授業を始めるまでが勝負!生徒がイキイキ・ワクワク学び、先生が楽しめる授業デザイン

最終更新日:2025年3月3日

「令和の日本型学校教育(中教審)」の姿として提唱されている「個別最適な学び」。その実現に向け、教員として求められる役割の変化を日々感じながら、奮闘されていらっしゃる先生方も多いのではないでしょうか。

教員が熱を込めて喋るほど、生徒との距離が開いていくことに課題を感じていた――。

そう語るのは、群馬県立中央中等教育学校の西村吉史先生。27年間、宮城県で教鞭をとられたのち、故郷の群馬県で教えたいと3年前に一念発起し同校に着任しました。レゴ®シリアスプレイ®ファシリテーター、認定ワークショップデザイナー、SDGs各種カードゲーム公認ファシリテーターとさまざまな資格を持ち、ノウハウを駆使しながらデザインするのは「生徒がイキイキ・ワクワク学ぶ授業」。個別最適な学びを実現するための工夫と教員としてのスタンスについてお話を伺いました。

「学習の個性化」に挑戦

――先生が目指される「生徒がイキイキ・ワクワク学び、先生が楽しめる授業」とは具体的にどういうことでしょうか。

(西村)まず、「生徒がイキイキ・ワクワクする学び」とは、生徒の自主性が発揮できるような授業だと考えています。学ぶ目的を発見し、自分たちで考えた学ぶ手段に取り組み、その過程を経て学ぶ方法を身に付けていくような授業を目指しています。

そして、抱いた疑問に対して自分たちで調べ「なるほど」と理解したり、生徒同士が教え合い、学び合ったりというイメージを持ちながら授業をデザインし、ねらいを実現できることが「教員が楽しめる授業」だと考えています。

――担当していらっしゃるクラスについて教えてください。

(西村)中学2年生です。英語の授業は1クラス30人を2つに分け、2名の教員が同じ教材を使いながらそれぞれを担当しています。

――教材は先生が作成されているのでしょうか?

(西村)そうですね。本校の2024年度の授業テーマは「学習の個性化」なのですが、ちょうど私が目指す授業の実現方法と重なることもあり、公開授業を担当することになりました。そういった後押しもあり、継続して作成を担当しています。

生徒が自分で学び方を選び、自分で責任を取る

――具体的な授業の進め方について教えてください。

(西村)本校は1コマが55分なので、それを前半20分・中盤30分・後半5分の3段階に分けています。最初の20分は、授業の目標や流れを確認したり、新出の単語・文法・発音について学んだりします。最後の5分は、生徒がその日の授業を振り返る時間です。そして中間の30分を、生徒が自主的に学ぶ時間に設定することが多いです。

――「自主的に学ぶ」とは具体的にはどのようなものでしょうか?

(西村)生徒を3人1組のグループに分け、各グループが目標を設定し、達成のために各自が考えた学び方を実践していきます。

――授業テーマに掲げている「学習の個性化」という点では、どのように進めていらっしゃいますか。

(西村)たとえば、新出単語・文法・発音について学ぶ時間は、生徒に任せて好きに学んでもらっています。単語であれば、Quizletを使って音声を聞いたりリピートしたりする生徒もいれば、デジタル教科書を使って暗唱できるようになるまでひたすら音読したりする生徒もいます。文法であれば、YouTubeの動画を見ながら学んだりする生徒もいれば、スタディサプリを使って動画を見た後に問題を解いたりする生徒もいます。

学び方も生徒に任せており、3人で同じ取り組みをしているグループもあれば、各自が自分に合った学び方をしているグループもあります。

――生徒に学びを任せている時間に、中だるみなどはないのでしょうか。

(西村)それがわりとあっという間なのです。「先生、まだ終わっていない!」という声が飛び交うのが常ですね。

――生徒の主体性を尊重し、彼らがイキイキ・ワクワク学ぶために、教員としてどのように介入すべきか、意識されていることはありますか。

(西村)生徒主体の学びの時間、私は状況を見て回り、必要以上に手助けをしないようにしています。もちろん、授業に集中できていない生徒がいることもあります。そのときはシンプルに「何か困っていない?」「僕にできることない?」と聞き、「はい、ありません。大丈夫です。」と言われたら、「頑張ってね!」と伝え、深追いはしないようにしています。

理由は、生徒たちが自分で自分の学び方を選び、その結果に対して自分で責任を取るというのが大事ですし、理想だと考えているからです。授業で「勉強しない」という選択をした結果、点数が取れなかったとしても、それはそれで生徒にとって学びですよね。

授業の振り返りが甘い生徒がいても、「こんなんじゃダメだ!」と一方的に指導するのではなく、「どうだった? どうすればよかったかな?」と問いかけます。生徒が自分の結果に向き合い、次の学びを考えるよう促すようにしているのです。

授業を始めるまでが勝負!

――「教えないと生徒が理解できない」という先入観がどうしてもあると思いますが、教えないことへの不安はないのでしょうか。

(西村)ありますよ。けれど、学習指導要領が「個別最適な学び」や「協働的な学び」を充実しなさいね、と提唱しているので、教員としてマインドセットのアップデートが必要だと思っています。とはいえ、教員としてのスタンスや具体的な授業実践に関して不安がありましたので、奈須正裕先生の個別最適な学びに関する著書や講義、山本崇雄先生の「教えない授業」などを参考にしながら、めちゃめちゃ勉強しました(笑)

――教えなくても英語の知識やスキルが身につくのか不安に思われる先生方もいらっしゃると思います。その点についてはどのようにお考えでしょうか。

(西村)だからこその授業デザインだと思っていて、授業を始めるまでが勝負だなと思っています。たとえば、生徒の自主性を促すために大切なのが、生徒との目線合わせや共通認識の構築です。その鍵となる生徒との情報の共有を、授業に組み込むようデザインしています。具体的には、授業への取り組み方を記載した「学習のMichishirubeリスト」や、授業の計画表は授業冒頭に生徒と共有します。そうすることで、授業中に生徒が今何をする時間なのか迷子にならず、生徒が自主的に学ぶための土台となっています。

英語の知識やスキルの定着については、実際に「学習の個性化」に重点を置いた授業に取り組んだ結果、生徒が喋ったり聞いたりという時間をなかなか取れていなかったということも見えてきました。そこで、授業の冒頭でスモールトークの時間を設けたり、スピーキングアクティビティを途中から計画に入れたりして、柔軟に修正を加えています。

また、毎回の授業で、スライドを使いながら覚えたかどうかのチェックをすることで、生徒に知識の定着を促しています。さらに、授業の最後5分では、生徒がその日の授業を振り返り、①良かった点、②改善点、③次にやること、を計画表に書き込む時間も設けています。生徒が自らの学び方に向き合い、より主体的に学べるためのデザインです。

――めちゃめちゃ計算し尽された流れですね。

(西村)ありがとうございます。一見、「生徒の好きにやればいいよ」という感じですけれど、でも実際には相当に手をかけています。教科書の範囲内であれば、知識やスキルはしっかり定着するような授業デザインになっているかなと思います。

――ユニットの最後には発表も行っているそうですね。どのようにデザインされていらっしゃるのですか。

(西村)探究学習のプロセスを使っています。

――「教科書から問いを1つ立てる」について具体的に教えてください。

(西村)教科書の英文を読んで、誰も答えを知らない、自分たちの最適解が出るような問いを立てるよう伝えています。たとえば、教科書本文が、海外でホームステイをする場面についてであれば、「年配のご夫婦の家にホームステイをしたときに、自分たちがホストファミリーを楽しませるためにできることは何か」といった感じです。    

実際にはかなり難易度が高く、問い作りのスキルがどうしても必要となる活動なので、こども国連の井澤友郭さんのやり方を教わったり、ハテナソンを使って生徒たちに問い作りを学んでもらったりしました。

「まとめ表現」については、英文構成にはDeepLやDeepL Writeを使っています。発表後はお互いにフィードバックをするので、プレゼンテーションスキルを高めていくことも意識しています。

自分が幸せになって、周りの人を幸せにできるように

――中等教育の出口の指標として大学入試があると思うのですが、イキイキ・ワクワク学ぶことを通して、生徒にどのようなことを望まれますか。

(西村)私自身、大学入試をゴールにしていないのですよね。生徒がやりたいことを手に入れて、それを実現するために必要なスキルを手に入れられる学校を自分で選べたら、それでいいと思っています。

もっと学校の外に出ていろいろな価値観に触れて、自分1人の幸せだけではなくて日本全体の幸せを考えられる生徒たちを育てたいと思っています。そのための基盤や認知スキルを、この時期に手に入れてもらうことを目標に、イキイキ・ワクワクが生まれる授業をデザインしています。

 

取材・編集:小林慧子/構成・記事作成:早田愛

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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