日本初! ケンブリッジ英語導入校の大奮闘 未知の教育が実を結んだ瞬間とは

最終更新日:2024年3月28日

イギリスの名門・ケンブリッジ大学が英語教育の世界的エキスパートらとカリキュラムを研究・作成し、編纂したテキストで実践するケンブリッジ英語プログラム。その最大の特長は、母国語(日本語)を介さずに英語を学ぶこと。「世界基準」としてその品質が認められ、主にヨーロッパの非英語圏の国を中心に運用されています。

そんなケンブリッジ英語プログラムの教科書発行元である「ケンブリッジ・ユニバーシティ・プレス」がCambridge Better Learning Partnerに日本で初めて認定したのが高槻中学校・高槻高等学校です。国内での認定校はたったの2校。厳しい基準を突破し、「英語で英語を学ぶ」という従来の英語教育とはまったく異なる授業に主担当として奮闘されてきたのが鈴木優子先生です。困難ややりがい、生徒の変化、具体的な授業法について伺いました。


導入にあたって

———ケンブリッジ英語を導入された時期ときっかけを教えてください。

(鈴木)2023年度で4年目になります。学校長の決定がきっかけでした。本校はグローバルリーダーの育成を教育目標に、ケンブリッジ英語プログラムのみならず、海外名門大学との連携など、生徒が世界へ羽ばたく土台作りを目指しています。学校長も英語の教員だったので、本当の英語力をつけることの意味や方法を検討され、ケンブリッジ英語の導入を決断されました。

———授業方法などに大きな違いがあったと思うのですが、ご苦労はありましたか?

(鈴木)苦労したことは本当にたくさんあります。その中でも大きかったのは保護者や学内からの理解を得ることと、授業の進め方の2つです。

未知の世界に反対者も多数

———保護者や学内から不安視されましたか?

(鈴木)もちろんされました。ケンブリッジ英語を実施すると決まった当時、私は学年主任だったのです。「授業はオールイングリッシュで、検定教科書ではない専用の洋書を使います」「ですが結果は出ると思うので信じてください」というお話を保護者集会の際に何度もしました。

保護者の方は「大学受験に対応できるのか」「オールイングリッシュでうちの子はついていけるのか、ついていけなかったらどう勉強すればいいのか」などを心配されていました。

保護者の方もご自身が受けてこられた教育が「普通」なので、不安に思われるのも当然のことです。私にとってもケンブリッジ英語プログラムは未知でしたし、もちろん保護者の方にとっても未知。だからこそ、学年集会でたくさんお話をさせていただきました。

個別にご意見をうかがう機会なども重ね、少しずつご理解いただきながら導入した結果、英検などの取得率が徐々に伸びたのです。「うちの子の年齢でも英検2級が取れるのですね!」など保護者の方々が安心される結果へつながりました。

学校内でも不安視する声がありました。模試で結果が出ないと「ケンブリッジ英語はやはりよくないのではないか」と指摘される可能性もあるので、結果を出すことはずっと意識し続けています。

試行錯誤の末に情報量の削ぎ落しを行った

———授業の進め方はどのような難しさがありましたか?

(鈴木)私たちはケンブリッジとパートナーシップを結んでいるので、チューターがカリキュラム作りから授業のやり方まで相談にのってくれます。しかし、これまで実践してきた授業とはまったく異なる方法なので、折り合いをつけるのはかなり大変でした。

たとえば、文法学習ひとつとっても全然違うのです。検定教科書であれば、1つの単元に1つの新出文法、そして未学習の文法事項は掲載されていないのが基本です。しかしケンブリッジはオーセンティックな題材を扱うので、新出文法など関係なく過去形もあれば命令形もある、さらには三単現のSも出てくる…など容赦がありません。

<左から>Unlock3(Reading, Writing & Critical Thinking)、Unlock3(Listening, Speaking & Critical Thinking)、Uncover1/出版元:Cambridge University Press & Assessment

 

ケンブリッジのチューターからは、“can”を学習する単元であればそれだけを解説すればいいとアドバイスされるのですが、私たちとしてはそれでは不安です。生徒が初めて出会う文法事項を一つひとつ立ち止まって教える形で授業を進めていました。そうすると1つの単元を終えるだけで膨大な時間が必要になってしまいます。

頭を抱えてたくさんの疑問や不安をチューターに問いかけてみましたが、返ってくる答えはいつも“No problem!”。教科書通りやればいい、それ以外のことはやる必要がないと言うのです。

揉めに揉めましたね。同じ英語科の先生とよく議論もしました。なかなか結果も出ませんでしたし、正直「ケンブリッジ、大丈夫なんか?」と何度も思いました。「やり始めたからには後には引けへんしやるしかない!」と耐えて耐えて…。

でも、2年目のあるとき、「すべての情報を教えること」を一切辞めようと思ったのです。

———なぜ急に辞めたのでしょうか?

(鈴木)1年少しやってみてわかったのですが、文法事項をすべて説明しないと理解できないだろうと情報を足して教えていても、単元が進むにつれて、同じ文法事項が少しずつレベルを上げながら何度も何度も出てくるのです。

ケンブリッジ英語は、スピーキングやライティングで毎時間膨大なアウトプットをします。それを積み重ねていくことで、「ここにS(主語)があるとなんかモヤモヤする」というように生徒が不自然さを感じるようになるのです。ネイティブの感覚が時間とともに身につくことがわかり、いちいち細かく教えていく必要がないと気づかされました。そこから、あえて情報量を削ぎ落していくと、やっと結果が出るようになりました。

———日本の学校で教わるSVOCのような型は教えずに、出てきたものを学んでいくんですね。

(鈴木)まったくゼロにしてしまうとよくないかなと思い、講習の時などに少し教えたりします。そうすると生徒たちはぼやっとしていたパズルが枠にはまるかのように理解するのです。「だからここにbe動詞が来ていたのだ」といったことがストンとわかるという理解の仕方がケンブリッジ流なのです。理解力のスピードが圧倒的に速いのが驚きでしたね。

———授業は週に何時間行っておられますか?

(鈴木)中1でケンブリッジ英語を導入した現高1は、英語コミュニケーションが週に4時間、論理表現が週に2時間あります。これとは別に、各コースごとの英語(サイエンス英語、グローバル英語など)が週1時間あり、計7時間英語の授業があります。

———授業形態はどのようなものでしょうか?


(鈴木)1クラス43人程度なのですが、授業はペアワーク・グループワークが中心です。私が講義スタイルで授業を行う場面は文法の説明をしている時などほんの少しです。あとはクラスの特徴も見ながら授業を組み立てています。グループワークがすごく好きなクラスもあれば個の方が強いクラスもあって、そこに合わせたりします。担任の先生ともよくコミュニケーションを取り、「最近こんな問題があってちょっとクラスの雰囲気が悪い」などを聞くと、あえてグループワークにしてみたり。

うまいこと英語の授業を使ってクラスの雰囲気もよくなってくれればと思っています。

———定期テストはどうしているのでしょうか?

(鈴木)従来型の暗記などだけでは対応できない問題を出しています。エッセイライティングを行い、クリティカルシンキングを使ってきちんと考えられているかを確認するような問題ですね。単語を覚えたり文法を覚えるだけで解ける問題ではありません。テストって本来そういうものなのだろうなと最近は思っています。

よく、「テスト勉強どうすればいいですか?」と生徒から質問されるのですが、「普段の授業を頑張っていればできるんじゃない?」と答えていますね。それがケンブリッジ英語も望んでいることだと思っています。

教員は今やファシリテーターの時代

———ケンブリッジ英語で実際に指導されて、気づいたことはありますか?

(鈴木)私は教員を30年やっていますが、もう教員の役割は知識を教え込むことではないということですね。ケンブリッジ英語の教科書は、答えのない問いばかりなのです。

たとえば、ちょうど今日やった授業では、「ある大学で、成績優秀者にインセンティブとしてお金を給付する議論がある。賛成か? 反対か?」という問いが出てきました。まずはクラスの中で英語で意見を言い合って、その後、トピックについてのディスカッションをリスニングします。それを聞いて、自分はなぜ賛成なのか、反対なのかをさらに少し深めていきました。

日本語で考えてもおもしろい題材について、英語というスキルを使いながら落とし込んでいくイメージです。今や教員はその落とし込みの作業を成功させるために、時に意見の対立を解消し、時に次の質問を投げかけたりするファシリテーターなのです。

———授業をする中で大切にされていることはありますか?

(鈴木)一番はモチベーションを高めることです。リーディングにしてもリスニングにしても、読んでみたい・聞いてみたい気持ちにさせるための準備に一番時間をかけます。経済の話など、高校1年生では興味を持ちづらいトピックの際は、生徒に身近な話から入ったり動画を見せたりする工夫をしています。興味が持てると取り組み方ががらりと変わる。リーディングで新出の単語の意味がわからなくても、わくわくしながらその答えを探そうと文章を読んでくれるようになるのですよ。

もう少しケンブリッジ英語での学びが成熟してきたら、私ではなくて生徒に興味付けを任せてみたいと思っています。「グループで次の教材のイントロダクションを考えてきてくれない?」と頼みたいですね。そうすると調べ学習にもなりますし、おもしろいかなと思います。

グローバルリーダーになるためのツールとして英語を活用してほしい

———生徒には最終的にどうなってほしいですか?

(鈴木)グローバルリーダーを作るという、学校と同じ目標ですね。何をやるにも苦労しない程度にツールとしての英語を学んでほしいです。

いまだに学内ではいろいろ意見があるのですが、英語教育について考えてらっしゃる外部の方は賛同してくださる方もおり、ありがたいなと思っています。「私は間違っているのかもしれない」と悩みながらずっとケンブリッジ英語を実践してきましたが、今はもうあまり気にせず思うようにやってみようと思っています。生徒たちの可能性だけは潰さないように、生徒たちと私が楽しめたらいいかくらいの感じですね。

共通テストでも文法の四択問題などがなくなったので、ケンブリッジ英語を通して結果を出してほしいなと思っています!

取材・構成:小林慧子/記事作成:大久保さやか

 

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