教育トーク : “使える英語”習得の秘訣に迫る(前編) 英語で積極的にコミュニケーションを行う生徒が育つ「本多式授業」

最終更新日:2023年10月31日

プロフィール

  • ELEC同友会英語教育学会会長 本多 敏幸

    東京都生まれ。武蔵大学卒業。東京学芸大学大学院教育学研究科英語教育専攻修士課程修了。元・千代田区立九段中等教育学校指導教諭、都留文科大学・東京女子大学非常勤講師。ELEC同友会英語教育学会会長、ELEC同友会英語教育学会実践研究部会部長、英語授業研究学会理事、NHKラジオ「中学生の基礎英語レベル1」講師。文部科学省「外国語教育における『CAN-DOリスト』の形での学習到達目標設定に関する検討会議」「中央教育審議会中等教育分科会教育課題部会外国語ワーキンググループ」などの委員を務める。主な著書に、『新・若手英語教師のためのよい授業をつくる32章』(教育出版)、本多式中学英語マスターシリーズとして『反復基礎』『短文英単語』『速読長文』(以上、文藝春秋)、『中学校外国語新3観点の学習評価完全ガイドブック』『入試英語力を鍛える! 授業アイデア&パワーアップワーク40』(以上、明治図書)などがある。またYouTubeにて、英語教師向けや学習者向けの「本多敏幸 英語教育ルーム」を投稿している。

ELEC同友会英語教育学会会長として教員の英語力向上に尽力される本多敏幸先生は、千代田区立九段中等教育学校をはじめとする教育現場で授業を行い、またNHKラジオ「中学生の基礎英語レベル1」の講師、多数の著書の発刊など、あらゆる方法で“使える英語”の身につけ方を伝えてきました。今回は英語教育に長年携わられている本多先生のお話を2回に分けて紹介。前編では「育てたい生徒像」や「英語教育における授業づくり」について伺っています。

積極的なコミュニケーションを行える生徒になってほしい

——まず初めに理念についてなのですが、本多先生はどのような生徒を育てたいと思っていらっしゃいますか?

(本多)誰とでも積極的にコミュニケーションがとれる生徒です。教室内という限られた空間で、誰とでも、相手のことを考えながら、コミュニケーションをとれる生徒に育つようにと考えながら授業を行ってきました。

そのため、たとえば授業のたびに生徒の席を変えるといった工夫をしてきたんです。冒頭で“今日の席順”を発表して、「隣に座った人が今日のパートナーだよ」と。そうするとペアワークのときは毎回違うペアになりますし、グループワークも近くに着席している生徒と行いますから、毎回違う顔ぶれと組むことになるんです。

——クラスの中で喋ったことのない人は少なからずいるものだと思いますけれど、その方法だと誰とでも喋らざるを得なくなりますね。

(本多)しかも生徒同士のインタラクションを大切にする授業内容ですので、喋らないと授業が進みません。もちろん人間同士。好き嫌いがあったり、話題の好みが違う場合もあります。英語力の差だってある。そういう諸事情は織り込み済みなものとして、コミュニケーションは相手のことを考えて行おうと。教師の私自身もあまり喋らないように留意し、生徒が受け身にならず、積極的に授業に参加していく雰囲気作りを大事にしていました。

——英語力の差によるコミュニケーション力の差に対しては、どのようにアプローチしていたのでしょうか?

(本多)差があるのは仕方がないことです。しかし、ペアワークなどで、英語が得意な生徒だけが話すということにはならないように指導しています。例えば、チャットと呼んでいる言語活動では、「対等に会話をする」ためのタスクを設定したり自己評価を行わせたりしています。継続的な指導をすることで、どちらかが一方的に話しているという状況はほぼありません。

当然ながら、英語が苦手な生徒は得意な生徒から、表現の仕方をはじめいろいろな学びを得られます。一方で学力の高い方の生徒も、大いに学びを得るチャンスはあるんです。お伝えしたように、席を毎回変えますから、ペアになる生徒は毎回変わります。ここで大切になるのは、“ペアになった相手の英語レベルに応じたコミュニケーションを意識できるかどうか”、ということ。意識できれば「この人には、こう話すと伝わるな」といった気づきを得られるのです。

——席を固定しないからこそ、生徒は毎回チューニングを求められるのですね。社会に出てからのコミュニケーションの形と非常に似ている印象を受けました。

英語を学ぶ最終目標は、英語を使って誰かとコミュニケーションすること

——先ほど先生は誰とでもコミュニケーションができる生徒を育てたいとおっしゃっていました。そのような理念を抱くきっかけはあったのでしょうか?

(本多)私が教員になりたての頃は文法を教えることが英語の授業だという時代で、生徒同士に会話をさせることはほとんどありませんでした。けれども、英語を学ぶ最終的な目標は英語を使って誰かとコミュニケーションすることだと、あるとき思い至ったんです。

以降、当時はそれほど採用されていなかった生徒同士による自由会話を授業で行うようにしました。ただ最初は、“片方が質問をして、もう片方が答えるだけ”というもの。まるで面接をしているようで、これではダメだな、と。どうしたら自然なやり取りになるだろうと考えて、もっと聞き手の指導が必要なのだなと感じました。

——自然なやり取りにするために、どのような指導を行ったのですか?

(本多)聞き手への指導として、さまざまな相づちの表現や質問をすることの指導に力をいれました。また、やり取りを行う際、一方が“Do you like soccer?”と尋ねたら、“Yes, I do.”だけで答えるのではなく、“Yes, I do. Im on the soccer team.”というように、必ず2文以上で答えることをルールにしました。それを中学1年生からやっていたんです。ハードルが高そうだと感じるかもしれませんが、継続は力なりです。話すことの言語活動をたくさん行い、「話せることのピース」が積み上がっていくとコミュニケーションのレベルは確実に変わっていきます。「話せることのピース」とは、話題に応じて話せるネタということです。

英語力を高めるうえでペアワークなどアウトプットの機会は絶対に必須

——ほかに、育てたい生徒像や教育理念はありますか?

(本多)やはり英語力を高めることですね。ここでいう英語力とは、文法力だけでなく、読み、書き、聞き、話すための、いろいろな力のことです。昨今では5領域を統合的に指導することが求められていますが、私は昔から統合的に領域を扱ってきました。授業の中心が語彙指導や文法指導だけだと、知識の習得だけになってしまい、それらを自分で活用する力は育ちません。

では英語力を高めるためには何が必要となるか? それは本文の指導です。ここで大切になるのが、本文を「読むこと」から「書くこと」「話すこと」の材料にするということです。分からない単語があってもまず本文を読み、友だち同士で前後の文脈から意味を推察して全体像をつかむ。詳細を理解する活動を行う。そして最後に自分の考えをまとめ、発表するといった流れです。

——本文を読み物として扱うということでしょうか?

(本多)そうです。生徒の学習段階や教材の内容にもよりますが、本文を読み物として、まず内容の理解から入ることを大切にしています。そして文法や語彙というのは本文の中に必ずあるものですから、文脈の中で確認していくんです。そうすると、例えば現在完了形の文が出てきたときも、物語の状況を把握したうえで現在完了形の使われている意味を捉えられるので、より深い理解が進むんです。

——新しい本文の内容理解を促すためには、どう指導されていたのでしょうか?

(本多)前提として中学でも高校でも予習はさせません。「絶対に読んでくるな」と言っていました。下手に予習をされると逆に読む力が育たなくなるからです。内容理解を行うには、文章の流れの理解、語句の意味、文の意味、背景知識の理解などが必要になります。教師からの発問について生徒同士で考えさせたり、私が補足説明をしたりなどしながら理解を深めていきます。

分からない単語が出てくるたびに辞書を引くような読み方をすると読解力は育ちませんから、まず分からなくてもいいから読んでみることが大切。そして分かった情報の中から、単語の意味や全体の内容を推察していくように教えていましたね。中学ではオーラルイントロダクションで音から情報を入れ、次に教科書を開いて読解へ、という流れにすることも多いです。隣同士もしくはグループで意味を考えさせるようなことも行いました。

——先生の授業ではペアワークを多く取り入れていたのですか?

(本多)グループワーク、ペアワークばっかりです。英語という言語の授業なので、生徒同士の英語によるやり取りはとても大事です。

生徒同士による学び合いをとても大切にしています。どこを理解していて理解していないのかを生徒同士のインタラクションを通して生徒自身に把握してもらう。理解が及んでいない部分があると分かれば、不足している部分を自分で調べたり友だちから学んだりする。教師から一方的に話を聞いて学ぶ受動的な学びだけではなく、能動的に力を培っていくためにもグループやペアの活動は大事です。そうして、生徒同士で学んだことを生かして、最後は何かしらの発表の機会を必ず入れています。

——習ったことをアウトプットする機会を必ず作ると。

(本多)絶対ですね。英語のいろいろな表現を自分のものにしたり、題材について深く考えるためにはアプトプットは必須なんです。単元末の活動として、中学では、ペアで対話文の内容を替えて演じる、本文についての意見や感想などをスピーチ形式で伝えるといったものです。高校では、本文を要約した上で自分の意見や感想を加える、主人公になったつもりで事実や気持ちなどを伝える、プレゼンテーションを行うなどです。

——絶対に発表の場があるというと、生徒の学ぶ姿勢も変わりそうですね。

(本多)その通りなんです。生徒は「本多先生は最後にスピーチなどの活動を行わせる」と思っているので、普段から意見や感想を考えるなど主体的に授業に臨んでいます。そして、アウトプットに向けて自分で調べたり、より深い理解を求めたりする生徒というのは、やっぱり伸びていくんです。

(取材:松山まりな/構成:小林慧子/記事作成:小山内隆)

(後編 NHKラジオやELEC同友会でも得られる「本多先生による学び」はこちら

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

国際教育の「今」と「これから」の情報が満載。 教育現場で役立つコンテンツを発信していきます。

英語教材を探す

  • Repeatalk 詳しくはこちら
  • Twitter
  • Facebook

お知らせ

レビュー募集

国際教育ナビでは、教材レビューを投稿したい方を募集しています。お気軽にお申し込みください。編集部員よりオンライン取材させていただきます。