキュメントでも、いろいろな提出方法がありますが、生徒が英語の勉強で「こんなことがしたい」と思ったものに自分で取り組んで、それを自分のタイミングで提出し、それを元に我々が評価して「主体的」のところに点数を入れるようにしています。

英検の勉強をする生徒がいたり、洋楽が好きだから洋楽の歌詞を全部日本語に訳してみたり、あるいは高校生向けの英字新聞を読んで、それについて自分の意見を書いてくるとか、あとは単純にゴールデンウィークの日記を書くとか、もっと簡単なのは翌週単語テストがあるから自分でノートに練習してみるとか。レベルの差はありますが、「何でもいいから自分で主体的に取り組んだものを先生に提出して」と伝えて、それを評価しています。

(松山)例えば、同じぐらいの量をやってきたと思われる生徒が2人いたとして、評価の違いはどこでつけていますか?

(鈴木)一応点数化しますが、それはもう単純にページ数で一律です。そのほうが生徒たちに分かりやすい。でも自分で目標を持って頑張っている生徒はいるので、そこはExcelのシートの端に星マークをつけて、それを別途評価するようにしています。単語練習の1ページと英字新聞要約の1ページは、基礎点は一緒ですが、より難易度の高い課題に取り組んだ生徒には最後にボーナスが与えられるという仕組みになっています。

ボーナスは何点ぐらいだろう、5ページ分、10ページ分ぐらいになるのかな。でもそういう星がつく生徒は、星をカウントしなくてもその時点で大体みんな観点別評価はAになっているので。あまりそこでCからBになるとか、BからAになるというほどには寄与しないかなと思います。

(松山)例えば中学校、特に公立だと生徒の学力差がかなり大きいので、中には全く取り組まない生徒もいると思います。自主学習に対する先生の指導のあり方、教員の役割のあり方というのはどのようにお考えでしょうか?

(鈴木)良いご質問だと思います。前の学校では毎週単語テストをしていたのですが、合格点に満たない生徒は再テストを受けるか、ノートに単語練習するかを選ぶという仕組みで、練習は自主学習ノートにやっていいことにしていました。主体性は全くないけれど、「ノートを出す」という習慣をつけさせよう、ということです。それによって、前期は自主学習がゼロだった生徒も、後期には例えば「文法の問題を解いてみた」とか、自主学習が1回でも2回でもあれば成長です。

中学生は素直なので、割とみんな習慣はつくと思います。ただ、高校生だと本当に授業についていけない生徒もいるので、最後まで指示したもの以外やらない生徒は一定数残ってしまった部分はありますね。

(松山)先生は自主学習という形で評価をされていますが、例えば他校ではどのような例があるでしょうか?

(鈴木)やっぱり多いのは振り返りですね。パフォーマンステストをした後に自分のスピーキングやプレゼンがどうだったか日本語で記述させるという、自己評価を点数化する先生方が結構多いと思います。学習評価の参考資料でも「主体的に学習に取り組む態度には『粘り強さ』と『自己調整』の2つの側面がある」とされていて、自己調整は何で見るのかというと「振り返りを重ねて自分が伸びていくか」と出ているので、振り返りの記述内容によって5点3点1点などと点数をつけている学校もあるのではないでしょうか。

(松山)生徒が自己評価したものを先生がご覧になって、先生の主観で点数を付ける、という形になっているわけですね。

(鈴木)基準を設けている学校もあると思います。前回の自分と比較して書かれていたら何点とか、例えばiPadで録音して自分の発音を確認したとか、友達にアドバイスを求めたとか、そういう工夫があれば3点とか、そういう基準を設けている学校もあるようですね。

ただ、やはりブラックボックス感は否めませんし、果たしてそれを点数化して良いのかという。私はそれは良くないと思っています。

(松山)だからこそページ数という分かりやすいもので点数化するという形になったのですね。やっただけ点数になるということが分かれば、生徒のモチベーションにもつながりそうです。

(鈴木)1ページやるのも30分ぐらいはかかりますし、なかなか頑張っていると思いますよ。だから、私はシンプルに分量評価で良いと思っています。

適切な評価に欠かせない、教員間のコンセンサス

(松山)先ほどは3つの観点のうち「主体的に学習に取り組む態度」を中心に伺いましたが、他の2点「知識・技能」「知識・判断・表現」についてはどういった評価を行っていらっしゃるのでしょうか?

(鈴木)知識と技能は別物だと考えています。例えばexperienceは「経験」、これは知識の問題ですが、例えば文章中のブランクにexperienceという単語を埋めるような、文脈に応じて入れるのは技能です。思考・判断・表現なら、例えば「環境問題」というテーマであなたのexperienceを書きなさいというのが思考・判断・表現ですよね。どの問題が思考・判断・表現、どの問題が知識、どの問題が技能という考えを教員側がしっかり持って、それを他の担当と話をしながら擦り合わせていかなければいけない。そういうところが、特に高校は進んでいないと感じています。

(松山)知識、思考という言葉は昔からずっと使われてきたものですから、皆さんそれぞれの理解をお持ちだと思います。そこで擦り合わせをするのはなかなか難しそうですね。

(鈴木)2022年の7月に東京の九段中等教育学校で研修会の講師をさせていただいたときに、私が作った中高の定期テストを持って行きました。私は定期テストに「思考・判断」「知識」など見出しをつけているのですが、その見出しをあえてブランクにして先生方に渡し、「これは知識ですか、技能ですか、思考・判断・表現ですか」と問いかけて「隣の方と答え合わせしてください」と言うと、やっぱり違うんですよね。

規準が一定であれば良いのですが、テストの作成担当者が変わるたびに全然違うタイプのテストが作られるとなると、かわいそうなのは生徒です。そこはある程度統一しないといけないと思っています。

(松山)そのために鈴木先生が心がけていることはありますか?

(鈴木)テストは2ヶ月前に作るということですね。第1回考査が終わった翌週にはもう第2回考査ができている状態です。

(松山)それによって理解の標準化がされていったということですね。それだけ早く作ると、先生方もそれに則った授業をやっていく。そういう意味でも効果があるということでしょうか。

(鈴木)あると思います。中には教科書を全部訳していくスタイルの先生もいましたが、そういう訳の問題は極力出さず、概要把握や意図理解等の思考を伴う問題を提示することで、その先生もお気づきになられて、一文一文訳すのではなくもっと広い視点で見る授業へと転換されていました。指導のベクトルを合わせるためにも、最初にテストを作ることは大事だと思います。

(松山)そのテストは鈴木先生ご自身がお作りになるのですか?

(鈴木)はい。作成担当がひと通り作り上げ、そこから「この問題は簡単すぎるから難易度を上げよう」などとみんなで検討します。

(松山)そこで訳読派の先生とバトルになるようなことはないのでしょうか?

(鈴木)1年目はありました。たしかに、国立大学の二次では和訳が出る大学もあるので飲む部分もありますが、でも1年かけてなるべく足並みを揃えるよう、じわじわやっていく感じですね。

(松山)テスト作りを通じて教員間のコンセンサスを得ていく。その方法が知りたい先生方は多そうですね。非常に効果的な手段だと思います。

(鈴木)テストはツールですね。生徒にゴールを示すツールでもありますし、教員のベクトルを合わせるという意味でも一番のツールです。

(松山)授業をする上での先生方の予習にもなりますね。

(鈴木)そうだと思います。

生徒にも評価規準を意識付けする理由

(松山)先ほど知識・技能・思考、タイトルを教えていらっしゃるということでしたが、それは授業の中でも生徒に意識させているのでしょうか?どういった形で授業の中で意識させていますか?

(鈴木)私は授業だとパワーポイントの右上に「知」「技」などと書いています。毎回言うわけではないですが、生徒は見てスライドも配っているので、第2回考査が終わった頃には大体浸透しているかと思います。

(松山)生徒も評価規準について知っている状態なのですね。そういう意識づけを実践されている先生は少ない印象ですが、必須としている理由は何でしょうか?

(鈴木)自分が弱いところ、自分が何を頑張ればいいかが分かるからですね。知識・技能A、思判表Bという成績をもらったら、文法と単語はある程度身についているけど長文がまだなんだな、じゃあ長文の課題をやろう、表やグラフの読み取りに力を入れよう、と考えられるようになるので、カテゴリー分けはしてあげたほうが良いと思います。

(松山)それは確かに分かりやすいです。私も学生の頃、「先生は何をもって評価しているんだろう」と不安を抱いたことがあるなあ、と思い出しました。生徒としても安心しますね。

最後にパフォーマンステストについてお伺いしたいと思います。鈴木先生はどういうタイミングで、どういったパフォーマンステストを行っていらっしゃいますか?

(鈴木)基本的にレッスンが終わったら毎回やっています。毎回と言うと負荷が高そうに思われますが、教科書を読んでGoogle Classroomで音声提出をするだけのレッスンもあります。基本的に10レッスンあって毎回何かしらの成果物は出させていますが、パフォーマンステストに力を入れているのは年間4回で、残りの6回は音読提出や、エッセイを書いて提出などとしています。この4回は、春休みのうちに教科書を読んで「ここをプレゼンさせたら面白そうだな」「このテーマでディスカッションさせたいな」とスタッフで話し合って、4月には決まった状態でスタートしています。

(松山)アウトプットはプレゼンですか?ディスカッションからサマリーを書くのでしょうか?

(鈴木)それもありますし、あとはALTとのやりとりや即興英作文ですね。プレゼンはペアで動画を撮り合っても良いと思います。ディスカッションも、例えば4人でのディスカッションなら5人チームを組んで、4人がディスカッション、1人が撮影係になって、撮影したものを提出するとか。

(松山)その場合、どういった評価がなされるのでしょうか?

(鈴木)4月の段階で仮に4回パフォーマンステストをすると決めた場合、知識・技能のテストを2つ、思考・判断・表現のテストを2つというのが理想です。それぞれ評価規準も変わってくると思います。知識・技能の評価規準は、単語や文法を正確に使えているか。思考・判断・表現のパフォーマンステストはミスがあっても、たどたどしくてもいいから、しっかり自分の思いや考えを伝えられているか。そこにジェスチャーやアイコンタクトが加わるイメージですね。英作文の場合は、表現の正確さを見つつ、文量も大切になってくるので、その2つの観点が軸になるかと思います。

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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