自らの生き方を考え成長のヒントをつかむ
最終更新日:2022年8月25日
- おすすめしたプロフェッショナル
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白井 龍馬 / 久留米工業高等専門学校
自らの生き方を考えヒントをつかむ Let's talk about Life ― from a Biblical perspective ―
増進堂・受験研究社
- おすすめのポイント
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Q.良かったところ
CLIL授業として英語で聖書を学ぶことによって、英語学習をもとに道徳的・教養的な学びをすることができた。道徳的な問題は、中高生にとって気恥ずかしさが伴うものであるが、英語で扱うことで、そのハードルが下がり、発表や意見交換が和み、やわらかい雰囲気で授業することができた。
また、テキスト本文の内容も当事者性が高い教材なので、自分に置き換えて想定しやすく、CLIL授業で大事にしているauthenticity(この場合は「学習内容と自分たちの生活の密接さ」を意味する)を引き出し、学習内容に対して意欲を高めるような内容を抱かせやすかった。ここでの情操教育が、実生活に活かしやすいものである点も、教科横断的な学びとして、昨今の教育の方向性に合っていると感じた。
CLIL授業全体的に言えば、インプット中心の学習に比べ、アウトプット並行型の学習により、スピーキングの伸びが顕著であった。特に、英語で考え、英語で連想できるようになったため、瞬時の判断が必要なスピーキング力が着実についてきているのが実感できた。その成果か、英語検定についてもCLIL実施前実施後で合格率が大きく変わっており、生徒たちの満足度も高い。
Q.困ったところや改善してほしいところ
特にない。CLIL授業では、言語教師のテーマの専門知識の不足に関する問題については、他教科の先生と協働することでカバーすることができると考えている。
本書のように「聖書」を扱っていれば、聖書の先生に聞くなど、生徒たちへのタスクにもできる。内容を深く全てわかっていなくても、英語を用いて生徒たちと共に学び、思考を深め、視野を広げていくという視点で授業を展開していけばよい。
Q.導入の経緯や、本教材採用の意図と狙い
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問題/課題:
本校がキリスト教主義の学校であることもあり、「聖書」という大事なものを英語の授業でも活かしていきたい、という思いで、CLIL授業の教材として採択した。
中学3年生のニュージーランド海外セミナーと高校2年生のアメリカ海外セミナーで、どちらもクリスチャンの家庭にホームステイさせていただき、現地の礼拝などを聞く機会がある。その中で、自身がクリスチャンになるかどうかに関わらず、キリスト教を知るということで、ホストファミリーのバックグラウンドや価値観を知ることができる。その結果、ホストファミリーの方たちへの理解を深め、親睦を深めることにつながると考えた。生徒たちが聖書についての知識を得ることで、よりホストファミリーと語り合えたら楽しいだろうと考えた。
また、教材として、英語が難しくない聖書のバージョンが扱われているため、生徒たちにとって読みやすく、また道徳的なことを思考することができる点も魅力的であった。
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状況(クラスの人数やレベル):
中学校2年生までで学習が終了する文法で読める題材であるため、私立であれば中学3年生から十分利用できている。 -
他の類似教材ではなくなぜこれか:
同じように聖書を扱っている英語の教材は、ヨーロッパではほとんど見ることがないと聞いている。アメリカでは、「バイブルスタディー」というものはあるが、「英語のために」という目的もあるテキストはないとのこと。
Q.実際の使い方
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本教材の構成
CLILとは、教科・科目やテーマの内容(content)の学習と外国語(language)の学習を組み合わせた学習(指導)法である。
本書は、CLIL授業のスタートに適している教材といえる。
本書の構成は、4,5ページで一つのユニットが完了する形式。以下の8タスクで構成されている。
⑴⑵聖句に関するクイズ
⑶~⑺聖書のお話
⑻これまでの学びの振り返り(発表会)
また、上記の⑶~⑺には聖書のそれぞれのたとえ話について、以下の5つのPartで学習できるよう本文や設問などが提示されている。
①Part1 Reading/Comprehension Check/Thinking/Parable Reading 説教を読み理解しよう
②Part2 Discussion 説教について話し合おう
③Part3 Deconstruct 内容を分析して考えを深めよう
④Part4 Listening 英語で説教を聞いてみよう
⑤Part5 Reconstruct 自分の生き方を踏まえて考えよう
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授業の進め方
だいたい4、5ページで1単元完了(2~3時間くらい)×7章 週1回の英会話の授業で扱うなら、半年で完了できる。
授業の仕方は、クラスの単語や文法知識の定着度などの実態に合わせて自由にアレンジできる点もよい。
本書の構成に合わせて以下のように授業を進めている。
⑴⑵聖句に関するクイズ
クイズを考えたりクイズの答えを考えることで、興味・関心を持たせる。
authenticity(=「え、意外!」「知らなかった!」という思い)を引き出す。
⑶~⑺聖書のお話
⑶~⑺にはそれぞれの聖書のたとえ話を扱う単元となっており、以下のように授業を展開できる。
①Part1 Reading/Comprehension Check/Thinking/Parable Reading 説教を読み理解しよう
②Part2 Discussion 説教について話し合おう
③Part3 Deconstruct 内容を分析して考えを深めよう
④Part4 Listening 英語で説教を聞いてみよう
⑤Part5 Reconstruct 自分の生き方を踏まえて考えよう
*例えば⑶の聖書のお話は、「迷いでた羊」のたとえ話が提示されている。自己中心でいることの結果について、考えを深めることができる。
⑻これまでの学びの振り返り(発表会)
自分の生き方を考え発表したり、他者の発表を聞き、新たな気づきを得るきっかけや考えを深める機会とする。
以上のように、4技能5領域のアクティビティを散りばめながら実施することができる。
また、単語や文法の学習はその都度確認していくが、特に単語は毎授業あらかじめキーワードの確認をしたうえでリーディングに入っている。文法は、生徒たちがライティングをした際に、共通のエラーがあった場合に紹介し確認するということも行っている。
Q.使ってみた結果
「聖書に対して親しみが持てた」、「ニュージーランドでの交流に役立つ」、「多角的に聖書を見ることができた」としてくれた生徒が多かった。
【実際の学習後のアンケートにおける生徒たちの言葉】
・ニュージーランドでホストファミリーにいろいろ話が聞けたらなと思うので、この学習で身近にできるだろうなと思いました。
・自分なりにどんな考えが書かれているか解釈しようとすることができるようになった。
・日本語だけじゃなくて、英語でも思ったことを伝えられるようになった。
・私はこの考えをするけど、この人はこういう考え方をするんだ、と他の人の意見を比較しながら学習することができた。
・他の人の視点でも聖書を見ることができた。
Q.利用が向いているクラスや生徒
中学校2年生までで学習が終了する文法で読める題材であるため、私立なら中3~、公立なら高1から十分に利用できる。道徳的な教材なので、キリスト教の知識のないノンクリスチャンの先生でも十分授業できる内容である。一緒に考えていくことができるし、答えのないものを英語を用いて考え、意見交流するため、幅広い層で利用できる教材。
Q.あまり合わないと思うクラスや生徒
定着している英語の知識内容にもよるが、検定教科書の進度を踏まえると、公立の中学1年生の文法知識のみだと少し難しいかもしれない。
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