生徒を知的にハングリーに! 英語指導を支えるアウトプット活動とは?

最終更新日:2025年10月29日

目指すは、「自分の頭で考え、自分の力で未来を切り拓く」力を育むこと。

そう語るのは、久留米大学附設中学校・高等学校の藤木克哉先生です。小学校での英語教科化以降、中学生を迎える英語指導の現場では、生徒の習熟度のばらつきや指導方法の模索に多くの先生方が直面しています。学習の基礎を作る中1の指導において、藤木先生が大切にしているのが「見通し」「武器」「習慣」という3本柱。そこにアウトプット活動という仕掛けを仕込むことで、生徒が学びに夢中になり、ゆくゆくは自走できるようになる。そんな成長を支える取り組みについて、具体的な事例とともにお話を伺いました。

生徒の気づかぬ「はらぺこ」を刺激する! なぜアウトプット活動なのか

――2023年公開の記事で担当されていた学年を卒業させ、2024年度から中1をご担当されています。藤木先生が育みたい生徒の力とは、どのようなものでしょうか。

(藤木)卒業後の人生の方がはるかに長いですからね。生徒には自分の頭で考え、自分の心で納得し、決断できる。そうした力を身に付けてほしいと思っています。関西弁で言えば、「ええやつ」というイメージでしょうか。

芯があり、しっかりと考えられる力を持ち、しなやかに強く自分の足で立てる。そんな大人に育ってほしいという願いを込めています。

そのための土台を作るのが、私たち教員の役割です。特に大切にしているのが、いかに生徒たちを知的にハングリーな状態に導くかという点です。

――「知的にハングリー」とは?

私が授業で大切にしているのが「仲間と交流し、切磋琢磨し合う」 「ゴールに向かって日々努力する習慣を身に付ける」 「自分の夢中になれるものを見つけ、深める」の3要素です。そして、そのフックとしてアウトプット活動を重視しています。

詳細は後述しますが、アウトプット活動を通して生徒は、自分に足りないこと、仲間が頑張っていること、自分の好きなこと・苦手なこと、ゴールと自分との距離感、そういったことを認識できます。その「足りていない」「もっとここは頑張れる、頑張りたい」といった気持ちを原動力に、生徒はさらに努力を重ねるのです。こうした循環を授業や学校生活で繰り返すうちに、生徒たちは内面的に成長し、自走できるようになっていきます。その結果、たとえば大学受験においても、単純な偏差値や知名度に振り回されず、「本当に自分が学びたいことは何か」を軸にした進路選択へとつながっていると思います。

どんな手段で、どんな場面で、生徒の「知的にハングリーな状態」を生み出すのか。それが私たち教員の腕の見せ所だと思っています。

「見通し」「武器」「習慣」を与える中1への指導とは

――そうした目標を実現するために、中1の英語指導ではどのようなことを意識されていますか?

(藤木)中1は本校で学ぶ6年間のもっとも初期にあたります。高校卒業時までに生徒が自走できるようになるために、この段階で必要なのが「見通し」「武器」「習慣」の3本柱です。これを生徒に明確に示し、要所にアウトプット活動を入れながら、教員が彼らのペースメーカーとなることで、学びや成長の後押しを心がけています。

1.「見通し」
(藤木)見通しを与えるとは「目指すゴールは何か、達成のためにいつまでに何をどのように学ぶのか」という、生徒と教員の目線合わせをすることです。たとえば、入学したての4月の初回授業で、「君たちが望むレベルの英語をマスターするには最低3,000時間が必要だ」という話をしました。この数字を聞いたとき、生徒たちはきっと「途方もない」と感じたのではないでしょうか。

学校の授業で確保できる時間は、6年間でおよそ1,000時間程度。残りの2,000時間は自分で作り出す必要があります。そう伝えることで、生徒は簡単に学習を投げ出せなくなるんですよ。「自分は英語に向いていない」とか「頑張ってもできるようにならない」と言う生徒に、「それじゃあ、君はすでに3,000時間、英語学習したの?」「できないなら、もっとやればいいんじゃないかな? 英語は正しい方法で取り組みさえすれば、必ずできるようになるよ」と伝えます。そうすることで、生徒たちが簡単に挫折せず、「やればできる」という意識を持てるようにしています。

2.「武器」
(藤木)武器とは生徒にとって英語学習・習得に必要な知識や技能のことです。これを身に付けることで、生徒たちは自信を持ち、さらに成長する意欲を高められます。

たとえば、英語と日本語では言語の概念やロジックがまったく異なるため、「日本語のOS」で英語を捉えないことが重要です。そのために、私は、京都大学の田地野彰先生が提唱されている「意味順」を指導に取り入れています。これは「英文は意味のまとまりの順序で構成されている」という考え方に基づいており、この概念を英語学習の初期段階から徹底的に叩き込むことで、生徒たちが英語のロジックを自然に理解できるようにしています。

参照:【英作文指導】「英語にならない…」を解決!自分の意見がスラスラ書ける<意味順>メソッド大公開

また、発音はもちろん、文字指導にも力を入れています。小学校で英語の学習経験があるとはいえ、習熟度にはかなりの差があります。アルファベットの書き方も自己流のまま覚えている生徒が少なくありません。書くことそのものを面倒くさがったり、「これくらいでいいか」と妥協してしまったりする姿勢は、学びそのものへの取り組み方にもつながると感じています。そこで私は、文字を丁寧に書き、しっかりと向き合う姿勢を早い段階で整えることも重視しています。

――中1の英語指導に当たっている先生方からは、文字指導が難しいというお話もよく聞きます。

(藤木)私もその点を強く意識しており、武蔵高等学校中学校の手島良先生の『これからの英語の文字指導』を参考にしました。たとえば、a, b, c…といったアルファベット順に教えるのではなく、似た形の文字をグループ化して指導したり、筆順や動かし方の法則性を意識させたりしています。また、アルファベットを書く練習が流れ作業にならないように、横書きではなく縦書きで一文字ずつ丁寧に書かせるようにしました。

これもひとつのアウトプット活動ですが、書き方が整ったノートを見ると、「しっかり意識して取り組んでいるな」と感じます。生徒の頑張りが目に見える形で残るため、その努力や工夫を褒められる。するとそれが生徒の次のモチベーションにつながります。実際、今の学年の生徒たちは自学ノート(後述)の量・質ともに、これまで担当した生徒の中でも一番です。

3.「習慣」
(藤木)「ゴールに向かって日々努力する習慣を身に付ける」ために、私は「マイテー(毎日提出ノート・福島県の畑中豊先生による命名)」という取り組みを導入しています。

マイテーはいわゆる自主学習ノートで、毎日、見開き1ページを英語で埋めるルールです。内容は生徒に任せていますが、授業の復習や好きな洋楽の歌詞の書き取り、NHK基礎英語のバックトランスレーションなど、各自が工夫して取り組んでいます。『毎日「提出」ノート』ではありますが、チェックは授業の冒頭の5分程度で、私が教室をぐるっと回って、やっているかどうかの確認をする程度にとどめています。細かくチェックすると教員の負担が大きくなりますし、毎日の継続力を養うのが目的だからです。

長期休暇にもマイテーを宿題として出していますが、ある生徒は「マイテーのおかげで、他の教科の勉強にもやる気が出た」と振り返ってくれました。日々机に向かう習慣が、学習全般において大きな力を発揮することを改めて感じた瞬間でした。

モチベーションアップのきっかけは教員じゃない?!

――「見通し」「武器」「習慣」は英語学習のみならず、継続して学び続けるために大切ですよね。一方で、生徒たちにとって、中高の6年間はとても長い道のりに感じられると思います。常に前向きな心持ちでいられるよう、生徒にどのようなサポートをしていますか?

(藤木)そうですね。6年間を通じて、生徒自身が心から「もっと頑張りたい」「勉強が楽しい」と思えるシチュエーションを生み出すことが非常に大切だと思います。いくら教員が一方的に「勉強しろ」「頑張れ」と伝えても、その効果は限定的です。

――生徒には何が響くのでしょうか?

やはり「仲間と切磋琢磨し合う」ことでしょうか。同じクラスで努力する仲間の姿を見たり、少し先を行く先輩から励ましの言葉をもらったり。そんな経験が、生徒たちにとって大きな支えになります。共通点の多い仲間の言葉だからこそ、心に響き、「行動に移してみよう」という気持ちになるのだと思います。

たとえば先ほどお伝えしたマイテーは、生徒個人が日々の学びを振り返るアウトプットなのと同時に、仲間の頑張りを知る場にもなっているんです。生徒の頑張りがよく伝わるマイテーをクラス内で共有すると、「学年トップの〇〇さんがこんなに頑張っているなら、自分もやってみよう」と刺激を受けたり、「こんな工夫ができたのか! 次はこの表現方法を取り入れてみよう」と気づきがあったりするようです。少しサボりがちだった生徒が、自分が同じ時間をどれだけ有効に使えたかに気づくきっかけにもなります。

「少し先を行く先輩からの言葉」については、2〜3週に1度の頻度で発行している教科通信に、私が受け持っていた卒業生から中1へのアドバイスを掲載する試みも行いました。「英語だけは中1から本気で取り組め」といったリアルな声が並び、中1の生徒たちは食い入るように読んでいましたね。

また、「勉強が楽しい」と思える仕掛けとしては、夏休みには「My Favorite English Song」(MFES)という課題を出しています。これは、それぞれが選んだ洋楽を2学期にプレゼンし合う活動です。生徒各自が選んだ曲のおすすめポイントを用紙に書き、それをもとに共有・発表させ、最終的に学年全体で聴いて投票し、1曲を決定します。

<出典:Keala Settle,The Greatest Showman Ensemble「This Is Me」/作詞・作曲:BENJ PASEK,JUSTIN PAUL>

――自分の好きな曲を選ぶというところで、生徒のモチベーションも上がりそうですね。

(藤木)めちゃくちゃ盛り上がりましたよ。選曲をめぐって保護者と話をしたり、一緒に音楽を聴いたりする生徒もいました。音楽を通じて、今まで知らなかった保護者の一面を新たに発見することにもつながったようです。好きな曲をどのように表現すれば、その良さが伝わるのかを懸命に考え、夢中になって制作物の内容や見せ方に工夫を凝らす生徒がたくさんいました。学びを楽しんでいたことが伝わりましたね。

――アウトプット活動には「絵を描く」「文字を書く」「話す」などさまざまな方法がありますよね。私は絵を描くのが苦手なので、そういった課題にモチベーション高く取り組める自信がありません。

(藤木)当然ながら、テーマや方法によっては苦手意識を持つ生徒はいます。しかし、自分が夢中になれるものを見つける場でもあると同時に、これまで「食わず嫌い」していたことに挑戦できる場なのが学校だと思うのです。

実際に、苦手だと思っていたアウトプット活動に懸命に取り組んだ結果、頑張ってみたら楽しかったし、制作物に仲間から「いいね!」の声がもらえる。自分がベストだと思うアウトプットができたと思ったら、クラスで自分とは違った創意工夫を凝らした生徒の作品に出会う。「くやしい! もっと頑張りたい!」という気持ちが生まれる。そういったところに、面白みややりがいを生徒は見出します。

これが「知的にハングリーにさせる」ということです。中1の指導において大切な「見通し」「武器」「習慣」の3本柱を軸に、アウトプット活動を通じて、仲間を意識し、日々努力を重ね、夢中になれるものを見つける。生徒は学びを深めると同時に、自己表現を通して内面的な成長をしていきます。こうした取り組み一つひとつの積み重ねが、教員の働きかけがなくても生徒が自ら学び続けるための礎になってほしいと願っています。

取材・編集:小林慧子/記事作成:白根理恵

 

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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