個に自律と責任を! 大学付属男子校ならではの「オーナーシップ」を引き出す工夫

最終更新日:2025年2月24日
「テーマを持って真理を探求する力を育てる」「共に生きる力を育てる」の2点を教育目標に定め、主体的な人間の育成に力を注いでいる立教池袋中学校・高等学校。男子校という環境を活かし、「個」にフォーカスした授業を展開されている小林 隆史先生にお話を伺いました。
生徒を甘やかしすぎない 「自律」を促す授業実践
――まず、先生の教育ビジョンについて教えていただけますか。
(小林)重要視しているコンセプトは、「自律」ですね。学年としてもキーワードにしています。自分を律する、自分で考えて判断して行動する。その結果、失敗してもOKですと。
そう設定している背景は2点あります。1点目は本校の教育方針で、「主体的にテーマを探し出し、自ら学び続けようとする力」の育成を掲げています。主体的であるためには当然、自分で考えて行動しなければならないわけです。そもそも本校は9割の生徒が立教大学に内部進学します。大学受験という共通目標がないので、個人の内発的動機に基づいた学びを引き出すことがとても重要です。
2点目の理由が「人生100年時代」です。生徒にとって圧倒的に長い、卒業後の人生において有用な姿勢が「自律」と考えています。さまざまな人と関わり合いながら生きていくわけですが、いつまでも与えられた立場にいては、いざという大事な局面での意思決定が難しい。責任感がなく、お客様的な立場で文句だけを言うような人間に生徒にはなってほしくありません。
その2点からコンセプトを「自律」として、教員としても与えすぎない、スプーンフィーディングをしないことを意識して、自己決定の場面を積極的につくっています。
――どのように自己決定の場面を授業に盛り込んでいらっしゃるか、具体的に教えていただけますか。
(小林)たとえば英語の授業では、テーマを1つ決めて作文させることがあると思います。「私の夢」のようなテーマですね。そういったタスクでは、必ずテーマの選択肢をA/B/Cなど3つ程度挙げて、生徒に自分で1つを選んで書いてもらいます。
というのも、個人の経験や知識によって、テーマAは書きやすいけれど、テーマBは難しい、という得手不得手は少なからず発生しますよね。そんなときに、上手く表現できない原因を他責にしてほしくないのです。もし自分で書きやすいテーマを選んだのであれば、責任のベクトルが自分に向かいますよね。
なるべく環境を言い訳にせずに、自責的な発想になるように授業をもっていっています。結果、準備に多少の時間がかかるかもしれませんが、学びに生徒の意見が反映されていくため、不満が減ってクラス自体も優しい雰囲気になっていると思います。まとめると、何を学ぶかに対してオーナーシップをもってもらうということでしょうか。
――自己決定の機会を増やして、コミットメントを引き上げていくんですね。他にはどんな工夫をしていらっしゃいますか。
(小林)2024年度は中3のクラスを担当しているのですが、英語の授業は週7コマあります。うち3コマは検定教科書を使った文法ベースの授業を行っており、残りの4コマはクラスを分割した少人数授業を展開しています。また、さらにこの少人数授業のうちの2コマでは、プラクティカムと言って、パーソナルトレーニングを意識したような実技練習を行っています。
要は、教科書中心の3コマだけではなかなか言語項目は身につかないため、そこを運用レベルまで上げていくための授業ですね。例文暗唱だったり、発音・音読など、とにかく口頭練習の量をしっかりこなしています。
ただ、さきほどパーソナルトレーニングと言いましたが、プラクティカムは1対20の授業なので実際はパーソナルではありません(笑)。そのなかでいかに1対1のフィーリングを与えるかに注力しています。たとえばですが、ちょっと説明したらすぐに練習させます。説明は3分以内。それを超えたらもうダメです。20人を全員立たせた上で、順番にさまざまなアクティビティを行っていきます。「できたら座っていいよ」といった形ですね。とにかく個人に責任をドンドン乗っけていき、逃げられない状況を意図してつくります。それでも、ゲーム感覚なのでスパルタな雰囲気はありません。
私も生徒がミスして怒ることは一切なく、「惜しいね」といったポジティブな言葉をかけていきます。それでも最後まで残って1人立っている生徒は出ますが、「ひとり残って、恥ずかしい!」といった感じではありません。そういうおおらかさは男子校の良い点ですね。
日々の授業で培う「自律力」が生徒のリーダーシップを生み出す
――先生はELECの研究大会で音声指導についての発表をされていました。音声指導についても、主体性を引き出すために意識されていることはありますか。
(小林)さきほど「卒業後の人生のほうが長い」と話しましたが、音声指導についても自律的に「自分で意識し、修正できるスキル」を身につけてほしいと思っています。もちろん、留学や仕事で発音についてまったく困らない状態にもっていければベストですが、なかなか中学・高校だけで全方位的に仕上げていくことは難しい。そんなとき、たとえ現在の実力が期待に満たなくても、発音の勉強方法がわかっていれば自分で改善していけますよね。
たとえば、母音に関しては、発音記号も含めてボトムアップでがっつりコーチングし、生徒が自分で修正できる基礎をつくることを意識しています。子音は、音が決まっているので発音しやすいのですが、母音は、英単語になると発音とスペリングが乖離していることが多々あります。“protein”は「プロテイン」ではなく「プロゥティーン」と発音するのが良い例です。授業では、「発音記号と音を一緒に学んでいこう!」みたいな感じで、まず私が単語を発音し、全体でリピートしたあと、すぐに5人ぐらい生徒を当ててチェックしていきます。それこそ、パーソナルトレーニングですよね。これを4月~12月まで、毎授業で少しずつ取り組みました。最終的に生徒は、発音記号を見て、より適切な発音ができるようになってきました。
――「自律」という教育方針が、英語の授業の細部にまで落とし込まれているのですね。ちなみに、目に見える形で教育方針が体現された成果など、過去にございましたでしょうか。
(小林)英語とは直接関係ありませんが、実は2024年9月に、学校史上でも初めての試みとして生徒自身に学校説明会を行ってもらいました。キャンパスガイドを作成し、プレゼンテーションしてもらったんです。生徒主体の、生徒による説明会ということで、参加されたお子さんや保護者の反響も非常に大きかったです。生徒とは夏休み前から打ち合わせをして、相当な委任をして準備をすすめてきたのですが、彼らのリーダーシップが非常に印象的でした。
――主体性があふれる稀有なエピソードですね! 最後に先生の、教員として今後の展望を教えてください。
(小林)CLILのアプローチで内容と言語を統合しながら、生徒がいるからこそ生まれる学びや気付きをつくっていきたいです。生徒の価値観の変容・拡大に寄与する教室づくりですね。たとえば、「教科書のターゲットセンテンスが言えればOK」ではなく、一文にしっかり着目し、発問し、対話しながら内容について理解を深めていく。生徒同士で議論する。もちろん素材は新聞記事でも映画のワンシーンでもいいし、歌でもいいです。どんな素材を使ったとしても、生徒との対話の場面を必ず設けて、英語を引き出しながら授業をつくっていく。そして、その過程で必要な単語や文法を学んでいく。素材を理解するための知識は必要ですが、知識ありきではないのです。生徒がいるからこそ生まれる対話、発話、アウトプットが存在する教室をつくりたいです。でも、実はちゃんと関係代名詞もやってます、という授業を目指しています。
取材:小林慧子/記事作成・構成:小泉純/編集:早田愛