数年先の先輩教員から後輩たちへ。「1年目でうまくいかないのは当たり前」 公立と私立を経験したからこそ伝えられること
最終更新日:2024年2月9日
近年、教員の働き方改革や志望者不足が社会的な注目を集めており、教員を志しつつも働く環境に少し不安を感じている学生も多いのではないでしょうか。教職に就いた後、負担に耐え切れず数年で教員の道を諦めてしまう人もいると聞きます。しかし、このような厳しい状況の中でも、情熱を持ち続け、生徒たちのために日々努力を重ねる教員たちは存在します。彼らの実体験にもとづいた言葉は、教育の道を歩み始めた皆さんにとって、大きな力となるでしょう。この記事では、教員を目指す学生や教員になりたての先生方の少し先を行く6年目の先輩、成蹊中学・高等学校の小宮山紗智先生にお話を伺いました。
公立を経て私立へ
―――先生は、教職6年の間ずっと現任校にお勤めなのですか?また、現在のご担当は?
(小宮山)大学院卒業後、公立中に4年勤め、今の私立に移って2年目の今年度は、中1を担当しています。就職活動の際は、東京都の教員採用試験と他の私学とを並行して受けておりましたが、公立の教員採用試験に受かり、公立を選びました。現任校は母校で、自分には私学の経験しかなかったため、教育現場を知るには公立校も経験したいと考えたからです。
公立と私立、両方経験して感じた違い
―――公立と私立を両方経験されて、それぞれの良い面や難しい面など、どのような違いがございましたか?
(小宮山)生徒側にも教員側にも違いを感じますね。生徒指導において、学校の中でできることは限られるので、生徒の保護者との連携が必要です。公立には、家庭環境も含めてさまざまな生徒がいるため、家庭に委ねられる部分は私立と比べると少なくなりがちです。たとえば中3の受験期に、学校見学や受験手続きが進まず、生徒自身でできるように手厚くフォローしたことがありました。
私立は、選んで受験し学費をかけて通っている分、関心を持っている保護者が多く、学習に関してもおおむね前向きに捉えてくれるように感じます。保護者の母校だから子どもも通わせているケースもあり、縦のつながりがお互い安心感につながっている面もありますね。
教員業務としては、人数や業務範囲が違います。公立は、限られた少ないメンバーですべて対応しないといけませんが、私立はより多いスタッフで業務が分担されていて、自分の分担さえこなせば良い状況にある程度整えられているのです。
―――先生方の業務負荷の問題はメディアでも報じられていますが、公立か私立かでも違うのですね。
(小宮山)人にもよると思いますが、環境の違いもありますね。現任校の私立では、モチベーションがとても高い先生や、ご自分の研究と並行して教員をされている先生も多い印象です。正直、公立の時は辞めていく同期もよく見ていたので、厳しい状況もあるのだろうなと思います。
ただ公立には、部活動も含めて業務範囲が広くなる大変さはありますが、そのメリットや、逆に私立のデメリットもあります。公立は、すべてに関して分担が入り携われるため、学校全体の動きがわかりやすいです。「共通の指導」「次の年にいかす」などがやりやすくなる面はとても良いと思います。私立は、分担されている分、全体像がやや見えにくかったり、分担の偏りもありえる面では大変さがありますね。
見る幅としては、中高一貫の私立の場合、中高にまたがった6年間全体の流れを考えるので、最大でも3年間で良い公立の方がコンパクトという違いもあります。
一方で、公立は義務教育で、何があっても退学や停学はありません。私たちが最後まで面倒を見るしかない、地域みんなで育てなくては、という使命感がとても強くありました。
―――私立は異動がないので、毎年の変化や、学校外の先生方との接点が減ることはありませんか?
(小宮山)たしかに私立は変化が少なくて、同じ内容の授業を何年もそのまま繰り返すことも可能ではあると思います。でもそれでは自分も成長しません。成長という面で考えると、公立は参加必須な研修が多かったのですが、私立はなかったので、自分で探して参加していますね。自分がどう動くかで大きく変わるので、変えられるチャンスは多いと思います。
教員を目指す学生や若手教員へのメッセージ
―――教員を6年経験された今、大学生のうちにやっておくと良いと思われることはありますか?
(小宮山)もっと勉強をしておくべきだったと思います。授業に関することもですが、自分の英語力を磨くための勉強や留学の機会についても同じです。社会人になると、細切れの時間は取れても、まとまった時間はなかなか取れなくなるからです。勉強に限らず、何かに集中的に十分な時間を割いて深く追求することは、学生時代でないと難しかったと実感します。
教員開始時の英語力をキープすることも、実は意識しないと危ういです。初任の公立中時代はとても忙しくてまったく勉強できなかったのですが、レベルの高い学校でなければそれでも困らないと思います。逆にそのレベルの英語しか使わないので、英語力が落ちたと感じていて、今焦って勉強を再開しているのです。たとえば、綺麗な発音で教えたいと練習して上達したり、英語表現に多く接する中で使える表現のストックが増えたりはします。でも、ずっと中学生を教えていると、難しい単語など使わない内容を忘れてしまうのですよね。
―――勉強以外にも何かございますか?
好きなことを見つけておくと良いですね。仕事が大変でリフレッシュすると良い時に、疲れすぎていると、もう考える気力すらなかったので。そんな時でも「私はこれが好きだから、少しこれで気分転換しよう」とすぐ思えるものがあると良いと思います。
―――教員になって困難にぶつかった時に、言ってあげたいことはございますか?
(小宮山)とにかく自分を責めないでと伝えたいですね。初任の頃は、その方向性が合っていても間違っていても、絶対一生懸命やっているので、そこはまず自分を褒めてあげてほしいです。その上で周りの人を頼ったり、泣きたい時は泣いて、美味しいものをいっぱい食べて、きちんと寝ることも大事です。一生懸命な姿を見てくれている人は、生徒にも大人にもきっといると思います。「すべて自分が未熟だからダメなんだ」なんて絶対思わないでほしいですね。どんなすごい先生もみんなそこを通ってきているはずですので。
私も1年目の頃、トイレでずっと泣いていたこともありました。その時は何がつらいかも分からず、毎日生きるのに必死でした。授業も含めてすべてが初めてで、2~3時間しか眠れない日が続いていて。身体的にも精神的にも弱ってしまい、少し授業がうまくいかないと「もうダメだ」と落ち込みました。「1年目でうまくいかないのは当たり前」と、後からなら思えるのですが、その時は必死でした。でもこの公立時代のおかげで、メンタルが相当強くなれたと思っています。
―――つらい時でも乗り越えてこられた要因はどのようなことだと思われますか?
(小宮山)生徒や同僚の先生方の存在が大きいですね。じつは今でも定期的に「もうダメかもしれない」と思うこともあります。でも辞める選択肢はまったくないです。
生徒は、とても素直で無限の可能性があります。そこが子どもの素敵なところで、どんな風にも変われるから、少しでも良い方にできることがあればサポートしたいと思うのですよね。生徒との出会いも一期一会だと思うので、出会った人に少しでもポジティブな何かをできたらという気持ちで取り組んでいます。生徒が、授業が楽しかったと伝えてくれたり、気さくに笑顔で話しかけてくれたりすると、この仕事の良さを実感しますね。
同僚の先生方は、パワフルな方が多く、業務量が多い中でも生徒のためにとても熱心でした。英語科の先生にも支えられましたし、周囲の先生方に恵まれたことも大きかったです。
研修で知り合ったり、メッセージ交換してつながったりもできるので、学校内外問わず教員のネットワークは大事にしてほしいなと思います。
取材・構成:小林慧子/記事作成:松本亜紀