前編:教務の役割ってなんですか?

最終更新日:2023年10月30日

より個別化された教育内容の実現と、より多様な働き方を許容する現場の実現の両立が求められています。この難しい課題への取り組みの中心にあるのは教務です。そこで教務の役割は何か(前編)、そして学校現場のホワイト化を実現するためにどうすればよいか(後編)、立命館宇治高等学校の原先生、福島先生にお話をお伺いしました。(聞き手:コトバンク株式会社 谷口)。

プロフィール

原 暁彦:1980年、大阪府大阪市出身。2007年、大学院理学府博士後期課程中退後、現職。理科(化学)を主に担当。2015年度より教務部副部長、2017年度より教務部長(2018~2022年度は主幹教諭)を務める。2018年度より高校IGコース(普通科・文理融合型・提供される種々の選択授業から、生徒が希望する科目を履修する。その組み合わせは、20万通り以上)を立ち上げ、その運用の中心的役割を担っている。

福島 浩介:1966年丙午、岡山県倉敷市出身。1991年、大学院教育学研究科博士課程前期修了後、千里国際学園大阪国際文化中学校・高等学校(現 関西学院千里国際中等部・高等部)に採用される。最初期の数年(生徒部・広報部)を除き基本的に教務部所属、2009~17年は教務センター長。眞砂和典先生とともに学期完結制を完成させる。2012年~14年、文科省の嘱託による、一条校における国際バカロレア(IB)導入に関する研究の中心的役割を果たす。2012~16年、京都外国語大学で国語科教育法の授業を非常勤講師として担当。その後、2017年から広島英数学館高校で国際バカロレア(IB)ディプロマプログラムでTheory of Knowledge (TOK)や日本語A、Bを担当したのち、2019年より立命館宇治勤務。国語科。

立命館宇治の教務の特筆するべき点

(原)教務って守備範囲が広いですよね。うちの学校は特にそうです。名簿管理から始まり、時間割もそうですし、成績処理のための校務システムの運用、生徒が使っているICTのプラットフォームの設定、教材の集約……と雑用的なものも含めて多くあります。

逆に、一般の学校では教務部がやっている行事予定の管理を、やっていないんです。本校はコースも多いし中高にまたがっていて教務ではキャッチできないので、教頭が管理しています。

(福島)命令権がある管理職が行事予定をするのは良いと思います。同僚だと関係性がこじれますからね。

(原)僕が主幹だったときはしんどかったですよ。学校執行部の一員だったので、時間割が業務命令になっちゃうんですよね。こちらからしたら「ごめん、これしか組みようがなかった」のつもりでも、受け手には命令として受け取られてしまうのがしんどいな、と感じることはありました。
あと、本校の教務部では中学から高校、高校から大学への進路指導を担っているんです。進路指導部を持っていないんですよ。

(福島)外部進学は、評定を見て「人気学部はどうやこうや」と進路担当がフォローしています。

(谷口)「教務の役割は何ですか」と聞かれたら、何と答えますか?

(原)(教務の役割は)学校を円滑に回すことです。学校が当たり前に動くよう整備するのが僕らの仕事ですね。極端な話、僕らがいなかったら朝のチャイムが鳴りませんから。教育基本法に出てくるのも教務主任や生徒指導主事でそれなりに重要なのですよね。

(福島)それも「◯◯部を作れ」ではなく「こういう仕事をやる人が必要」と書いているだけという。通知表に法的根拠がないのと一緒で、教務部という組織は何となくやっているだけだけど、僕らがやっている学籍の管理とか指導要領の作成は法令に明記されているので。

(原)体育祭とか、行事で誰もいないときは電話番をしていたりしますからね。。逆に他の先生方が小休止できるときには僕らがバタバタしていたり。忙しさのスケジュールが他の先生方とズレるんですよ。

(福島)本校は1年単位の変形労働時間制を採用しているので、教員ごとに年間の勤務カレンダーが異なります。例えば、部活で日曜に出る人は平日に1回法定休日があるとか、いくつか勤務形態があるんですけど、僕ら教務は土日ほぼ休みの代わりに、3月末までびっちり勤務日があるんです。

(原)普通の先生方は、3月末とか、基本的に業務がないので休日とか半日勤務なんですが、僕らはフルタイムで3月末まで週休2日がずっと続きます。働き方改革により周囲との関わりが減り、寂しさが増した感じです。

教務をするために必要なこと

(谷口)教務に関する一連の業務内容や運用は、現場に入ってから学んだんですか?

(原)僕は部長になる前に、前の部長の下で2年間副部長を務めていました。次に部長を任されると予告されていたので、「部長は何しているのかな、この時期にこんなのしているな」というのをずっとメモしていたんです。

教務の仕事って、学期ごとに発生するものもありますが、年間で1回しかない仕事も多いのでメモっておかないといきなりやってと言われても無理ですよ。今も、当時のメモをベースに仕事をしています。

(福島)僕は、教員になって3年目くらいから前任校の千里国際(関西学院千里国際中等部・高等部)で教務センター長になるまで、部員を十数年やりました。センター長になってからは、前々校長がコンセプトを考え、紙ベース、手作業で行っていた学期完結制をネットワーク化して一応の完成形を作り、2012~14年は文科の委嘱で、IBの一条校への導入の研究を中心的に行いました。降ってきたものをこなす中で、知識と経験をためていきましたかね~

僕は国語の教師なんですけど、1997年にネットワークができ、成績入力のオンライン化・校内ネットワーク化が始まった際は、僕も、数学の先生と一緒にMicrosoft AccessとSQLサーバーでデータベースを構築しました。そうしたら「帳票も、ここへ所見も打つんやったら、ここから出せればええやんか」という話になり、調査書なども全部Microsoft Accessで出力できるようにフォーマットを完全再現しました。

教務の人って、基本理系の人が多いですよね。原先生の前は数学、その前は理科の先生でした。千里国際でも僕の前は理科、僕の後は数学。やっぱりデータベースのプログラムが書けないとあかんのですよ。俺もよくわからないなりに書いているんですけど。

(原)結局、必要に迫られて勉強するところもありますよ。僕は教員になってExcelでマクロを書くとは思っていなかったです。2022年度から高校に観点別評価が導入されて、それまでの校務システムだと成績処理ができなかったので、成績の入力から通知表の発行まで1枚のExcelで全部やりました。

やっぱり単純化をしないとホワイトにはならないと思います。どこかで「ルールはこれだけ。あとやりたい人は自由にしなはれ。」という形にしていかないと。ちょっとでも先生方が楽になるように自由度を高めて行きたいんです。

例えば、テストの100点満点縛りをやめて、60点満点でも構わないということにしました。観点別評価になったこともあるし、成績の付け方も教科の特性に応じて教科に一任するスタイルに変えていきました。それも1つの仕事のしやすさかなと思ってです。テストの時期も教科任せで、中間・期末両方やらないといけないという縛りをつけていません。教科によっては、1学期中間の次は2学期末とかもOKです。

(福島)一律をやめたというのが英断ですよね。でも成績は、学校教育法で決まっていることなので、年間成績を付けないとあかんから。

(原)年間は付けますが、学期の成績の考え方は捨てた、という形です。IB(国際バカロレア)がもともと年間での成績の付け方だったので。うちは1学期は1学期の成績で出しますが、2学期の成績は1・2学期の合算で出しましょうという形にして、学期にも教科の判断で重みが付けられるスタイルに変えています。

(福島)各学期の成績を出して、学年単位でも出すと、都合4回成績を出さなあかんけど、システムの中では得点なりABCなりで都度出した評価が積み上げられて、その合計から年間評価が出るので、担当者が多少好きなようにやっても手間なく最終成績が出せます。複雑なことをやっているようで、実際はそっちの方が楽ですよね。

教務のスタンスは学校で変わる

(谷口)立命館宇治のIGコースとIBって教えている内容も違うし、言語も違うし、評価の仕方とか観点もだいぶ違いますよね。教務としてのアプローチもかなり難しそうだなと感じているのですが、いかがでしょうか。

(原)学校に義務付けられているのは、指導要録に5段階評定とABCの観点別評価を記録しましょうということだけなんです。教務はそこを死守しているだけです。コースにも特性もあるし、全部横並びで同じようにやるのは絶対無理なんですよね。本校にはもう1つ、IMコースというのがあって、これは在学中に1年間留学を挟むコースなのでもっとややこしい。

(福島)IMコースでは年度の途中から留学して、次の年度の途中で帰ってきます。けど、成績をどうしなきゃいけないかというと、年単位で区切んなきゃいけない。
だからそれを、齟齬がないように1年単位でやっているのが本校で。千里国際は、学期ごとで切っているので、いない学期は海外での成績表を見て成績としていました。1学期で10単位認定なので、年間30単位となる。

逆に、千里国際で一般受験する生徒は11月末の3年2学期で履修をやめるんですよ。けど、ほとんどの生徒は11月頃に推薦で大学が決まるので。決まった生徒は、逆に3学期もびっちり授業を取ります。もう受験も済んでいるので、教員の裁量でマニアックな内容をやっていました。ボクはこの間、国語の教科書には載っていない日本語に関することをやっていて、ハードコアな連中が来ていましたよ。

千里国際は学年で100人やから簡単にできたけど、それを学年400人もいるここで回すのは、またちょっと難しいことがあるかもしれないですね。リソースも規模も違うからわからないけど。

(原)IGコースは300人規模で、選択科目をメインで作っているコースです。科目の組み合わせが3年間トータルで20万通りくらいあるのかな?それを300人ぐらいの生徒が、かいつまみながら3年のカリキュラムを組んでという形です。ここも全日制普通科の学校としては異様かも知れません。

(福島)だから、えらいことになっているんですよ。定員を決めずに募集するから、50人やと思ったら100人来て。

(原)定員オーバーした講座があれば「どうにか講座数を増やせへんか?」と教科に交渉して、増やせるとなったら全部受け入れます。それを元に、次の年度のクラス編成を考えて、時間割に落とし込むという職人芸をずっとやっています。

内申で大学に送る制度を持っているから、希望科目以外を取って成績が取れませんでしたと言えへんのですよ。多様性による非効率の1つの表れやろうなという気はします。

(福島)1回外れても次に何回か選ぶチャンスを与えて、選んだことにするという手もあります。今はこの方向性で行っていますが、それはこの学校的には正解だと思う。

(谷口)千里国際は、確か学年関係なかったですよね。

(福島)だから9回履修するんですよ。大学の履修登録と一緒で、定員が決まっていて、前の学期の途中くらいにWebでカチカチと登録し、その前に誰かが確定していたら「定員オーバーです」と出る。次の学期に同じ科目が開講されていたら取るし、翌年でも良いし。

(谷口)「こうした変則的な履修が可能なのは、立命館宇治が大規模校だからできること」と、あるWeb記事で拝見しました。これってどういうことですか?

(原)大規模校で、教員数が多いのでいろいろな科目を開講できるんです。小さい規模の学校になると、科目数を増やすと履修する生徒がそれぞれの講座で少なくなるから、経営的に非効率が出るのがしんどいんです。その点本校は一定数生徒がいるので、その点はまだどうにかなっているという、たぶんそういう意味かな。

(福島)千里国際ではできないこともあるでしょうね。千里国際は、バラエティを増やさず定員を設定する方法を取っていました。それでもだいぶ多いですよ、1クラス24名ぐらいだから。教員はだいぶおるので、教員生徒比は1桁だと思います。

(谷口)逆に千里国際はなぜ実現できたんですか?

(福島)大阪で一番授業料が高いから。インターナショナルスクールが併設されているんですが、インターも一条校も最大でも20〜25名しか教室に入れなくて、なんぼ頑張っても机が26個以上、物理的に入らないんです。最初から「もうちょっといけるんちゃうか」ってならへんように校舎を設計してあって。それで良かったのかなと思います。だから、大阪で1番高くて、授業料だけで124万とか。僕も息子のために6年間払いましたけど。それだけの価値はあるのかなと思います。

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