CELTA & Independent Learnersを育てるための授業デザイン

最終更新日:2023年5月25日

去る2022年11月25日(金)、近畿大学附属高等学校英語科授業公開&セミナーwith Cambridge University Pressが開催されました。対面形式での開催のため、東京から大阪までの移動が必須ではありましたが、大変魅力的な内容の公開授業&セミナーでしたので、国際教育ナビ編集部も参加させていただきました!

近畿大学附属の中高一貫コースプログレス・進学コース・英語特化コースでは、生徒自身が英語を用いる機会を十分確保し、英語の全ての技能をバランスよく向上させることを目指しているそうです。教員研修にも力を入れていて、28名の英語科の先生方がケンブリッジ大学英語検定機構が認定する英語教授資格を取得なさっています。

今回は、その資格取得と英語特化コースの実践についてお話しくださった青山祐子先生のセミナーの内容をご報告します。

国際的な英語教員資格CELTAとは?

ケンブリッジ大学による英語教授法認定資格・CELTA(Certificate in English Language Teaching to Adults)は、認知度こそ低いですが、これから広まっていくだろうと感じています。ヨーロッパ、中東、アフリカでは70.5%、イギリスにおいては88%の機関で英語を教えるのにCELTAが必須とされており、「CELTAを持っていないと英語を教えられない」と言っても過言ではありません。

CELTA取得のための講習の内容をざっくり言うと、前半は大量のリーディングとレポート作成です。30のチャプターがあって、1個1個もボリュームがあります。後半はティーチングプラクティスという教育実習のようなものを8週間かけて実施しました。また、大きな4つのレポートが課されたのですが、2つは再提出しました。面談もありました。

大変だったかというと、もちろん「イエス」です。内容が難しいわけではなかったのですが、仕事をしながらの受講だったので、タイムマネジメントが大変でした。「CELTA中心の生活になるよ」と最初に言われていた通りでした。CELTAと仕事が最優先の生活の5ヶ月間で、好きな読書は一切できなかったですし、ジムにも一切通えませんでした。

ティーチングプラクティスが終わった翌日、1枚の紙の半分に良かったこと、半分にこれからやらなければいけないことが書かれたものが返ってくるのですが、それを読むのが本当につらくて、私は2回泣きました。大人でも泣くほど厳しいです。ドロップアウトする人もいて、最初は10人いた受講生が最後には7人になっていました。

とはいえ、人から指摘される経験が年々少なくなってきた中で、改めて学習するのは非常に新鮮です。1回目のティーチングプラクティスではうまくいかなくて悔し泣きをしましたが、面談のときに普段厳しい先生から「あなたはよくやっている」と言われたときは嬉しかったです。これは学習者の生徒も一緒だろうなと思います。普段は厳しく接していたとしても「あなたはよくやっている」と言ってあげたいと思いました。

しんどいですが、すぐに使える知識やテクニックがたくさんあって、非常におすすめです。しんどいことを一緒にやり遂げる仲間もできますし、学習者の気持ちを思い出すこともできます。また、褒めることの大切さも改めて感じました。ティーチングはアップデートが絶対に必要なので、自分にとっては非常によかったと思います。

「大学院でTEFLを学んだのだからCELTAは取らなくていいんじゃない?」と言ってくれた先生もいましたが、やっぱりやらなきゃいけなかったと思います。大学などで私が学んできたのは、TEFL(Teaching English as a Foreign Language)や言語習得法、言語学などの学問的な内容が中心でした。CELTAはリーディングやリスニングの教え方、学習者の背景を配慮した教え方、年齢が違う人の教え方など、教え方に特化したプログラムで実践的なのが良かったです。

日本の先生は説明しすぎる、もっと生徒に質問を

ティーチングプラクティスの後には反省会が1時間あります。「あのときの質問はこうだった」とか、「説明しすぎだからもっと生徒に問わないといけない」とか、ロシア人のチューターが私たちにいろいろと教えてくれました。

CELTAでは、教えるときはとにかく「MFPA」のバランスを大切にしなさいと言われました。これは今も気をつけてやっています。Mはmeeting、Pはpronunciationで、Fはform、Formは日本の教育でいう文法です。Aはappropriacy、これはIs this casual, formal, or neutral?ということです。仮に生徒が大学教授に「What’s up?」と話しかけてしまったとしたら、appropriacyを教えていない私の責任ということになるので、きちんと教える必要があります。チューターの方からは「日本の先生はMとFに偏りがちだ」と言われました。

また、ICQ(Instruction Checking Questions)とCCQ(Concept Checking Questions)を駆使するために頭を抱えるようになりました。これも受講中「日本の先生たちは説明しすぎるので、もっと生徒に質問しなさい」と言われ続けていて、ベターにはなりましたが今もなかなかできないです。例えば、インストラクションが理解できているかどうか、今からする活動を説明したときに、What are you finding out from the text?と、活動の内容がわかっているかどうか生徒に答えさせるといったものです。そしてCCQのほうがこれよりも難しいです。例えば、The boy had run away when the police arrived.という過去完了形を教えるときに、説明せずにクエスチョンだけで理解させるというものです。“Which happened first, the boy running away or the police arriving?” “Is it happening now?” “Is it about the future?” “Did it happen in the past?” など、たくさん質問します。これの何が良いのかというと、生徒は文字で覚えるのではなく、ピクチャーで理解するというところです。

CELTAで30のユニットを読んだり、ティーチングプラクティスをやったりする中で、現場で実践してみたいことはたくさん増えていきました。まず、リスニングの教え方で私の心に刺さったのが、「学校の外で見聞きした英語をリストアップしてきなさい」というものです。わからない単語は調べて授業でシェアします。これを入学直後にやってみたいです。成績が伸びる生徒は主体的に自然と伸びますが、伸びない生徒を見ていると、1つの原因は無頓着なことだと気づきました。こんなにも社会に英語が溢れている中で生活していながら、授業の外に出てしまうと引っかからないのはもったいないと思います。例えば、電車の中で英語のアナウンスが聞こえてきたら、興味関心が高い子は耳を澄ますし、ドラマを見ながら「こうやって発音するんだな」と学ぶと思います。伸びない子の1つの理由として、生活の中の英語が聞き流されているということがあるので、アンテナを張る活動をやりたいです。

また、生徒と先生の間で契約書を作るというのも良いなと思いました。入学直後に、クラスルームコントラクトで、生徒は上のところを約束してサインをし、先生も下のところを約束してサインをします。例えば、be punctual、respect classmates’ effort、respect differencesというのが生徒に約束してもらいたいこと、私が約束するのは、treat students with respect、choose interesting topics、keep trying to improve myselfです。

CELTAは自分をアップグレード、アップデートしてくれるので本当におすすめです。受講料も払う価値があったと思っています。ただ、CELTAでなければいけないかというと、必ずしもそうではないと思います。体の具合が悪いときに医者に行ったとして、ご高齢の先生が『私の知っている1970年の医学書によると…』と診断してくれたら、セカンドオピニオンに行きますよね。それと一緒だと思います。教員も今の時代のニーズを理解して、それに合わせてアップデートしていくことは、教職を辞めるまで必要です。その点、CELTAは非常に良かったと思います。

ただCELTAをやるのであれば、英語の理解度の指標があるので、それ相応のレベルは必要だと思います。後半のティーチングプラクティスは、英語を学びたくて時間を削って参加している大人の生徒さんが相手です。彼らのためにも英語力は必要で、各母国語のアクセントが混ざった英語の言葉を拾っていくためのリスニングも必要でした。CELTAが求める基準をクリアするために勉強するのも、自分のアップグレードにつながると思います。

中学入学してすぐにスキット(短い劇)をやる効果

続いて、授業デザインについて、9年間やってきた実践からご紹介したいと思います。まず、本校の場合は3年間の持ち上がりですので、1年生の2学期に必ずスキット(短い劇・寸劇)を実施します。これには、中学校から入ってすぐの頃はスピーキングになかなか慣れないので、無理にでも慣れてもらおうという意図があります。

私が授業で使うスクリプトは Cinderella と King’s New Cloth 、Pot pf Poisonです。これを暗記して教室で発表させるのですが、声の大きさが小さかったら減点です。また、発音も大切です。特にthの発音はすぐにできるようになるので意識させてやっています。イントネーションと演技の練習も頑張ってもらいます。

後で生徒にこのアクティビティの成果を聞いてみると、「あれはとても効きました」と言ってくれる生徒が多いです。「人前で喋る楽しさを覚えた」という生徒もいますし、殻を破るという意味でもおすすめです。1年生の早い段階で実施するのが良いでしょう。

インディビジュアルスピーチはあまりやりすぎると頭も心も消耗しますので、1年の3学期と、2年の2学期、または3学期、3年の1学期というように年に1回実施しています。クラス全員が1人ずつ喋ると、最後の生徒は飽きてしまいますよね。そこで私のクラスでは6人グループのチーム戦にします。イメージは剣道の試合です。1人目が勝負して、2人目が出て、3人目が出て、そのトータルで勝敗が決まります。個人の獲得スコアの合計がそのチームのスコアです。自分がミスをしたらグループから減点され、チームメイトがミスをすれば自分も減点されます。そうすると自分の出番が終わっても、後の人の発表を一生懸命見るようになります。

評価は教員の採点と生徒の投票の2種類で行います。本校では、成績通知表の点数は50%が平常点、50%が中間期末の点数というように平常点をとても重視しているので、生徒も一生懸命やります。生徒に2枚ずつシールを配り、その日のすべての発表が終わると前のホワイトボードにシールを貼りに行きます。これはデジタル化したこともありますが、アナログで投票する方が生徒は楽しそうにしています。

評価ポイントは、まず「ゼロ・フィラーズ」。フィラーズ(「ええと」、「あー」などのつなぎ言葉」)はパブリックスピーチではご法度です。「アイコンタクト」も3方向を見るように伝えています。それから「発音」はth、2年生はshとl/rを学習しているので、ここも間違えると減点対象です。また「イントネーション」と「ボディランゲージ」もあります。生徒たちの投票で上位2グループは、私がどれだけ減点していたとしても満点にします。

ある生徒は3方向を見て話すことがとても良くできていて、工夫しているのがよくわかりました。声もよく出ていました。ただ、1番・2番には選ばれなかった。悔し涙を流していましたね。ですが、何より大事なのは練習する過程です。試合ばかりやっていても上手くなるわけではなく、試合に向けての練習が力になります。そして試合をすることによって自分の強み・弱みが見えてくる。一生懸命練習する過程で、この生徒たちの英語力はすごく上がったのではないかと思います。

何が良いかというと、まずチームビルディングができるというところと、応援する/応援されるという関係性の構築です。誰もサボれないところが良いです。中には悔し泣きをしたり、「嬉しい、安心した」と涙を流す子もいたりして、そこまで本気でできるというのは、とても頑張った証だなと思います。

「教科書を進めなくても大丈夫なのか」と思う方ももちろんいると思います。私も9年前、教科書を解説する時間を削って活動に時間をとったときの結果は非常に不安でした。しかし結果として3年間一緒に頑張った学年はどの代も3年次の偏差値がすごく高くなっていました。スピーキング、リスニング、発音、グラマー、ボキャブラリーとカテゴリ分けをしなくても網羅的に使いながら学習できるので、やってみることが大事かと思います。

何をすればよいかですが、1年生は「日本食」などの軽いものを。「あなたはかつ丼、あなたはうな丼」とこちらで指定しても良いです。2年生はattractive tourということで自分で考えさせて、3年生はPersuade the class to make donations to an organization you supportをやりたかったんですが出来ませんでした。社会問題と絡めていくイメージです。

「学校に来てしかできないこと」を提供して「学校に行きたい」という気持ちにつなげる

終わった後に必ずやっていることもあります。自分の取り組みについて、できたこと/もっとできたことの振り返りをするのは当然なのですが、グループで「あなたのための1分」という褒める時間を必ず取っています。1人につき1分、その生徒に対して「あんなことをやってくれた」「すごいと思った」「こういうところを見習いたい」ということを、直接言葉で伝えます。

アメリカに4年住んで、戻った時に思うのは、「日本人は褒めるのが苦手」ということです。そうであってほしくないと思うので、自分が関わる生徒には褒め合いをさせています。最初は生徒たちは恥ずかしがりますけれど、ずっとみんなニコニコしていて良い時間です。自己肯定感も高まりますし、言葉に出して褒めることは大事だと思います。

3年間通していろいろな活動をやりますが、全てにおいて私が大事にしているのは、「学校に来ないとできないことを大事にする」ということです。今はYouTubeなどで、家にいても知識をつけることができます。私たち教員がやるべきことのひとつとして、学校に来てしかできないことを提供して「学校に行きたい」と思ってもらうことだと思っています。チームエフォートを強化できるよう、意識して取り入れるようにしてます。

教室内が安心して挑戦ができる環境であることも非常に大事です。人前で喋っているときや、頑張って新しいことをやろうしたとき、それを見てクスクス笑う生徒が時折います。それを見て見ぬふりをすることもできますが、実はそれが大きな足かせになっています。ですので、そういうネガティブな芽は早いうちに摘んで、「新しいことをやろうとしている人はかっこいい、それを応援しない人はなぜそんなことができるのか」と早い段階でしっかり伝えるようにしています。

受験はチーム戦だと言われますが、学校においては何事もチーム戦だと思います。個人で頑張るのももちろんですが、先ほどご紹介した活動でも、自分のためだけにやるのではなく、グループメイトのためにやることで、破る殻も厚くなり、びっくりさせてくれる生徒もたくさんいます。お互いが応援できる教室であるように意識しています。それを3年間、私ともう1人の先生で情報共有しながらしっかりやることによって、なかなか良い雰囲気のクラスができていると思います。

英語学習は3年で終わりではなく一生続くものなので、高校を出た後もサポートができる授業を提供できるようにしています。さっきの活動も、自分で勝手に頑張るので、その点でセルフドリブン、インディペンデントな学習者になる良い活動であったと自分で振り返って思います。

今日は、CELTAの報告とインディペンデントラーナーズを育むための土壌作りの話をさせていただきました。

【Q&Aパート】

Q. 生徒のプレゼン発表はどのくらいの時間をかけて準備しますか。また、教員側からどんな補助をしていますか。

A. 準備は1週間です。2年生だと週5コマありますので、その中でやってもらっています。チーム分けはくじ引きでランダムです。ピクチャーの枚数の制限やピクチャーにはなにも文字を入れないというルールがあります。与えられた番号でテーマは決まっていますが、それについての内容は生徒が自分で探します。スクリプトは考えますが、1年生のときは教員が確認しました。2年生はグループメイトがチェックしました。グラマーミスで減点があるので、すごく気を付けてお互いの文章をチェックするようになりました。

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