【夏休み緊急企画】「攻め」か「守り」か。2学期、どう準備する?!

最終更新日:2023年4月21日

怒涛の1学期を終えてやっと一息……と思いきや、2学期のプランも考え始めなくてはならないのが教員にとっての「夏」。

1学期の成果を踏まえて発展的な学習にチャレンジしようと考えている先生や、学習の遅れが目立った生徒への手厚いフォローアップを想定している先生もいらっしゃるかと思います。2学期の成否を握るのは、指導における「攻め」と「守り」の判断と言っても過言ではありません。

国際教育ナビでは、これまで様々なチャレンジを行ってきた現役英語科教員の皆さんを迎えたオンラインセミナーを開催。2学期の授業に役立つ「矛」と「盾」を伝授していただきました。

※ 本記事は、2022年8月23日に開催されたオンラインセミナー「【夏休み緊急企画】「攻め」か「守り」か。2学期、どう準備する?!」の内容を要約したものです。

もくじ

 ・「主体的で対話的な深い学び」を実践する3つのアイデア

 ・「攻め」の学習:フリーライティングで書くことへの抵抗感をなくす!

 ・「守り」の学習:2学期は仕切り直しのチャンス!やる気向上の3つのヒント

 ・正しい英語と生徒の自己肯定感、両立に大切なのは「対話」と「段階」

 

「主体的で対話的な深い学び」を実践する3つのアイデア

最初に登壇していただいたのは、大同大学大同高等学校の伊藤佳貴先生です。

新学習指導要領の中で象徴的なトピックの一つが「主体的で対話的な深い学び」です。伊藤先生は「教師が教えることと生徒が学ぶことは必ずしもイコールではありません」と言います。いくら教員が熱量の高い授業を展開しても、生徒が寝ているのでは成果が出るはずもありません。また、授業用に配布されているiPadやパソコンで授業中にYouTubeを見ている事例もよく聞かれます。

では、「主体的で対話的な深い学び」を授業の中で実現するにはどのような手法が考えられるでしょうか。伊藤先生は、2学期から実践できる3つのアイデアを共有しました。

まず1つ目は、学校や地域を題材に取り上げること。学校が周辺地域と繋がり学びを深めていくことはまさに文部科学省も推進しているテーマの一つです。例えば、海外向けに学校や地域を紹介する動画・パンフレットを作成するというプログラムが考えられます。

しかし初めからそこまで複雑な取り組みを考える必要はなく、探究の授業で行われている内容を英語でアウトプットしたり、校訓やスクールミッションの内容を英語で表現したり、外部からお題を拝借することから始めても構わないということでした。

2つ目は、SDGsの視点から学びを広げることです。これは教科書の内容をベースに展開することができます。伊藤先生は東京書籍の刊行する教科書『All Aboard!』に掲載されている沖縄の戦争と豚の話を起点に、[important to]の練習から発展してSDGsの視点で問いを投げかけ、考えを深める授業例を紹介しました。

教科書だけでなく、学びを広げるために教材を補うことも重要です。SDGsの17項目を並べた表はインターネットですぐに見つけることができます。また、動画からインスピレーションを呼び起こすことも有効です。伊藤先生は一例としてユニセフが公開しているYouTube動画を紹介しました。

YouTube: https://www.youtube.com/watch?v=40gZqVBUHUk&t=2s

この『All Aboard!』では、沖縄戦の単元の後に「すべての子供に教育を」という単元が控えています。前後の単元をつなぐクッションとして動画を1本挟み、複数の単元で横断的にSDGsの視点を取り入れることで、授業の捉え方や英語との向き合い方が変わってくる良い事例です。他社の教科書、他の題材でもこのような授業設計は考えられそうです。

3つ目は世界と繋がること。伊藤先生も活用しているという交流サイト「ePals(イーパルス)」では、世界中の教員がクラス間、学校間で文通することができます。基本的に無料で利用可能で、クラスの年齢や人数などによって文通相手を探すことができるようになっています。やり取りはサイト上で行うため、個人のメールを使用する必要がありません。教員はメッセージをモニタリングしたり、ワードフィルタリングを掛けることもできます。

https://www.epals.com/#/connections

何より、練習ではなく本番として英語を使う体験ができるのが大きなポイントです。英語自体を学ぶだけでなく、誰に何を伝えるための文面なのかという文脈やニュアンスも含めたコミュニケーションとしての学びが得られます。もちろん、実際のコミュニケーションだからこその大変さもありますが、深い学びを提供するという意味でとても有効なツールを共有していただきました。

「攻め」の学習:フリーライティングで書くことへの抵抗感をなくす!

2学期の準備をするにあたって、英語が得意な生徒と苦手な生徒への学習支援の形はそれぞれ変わってきます。神奈川大学附属中・高等学校の横内敦先生より、ライティング指導をテーマとして、成績上位層の生徒をさらに引き上げるための「攻め」の学習事例をご紹介いただきました。

英作文・ライティングの指導は英語教員にとって悩みどころの一つではないでしょうか。生徒は生徒で「何を書いていいか分からないし、そもそも書きたくない」。一方、教員も「生徒が英文を書けるのだろうか、添削する時間もないし」と不安を抱えていることは珍しくないでしょう。そんな中、TOEFLのライティングで満点を取るような完璧さを求め、細かなミスもすべて指摘していくのは生徒のやる気を削ぐ悪手であると横内先生は指摘します。

横内先生が自身の経験からぜひ薦めたいと語るのが、ライティング教育の第一人者、ピーター・エルボー氏が提唱する「フリーライティング」というアクティビティです。

エルボー氏はフリーライティングについて「たとえ間違えても、その間違いを繰り返していって最終的に成功すればいい」と語っています。もちろん正確さを身につけることは大切ですが、それはある程度書けるようになってから直していくものとして、まずは書くことに対しての抵抗感を下げ、ライティングの楽しみを知ることを優先します。

※著作権の都合により写真をぼかしております。

授業で実践する際は、まず教員が提示したトピックについて、生徒たちは1分間書く内容を考えてから5分間のフリーライティングを行います。このとき教員は、時間を計りながら”Keep writing”、”Don’t stop”などと手が止まらないように生徒を煽ります。5分間経ったらライティングを切り上げ、書けたワード数を数えます。「回を重ねるほど書けるワード数が増えて成長が実感できるはず」と横内先生。

続いて、横内先生はCornell式のノートテイキングを紹介しました。ノートを3分割し、授業の記録だけでなく、気づいたことや疑問、そして最後にまとめを書きます。

能動的な生徒や自律的に学習できている生徒は気づきやまとめのエリアもしっかり書き込みますが、受動的に授業を受けている生徒は考えることが少なく、授業の記録以外のエリアへの書き込みが極端に少なくなります。横内先生はこのようなノートテイキングから学びの深さを評価に反映しているそうです。

このCornell式ノートテイキングは、フリーライティングに応用することもできます。授業に取り入れてみてはいかがでしょうか。

「守り」の学習:2学期は仕切り直しのチャンス!やる気向上の3つのヒント

授業理解が早い成績上位の生徒にはさらにスキルを伸ばすアクティビティを提案できますが、英語に対して苦手意識を持っている生徒にはどのような支援が考えられるでしょうか。大阪成蹊女子高等学校の石井玲子先生にお話しいただきました。

1学期の授業でつまずいたり思うように成果が出なかったりすると、2学期に入ったところで「気持ちを切り替えて前向きに授業に臨もう」とはなかなか思えないものです。石井先生は、生徒のやる気を向上させる3つのアイデアを共有しました。

1つ目は、新年度に入ったばかりの4月ではなく、1学期を終え2学期に入るタイミングで目標設定をすることです。1学期にできたこと・できなかったことを振り返ると、2学期に授業内外で何が必要か、生徒自身も気づくはずです。石井先生は「自分で気づくことこそが行動に結びつく」と言います。

2つ目は、英文を読む前に情報をインプットすることです。勉強が苦手な生徒の場合、周辺情報や基本知識が不足して、前提や想像力が働かないまま英文を読まなければならず苦戦するということがあります。事前に周辺情報を入れて関心度を高め、小さな目標を設定し読む動機づけを行うことで、英文と向き合いやすくなります。

情報をインプットする段階では英語である必要はありません。インターネットなどを使いながら周辺情報を調べ、インプットできたことを英語にしてみるなど、段階を踏んで英語に触れていきます。夏休みの課題を例に挙げ、解説していただきました。

3つ目はアウトプットについてです。石井先生の考えは「習うより慣れよ」。教科書の1セクションごとに音読の課題を出して、Googleクラスルームで提出させているそうです。大きなプレゼンテーションを1つ実施するより、短時間で何回も、いろいろな場面で当たり前のように喋ることを大切にされていて、「YesかNoだけでも言ってみよう」という気持ちで取り組まれています。

書くことについても同様で、横内先生と同様に正確さよりも量を重視し、意図が伝わればOKというルールでできるだけたくさん書くように取り組まれているそうです。

横内先生はフリーライティングを紹介されていましたが、石井先生も「タイムドライティング」というアクティビティを採用されています。時間を決めて、辞書・消しゴムなし、躊躇もなしとルールを決めてライティングに挑戦し、1年間で書く語数がどれくらい増えるのかを計測します。教員はそれに対し添削や文法の訂正は一切行わず、内容に対するコメントや質問を返します。

「2学期は大いなる仕切り直しのチャンス。私は授業を通じて、英語ができたらちょっと面白いかもしれないと思うきっかけ作りをしています。『新しいことを知れた』と感じられれば、生徒もおのずとついてくると思います」とコメントし、石井先生のプレゼンテーションを締めくくりました。

正しい英語と生徒の自己肯定感、両立に大切なのは「対話」と「段階」

最後に、ご登壇いただいた伊藤先生、横内先生、石井先生のお三方でトークセッションをしていただきました。

伊藤先生は「間違っていてもいちいち直すのではなくしっかりと受け止める姿勢は、これからの時代に求められると思います。生徒の自己肯定感を高めることも、英語に向かう学びの姿勢に対する切り口になっている」と横内先生・石井先生のプレゼンテーションを振り返りつつ、「英語の教員をしていると、accuracy(正確さ)は本当に自然に伸びるのかという問題がある」と指摘します。

これについて横内先生は「インタラクションがないと直らないと思っています。受け取り手の生徒の心が開いていないと、いくら直してもただの悪口みたいに受け取られることがある。生徒が直してほしい、教えてほしいと思うときにだけやるようにしています」と回答しました。

石井先生は「訂正するというより、まずは正しく話したり書いたりしたいと思わせる流れを作りたい」とコメント。「難しいことですが、話したり書いたりするのが楽しくなると、おのずと正しく話したい、書きたいと思えてくる」と段階を踏んでアプローチしていることを補足しました。

最後に、画面の向こうの参加者へお三方からメッセージを頂きました。

(横内先生) 私がアメリカにいた頃、「日本人はすぐ諦める」とたびたび言われました。頑張ってきたつもりだけど、海外から見たら「すぐ諦める」と思われているのかなと今も忘れられずにいます。英語教育は成功するまでいつまでもやり続けていきたいと個人的に思っています。

(石井先生) 2学期が始まる直前に、このようなセミナーに参加される先生方は本当に意欲があって素敵だなと思います。今日は普段やっている授業を省みながらお話しいたしましたが、体だけは壊さずに皆さんと一緒に頑張っていきたいなと心を新たにしました。

(伊藤先生) 皆さんと考えや施策を共有できたことに大変感謝しております。この共有も完成したものではなく、まだまだ走り続けているものばかりです。近い将来、対面で皆さまとまたお話ができることを楽しみにしています。

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