実践しないともったいない!授業での英語ディベートを成功させる 3つのポイント

最終更新日:2023年4月21日

【サマリー】授業での英語ディベートを成功させる3つのポイント

英語ディベートと聞いて、どのようなイメージをお持ちでしょうか?英語が得意な生徒しかできない、生徒が熱心に取り組めそうなテーマが思いつかない、普段の授業にそもそも取り組むのが難しい、と諦めてしまったことはないでしょうか?

本セミナーが提案する、ディベート実践の際に重要なポイントは3つあります。

①自分の意見に対して問いを立てる力
②教科書を使った通常授業へのディベートの取り入れ方
③生徒に合わせたディベート内容の難易度設計

第1部では、英語ディベートを授業に取り入れているお二人の先生を迎え、上記のポイントに注目しながら実践例をご紹介いただきます。第2部では、英語ディベートを推進する宮川純一先生(全国高校英語ディベート連盟 理事/岐阜聖徳学園高校)に、ディベートを授業に取り入れる意義についてお話しいただきます。また第3部のクロストークでは、参加者のみなさまより頂いたご質問に対してお三方にお答えいただきます。

実践者からの提言やアイデアが、「英語ディベートの実践」というハードルを乗り越えるヒントになれば幸いです。

もくじ

 【第1部】授業実践のご紹介(三仙先生・枝松先生)

 【第2部】「問う力」を養う授業! 〜 英語ディベートの段階的導入 〜(宮川先生)

 【第3部】クロストーク

 

【第1部】授業実践のご紹介

授業の現場ではどのような指導が実践されているのでしょうか。まずは岡山県立岡山城東高等学校の枝松鈴子先生、福井県立藤島高校の三仙真也先生に授業実践のお話を伺いました。

授業実践①(枝松先生)

◾️ディベートに向けての指導実践

英語表現では1年生から「1minute Speaking」という活動に、ほぼ毎授業取り組んでます。ペアになり、教科書の題材に沿って自分自身の情報や意見などをほぼ即興で話し、質問や反論をする活動です。

さらに話した内容についてエッセイを書く宿題を出し、次の授業で交換添削をさせています。慣れてきたら、エッセイの構成(序論・本論・結論、抽象から具体への流れ、論拠を必ず入れることなど)を教えます。

交換添削のあとに良かった点と改善点をさらに書いてもらいます。なぜその利点が発生するのか、行間を読まなくてもプロセスが伝わるかといった、主に内容面のコメントを書くことで、ディベートのときにも、自分や相手の意見の論理に飛躍が見られないか等、客観的な目として活きると考えています。

◾️ディベートの段階的導入

(*本ページに掲載された画像にて、小林良裕氏およびイラストレーター・イクタケマコト氏への権利侵害のご指摘を頂き、該当画像を削除いたしました。ここにお詫び申し上げます。)

まず行っているのは、Summary&Refutationという活動です。3人1組で、トピックに対して、1人目が肯定側で立論を述べ、2人目は否定側として立論の要約と反駁をしさらに新しい論を述べます。3人目は肯定側で2人目と同じことをします。2巡目は逆の立場になり同じことをやっていきます。これを制限時間が来るまで繰り返します。

論題ごとに生徒自身で振り返りを行い、効果的な反論ができたかどうか、〇△×で評価させています。どう言えば説得力が増したか、といったことを必ず考えさせるようにしています。例えば、高校生のアルバイトや高校生が運転を教わることの是非など、身の回りの具体的な事例を根拠として即興で話せるような題材を選ぶようにしています。

前任校では、ピンポンディベートも取り入れていました。これはペア対ペアで相手に対する反論をとにかく繰り返していく活動です。まずは紙に書くところから始めて、慣れてきたら口頭でやっていきます。紙から始めると精神的なハードルが低く、振り返りがしやすいからです。

1年次の後半には、1チーム2〜3人でミニディベートを行います。質疑応答は1回のみ、トータル20分を1授業で2セットするという形式で行いました。とにかく最初のディベートなので、形式に慣れること、全員が2回の授業で全ての役割を経験すること、全員が話すことの3つを優先して、このような形式にしました。

教員はディベートの進行を行いながら、各々スピーチが終わった後にジャッジの仕方を説明します。生徒は、喋った英語の上手さや主観で判断してしまうところがあるので、議論1つ1つについて起こる可能性や重要性からジャッジすることの大切さを伝えました。

トピックは、1年次には学校でのコンビニ導入やオンライン授業など、生活に根差したものを取り上げました。また3学期はディスカッション・否定肯定の2つではなく、あらゆる結論の方向が考えられるような活動に取り組んでいます。

大切にしているのは、年次あるいは生徒の興味関心に合わせて、日常生活に近いものから社会的な問題にレベルアップするよう設定することです。他の教員とも相談しながら考えています。

2年次の2学期にはHEnDAのディベートの形式により近い、フォーマルディベートのような形式で実施しています。ディフェンスとサマリーを別々にして、1チーム4〜6人の形式で行いました。1授業で30分の試合を1試合、ディベーターは1人でそれ以外は全員ジャッジという形で少しハードルを上げて行っています。

テーマは英語表現2やコミュニケーション英語の既習内容をもとに、もう少し社会的なテーマ(宇宙探索の賛否、ペットの品種改良の是非など)を扱っています。一昨年の3年次では、DNAを題材にした授業の後に遺伝子組み換え食品の販売禁止を論題としました。

授業実践②(三仙先生)

◾️ディベートの有用性

枝松先生のご発表にもあった通り、ディベートでは論題や題材に対して肯定否定の両面から考えることが要求されます。肯定側で考えた自分の意見を最も強い意見として作ったとしても、否定側に立ったらそれを否定しなければならない。さらに深い考えを持たなければいけないということです。

本校ではCan-Doリストを作成するとともに、1年次は準備型のアカデミックディベート、2年次は即興型のパーラメンタリーディベートというように準備型・即興型の両方の指導を行っております。3年次はなかなか時間を取るのが難しいのですが、ディベートよりもディスカッションが難しいと思っているので、ディスカッションへの足がかりのためにディベートを実施しています。

自己関与度という観点から、クラウンに掲載されている地雷除去に関する内容の授業をご紹介します。まずレッスンが始まる前に、最後にディベートをすることを伝えます。あまり身近ではないこの問題に対して、最初から疑問を持って読んでほしいという思いから、ディベートをすることを初めに伝えました。

その結果、教科書を繰り返し読むようになり、「ドネーションが一番の方法ではない」という生徒がたくさん出てきました。

最後は、本校の生徒としてあなたはどのように世界平和に貢献できますかという問いです。事前にライティングで評価すると伝えていたので、ペーパーの上には評価基準を載せています。

ディベートを深めた結果、15分のライティングで裏にまで至るぐらいの文章(約600words)を書く生徒も出てきました。事前にディベートのテーマを伝えることによって、より主体性を持って取り組む生徒が出てきたと思います。

◾️指導実践例

地雷除去というものは自分にとって非常に自己関与度の低い題材です。これを高めるためにも、事前に提示した論題に対してどのように考えるかを常にレッスンの学びと並行して行っていくことが重要だと思います。

Can-Doステートメント内でディベートを明確に位置づけること、またチェックリストも定期的に出して自分たちの指導に還元しておりますので、その定点観測と指導法共有も重要な視点であると思います。

ディベート導入前の生徒の英作文をご覧ください。論拠が弱いというのと、because以下が中学生のような書き方になってしまっています。語彙、文法的なエラーを除いてもロジック的な弱さが目につくような答案であるように思います。

これが2学期いっぱいディベートを重ねたことで、語彙の観点からも論理展開からも、並列表現や累加表現、客観的な論理性の部分でも非常に強化された英作文が書けるようになってきました。

ちなみに即興型は論題を伝えて15分後に試合をしています。即興型の方がより自己関与度の高い問い(例えばアイドルは恋愛禁止すべきでないというようなもの)を取り上げています。自分にとって話しやすい・話しにくい問いを区別しながら、2つの型を効果的に用いることが、ディベートの指導において非常に重要な観点であると思います。

本校では、小手先の受験テクニックではなく貪欲に知的な豊かさを求める学習を目指しております。ディベートがベストではない部分は多々あるかと思いますが、ディベートを用いることによって確実に生徒は思考を深めますし、また英語を話す必然性を持ち、学びのある授業を展開する上でも、ディベートの指導は重要であると思います。

 

【第2部】「問う力」を養う授業! 〜 英語ディベートの段階的導入 〜

続いて、全国高校英語ディベート連盟で理事を務められている岐阜聖徳学園高校の宮川純一先生にお話しいただきました。

◾️英語ディベートに力を入れたきっかけ

私は学生時代にディベートをやったことがなく、30代後半の頃、社会科の教員に勧められたのが始まりでした。いざ実践してみたら、クラスの中でも大人しくほとんど発言しない生徒がディベート中に突如活発に話し出し、とても驚きました。以来、「ディベートには何かの力がある!」と信じ今日まで取り組み続けています。

◾️ディベートとは

ディベートは、まず自分がAという立場に立ち、反対意見のBに対して意見を持ちます。次に、あえて反対意見のBの立場になり、今度は逆に自分のスタンスであったAを攻撃します。両方を経験すると、自分の視点がCの位置に来て、物事を俯瞰してより平等に見ることができるようになります。

「ディスカッションとディベートとどちらが良いか」とよく言われますが、HEnDA(全国高校英語ディベート連盟)の審判長を務める中央大学教授の矢野善郎先生は「ディスカッション VS ディベートではなく、ディスカッションの中にディベートが入る」と仰っています。

プレゼンテーション、ネゴシエーション、セラピーを含め全部盛り込まれているのがディスカッションで、ディベートはその中の1つの手法に過ぎません。ディベートだけができても万能ではないし、逆にディベートができないとバランスの良いディスカッションはできないという考え方です。

英語ディベートを始める上で最も大きな障害は「英語が得意な生徒がやるものだ」という固定観念です。たしかに、HEnDAなどの競技大会では高いレベルの英語力や訓練が求められます。しかしディベートはそれだけではなく、全ての生徒が日常的に英語力が身につけられる手段の一つでもあります。

◾️段階的導入

とはいえ、英語が苦手な生徒たちに初めからディベートを強いるのは難しいことです。まずは教員がしっかりと構造を準備し、生徒の負担を減らす授業を組み立てます。これをHigh Structuredといいます。生徒の英語力がついてくると、Low Structured(枠組み作りなど準備が少ない状態)でも生徒はフリーに喋れるようになります。

ディベートにはいろいろなスキル・ポイント・要素が含まれていて、種類もレベルに応じてさまざまなので、英語を習いたての頃からでも取り入れられます。むしろ「ディベートを楽しんでいたら苦手だった英語がわかるようになってきた」と実感してもらいたいと思っています。ディベートを目的ではなく「High Structuredに段階的に取り組める手段」として捉えるべきと考えています。

◾️「問う力を養う」とは

ある人がハーバード大学の学長に「教育の目的は何ですか」とインタビューしたら、その答えが「問う力をつけること」だったそうです。私は、「問う力」こそディベートの根本であると考えます。普段の授業の中で常に生徒に問いかけ、生徒自身が疑問を持つ姿勢を育むことがディベートに直結するのではないでしょうか。

ディベートには立論・反駁・防御・総括の4段階がありますが、HEnDAでは反駁と防御それぞれの前に「質疑=問う時間」を入れて、その問いが次の反駁・防御に繋がるスタイルをとっています。もちろん立論も意見を好き勝手に言うのではなく「反駁でこう問われるかもしれない」「私たちのこの意見はどのように問われるだろう」と考えることが大切で、全て問うことが基本になっています。

 

【第3部】クロストーク

(浜田)三仙先生と枝松先生には、「ディベートを実践する上での3つのポイント」を中心にお話しいただきました。共通して、ディベートは目的ではなく、物事・考えを深める手段だと捉えている点が印象的でした。宮川先生はお二人の授業実践を聞いていかがですか。

(宮川先生)お二人の実践は具体的で私自身も参考になりました。ディベートはゲーム性があり勝ち負けがつくのも大きな特徴です。実はこれが生徒のモチベーションになっていて、負けたくない、どうやったら勝てるかと、論理の穴を見つけようとするんです。普段しないような脳の動きと言いますか、気持ちの持っていき方があり、しかもそれを英語でキャッチボールできる喜びもあるのではないかと思います。

 

Q&A

Q. 枝松先生が取り入れているのは準備型、即興型、どちらでしょうか。

A. (枝松先生)ピンポンディベートやSummary&Refutationは即興型ですが、その後のミニディベートとフォーマルディベートは今のところ準備型です。授業外で準備したものを持ち寄り、チームで5分ほど準備時間をとって始めています。三仙先生の発表を聞いて、即興型もやってみたいなと思いました。

 

Q. 進行の盛り上げ方などで工夫されていることがあれば具体的に教えてください。

A.(三仙先生)先ほど枝松先生が1時間の授業の中で2試合されるとおっしゃっていましたが、それは大事なポイントだと思っています。同じサイドだけではなく違うサイドをやるという意味でも考えは深まります。

ただし進行がだらけるとそれができなくなるので、盛り上がりという観点からも、進行という観点からも、スタートやストップを教員側がコントロールすることが大事だと思っています。

 

Q. ディベートの授業を取り入れた上で失敗談はありますか。

A.(宮川先生)準備のスケジュールですね。どのタイミングで、どういう準備、仕込みをするかというところです。ただ、生徒はいつやっても大体喜んで取り組んでいますね。喋りたい気持ちが強いようです。

ちなみに盛り上げるという話題がありましたが、何試合かできるのであれば、勝ったもの同士、負けた者同士で結びつけると、力が均衡して惜しい試合ができるようになってくるので盛り上がります。

 

まとめ

(枝松先生)他のお二方のように深いところまではまだディベート授業が出来ていませんが、”活動している感じ”にならない授業をしていけるように精進したいと思います。

(三仙先生)私は、学校の授業に全然ディベートがない中でのスタートでした。目の前の生徒を見ていて、おそらく今の段階ではディベートが一番思考を深める良いツールなのではないかと思っています。またみなさまといろいろな形で勉強させていただければと思います。

(宮川先生)私が20年以上前に最初にディベートに出会ったとき、長野県の先生に教えていただいたのですが「ディベートなんか英語でとてもできません」と僕が言ったとき、その長野県の先生が「私達もそう思ってました。でもやらせてみてください、必ず生徒はやります。私たちも意外でした」と言われました。それがスタートだったんです。まだ始められてない先生がいらっしゃったら、生徒の力を信じてやっていただければと思います。

また、HEnDAという全国高校英語ディベート連盟の県大会、全国大会があります。準備型のディベート大会なので、ぜひチームを作って送り出していただきたいです。協議ディベートと授業のディベート、この二つが相まって発見することもあり、先生方も成長されるような気がします。本日はありがとうございました。

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