小さく始めれば、機会は見つかる!教育クリエイターが見据える、「小さな副業」の価値

最終更新日:2023年7月2日

今回は、京都の大谷中学高等学校で英語科教諭を務める江藤由布先生に話をうかがいました。
非営利型一般社団法人の運営や、グローバル企業のアンバサダー認定など、多岐にわたる活動をしている江藤先生。副業はお金を稼ぐ手段でなく、小さく始めてつながりを生み出すものだと説きます。江藤先生の歩みと共に、すぐに始められる情報発信のコツについて、詳しくお聞きしています。(聞き手・小泉)

留学をきっかけに、教師を目指す

───今回は「先生の副業」というテーマで、江藤由布先生の話をおうかがいします。まずは、江藤先生のご経歴についてお聞かせください。

(江藤)大学卒業後、母校に英語教員として就職しました。現在は京都市の大谷中学高等学校に勤務しています。教員として働く傍ら、一般社団法人オーガニックラーニング(以下「オーガニックラーニング」)代表理事を務めており、遊びや学びに関するワークショップを年間50回以上開催しています。

───もともと学校の先生になりたかったんですか?

(江藤)いいえ。私にとって学校の先生は、憧れの職業ではありませんでした。というのも幼少期の私は、学校にあまり馴染めなかったからです。興味のあることには没頭できるのですが、そうでないことは一切身が入らない。一方で、アメリカのレシピブックを見て料理をして人をもてなすとか、夏中顕微鏡観察して観察ノートを作るなど自由研究系は好きでした。

───では、いつ頃から学校の先生になろうと考えたんですか?

(江藤)高校生のとき、アメリカのアイオワ州に留学したことがきっかけです。日本のような講義形式の授業とは全く違っていて、とても楽しめました。「教育って面白い、この経験を日本でも伝えたい」と思い、教育の道に進もうと決めました。

子育てと仕事の折り合いをつける

───2015年に、江藤先生はApple Distinguished Educatorに認定されています。アップル社の教育プログラム(以下「ADEプログラム」)に参加された経緯を教えてください。

(江藤)2013年、私が所属していた学校で、本格的にICT教育へのシフトチェンジが始まったんです。iPadが中高合わせて4,000台導入されるなど、先進的な取り組みとして話題になりました。
ADEプログラムは審査があり、誰でも参加できるわけではありません。ICT教育に熱心な同僚と一緒に応募し、同じ学校から4名が参加できることになりました。

───江藤先生も、iPadを活用した授業づくりに力を入れていたんですね。

(江藤)はい。ただ私の事情は、他の先生と少し異なります。というのも、iPadが導入された年、私は次男を出産しました。子育ての比重も大きく、これまでのように時間をかけて授業の準備ができなくなっていました。だからiPadを授業に取り入れざるを得なかったんです。

───必要に迫られて、ICT教育に取り組まれたのですね。生徒の反応はいかがでしたか?

(江藤)私が主体になるのでなく、できることは生徒に任せながら授業を組むようにしました。生徒の主体性が高まり、授業中にも積極的に発言する姿が見られるようになりました。私の教育観も変わるほど、大きな成功体験だったといえます。

合言葉は”celebrate failure”

───ADEプログラムについて教えてください。

(江藤)私たちの年は、アジア・オセアニア地域の教員が、シンガポールに集まって研修を受けました。ワークショップやレクチャー、各学校で実践についての報告会などがありました。参加者が1日中楽しめるようなプログラムばかりで、本当に楽しい時間を過ごすことができました。

───印象的だった出来事はありましたか?

(江藤)素晴らしいなと思ったのが、”celebrate failure”という言葉。ワークショップを担当したアップル社の講師が、ことあるごとに失敗を賞賛するんです。会場の参加者も、誰かが失敗するたび「イエーイ!」と盛り上がります。日本ではなかなか見られない光景ですね。

あとは、日本がいかにICT教育の分野で遅れているかを痛感しました。日本の参加者は、せいぜい「こんなアプリを使っています」という報告なのですが、他の国の参加者は「アプリは何を使っても構わない。こんなことを授業で目指しているんだ」というプレゼンです。「こんな授業ができたら良いな」と思っていたことを、いとも簡単に実践していました。

言語の壁、そして日本のICT教育推進の旗手になる

───各国の参加者との交流はありましたか?

(江藤)言語の壁が厚かったですね。私は英語教員なので、他の国の参加者と交流することができましたが、日本の参加者の多くは英語が苦手で。日本人同士で固まっていたように思います。

───ADEプログラム参加者とは、今でも交流が続いているのですか?

(江藤)コロナ禍でなかなか機会に恵まれていませんが、ずっとつながりはあります。再会すれば必ず、ADEプログラムでのカルチャーショックについて、ひとしきり盛り上がりますね。
ADEプログラムを経験し、日本のICT教育の旗手として活躍されている方が何人もいます。起業した方もいれば、別の学校に移った方も。立場ややり方は異なれど、シンガポールで得たものを日本に持ち帰るんだという意思を、みんなが持ち続けているのだと思います。

1週間で一般社団法人が作れるらしい

───江藤先生も、ADEプログラムに参加した年に、一般社団法人オーガニックラーニングを設立されています。

(江藤)ICT教育など、先進的な取り組みをしている先生同士をつなぎたかったんです。新しい取り組みに意欲的だけど、学校の事情でやり切ることができない。中には疎外感を抱いている方もいました。ナレッジを共有して、仲間を作れる場所が必要だと感じていました。

──では、かなり計画的に設立準備に取り組まれたんですね。

(江藤)いや、実はあまり深く考えていませんでした。税理士法人に所属していた友人に相談したところ、「一般社団法人なら1週間で作れるよ」と助言を受けまして。それくらい簡単なら作ってしまおう、という軽い気持ちでした。

──オーガニックラーニングには、どんな方が参加しているのでしょうか?

(江藤)9割以上が女性の教員です。子育てや介護など多忙な方もいるので、参加しやすさを重視しながら運営しています。オンライン講座はカメラオフで参加OKですし、リアルタイムで参加できなくてもアーカイブ視聴できるようにしています。

学校との両立、できることから始めてみる

──江藤先生は、現役の英語教員として働いています。オーガニックラーニングのセミナーやイベントは、休みの日に開催されているのでしょうか?

(江藤)オンライン講座は、基本的に毎週金曜日の21時半から開始しています。金曜日は、日中は学校で仕事、帰ってから食事の準備など家事をこなして、夜になったらオーガニックラーニングの活動をするという流れですね。コロナ禍でオンライン開催という形式が普通になったので、学校と並行しながら活動しやすくなりました。不定期開催のイベントも休日に行っていますので、学校の仕事に支障ありません。

───2018年までは「ラーニングスプラッシュ」という宿泊型のイベントも開催されていますね。

(江藤)兵庫県佐用町で、年に1回開催していました。学校の先生に限らず、大学生や起業家、農家の方々などが混じり、即席のチームを作ってワークショップを行うという取り組みです。運営資金もそれなりに必要だったので、クラウドファンディングで資金を集めるなど、多くの方々を巻き込みながら運営を行っていました。

───かなりパワーが必要ですね。お金もかなり必要だったのではないでしょうか?

(江藤)イベントにかかった金額は、決して少なくはありません。ですが、なるべく費用を抑えるために、できることは自分たちでまかなう工夫もしました。Webサイトやクラウドファンディングサイトは私の手作りです。情報発信も、書くことが得意なスタッフに協力してもらって行いました。

確かに規模は大きなイベントですが、「できることから始めよう」という意識を、オーガニックラーニングを運営してから常に持っていると思います。

転職という挑戦。教員としての「残り時間」を意識する

───江藤先生は、ADEプログラム後に転職されています。

(江藤)当時の学校には、大きな不満はありませんでした。もともと私の母校でもあったので、「何でも挑戦してください」と常に前向きな言葉を掛けてもらっていました。でもやはり、「この学校のことしか分からない」ことのデメリットも感じていて。なので勤続20年の節目に、思い切って転職することにしたんです。

──転職して気付いたことはありますか?

(江藤)転職して初めて、前任校の良さに気付くことができましたね。でも、働く場所を変えたことに後悔はありません。教員には定年があります。教員として働ける時間は限られているので、悔いのないように仕事に取り組みたいと思います。

情報発信を通じて、自分を知ってもらう

───江藤先生は、積極的にブログで情報発信をしています。

(江藤)ICT教育に取り組んでいく中で、周りの先生から「どのように授業を運営しているのか?」といった質問を受けるようになりました。個別に回答するのは限界があるので、「じゃあ、ブログで情報発信してみよう」と思ったんです。

──また、できることから始めたんですね。

(江藤)はい。でも、ちょっとやり過ぎたかもしれません。まずはブログを100本書こうと決めて、3ヶ月間、毎日ブログを更新しました。私は書くことが苦手なので、苦労して達成しましたが、小麦アレルギーを発症したほどです。でもそのおかげで世界が一気に広がりました。当時はアメブロでしたが、今はnoteで続けています。

公式note:https://note.com/yuh_etoh
Canva公開プロフィール:https://www.canva.com/p/yuh-etoh/

──江藤先生が考える、情報発信の意義とは何ですか?

(江藤)自分を知ってもらえることです。もちろん学会などで研究成果の発表をすることも意義がありますが、TwitterやFacebook、noteのような気軽に情報発信できるメディアを活用しない理由にはなりません。ほんのささいなことでも良いので、日頃から情報発信しようと心掛けています。

小さく始めることがポイント

───英語教員以外にも、江藤先生は様々な活動をしています。一番大きなメリットはなんでしょうか?

(江藤)つながりですね。ありがたいことに、最近は「note見たよ!」と言ってくださることが増えました。活動を続けていくと色々な方に会えますし、そのたびに新しい刺激を受けるので楽しいですね。

──2022年に、Canva教育クリエイターに認定されていますよね。(※Canvaとは、オーストラリア発のグラフィックデザインツールのこと。授業などで使えるテンプレートが豊富に用意されている)

(江藤)これも、Canva教育グループというコミュニティを運営していたことがきっかけです。イベントの告知をしていたら、たまたまCanva関係者の目に止まったようです。そこからの縁で、Canva教育クリエーターのことを教えていただき、日本初のCanva教育クリエイターとして認定されました。

───江藤先生のnoteを見ると、かなりの数のCanva関連の記事が書かれていると分かります。

(江藤)教育関係者向けには「​​Canva for Education」というプランがあって、あらゆる機能やサービスを無料で使うことができるんです。だから書くネタが尽きないんですよ。プリント作成から動画編集まで、普段使っていることをnoteにひたすら書いています。

稼ぐことだけが副業の目的ではない

───今回は「先生の副業」がテーマです。改めて江藤先生が考える副業について教えてください。

(江藤)私は副業の定義を広く捉えています。お金を稼ぐことだけが副業ではないですよね。ボランティアもSNSでの情報発信も、副業のひとつだと思うんです。
どの学校にも副業規定というルールがあり、私立の学校でも、まだまだ自由に副業できるところは少ないと思います。でも、何か始めれば必ずつながりが生まれます。そのつながりは自分自身の糧になって、学校の授業にも生かされていくはずです。

私が最初に企画したのは、参加費500円、たった10名参加のワークショップでした。でも、活動を続けていく中で、少しずつ仲間が増えていったんです。だから私は、まずは「小さな副業」から始めることをお勧めします。小さなこと、できることから始めて、機会を見つけてほしいと思います。

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