先進校が見据えるアフターDXの世界

最終更新日:2023年12月4日

教員の働き方改革の一環として、各校がやっと動き出した教務DX。その取り組みをなんと約30年前から行っている学校があります。すでにデジタル化が当たり前になっている先進校の現状の課題や今後の更なる展望について、筑波大学附属坂戸高校の深澤孝之先生にお話を伺いました。

革新的な教育をする国立高校

(深澤)本校は、1946年に農業や家庭科を学ぶための坂戸実務学校・実修女学校として地域住民によって設立されました。その後1953年に国に移管され、現在の筑波大学附属坂戸高校の名称となったのは1978年のことです。1994年に、全国で初めて「総合学科」※を開設し、メディアにもかなり取り上げられたようです。その後の数年間は、学科の新しさもあって、入学志願者が多かったですね。

(※編集部注 総合学科は、普通教育を主とする学科である「普通科」、専門教育を主とする学科である「専門学科」に並ぶものとして、平成6年度から導入されたものです。 総合学科で行われる教育の特色として、「幅広い選択科目の中から生徒が自分で科目を選択し学ぶことが可能であり、生徒の個性を生かした主体的な学習を重視すること」「将来の職業選択を視野に入れた自己の進路への自覚を深めさせる学習を重視すること」などが挙げられます。文部科学省「総合学科について」より引用)

ただし、その人気も長くは続かず、大学進学率が全国的に上がってきたタイミングで倍率が減ってしまいました。その際は、進学や部活動に力を入れ、県立高校と同じような立ち位置となっていました。結局、日本の高校そのものの評価は、東大に何名合格したかなどの相対評価で決まってしまいます。合格者を多く出している高校に行けば、自分も難関大学に行けるだろうと、進学校への倍率が高まるわけです。

しかし、ふと「県立高校でやれることをこの高校でやる意味はない」と気づきました。そんなとき、ちょうど世間ではグローバル化への関心が高まっており、大学自体もグローバルな学科を設立したり、グローバルなプログラムを取り入れたりし始めていました。なので、思い切って私たちもグローバル教育へ力を入れることとなったのです。

その一つとして取り入れたのが、国際バカロレア(IB)プログラムです。国際バカロレア機構が提供する教育プログラムには、世界共通のカリキュラムや評価基準があります。ディプロマ(高校過程に相当するプログラム)修了試験で所定の成績を修めると、世界各地の大学入学資格である「国際バカロレア資格」を取得できます。

予算がかかったり、バカロレアによる監査があったりと、導入に苦労したでしょうとよく言われるのですが、実際はそんなこともありませんでした。IBの求める理念と総合学科の理念に非常に親和性があり、比較的すんなり導入ができました。「生徒ひとり一人が自らの個性を大切にし、きちんと自律して、当事者意識を持って生きていこう」という理念です。

30年前からDXを開始

―教務のDX化についてはどのような改革や課題がありますか?

(深澤)実は、総合学科ができた1994年からDXには取り組んでいました。総合学科では生徒の科目選択の自由度が大きいため、一人ひとりで時間割がまったく異なります。そのために成績や出席の管理が非常に大変で、当時の教員が校内にLANを引いて独自のシステムを作りました。同じようなものを某メーカーに頼んだら数千万かかると言われたようです。

現在もそのシステムを引き継ぎ、校内のIT管理専門の技術職員がメンテナンスと追加開発を行っています。我々がこういう機能が欲しいと言うと、すぐにそれを作ってくれるんですよ。先生たちはノータッチで何の負担もないため、とても助かっています。そのため、必要と思われる教務のDX化は完了済みの認識です。今できることは、出席・成績管理、個々人の科目選択登録、入試処理、保護者からの出欠連絡、調査票・指導要録、成績証明書の保存などですね。
1人ずつ選択科目が違うので、もちろん1人ずつ教科書の合計金額が違う。科目登録をすればそれぞれの教科書の帳票が出るような仕組みもあります。

 

残された課題は個別最適化

― では今の課題はどのようなものがありますか?

(深澤)課題は個別最適化の部分ですね。一人ひとり違った対応をしなくてはいけないため、負担も大きいですし、指導する教員によっても対応の質が変わってしまいます。

例えば、高校3年生の進路相談は個別最適化の最たる業務です。本校では基本的に総合型や学校推薦型で進学するので、それに向けた対策が必要になります。自己推薦文や面接の内容を考える作業は1対1で伴走しなければならず、どうしても効率化できないですよね。実際、10月や11月の先生の予定のカレンダーを見ると、16時から30分刻みで各生徒と面談、それが19時まで続いているのはもはや当たり前になってしまっています。また、先生もそれぞれ個性があって、生徒から見てその先生の指導が合う、合わないということもあります。生徒に対して同じことを話したとしても、先生への「信頼度」で生徒の受け取り方は変わってきますよね。もちろん、キャリアの差も大きくなります。そのため、先生によって対応しなければならない生徒の人数に大きな差が生じたり、指導の質がまちまちになったりします。

もちろん生徒への接し方や指導の仕方などの研修は定期的に行っています。共感すれば生徒も心を開いて本音で話してくれるとかね。ただ、それって研修を受ければ必ずできるってもんじゃないですよね。共感しなきゃって教えられて共感するのと、本当に心の底から共感するのとじゃ雲泥の差です。話している生徒も「あ、この先生わかってくれてないな」と直感的にわかってしまう。そうすると、やっぱりもうその先生の元へは相談に行かないですよね。

プリキュアのちっちゃい人形のような存在が欲しい

― ではその課題に対して、先生の中で解決策はありますか?

(深澤)突然ですがプリキュアって観たことありますか?プリキュアには必ずちっちゃい人形がいて、ベラベラ横で喋るんです。ああしろこうしろと、ぷかぷか浮いてついてくるんですよね。

そんな信頼のおける相棒のような精神的なパートナーや、自分の考えの壁打ちになるものが子供1人に1人ついてくれるといいなと思います。AIの技術を使って実現してほしいですね。その相棒に進路の話をしたときに「Aの大学は調べてみた?」「その大学のどこがいいの?」「理学部とか工学部とかあるけど、その違いわかってる?」など、最低限の助言をしてくれると先生たちもだいぶ楽になると思います。
ある一定のアドバイスを平均化して最低限をどう作っていくか—それが今後の大きな課題になってくる。何か新しい施策を立てて先生の負担を軽減させてあげたいですね。

取材・構成:小泉純/記事作成:大久保さやか

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