将来を考えるきっかけに―“楽しかった”で終わらせない海外修学旅行で視野を広げる方法とは
最終更新日:2025年10月30日
現在、多くの中学・高等学校で取り入れられている海外への修学旅行。英語力の向上はもちろん、日本では得られない学びを通じて、視野を広げるきっかけにもなっています。
専修大学松戸中学校・高等学校も、アメリカ・ネブラスカ州での海外修学旅行を実施している学校の一つです。一過性で終わりがちな海外への修学旅行を、「単なるイベント」にしない工夫を凝らして実施しています。
今回は、同校の北村 洋先生に、ネブラスカ修学旅行の目的や実施内容、実施におけるポイントなどを伺いました。
視野を広げることで将来の自分を考えてほしい
――先生が、英語教育において大切にされていることを教えてください
(北村)英語の知識だけでなく、英語が使われている世界の状況や、他国から日本はどう見られているかなど、生徒の視野が広がるような情報を伝えることを重視しています。視野を広げることで、自分自身を改めて見つめ直し、将来的に何をしたいのか考えてほしいからです。
また、楽しく英語を学んでほしいという想いも強いです。
この2つを叶えるために生徒が興味を持ってくれそうな話題を授業の中に入れるように心がけています。たとえば、大谷翔平選手が活躍しているドジャースの試合を引き合いに出し、父の日には “〇〇’s son” として選手のお父さんの名前を紹介する場面や、 “Bark in the Park” という犬同伴で観戦できる日があることなどを取り上げます。また、日本で人気の「鬼滅の刃」が海外でどれほど人気なのか、アニメ市場の規模はどのくらいかといった話題を紹介したこともありました。
「英語を学びに行く」のではなく「英語を使って何かを成し遂げる」
――広い視野を持ってもらう一環として、ネブラスカ修学旅行を実施されていますが、概要と目的を教えてください
(北村)2000年に開校した中学校の1期生から始まり、中学3年生全員が参加する必修行事として実施しています。滞在期間は10日間で、参加者はネブラスカ大学組とドーン大学組に分かれ、それぞれ寮に滞在します。
中学3年生を対象としているのは、英語学習がある程度身に付き、将来の進路を考える時期だからです。
そのような時期に、英語学習の集大成として「英語を学びに行く」のではなく「英語を使って何かを成し遂げる」ことを目的としています。
――数あるアメリカの州の中で、ネブラスカ州を選んだ理由は何ですか?
(北村)一番の理由は、本校の母体である専修大学がネブラスカ大学と提携関係にあり、深いつながりがあることです。そのため、高校での夏季研修プログラムの実施実績もあり、安心して学生を送ることができます。
また、ネブラスカ州は治安が良くて人々が温かく、自然豊かな「古き良きアメリカ」が残る場所であることも理由の一つです。さらに、観光地ではないので日本語を話せる人も少なく、英語を使って学びを深められます。現地の方にとっても日本人の団体が訪れることは珍しいようで、税関を通る際に、「なぜネブラスカに行くの?」と聞かれることが度々ありますね(笑)。

本気でぶつかるからこそ生まれるメンターとの絆
――修学旅行の具体的な内容を教えてください
(北村)午前中は、現地の子どもたち向けに開催されているサマースクールに参加します。ネブラスカ大学では「ブライトライツ」、ドーン大学では「アドベンチャーゾーン」というプログラムが開催されています。このプログラム内のクラスは、クッキング、ミュージカル、生物解剖、宝石デザイン、サバイバル工学など、すべて手や体を使って体験するものです。
クッキングクラスでは、アメリカのクッキーを作ったり、アメリカ特有の甘いものやしょっぱい料理を作って食べたり。
サバイバル工学では、「ゾンビから逃げるためにはどうするか?」をテーマにパラシュートやペットボトルロケット、橋などを制作したり。
さまざまなミッションを、現地の生徒たちと協働しながら体験します。最初はお互いに緊張していますが、次第に打ち解け、休み時間には一緒にサッカーやバスケットボールをしたり、お箸の使い方や折り紙の折り方を教え合う姿が見られます。最終日にはすっかり仲良くなって、私たち大人から見ると「やっぱり子どもって柔軟だなあ」と感心させられますね。
プログラムの他には、滞在先の大学のメンターと行動することがほとんどです。大学見学や市内散策、開拓者村博物館に行くなど、さまざまな体験をします。メンターは6~7人の生徒グループに対して1人が付き、その場所の案内や解説をしながら生徒たちをサポートしてくれます。
――メンターにはどのような方が選ばれているのでしょうか?
(北村)ドーン大学は教育学に力を入れている大学なので、教育に関する知識を持っている方が、選抜されています。
一方ネブラスカ大学は、本校とのインターンシップ制度があります。毎年春と秋にネブラスカ大学から2人ずつ、年間4人のインターンシップ生が本校に来て、英語の授業を手伝ってくれる制度です。そのインターンシップ生などがメンターを務めてくれます。ですので、日本や日本の生徒の特性をよく知っている方が面倒を見てくれるんです。
――そのような方々がメンターを務めてくださると、お願いする学校や保護者の方も安心ですね。メンターの方と生徒さんの関係性は良好ですか?
(北村)「良好」以上ですね。メンターの方とお別れをする際、号泣する生徒がたくさんいます。それくらい、強い絆が生まれるんです。
多くの生徒は、この修学旅行において楽しみの中に不安を抱いています。英語がうまく伝わるか、授業についていけるかなどです。そのような中で、メンターの方が身近な兄姉のように接してくれ、お互いに一生懸命コミュニケーションを取ろうと努力する。この「一生懸命」というのが大事で、「そこまで深くコミュニケーション取れなくてもいいや」と思ってしまったら、帰国時は「修学旅行、楽しかったね」で終わってしまうと思うんです。本気でぶつかり合って言葉の壁や困難を共に乗り越える経験をするからこそ、絆や信頼が深まると思っています。
メンターへの憧れに近い感情も生まれるため、メンターの行動を真似る生徒も多くいます。扉を開ける際に “After you.” と声をかけたり、すぐに感謝の気持ちを伝えたりと、感受性豊かなこの年代だからこそ得られる教育効果もあるのです。
帰国してからもメールのやり取りやSNSでつながる生徒は多くいます。

修学旅行が将来を考えるきっかけに
――修学旅行実施にあたってのポイントを教えてください
(北村)中学1年生の段階から本修学旅行に向けて準備を始める点です。
本校にはネイティブ教員が7名います。そのため、日々の交流やランチタイムアクティビティ、イングリッシュデイの開催、フィールドワークへのネイティブ教員の参加などを通し、現地に着いたらすぐにプログラムに入れるような準備を彼らと一緒にしていくのです。
たとえば、生徒たち各々のミニアルバムを制作して「これは〇〇をしているときの写真」「サッカーが好きなんだけど、〇歳からやっていて、これは大会で勝ったシーンなんだ」とある程度説明できるようにし、会話を広げられる話し方を学びます。
フィールドワークでは歌舞伎や能の鑑賞や、田植えや稲刈りを経験することで、「日本を知る」機会を設定。日本の文化を海外でも話せるようにするためです。
さらに、「ペンパルプログラム」なるものも実施しており、中学2年生から現地の子どもと手紙のやり取りを行い、リアルな交流を体験します。
このように、長期間にわたって準備を進めることで、修学旅行へのモチベーションも高まります。また、普段は英語の筆記テストの点数が低い生徒でも、現地では積極的にコミュニケーションを取り、大きく成長する姿が毎年見られるのも、嬉しい瞬間の一つですね。
帰国後は、修学旅行が一過性のイベントとならないような工夫もしています。非アジア圏出身の留学生を招き、オールイングリッシュで行う「ISA」プログラムを実施。2学期からは、オンライン英会話も授業に取り入れ、英語力活用の場の提供や広がった視野を狭めないように試行錯誤しています。
――修学旅行を実施されてきて、成果はありましたか?
(北村)帰国後、生徒にはアンケートに答えてもらい、ネブラスカ修学旅行への評価を行ってもらっています。このアンケートは学芸大学とJTBが開発したもので、学校行事の客観的な評価システムとして全国の学校で活用されています。そのようなアンケートの結果が、毎年平均値を大きく上回っているのが成果です。とくに、いかに生徒が現地で積極的にプログラムに参加したかという「取り組み姿勢」や、生徒自身の人間性が豊かになったという「豊かな人間性」の項目が高いんです。
また、将来を考える大きな転機にもなると思っています。卒業生からも、「ネブラスカ修学旅行が『自分が何を目指すか』『何を頑張っていくか』を考えるきっかけになった」という声が多いです。現地の生徒たちやメンターとの交流、日本とアメリカの文化の違いなどに触れ、視野が大きく広がるのでしょうね。

また、さまざまな経験を通じて、海外や日本の良さ、人のあたたかさに気づいたり、感謝の気持ちを持つようになったりすることも、大きな成果の一つだと感じます。
生徒のやりたいことを見つけるきっかけを提供したい
――今後の展望をお聞かせください
(北村)生徒たちが将来幸せになるため、彼らが「やりたいこと」を見つけ、それを応援し続けたいです。
「やりたいことがまだわからない」というのは中学生・高校生は当然です。それを見つけるために、さまざまな世界を見せ、いろいろなボールを投げかけていく。それが私の役割だと思っています。そのための一環として、ネブラスカ修学旅行もあるのです。
「何をやりたいか」「どこに行きたいか」を考えながら参加できるようなプログラムを用意し、生徒のやりたいことを応援できる環境を、これからもどんどん提供していきたいです。
(取材・構成・記事作成:大久保さやか)



