ルーブリックを使った3観点評価で「自分」を知る! 評価のための学習から、成長のための学習へ

最終更新日:2025年4月25日
城北埼玉高等学校に2020年に新設されたフロンティアコースでは、「世界を知る、地域を知る、自分を知る」という考えを大事にし、協働学習やグループワークを多く取り入れた授業を展開しています。フロンティアコースはどのような背景から設立されたのでしょうか? そして、このコースが目指す生徒像とはどのようなものなのでしょうか? フロンティアコースの立ち上げから携わり、現在も同コースで教鞭をとる石橋 大輔先生にお話を伺いました。
フロンティアコース設立 独自の評価基準と手法
――フロンティアコース設立にあたって、先生もゼロからカリキュラムを作り上げたと伺いました。
(石橋)はい。フロンティアコースは、協働学習やグループワークを通して「世界を知る、地域を知る、自分を知る」ということに重きを置くコースです。同僚たちと一緒に、夜遅くまで議論を重ねながら、学校教育の本質を再認識しました。とくに大事にしているのは、「自己評価」と「他者評価」を通じた学びの仕組みです。これが、生徒自身が自分を知る一歩となると考えています。
自分を知ることは非常に大切です。自己肯定感が高すぎる生徒もいれば、低すぎる生徒もいますが、他者のフィルターを通さないと本当の自分はなかなか見えません。
グループワークの中で自己評価や他者評価に取り組むと、「自分ではこれが良かったと思っていたけれど、他者からはそう思われていなかった」などと過大評価していたことに気づきます。逆も然りで、過小評価していたことに気づかされることも。それが生徒の英語学習意欲の向上や英語に対する自信につながり、成長の糧になっていると感じます。
――先生ご自身、独自の3観点評価を設定されていると伺いました。具体的にどのようなものでしょうか?
(石橋)前提として、3観点評価で最も重要なのは、生徒が評価に納得することです。「どのような評価を受けたか」だけでなく「なぜこの評価なのか」に重点を置き、生徒自身が評価に納得することで、生徒は次の学びへとつなげることができます。
知識・技能については、主に授業内で取り組んだ英作文で評価します。思考・判断・表現については、生徒のパフォーマンステストを一人ひとり聞いて評価することが多いです。たとえば、英検の2次試験のスピーキング問題を授業内で録音し、評価するなどしています。録音データは生徒も確認できるようにし、「ここにisがないからあなたの評価はBなんだよ」と評価の根拠を明確にしています。
主体的に取り組む態度に関しては、フロンティアコースとしても重視しています。文科省は「自主的」ではなく「主体的」という言葉を使っていますよね。「自主的」は決められた枠組みの中でやりくりするもの、「主体的」はそういう枠組みがなく、自分で0から1を作るものという違いがあります。ですから、先生が範囲を決めた課題をやるというのは、自主的であっても主体的ではないんです。フロンティアコースでは、主体的な学習の態度を尊重するために、自己評価と他者評価を用いて主体性を可視化しています。
透明性と自己理解を促すルーブリック
――自己評価と他者評価はどのように行うのでしょうか?
(石橋) たとえば、プレゼンテーションの課題では、教員が作成したルーブリックを事前に生徒に提示します。ルーブリックには、A評価、B評価の基準が明確に示されているので、生徒はまず、このルーブリックに基づいて自己評価を行うんです。

川越学(観光地である小江戸エリア)散策のフィールドワーク実施後、「外国人に川越に来てもらえるようなPR動画をiMovieで作ろう!」というミッションが課された際の自己評価シート。生徒がイメージしやすいような文言を使っている。
他者評価では、自己評価とは違うルーブリックを使用しています。知識・技能に関する評価項目については、評価する側の英語学力に依存し、適切に評価できない場合があるため、文法に関する評価項目などは抜いています。これにより、評価者の目線合わせができます。全員が発表者であり、同時に評価者でもあるという意識を持つことで学びが深まるのです。

同プロジェクトの他者評価シート
――そのような活動が生徒の学びにどのように影響を与えていると感じますか?
(石橋) たとえばプレゼンテーションの場面では、ただ「評価されるため」に発表するのではなく、「相手にどう伝えるべきか」を意識するようになります。「聞いている友達を笑わせたい」「もっとわかりやすく伝えたい」といった意識が芽生え、自然と評価外の目的ができるんです。その結果、評価のために行うのではなく、学びそのものが楽しいという感覚を持つようになっていくのではないかと感じています。
――独自の3観点評価を導入してから、生徒たちにどのような変化がありましたか?
(石橋) 生徒の中には、「これをやったら点数が入りますか?」と、評価に直結した行動を求めがちな生徒もいます。そうした場合には、「評価されないならやらないの?」「損得勘定で物事をやるかやらないか決めるの?」といった具合に、評価の意味や学びそのものの目的を生徒に考えさせるようにしているんです。
最初は戸惑う生徒もいますが、1年次の最後の方にはそういった発言をしなくなります。でもふとした時に誰かが「これって評価に入りますか?」と声を上げると、すかさずクラスメイトから「それ言うなよ」と軽く突っ込まれる場面も。発言した生徒はバツの悪そうな顔をしていますね。こうした変化を見ると、生徒たちが点数や評価だけでなく、学びそのものの価値を理解し始めているのだなと実感します。
活発な教員間コミュニケーション
――ルーブリックは先生ご自身で作成されているのですか?
(石橋) フロンティアコースでは、プレゼンテーションを行う際にルーブリックを事前に提示するのが慣例となっています。ただし、具体的な内容は各教員の裁量に任されているため、それぞれの授業に合わせて作成しています。
――評価基準が教員によって異なると、生徒間で不公平感が生まれないでしょうか?
(石橋) フロンティアコースは1学年1クラスなので、評価基準のばらつきは起きにくい環境です。また、3観点の内訳も、最低点さえ守れば各教員の裁量で決められるので、柔軟な対応が可能です。
コース設立の際にも、今の教育の課題や、こういう風に変えていきたいという課題を遅くまで教員同士で話し合っていました。現在でも、職員室では生徒の様子を共有したり、気になっていることについて日々対話を重ねたりしているので、教員間の考え方や指導の方向性に大きなブレはないと思っています。
――教員同士での会話が活発なのですね。
(石橋) そうですね、活発です。教員間はもちろん、生徒と教員の間でのコミュニケーションも活発です。何気ない会話でも、その一つひとつが生徒たちにじわじわしみ込んでいき、「そういえばあのとき先生とこんなこと話したな」と将来少しでも生徒のプラスになれば嬉しいと思っているからです。そんな想いから、フロンティアコースのビジョンの一つに「涵養」という言葉を掲げています。これは、水が自然に染み込むように、無理をしないでゆっくりと養い育てるという意味です。高校生の時に学んだものや経験したことがじわじわ染み込んで、20年後、30年後に彼らの人格形成につながる教育を目指しています。
――3観点評価を実践する上で、気をつけていることはありますか?
(石橋)一番気をつけているのは、「評価をすることが目的にならないようにすること」です。学習指導要領には、学校で英語教育を行う目標として、「コミュニケーションを図る資質と能力の育成」と記載があります。なので、これを達成するための手段が授業であると考えています。
近年「教員は忙しい」と取り沙汰されていますが、忙しくて時間がないからといって「じゃあ来週小テストをやって評価つけちゃおう」というのは目標と手段が逆転してしまっていると思うんです。
また、これは「自分が困ってしまうから生徒にやらせよう」という行動で、主語が「教員」ですよね。英語だけでなくすべての学校教育について言えることですが、主語はあくまでも「生徒」であるべき。生徒の「こうなりたい」「こんなことやってみたい」を叶えるのが教員の役割だと思っています。
あともう一つは、「対話を通して評価すること」です。私は基本的に宿題は出しません。なぜなら、生徒の頑張りの過程を見ることができないからです。たとえば、プレゼンの準備などでも、授業を使って準備してもらいます。その中で、「調子どう?」「ここがうまくいかないならどうすればいいと思う?」などと対話を通して生徒と向き合うようにしているんです。
そして評価を行う際は、「あの時こういう風に頑張ってたからAだよ」「あのときもう少し踏み込んで取り組めればよかったね。今回はB評価だけど次は頑張ろう」などときちんとした理由付けを行って評価しています。すると、生徒は納得感を持ってその評価を受け入れることができる。納得できない評価は、生徒と向き合う時間がない時に起きやすいと思っています。
――実践されている3観点評価は、かなり先生の負担が大きいのではと感じます。
(石橋)そうですね。たしかに業務量という観点だと大変な作業ではあります。しかし、生徒一人ひとりの頑張りと向き合うことは大切な時間だと感じています。
しかし、私のやり方をただ真似するのではなく、先ほども申し上げた通り、目標と手段が逆転してしまわないように気をつけさえすれば、手段は何でも良いのです。目標を達成するためにはどのようなギミックを打つべきか、教員も生徒同様試行錯誤することが大事だと思っています。
英語演劇への挑戦で、楽しみながら自己表現を身につける
――3観点評価の他に、力を入れていることはありますか?
(石橋) 大学の卒業研究で英語演劇に取り組んでいたこともあり、最近は演劇を使った英語教育に挑戦しています。セリフを通して自己表現を学ぶことができますし、脚本作りや役作りからは、他者と協力しながら一つのものを作り上げる経験が得られます。
2023年度は朗読劇に挑戦しました。2024年度は、オーストラリアから役者2名による英語教育劇を招き、2時間の劇中にキャストとして1年生の生徒6名が参加させてもらいました。
――生徒たちの反応はいかがですか?
(石橋) 演劇を取り入れた授業は、生徒たちからも大変好評です。とくに男子校ということもあり、感情表現に抵抗が少ないように感じます。異性がいると恥ずかしがってセリフを言わない生徒も出てくると思いますが、裏声を使うなど、「そこまでしなくていいよ」というぐらい楽しそうに取り組んでくれています(笑)。
生徒には、対話から合意を生む力を身につけてほしい
――最後に、先生の教育理念、育成したい生徒像とはどのようなものですか?
(石橋) 教育基本法第1章には「人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者」を育成するとあります。私は、生徒たちには単に英語を学ぶだけでなく、民主主義社会の一員として必要な力を身につけてほしいと考えています。
――「民主主義社会で必要な力」とは、具体的にどのような力でしょうか?
(石橋) 民主主義とは、自分と異なる意見を持つ人たちと共存し、議論を通じて合意形成していくことだと思うんです。ですから、「他者を尊重し、対話から合意を生む力」を身につけられるように、英語の授業もうまく活用したいですね。
取材・編集:大久保さやか/構成・記事作成:吉澤瑠美